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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第一話「コウジマチサトル海に行く」
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2・日記と喧嘩と妖精と

 ルーから製本されていない草木紙を受け取り、インクの使い方を教わったサトルは、それを持ったまま、ワームウッドやマレイン達が下宿する部屋を訪れた。

 二間続きの広い部屋で、手前をワームウッド、ヒース、クレソン、バレリアンの四人が、奥の部屋をマレイン、セイボリー、ルイボスの三人が使っている。


 サトルの来訪に、ダンジョンの妖精の内の一匹、シーちゃんが喜び顔面に貼り付いてきた。


「シーちゃん顔は駄目だ顔は」


 妖精たちはお仕事としてそれぞれ下宿人たちの部屋やルーの書斎で明かりとして働いている。

 かぐや姫のごとくその光は部屋の隅々まで照らし、怪我や病の治癒を助ける高性能妖精だ。


 そんな妖精たちはサトルが大好きなので、時々しか会いに来てくれないサトルに熱烈愛情表現をしてしまうのは仕方がないだろう。


「サトル顔面が光ってる」


 ワームウッドの弟子で冒険者見習いのヒースが笑って指をさす。

 真っ黒で毛足の長い耳がぴこぴこと楽し気に揺れている。

 ダンジョンの妖精たちは特殊な条件下でない場合、サトルともう一人以外には光の粒にしか見えず、そのフォンフォンという鳴き声も、ごく小さくしか聞こえない。


「シーちゃんが張り付いてるだよ」


「あひゃひゃひゃすげえな、いつもより部屋明るいぞ」


 サトルの光る顔面に、クレソンが腹を抱えて笑い転げる。


 アカギツネの大きな耳とふさふさの尾を持つ青年で、ナイフからレイピア、鉈や手斧、両手剣迄刃物だったら何でもござれの有能冒険者、クレソンだが、とにかくその性格は軽薄で無責任。仲間思いでは有るが無神経な発言や無作法をやらかしてはよく怒られている男だ。

 今もげらげらと笑い転げ、サトルにむっとされている。


「まったく、貴方という人は」


 そんなクレソンを呆れながら足蹴にするバレリアン。

 ロシアンブルーの様な猫の耳と長い尾を持つクレソンの冒険者仲間で、長柄武器を得意としている。神経質な性格なためクレソンとは犬猿の仲だ。クレソンと功を争うことがよくあるが、彼が長柄武器を使う理由は、クレソンが唯一使いたがらなかったから、である。

 しかし意外とこの青年、女癖が悪く、時々クレソンと揃って頬に手形を張り付けて帰宅することがあるということを、サトルは知っていた。


「てめえ!」


「文句があるなら言葉で! そもそも床を転がらないでください!」


 足蹴にされたクレソンが、バレリアンの足を掴んでひっくり返しにかかる。

 しかしバレリアンとて歴戦の冒険者、簡単に立場をひっくり返されるつもりはないらしく、転がされる勢いのままに、クレソンの腹目掛けて肘を打ち下ろした。


「うげ」


「ぐあ」


 バレリアンの一撃呻きながらも、クレソンはバレリアンのこめかみ———と言えるのかわからないが、獣の耳の下———を殴りつける。


 脳震盪でも起こしたか、バレリアンの体が傾いだ。

 さらに追撃を仕掛けようとするクレソンだが、その様子は息苦しく呻き、手当たり次第に手を振っているように見えたので、サトルはとっさにバレリアンの襟首を掴み、体重をかけて引きずり、引き離した。

 宙を掻くクレソンの手。それがすぐに力なく床に落ちる。


「そこまでだ、喧嘩するなら外でやれよ。怪我をしたいんだったらダンジョンに行け」


 顔面を発光させたまま静かに怒るサトルに、二人はポカンと口を開いて固まる。


「サトル、説教するなら顔のその子どうにかしたら?」


 ずっと傍観者に徹していたワームウッドが、笑いをこらえ方を震わせながら指摘すると、サトルはむすっと不機嫌な声で答える。


「離れてくれないんだよ……」


 ここ最近シーちゃんのことは放置気味だった。そのせいなのだろう、シーちゃんはサトルから離れたくないと、必死に顔面に貼り付いている。

 正直言ってサトルの周囲が見えにくいし、笑われるような状況になっているんだったらどうにかしたい。


 妖精たちのご機嫌取り、もっと頻繁にしなきゃいけないなあと、サトルはガクリと肩を落とした。


「騒がしいが、何かあったのかい?」


 そんな騒ぎを起こしていれば、もちろん隣の部屋にも音が聞こえるのは道理。

 隣室のマレインが、ニヤニヤとゆかいな物でも見るように顔を出した。


「何だいそれ?」


 そう言って指を指したのは、サトルの顔面ではなく、サトルに襟首掴まれ脳震盪を起こしているバレリアンと、そのすぐそばで代の字に倒れるクレソン。


「喧嘩をして二人そろって潰れたんですよ。一応引き離したけど、手遅れっぽいです」


 どう答えるべきか迷うサトルに変わりワームウッドが答える。


 マレインの灰色がかった黒い狼耳が愉快そうに揺れる。


「馬鹿なのか?」


「馬鹿なんでしょうね」


「とりあえず邪魔そうだし、隅っこに避けとくと良いよサトル。そいつらは隅っこに置いておきなさい」


 年功序列、とは言わないが、自分より五つは年上のマレインに言われ、サトルは反発する気も起きず、バレリアンを引きずって部屋の隅へ。

 ヒースがサトルを手伝いクレソンを引きずってくれる。


「で、君はこの部屋に何の用で来たんだい?」


 二人が部屋の隅にクレソンとバレリアンを運び終わったのを確かめ、マレインが問う。

 サトルは実はと、日記について話した。


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