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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第一話「コウジマチサトル海に行く」
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4・サトルとニゲラと妖精と

 マレイン達と日記について話をした後、サトルは自分の部屋に戻ってきた。

 結局聞きたい事とは違う事を色々話したが、サトルとしてはそれなりに楽しい話だったので良しとた。


 そんなサトルを出迎え、全力で手加減したハグをし、そのままサトルを担いでベッドまで運ぶのは、自称サトルの子であるニゲラ。

 この人目のない所での全力のハグは、どうやらニゲラの甘えるための行動ということが分かっているので、サトルは少し引きながらも、ニゲラの髪を撫でつけるように頭を撫でてやる。


 するとそれを見ていた妖精たちが、自分たちも撫でろとばかりにサトルに群がった。


「君たちちょっと落ち着いてくれ、流石に数が多い」


 十匹以上の妖精に群がられながら、サトルはベッドの上を転がる。

 特に顔面に貼り付いてくる子たちは手加減して光ってくれと、サトルは訴える。


 そんな妖精たちのことをサトルは、一様に「君たち」と呼んでいること任意ゲラは気が付く。


「父さん、父さん、名前、付けないんですか?」


 サトルはうつ伏せになり、枕に顔を押し付け守りながら、くぐもった声でニゲラに返す。


「数が多すぎて……」


 サトルの背に集まりフォンフォンと上機嫌な妖精たちを見て、ニゲラは確かにと頷く。


「まさかこんなに急に増えるとは思わなくて……最初数字で付けていたけど、流石にもう」


 サトルは指折り、自分の名付けた妖精たちを数える。


「キンちゃん、ニコちゃん、ミコちゃん、シーちゃん、イッツちゃん、ギンちゃん、フーちゃん、サンちゃん」


 そして記憶している、名前の付いていない妖精たちも。


「キンちゃんタイプが七人に、ギンちゃんタイプが六人か」


 彼女たちはサトルがニゲラの名付け親である竜、コーンが食ってうっかり腹にため込んでいた妖精と、弱っているコーンを襲おうとしていたモンスターの中から助け出した妖精たちだった。


 この妖精たちをどう扱うべきか、サトルはまだ決めかねていた。

 すでに助けた妖精たちは、ただそこにいてもらうのではなく、ルーの家の部屋を下宿として貸し出す際の、部屋の明かりの役割をしてもらっている。

 彼女たちがそれで構わないと意思を示したことと、明かり用の油を用意するよりも安上がりだったことからそうなった。


 そんな明り役をやっている妖精たちのお給料は、シュガースケイルという殻を糖で作る貝の殻。妖精たちは基本的に甘い物が好物らしい。


 なのでサトルは問う。


「うーん……君たちも甘い物好きか?」


 背中の妖精たちがフォフォンフォンフォンと何重にも鳴いて肯定する。


「よし、じゃあ、甘い物の名前を付けよう」


 言ってサトルは「我ながら単純なんだけど」と、枕に顔を埋めてため息を吐く。

 妖精たちの名付けは、それぞれを識別するために必要だが、そのたびにルーから「センス……」と渋い顔をされるのだ。


 悲しい気持ちになりながら、サトルはベッドの上に身を起こす。


「皆正面に来てくれ」


 サトルの呼びかけに答え、妖精たちが一斉にサトルの目の前、枕の上に集まった。


「じゃあ、キンちゃんと同じ色の子、こっちのほう、ギンちゃんと同じ色の子、こっち」


 右手にキンちゃんと同じ色の子を、左手にギンちゃんと同じ色の子を集め、それぞれを並ばせる。


「今から君たちに名前を付けようと思います。良いですか?」


 サトルの言葉にフォフォフォフォフォフォフォフォフォオオオオオオオオンと盛り上がる妖精たち。どうやら彼女たちも名前が欲しかったようだ。


 では早速と、サトルはキンちゃんタイプの子たちを一人一人指さし名前を付けていく。


「プリン、ゼリー、パンナコッタ、ブラマンジェ、ブリュレ、ムース、スフレ」


 つけた名前を忘れないように、ルーからもらった紙に、亜鉛の欠片に木の棒に括り付けた物でメモをする。


 次にギンちゃんタイプの子たちを指さし、少し考えて名前を付ける。


「だいふく、おはぎ、おもち、ねりきり、らくがん、しらたま」


 こちらも名前を紙に書きつける。


 好きこそ物の上手なれ。サトルのみならず、このルーの家に下宿している者達は多くが食い意地が張っている。食べ物の名前であれば、きっとよ覚えもいいだろうとサトルは満足げに頷く。


 付けてもらった名前に、妖精たちがフォフォーンフォフォーンと喜び踊る。

 キンちゃん、ギンちゃん、ニコちゃんも一緒に喜んでいるようだ。


 そんな妖精たちを見ながら、ニゲラが一言呟く。


「美味しそうです」


 ピタリと動きを止めるプリンやしらたまたち。彼女たちはモンスターや竜に食べられていた経験があるので、ニゲラの言葉に警戒をしたのだろう。


 サトルは妖精たちを背後にかばい、確かめるようにニゲラに問う。


「タチバナの記憶か?」


 タチバナはルーの亡き師であり、サトルと同じ日本からこの世界に召喚された女性で、竜と人間の死骸から作られた合成獣であるニゲラの、素体となった人物だ。

 サトルの口にしたスイーツの名前は、日本でしか通じない物も多かった。それを一度聞いて美味しそうと思えるのなら、多少引き継いでいるというタチバナの記憶由来なのだろう。


 ニゲラは嬉しそうに頷く。


「はい! でも僕は食べたことないので、一回食べてみたいです」


 ニコニコと言いながら、ニゲラがサトルに詰め寄る。


「食べてみたいです」


 繰り返し言われるその言葉に、これはどうやらおねだりなんだなとサトルは気が付く。


「……作るにしてもなあ、この国じゃ俺の国で簡単に手に入る物はそんなにないかもしれないし」


 作れるとしてせいぜいプリンくらいかとサトルは唸る。


 プリンに類する卵牛乳と砂糖を使った菓子というのは、実は世界各国に点在している。

 タルト生地に合わせた物や、日本のプリンの元となったとも言われるプディングのようにパンや小麦粉と合わせた物、米を混ぜた物、香辛料で香りを付けた物、焼いた物、蒸した物、クリーム状、パンケーキ状、硬い物、柔らかい物と、実に様々だ。

 起源をさかのぼれば古代ローマやギリシャにも類似した料理があると言うのだから奥深い。


 閑話休題。


 この世界で卵、牛乳、砂糖、という基本の食材が手に入る事はすでに確認している。

 手作り菓子の基本の「き」である料理の一つなので、絵本や児童書などにもよく登場し、もちろんサトルも作ることが出来た。


 そんな手作り菓子の基本の「き」には、焼き菓子、チョコレート菓子、アイスクリームに並んでゼラチン菓子というジャンルがあった。

 ゼリー、パンナコッタ、ブラマンジェはそんなゼラチン菓子の類だ。


 しかしゼラチン菓子は近世、近代に主流になった菓子。この世界にゼラチンはあるだろうかとサトルは眉間に皺をよせ唸る。


「どうしました? 父さん」


「そう言えば……この世界ってゼラチンはあるのかな? って思ってさ」


 不思議そうに問うニゲラに思ったままに返したが、ニゲラはすぐに笑顔で答えた。


「有りますよ、主に革細工だったり木工の接着剤に使われるか、医療用でお薬を成形するのに使ったり、あと歯固め用に味の無いゼラチンを固めた物が」


 つまり食用として利用できるゼラチンは、すでにこの世界にはあると言う事らしい。

 秋に獣肉を得るために豚をしめると聞いていたので、可能性がゼロではないと思っていたが、まさか歯固め用のゼラチンの塊があるとは思ってもみなかった。


 しかも味がないという。


「不味そうだな」


 サトルの呟きに、ニゲラはくすくすと笑う。どうやら何か思い当たることがあるらしい。


「僕、というかタチバナは食べたことありませんが、シャムジャの子供は必ず覚えがある物だそうです。ルーは嫌がってました」


 子犬や子猫は歯が生え変わるときの痒みから、人の手や家を噛むらしいと言うのは聞いたことが有ったので、サトルはなるほどと納得する。


「なるほど……じゃあ、食用のゼラチンは手に入るんだな?」


「ええ、でも何かするんですか?」


 そう問うニゲラの目はきらきらと金色に輝いている。

 タチバナはそれなりに料理ができる人間だったらしいので、サトルが何をしようとしているのか、もう想像がついているのだろう。


「ちょっと試してみたいことがある」


 そう答えたサトルに、ニゲラは分かりましたと頷きを返す。


「だったら僕は、それを全力でサポートしますね!」


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