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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第一話「コウジマチサトル海に行く」
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3・日記とマレインと妖精と

 サトルが日記についてマレインに尋ねる間に、いつの間にか隣の部屋からセイボリーとルイボスも出てきた。二人とも異世界から来たサトルの行動に興味津々のようだ。


 それぞれ部屋の中にあった椅子に適当に座り、話をすることに。


 サトルは日記を書こうと思っていること。日記について、マレインは書いているのか、書くとしたらどういう事を主に書いているのか、そもそも日記という文化はこの国や町には有るだろうか、などたわいのない事を聞いた。


 サトルの質問を耳にして、いつの間にか目を覚ましていたらしいクレソンが、部屋の隅に転がったまま、同じく隣に転がるバレリアンに話を振る。


「書くかあ? その日あった事だろ? 別に覚えてる必要もないしなあ、なあバレリアン」


「一緒にしないでくださいよ、けど、あまり記録をするようなことばかりでもないですよね」


 バレリアンはまだ眩暈のような状態があるのか、額を押さえたままくぐもった声で答える。


 マメそうに見えたバレリアンですら日記を書かないと聞いて、サトルはわずかに眉を寄せる。


「……リアンも書かないんだな」


 そんな呟きに、クレソンが笑って答える。


「こいつ俺と同じでそんなに文字書けねえしな」


「だから一緒にしないでください」


 クレソンとバレリアンがじゃれ合うのはもう放っておこうと、サトルは本題であるマレインへと問う。


「マレインは?」


「書くね、毎日、とは言わないが、記録は大事だと思っているからね、僕は」


 どんな内容かはあえて言うつもりはないようだったが、マレインはもちろん日記を書くたしなみはあると言い切る。


「意外と民衆の間にも日記文化があるのか?」


 クレソンとバレリアンが余り文字を書けないと言うので、この世界の今いる国は日本よりは識字率が低いのだろう。しかしマレインは書くのだから、そこまで民衆に浸透していないというわけでもないのだろうかとサトルは問う。


 そんなサトルの言葉にマレインは首を横に振った。


「そうでもないね。僕の家はちょっと特別だ」


「マレインさんの実家お金持ちなんだよ」


 マレインの言葉を継いで、ヒースが楽しそうに捕捉する。


「セイボリーさんも!」


 そう続けるヒースの目は、キラキラと輝き、ふわふわの毛に覆われた尾は上機嫌に立ち上がっている。ヒースとしては尊敬する人を自慢する感覚なのかもしれない。


「へえ」


 しかしその言葉に対するサトルの反応は淡泊な物で、ヒースはその程度の反応なのかと、しょぼんと耳を伏せる。


「普通何で獣の人間がお金持ちなんだーとか、金があるのに冒険者なんて危険な仕事してるのか? とか考えたりしない?」


 獣の特徴がある人間、シャムジャやラパンナが、サトルの感覚で言う所の通常の人間、ヒュムスに比べて迫害を受けているというのは、サトルももう知っているところではあったが、だからこそもう一つ分かる事もあった。


「ダンジョンの町ではそういう事もあるんだろ? 明らかにシャムジャは人間よりも体の造りが頑丈だ。ルーでさえ俺より体力がある。それを踏まえて考えれば、マレインやセイボリーはダンジョンの町で有能な冒険者を輩出して成り上がった家の出、という事なんじゃないか?」


 サトルの世界においても、歴上人種が違って迫害を受けたとしても、能力の高さでその人間が成り上がるという話は無いわけではなかった。

 ましてやこのダンジョンを有する町では、身体能力如何で十分稼ぎ成り上がれるだけの土壌があった。

 ヒースは家が金持ちとは言ったが、権力がある、偉い人間だとは言わなかったので、サトルは冒険者として成り上がった一族でもいるのだろうと思っていた。


「当たらずとも遠からず。この町ではないがね、僕もセイボリーも、他所の町で君の言うような家に生まれ育った。よくわかったね?」


 サトルの推測を聞き、マレインはわざとらしく拍手をする。

 サトルならばこれくらいわかって当然だろうと、その薄ら笑いは見越していたようだが。


「分かったと言うか、想像してみただけです。そういう肉体派の家系があってもおかしくはないかなって」


 サトルの答えに、マレインは「いいね」とさらに愉快そうに、尾まで振って笑う。

 よくよく見れば、セイボリーの鬣のような髪に埋もれた耳や、先端だけ毛の密集した獅子の尾も上機嫌に揺れていたので、サトルの答えに満足しているのだろうことが分かった。


 マレインは口数は多いが口だけでは分かりにくく、セイボリーは口数少ないがとても分かりやすい。

 この二人は昔からの馴染みらしく、一体どういう繋がりなのだろうかとサトルは気にしていたのだが、もしかしたら元々は家同士の付き合いなのかもしれない。


 しかし一人、サトルの言葉にあまり嬉しそうでない様子の者がいた。


「ワームウッド?」


 サトルに名を呼ばれ、ワームウッドは自分の感情を隠すように笑みを顔に貼り付ける。


「いや、ヒュムスにしてもサトルは体力無さすぎだと思ったから」


 ワームウッドの言葉に、マレインがすぐに同意をする。


「そうだね、ちょっと心配になる」


 セイボリーやルイボスもそれに同意のようだ。


「ああ、君は確かに、少々か弱い気がする」


「あまり無茶はしないで欲しいとは思いますが、今のままでは勇者としての務めもなかなか進まないのでは?」


 そんなに満場一致で心配されるほどかと、サトルは助けを求めるようにクレソンとバレリアンを見るが、二人ともワームウッドの言葉に同意らしく、首を振られてしまった。


 ヒースだけは「魔法は凄いよ」と擁護するものの、その魔法の使い過ぎでたびたび倒れているサトルを、これ以上は擁護できる要素は無かった。


「そこまで言われるほど俺は弱くない……」


「いやいや弱いだろう」


 自分が強くないのは重々承知していたが、サトルとて男、そこまで弱い弱いと連呼されてしまっては矜持を保てないと、言い訳を考える。

 しかしふと気が付く。


「けど……そういえば俺が出会ってる魔法使いとか、単独で町の外の護衛任務引き受ける冒険者は、ほとんどがシャムジャとラパンナだったからな。特にヒュムスの魔法使い極端に少なくないか?」


 サトルの言葉をルイボスが肯定し、マレインがなるほどと納得する。


「そうですね、ラパンナやシャムジャに比べれば少ないでしょう」


「そういうのを見て書くのかい?」


 サトルがこの世界に来て知ったことや気が付いたことを書くのかと問うマレイン。しかしサトルはそうじゃないと自分の頭上を指さす。

 そこにはサトルの癖のある髪の中で、楽し気にフォンフォンと鳴き交わすシーちゃんと、マレイン達の部屋の証明をしていたフーちゃん。


「日記に? いいや、違いますよ。この子たちのことを書くんだ」


 実に仲睦まじい二匹に、サトルは満足げな笑顔だ。


 その普段は滅多に見ないサトルの笑顔に、バレリアンとクレソンが呆れる。


「サトルはそういうところありますよね」


「何ですべての基準が妖精なんだよ」


「いや、だって……さすがに二十も三十もいるんじゃあ、この子たちの世話のこともあるし」


 サトルにとって妖精の世話は自分の責務だ。

 しかし自分の頭上に手をかざし、妖精たちを取り上げられないようにとする行動からは、責務だからではなく、単純に妖精たちに傾倒しているからとしか見えなかった。


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