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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルまたダンジョンに落ちる」
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8・雨の予兆に

 ダンジョンに潜って三日目。

 この日サトルたちは別の入り江にも行こうと決めた。

 ちなみに昨日新しく仲間になった妖精には、やはり甘い物の名前を付けようというこで、チョコちゃんと名付けた。


 サトルたちはワームウッドの案内に従って、昨日宝石を探したのとは別の入り江へと向かう。別の入りへへと向かうための道は、獣道を絵にかいたような、亜熱帯ジャングルの道なき道だった。



 木々の葉で空の様な天井からの光が遮られるので、少し足下は暗いが、それでもテカちゃんに頼るほどではなかった。

 しかしサトルたちは、道中急に視界が暗くなったような気がした。


 真っ先に気が付いたのはヒースで、その次はバレリアンだった。

 二人はそれぞれ不思議そうに天井を見上げた。


「何か急に暗くなってきてる。気のせい?」


「気のせいではないと思いますよ」


 二人はシャムジャの中でも猫に近い性質があるために、明暗に敏いのかもしれないとサトルは思った。


「雨が降るのかな?」


 ぽつりとこぼすサトルの言葉に、マレインが同意する。


「そうだな、この時間でこの暗さなら雨が降るのかもしれない。珍しいね。ないことはないけど」


 しかしサトルはすぐにそうでないと気が付く。

 サトルの左手に縋り、テカちゃんが怯えたようにキュムキュムト激しく鳴いていた。

 キンちゃんたちはどうかと探せば、モーさんの背中の上に集まり、サトルにむけ不安そうな低い声でフォーンと鳴く。


「……テカちゃん?」


 ヒカリゴケの妖精が何故この暗さに怯えるのか。むしろ真っ暗な場所では自分の活躍の場と言わんばかりに張り切るこの子が、今此処で怯える理由は何か、サトルは何か重大なことを忘れている気がした。


 天井を見上げ、褪せていく光を見る。この光景に似たものを見た覚えがあった。

 それもこの世界に来た最初の頃に。

 その時思ったことがあったはずだ。


 いつもと違うのなら何かがある。

 ある日鳥の鳴き声が全く聞こえなくなった瞬間をサトルは知っている。


 あの時のゾッとする程冷たい空気を思い出し、サトルは叫んだ。


「帰ろう! 今日はもう、ダンジョンから出た方がいいのかもしれない!」


「何故?」


 あの時は、まだ初めてのダンジョンだった。

 それでもルーの言葉でダンジョンに異変が生じていると気が付いた。

 あの時いつもと違ったのは、いるはずなのにいなかったのはシュガースケイル。


 当初ルーは「ダンジョンの組み変わり」という言葉を使っていたが、その現象に巻き込まれ、以後「ダンジョンの崩落」と呼称を変えていた。

 組み変わるなどという生優しい表現ではなく、崩落という貝費の困難な事故であると認識を改めた。

 あの時に似ているのだ。


「もしかしたらこれ」


「誰だ!」


 言いかけたサトルの声を遮る声。

 サトルの叫びを聞きつけたのだろう、少し離れた場所から誰何の声が聞こえた。


「誰かいるのか!」


 声のする方を見れば、サトルは知らないシャムジャの女性が、数人の冒険者らき人物を引き連れて、木々の間から姿を現した。


 とっさに前に出て身構えていたクレソンが、驚き声を上げる。


「げ、お前ら」


 面識があったらしく、相手も目を真ん丸に見開き、耳の毛を逆立てる。


「クレソン! 何であんたらがここに?」


 何故ここにいる、と互いに問う二人を遮り、セイボリーがシャムジャに低く問う。


「何人いる?」


 先頭のシャムジャではなく、その後ろをついて来ていたラパンナが答える。普段のセイボリー達のパーティーの人数を把握しているらしく、十二人を超える事は無い言う。


「四人よ、問題ないでしょ」


 四人と聞いてクレソンは尾を立て裏返った声で叫んだ。


「問題大ありだ、こっちはいつもより二人多いんだよ!」


 シャムジャたちが息を飲む。

 とっさに周囲を見渡し、ヒースが上を指さした。


「天井あんな形だっけ……?」


 枝葉の隙間から見える天井に異変が生じていた。天井からまるで巨大な鍾乳石の様な円錐形の物体が、数本伸びていた。色からして天井を作る材質と同じ物なのが分かる。

 天井は高く遠いため、巨大な鍾乳石でもよくよく見なくては気が付かなかっただろう。


 サトルが初めて見たダンジョンのホールには、その鍾乳石が伸びて柱になったようなものがいくつも乱立していた。

 サトルは確信する。


「ダンジョンが組み変わってるんだ。崩落の予兆だから、早く逃げなくちゃ下も崩れる」


 今までは床面の崩落にばかり巻き込まれていたので上に気を向けてはいなかったが、このダンジョンの崩落の予兆がある場所で、サトルは最初の床面の崩落に巻き込まれていたので、急いで逃げるべきだと主張を続ける。


「これが?」


 セイボリーですら初めて見る状態だったのだろう。

 見ている間にも、その鍾乳石の様な物体は下へ下へと延びていく。大きさを比較できる物がないので、鍾乳石の成長はそう早くないように見えるが、一メートルほど成長するのに十秒もかかっていなかった。


「多分そうです。テカちゃんも反応している。すぐに移動しましょう」


 ダンジョンが崩落すると、ヒカリゴケの妖精たちは逃げ出すらしいことも分かっている。テカちゃんは天井が崩落するのを恐れているのだ。


 とにかく行こうとせかすサトルに、セイボリーは分かったと頷く。


「ここからだと直接地上に出ることのできる場所がある。君たちは先にそこから脱出を。」


 セイボリーの言葉に、ラパンナが僅かに抵抗する。


「ですが」


 しかしマレインがさらに言葉を被せ、早く行ってくれと促す。


「とにかく今は、ダンジョンの崩落より先に逃げるべきなんだよ。人数を減らしたいから別行動だ。僕らは後から行く、先に君らがダンジョンを出るんだ。君らの姿が見えなくなってから僕らは出発する。これは決定だから、早く行きなさい」


「……分かりました」


 状況が深刻であることは理解できているらしく、シャムジャたちはこれ以上何を問う事もなく、すぐに踵を返した。

 互いに顔見知りらしいので、情報の交換は脱出した後にでも行うのだろう。


 シャムジャたちの背が見えなくなったところで、マレインは深々とため息を吐く。


「こんなにも顕著だったとはね……」


 確かにと頷くセイボリー達。ヒースだけがもう一度天井を見上げ、ブルリと身震いをする。


「でも雨が降るときと似てるね……天井のあの鍾乳洞みたいなのに気が付かなったら、雨が降るんだと勘違いしたままだったかも」


 マレインもそれに同意する。


「今まで崩落に巻き込まれた者達も、そうだったのかもしれない……気が付けて、良かったよ」


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