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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルまたダンジョンに落ちる」
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12・家に帰るまでが冒険です

 サトルがニゲラに抱えられ元のホールへと戻ってきたころ、セイボリー達はすでにホールの端にいた。

 そこにはホールとホールを繋ぐ通路よりも一段と狭い、人が二人並んでは通れない程度の横穴が開いていた。横穴は奥に行くほど急な坂道になっていた。


 その横穴の前でセイボリー達はサトルを待ってくれていたようだ。

 ニゲラの肩に担がれぐったりとしているサトルに、真っ先に駆け寄ってきたのはヒースとワームウッド。

 ヒースは明らかに心配そうに、ワームウッドは何でもない様子で、サトルを見やり少しだけ眉をしかめた。


「サトル! 無事?」


「また濡れてる」


 シャツとベストだけは乾いたまま確保していたが、髪の毛は頭皮へのダメージが心配なのもあって、真水で洗うだけで碌に乾かす余裕は無かった。


 テカちゃんとフーちゃんが、心配そうにサトルにすり寄る。


「海に潜ったから……少し寒いけど怪我は全くない。疲れてるのも潜ったからだ」


「そう、それならいいけどね」


「サトル無理しないでね」


 事前に知らせていたからだろう、ヒースもワームウッドもそれ以上は追求はしなかった。


 サトルの無事を確認したなら、これ以上ここに長居はしないと、マレインが先に進むことを促す。


「急いで行こう。ニゲラ、彼を背負ったままでも大丈夫そうかい? サトル、休憩は外でしかできないと思って、しばらく耐えてくれ」


「問題は無いです」


「俺も大丈夫です」


 ニゲラとサトルの返事を受け、セイボリー達はセイボリーを先頭に横穴へと入っていく。


 最後尾はクレソンが、その手前をバレリアンが行くことで、万が一真後ろからモンスターに襲われても良いように備える。

 サトルはマレインの後ろ、ヒースの前をニゲラに抱えられたまま行くことに。


 急な坂はしばらく続いたが、それもすぐになだらかな平面の通路へと変わった。

 歩くのに余裕が出来たのを見て、サトルは先を行くマレインに、良ければ見て欲しい物があると手に掴んだままだった貝を差し出す。


「あの、外に出たら、これを開けてもらえますか?」


「貝?……どうしたんだいこれは?」


 アコヤガイに似た貝を受け取り、マレインは不思議そうに首を傾げる。


「妖精たちが反応するんです。たぶん、中にダンジョンの妖精が」


「なるほど分かった、ならば後で。それまでこれは僕が持っておこう」


 ここでは開いている余裕が無いからと、マレインは貝をを預かる。

 そのやり取りを後ろで見ていたヒースが不思議そうに問う。


「モンスター以外に妖精が入ってるってことあるの?」


「分からない、そもそも俺はモンスターとこの国の普通の動物の見分けがつかないから、これがモンスターじゃなくて普通の貝だっていう確信はない」


 自分では分からないと答えるサトル。ならばとヒースは重ねて不安そうに問う。


「じゃあ開けた瞬間襲われたりする?」



 真珠を取った時の貝を食べなかったことから、ニゲラはこの手の貝は食べないと認識したようで、食べないなら多少乱暴でもいいのではと提案する。


「食用の貝ではないのですから、いっそ殻を割って砕いては?」


 マレインもそれに賛成だと応える。


「そうした方がいいかもしれないね。何にせよ、それも外に出てからだ」


 そんな会話をしているうちに、先頭を行っていたセイボリーの足が止まった。

 そこは数人の人間がまとまって立っていられるくらいの空間で、真上から光が降ってきていた。


 セイボリーが宣言する。


「ここを登る」


「ちょっとした崖登りだな」


 サトルは頭上を見上げ呻く。高さは少なくとも三階建ての建物より高く見えた。

 ダンジョンに潜る際、今回はかなり下へ下へと潜った後、今しがた出てきたホールへは上へ上へと昇ってきていた感覚があった。

 なので平地と比べてそう何メートルもうえであるとは思っていなかったのだが、そうでもなかったらしい。


「じゃあ僕が先に上って、上からロープ垂らしますね」


 サトルがここを自力で登ることが出来そうにないならと、サトルを降ろしニゲラが宣言する。


「だったらモーさんを運んでもらえるか? モーさんは流石にここを登れないと思う」


 サトルの言葉に、モーさんは肯定するようにモーっと鳴いた。

 ニゲラはサトルの要望ならと、モーさんを抱える。モーさんに捕まっていた妖精たちが一斉に飛び立ち、サトルの頭上へと張り付いた。


 飛べるニゲラが行ってくれるなら助かると、マレインは場所をニゲラに譲る。ニゲラは背に翼を広げ、飛び上がった。


「頼んだよ」


「頼もしいことですね」


 マレインとルイボスが笑み浮かべてニゲラを見送る横で、セイボリーは一人上を仰ぎながら口元を押さえ、考え込んでいるようだった。


「飛べるということがここまでアドバンテージを発揮するとは思わなかったな。やはり浮遊の魔法について研究をしてみるべきか」


 それは良いねとマレインが追従する。


「ボスと協議をしてみようか」


 セイボリーはルイボスを見やり、ルイボスはそれに大きく頷く。


「ああ、早い方がいいだろう。幸い今は依頼は何もない。先生はどう思われますか?」


「そうですね。ダンジョンの組み換えで事故が相次いでいますし、それで犠牲を減らせるならかなり有用でしょう。ええ、そうですねえ……今回の崩落の話もすでに彼女たちから伝わっているでしょうから、こちらからも早く行動を……明日にでも」


 セイボリー達が話す言葉を聞き、クレソンがだったらと問う。


「となると、しばらくパーティー解散っすか?」


 もし魔法の研究のために、遠距離での火力のマレインとサポートのルイボスが時間を取られるのなら、近接戦しかできないクレソンたちだけで潜るのは危険が多い。

 そうなったときは他の冒険者とパーティーを組みなおす必要がある。


「ああそうなる。急で済まないが」


 セイボリーの謝罪に、バレリアンが問題ないと返す。


「僕らは構いません。仕事は幾らでもあるので、気が向いたらまた誘ってください」


「ま、住んでるところは変わらねえしな」


 クレソンもパーティーの一時解消には文句はないらしい。

 それどころか、自由になる時間が増えるなら、いっそのこととサトルの肩に腕を回す。


「っつうか、しばらく俺らがサトル専門になってやろうか?」


 サトルはそれについて、あまり乗り気ではない様子で答える。


「いや、それなんだけど、俺がシャムジャとばかりつるむのもよろしくないから、ある程度ヒュムスともダンジョンに潜れって言われてるんだ」


 今回ダンジョンに潜る期間を区切った理由も、そのヒュムスとのダンジョン探索をするように、冒険者の互助会の会長ローゼルに言われ、その話をする予定があったからだ。


「面倒癖えな」


 拗ねたように唇を尖らせるクレソン。それに対して敵を作らないことも処世術なんだとサトルは返し、クレソンを引き離した。


 いつの間にかニゲラは地上に出て、ロープをサトルたちがいる立て穴に投げ込んでいたようで、すでにセイボリーとルイボスが昇り始めていた。


 マレインがじゃれてないで早くしろと促す。


「お前たち、いいから早く登る」


「あ、父さんは僕が運びますね。まだ体冷えてて手先かじかんでるでしょうし」


 穴にもどってきたニゲラが、サトルだけは自分が運ぶと宣言する。サトルもそれに異存は無かった。


 ニゲラに抱えられて外に出てみると、辺りはすっかり夕暮れの赤紫。

 少し高く飛び上がれば、どうやら今出てきた場所はガランガルダンジョン下町の外で、それも町一つと同じくらいに離れていることが分かった。

 周囲は森林、背後はヤロウ山脈間近。


 ダンジョン内を移動した距離を考えると、思っていたよりも離れていないのは、以前考えた通りダンジョン内の空間には歪みの様な物が生じているからだろう。


「帰り着くのは明日の昼すぎかな」


 今日中には帰りつけないだろうし、何処かで野宿になるだろうなと言うサトルに、ニゲラは不満そうに呻く。


「えー、僕お腹が空きました」


 ぐうと腹を鳴らすニゲラに、サトルと、サトルにくっついていた妖精たちがフォンフォンと笑った。


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