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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第五話「コウジマチサトルの誘惑」
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9・敵を知り己を知れば百戦危うからず

 バザールでバーベナとベラドンナに会ったことは、その日の夕食ですぐに食卓に着いた全員に伝えられた。


 今日はクレソンとバレリアン以外は全員揃っていた。逆にその二人がどこに行ったのかと問えば、女性陣は知らないと呆れた様子、男性陣は一部苦笑いをしていたので、男性特有の何かをしに行ったのだろうと、サトルはそう思うことにした。


 クレソンたちの行方に特に関心を示さないサトルに、マレインが心底不思議そうに問う。


「君は興味ないのかい?」


 下世話な話だと、サトルは露骨に顔をしかめる。


「なるほど、君はその手の話は嫌いだったっけね」


 サトルの嫌悪の表情とは逆に、マレインは実に満足そうにうなずく。


「これだったら、君らが思う程あの三人を警戒しなくてもいいんじゃないか?」


 そんなマレインの言葉に、そうもいかないと首を振るワームウッドとアンジェリカ。


「例えサトルが興味を持たなくても、あいつらがどんな手を使ってくるか分かったものじゃないんですよ。特にベラドンナとオキザリス」


「あら、ビビ……バーベナも厄介よ。あの子はベラやリズよりも悪意がない分、サトルとは相性が悪いわ。私としてはサトルが一番警戒すべきはバーベナだと思っているの」


「確かにね、サトルはお人好しだし、真面目な相手の方が真剣に対応するから。けどやっぱりベラドンナは一度サトルに薬を盛ってるみたいだし、そこは警戒すべきだと思うよ」


「あら、それについてはサトルは自力で気が付くようよ。たぶん精霊の力を付与してある薬や術香は近くできるんでしょうね。私やルーと同じように」


「ボスの術の事?」


「そうよ、あれと同じように、警戒をしてくれるのなら危険は少ないでしょう。でもビビはサトルが一番警戒しない類の人種に近いと思うのよね」


「それは同意するけどね、ならばオキザリスはどう思う?」


 自分を置いて、自分の人間の好みについて議論をされるという現状に、サトルは恥ずかしさを覚えて顔を掌で覆う。


 どうやらもう一人、サトルのあったことのない人物の名前はオキザリスというらしい。うやはりその人物も性格に難があるらしく、一番警戒するべきは誰かということは議論になっても、警戒しなくてもいいという結論にはならないようだ。


「オキザリスか、彼は厄介だね、確かに」


 ワームウッドとアンジェリカの議論を遮り、マレインが話をサトルへと振る。人の自分への評価交じりの議論を聞くのにも恥ずかしさが増してきてたので、助け舟と思って耳を向けるも、サトルにとって看過できない言葉がマレインの質問には含まれていた。


「なら聞こうか、サトルは男色に興味はあるかい?」


「あるわけないでしょう。俺はヘテロフィリアだ」


 マレインの言葉が終わり切るより先に、サトルは強く返した。

 その強い言い方に、マレインだけでなく皆がおや? とサトルに注視する。


 サトルの反応の強さに、ルーが不思議そうに問う。


「随分ときっぱり言い切りましたね」


 サトルは天井を仰ぎ、言葉を探すように答えるが、それは先ほどのきっぱりとした返事とは打って変わって、回りくどい言わけだった。


「……まあ……本人たちの恋愛は自由だと思うけどな、ああいう思想の人たちには、自分たちがマイノリティだという事を理解してほしいよ。権利の主張は別にいいけど、だからと言って、別の思想の人間を無理やりというのは……本当にやめてくださいお願いします、って思うよ……だからと言って迫害するつもりはないけれど、こちらの意見も尊重してほしい。受け入れないのは性別の問題じゃなくて性格の相性ってこともあるし」


 ぶつぶつと吐き出すサトルに、オリーブや可憐できゅらも心配そうに眉を寄せる。


「サトル殿? 顔色が悪いようだが」


「誰に謝っているのかしら?」


 何かあったのは確かだろうが、何をあったかは言わないサトル。

 いかにもアンタッチャブルな様子だったが、アロエが何も考えていない様子で問い、モリーユがそれを袖を引いて押しとどめる。


「何かされたの?」


「……」


「大丈夫ですか? 父さん」


 サトルの元の世界の人間の記憶を、一部有しているニゲラにも、何があってサトルがそこまで追い詰められたようなことを言っているのか理解できず、そっと肩を掴み顔色を確かめる。


「大丈夫だ。悪い。これ以上は聞かないでくれ……男色自体はどうでもいい。でも自分が迫られると思うと受け入れられない。それだけだ」


 再び顔を覆い俯いたサトル。聞かないでくれと言われたのだから、これ以上踏み込んで話を聞かない方がいいのだろう。


 マレインが手を打って脱線した話を元に戻す。


「いやいい、それだけはっきりと意思を伝えてくれたらね。とりあえず、サトルがクレソンやリアンたちのように、オキザリスに変に誘惑されることはないだろうことは分かったしね」


 マレインの言葉に、ニゲラがきょとんと首をかしげ、ルーが答える。


「されたんですか?」


「されたんですよ。お二人……」


 二人のやり取りを横で聞いて、サトルは女遊びをするとは聞いていたがと、少し呆れてしまう。

 ただ少なくともあの二人は外見は女性を好んでいることから、少なくともオキザリスという人物は、女性的な見た目であることが分かった。


 ならばと次はオリーブが話を進める。


「とりあえず基本方針でも決めないだろうか? あの三人についての話はおいおい出来るし、サトル殿も警戒の対象だと認識してくれているようだから、今食事を不味くすることも無いだろう」


 それに関しては、ルーが以前決めていた通りだと強く主張する。


「基本方針と言っても、今後もサトルさん一人で出歩かせないくらいしか……あ、ニゲラさんと二人きりとかも駄目です」


 ニゲラは駄目、という言葉にニゲラだけがショックを受けるが、マレインやカレンデュラはルーの言葉に同意する。


「うん、ニゲラは駄目だね」


「あとクレソンとバレリアンも」


「もとより、あの二人は軽薄だからなあ」


 だったらと、手を挙げてヒースが発言する。


「僕は?」


 オリーブは口元に指を当て、考えていなかったなと少し悩む様子。


「ヒースは……どうだろうか?」


 オリーブが何故悩むのかサトルは不思議に思うが、次のアロエの言葉でその理由が分かった。


「というか、ヒースってオキザリスの顔知ってる?」


「話しか聞いたことは無いけど、多分わかるんじゃないかなあ」


 直接見たことは無いというヒース。なら今のうちに外見を教えてくれと、サトルは問う。


「白い垂れた犬の耳のシャムジャ。身長はルーよりも低い。体つきが細く色も白い。目の色も驚くほど薄くてね、ヤロウ山脈の雪のような、青味がかった目をしているから、目を見ただけで分かるかもしれない」


「外見は女性的だと考えていいのか?」


「そうだね、女性的だし力はサトルといい勝負だ。いいと思うよ。別にあの三人は力づくで、っていうタイプでもないし」


「俺といい勝負って……力がってことがか?」


 サトルはヒュムスの中でもかなり非力な方で、純粋な腕力だけなら肉体労働の経験が有る女性にすら負ける。そんなサトルといい勝負と言われるオキザリスはどれだけ優男なのだろうか。


 とりあえず、皆が満場一致で警戒すべきというのだから、その外見的特徴を持つ人物には、十分警戒をするべきなのだろう、とサトルは心にとめた。


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