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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第五話「コウジマチサトルの誘惑」
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11・噂をすれば影

 ある程度欲しい物を買い終え、財布の中身の寂しさに唸りつつサトルたちは市場を後にした。

 もう少し頻繁にダンジョンに潜るべき理由はここにもあったなとため息を吐くサトル。


「しょっちゅう買い物行くからだろ。使えば金はなくなるって」


 タイムのその言葉は正論ではあったが、サトルにも言い分がある。


「……イライラしてるからな、買い物でうっぷん晴らしをしてるのかも」


「そりゃまた身を持ち崩しそうなうっぷん晴らしだな。何がそんなに?」


「うーん……まあ、色々」


 そんなに自制が利かなくなるほどイライラするようなことが何かあるのかと、タイムは問い、サトルは濁して答えるが、その視線がヒースに向いていたことから、タイムもすぐに思い至る。


「一人で出歩かせてもらえないんだったか。それでヒースがボディーガードってのも頼りなくねえ?」


 ヒースは思わず食い気味に返す。


「頼りなくないよ!」


 そんな素直な態度は好感の持てるところで、人に良いように利用されることが嫌いなサトルにとしては、むしろストレス源にならないので問題は無かった。


「まあ色々トラブルもあったし、明らかに俺の事どうこうしようっていう輩もいるみたいだから。それと、ヒースは体格のこともあって重い武器を振り続ける力は無いけど、シャムジャ特有の膂力自体はあるし、瞬発的に動ける。ただ本人のスタミナに限度があるから、どう配分するかで動ける時間も変わるって感じだし……何かしらの問題が起きても、そこ気を付けて対処すれば大丈夫だろう」


 サトルの言葉に何故かモーさんもうんうんと頷く。

 妖精も納得の分析に、タイムも頼りないと言った言葉を撤回する。


「お前らが言うならそうなんだろうな。前言撤回。けどよく見てんな」


「ルイボス先生の受け売り。ちなみにタイムのことも聞いた」


 タイムは元冒険者志望だ。なぜ今は酒場の店主に転向したのか、サトルは気になって聞いたことがあった。

 自分の話と聞いて、タイムはあからさまに顔をしかめる。


「協調性が無さ過ぎて、トラブル起こして一回所属したパーティ抜けて以降、特定の人とつるんでダンジョンいかなくなったって」


 しかしタイムはトラブルを起こしたのは自分じゃないと首を振る。ヒースも自分が聞いていた話とはちょっと違うと言う。


「ちがう違う、俺のせいじゃないってそれ」


「そうだよ、タイムがトラブル起こしたっていうより、確か変なのに目を付けられたって」


「そう、揉めさせ屋がいるんだよ。そいつに運悪く目を付けられて、店に影響が出たから親父がブチ切れたんだよな。んで、面倒だから俺が引いたってだけ。どうせ才能も無かったしな」


 確かにタイムはダンジョン内で身勝手な行動をしがちだったが、だからと言って、冒険者として才能が無いとも言い難い。サトルは自ら才能が無いと言い切るタイムが、その言葉で態と夢を諦めているように感じた。


「何処にでもいるなそういう奴」


 多少タイムの言葉を流すような返事を返し、サトルは肩をすくめる。タイムとしてもあまり自分の冒険者時代の話をしたくはないのか、すぐに話を切り替える。


「ルーちゃんの所にもいたろ? 殆ど会ったことねえけど、もめさせ屋」


「ああ、いたらしいな。そいつらだよ、今俺が一人で出歩くの禁止されてる理由の一つ」


 どうやら件のトラブルの元、ベラドンナ、バーベナ、オキザリスとはあまり面識がないらしいタイム。

 興味本位にタイムは問う。


「へえ、どんな奴?」


 どんなと言われても、サトルとしては特にトラブルになる前に追い払った嫌な相手だったとしか分からず、ヒースとしては外見的な特徴を言葉で聞いたに過ぎないので、どう説明するのがいいだろうかと、二人で視線を交わす。


「美人ではあった」


「クレ兄たちも揉めさせられたって」


「ああ、美人なあ、そりゃあ大変だ。美人は男も女も揉めるんだよ、美人は。特にむさい男の中に美人な女一人とかさ」


 何か覚えがあるのだろうか、しみじみと頷くタイム。

 会話に夢中になりすぎてタイムは周囲を見ていなかったのだろう、その肩が小柄な人物の頭にぶつかり、その人物はふらりとサトルの方へと倒れ込んだ。


 一瞬の既視感に、サトルの顔は不機嫌に歪む。


「あ、すみません……」


 その人物は少しハスキーな声でサトルへ謝罪の言葉を述べた。

 無言で押し返すように肩を掴んで、その人物を無理やり引き離すサトル。

 しかし相手はそれを気にしていないのか、潤んだアイスブルーの瞳でサトルをじっと見上げる。


「……あの、あなたはもしかして、サトルさん?」


 サトルは儚げな外見のその人物に視線を落とし、ますます眉間に皺を寄せる。

 真っ白な長い髪をみつあみにし、アンジェリカが着ているようなフリフリのドレスで身を包み、頬紅を入れているのかほんのりとピンク色の頬をした、垂犬耳のシャムジャの「男」だ。

 横にいたタイムに向け、サトルは目の前の男を指さし答える。


「こんな奴」


 とたんタイムとヒースが声をそろえて「ああ」と納得する。


 サトルが遭遇したベラドンナたちと同じ行動、ヒースがマレインから聞いていた外見的特徴、両方がそろった目の前の人物。


 二人が何に納得したのか一人理解できない男は、きょときょととサトルと二人を交互に見やる。


「君オキザリスだろ」


 サトルがズバリと単刀直入に問えば、とたん男は瞳孔を大きく開き、耳の内側まで真っ赤にさせ慌てる。


「へあ? な、何で知ってて、嘘、一体どうして」


 寧ろ何故分からないと思ったのか。サトルたちは冷ややかな思いでオキザリスを見やる。


「いやさすがにこうも連続して露骨な接触をされたら」


「俺でもわかるわな」


 うんうんと頷くサトルとタイム。無邪気に聞いていた通りだとはしゃぐヒース。


「本当に白いんだね」


 そう言えば、ここまで真っ白な髪や、色素の薄い瞳の人物はあまり見ないなと、サトルはヒースに問う。


「珍しいのか?」


「うん、ここまで白い人は珍しいよ。俺より小さいし肩も細いから、もしかしたら体弱いのかも。俺でさえ冒険者辞めた方がいいって言われてたから、この子だったら」


 自分が小柄であることを気にしているのだろうヒースが、悪意無くその声に嬉しさをにじませながらそういうと、オキザリスの顔に言いようのない悔しげな表情が浮かんだ。

 おや? とサトルはオキザリスの様子に注視する。


「……失礼だよ、君」


 歯ぎしりの音交じりの、ひどくかすれた声でオキザリスがそう言うと、ヒースは慌てて謝罪し、敵意が無いことを示すように手を差し出した。


「え、あ、ごめん。えっと、俺ヒース! はじめまして」


 しかしオキザリスはその手を握り返すことなく、ヒースの差し出された手を叩き落とすと、それ以上何も言わず背を向け逃げるように駆けだしてしまった。


 サトルは人ごみを器用に抜けて小さくなる背中に、やはり先程ぶつかってきたのは態とだったんだなと確信すると同時に、ヒースさえ連れていれば、オキザリスは自分に近づくことはないだろうなと思った。


「何だったんだあれ?」


 今一つ状況を理解できていないらしいタイムに、サトルは苦笑で答える。


「たぶんコンプレックスってやつだ。あいつがもめさせ屋やってる理由」


 以前嫉妬からサトルに獣の穢れの話を吹き込んだ冒険者がいた。しかし彼らはそれを自ら認め謝罪をした。

 嫉妬は容易に人の道徳や倫理観を棄損する。


 しかしサトルの価値観を変えるに至る言葉を使う事は、彼らにはできなかった。


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