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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルまたダンジョンに落ちる」
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6・戦闘意欲

 宝石を探した時間は三時間程度、夕方にはまだ時間があったが、今日は元々うす暗いので、明るい内に安全な場所に移動しようとマレインが提案する。


「入江は夜に波が上がってくるんだ、上の方にもどろうか」


 反対の声はなく、それぞれが荷を手にして、入り江に降りてくる時に使った傾斜のきつい坂の獣道を、縦列に並んで登ることにした。

 先頭はセイボリーで、その後ろにクレソン、バレリアンと接近戦を得手とするメンバーが続き、間にサトルやヒース、ワームウッドを挟んで、しんがりは最も攻撃に特化しているニゲラに任せた。


 しばらく屈んで作業をしていたからか、クレソンが関節を回しながら苦々しくぼやく。


「あー、ずっと屈んでてなんか体が気持ちわりい」


 バレリアンも同意らしくぼやきを返し、首を回すと、真後ろにいたサトルにも聞こえるほどの音がした。


「仕方ありません。普段は採取作業などはほとんどしませんから」


「リアン、その音大丈夫なのか?」


「ええ、問題はないです。でも普段取らない姿勢ですしね、しばらくは勘弁したいです」


 採取は得意じゃないんだというバレリアンに、サトルはそんなものなのかと納得する。確かに屈み仕事は慣れないと腰がだるくなるからなと、とりとめのないことを考えていると、急にサトルの頭上で、キンちゃんたちがフォンフォンと鳴きだした。

 声は高く低く何度も繰り返しサイレンのように聞こえる。


「モンスター!」


 キンちゃんたちの意図を察しサトルがそう叫ぶと、クレソンとバレリアンは素早く周囲を見渡した。

 こちらの方が得手なのだとやる気を出すクレソン。


「よっしゃ、今度こそ俺が!」


 しかしクレソンが動くよりも先に、セイボリーが正面に向かって駆けあがった。


「はあ!」


 セイボリーが手にしていた鉈のような刃物で一刀両断にしたのは、大型犬ほどもある巨大なトカゲ。サトルの世界で言うコモドオオトカゲを紫色に塗ったようなモンスターだった。

 振り回せる範囲がそう広くない場合は、大斧ではなく鉈のような肉厚な刃物で叩き斬る戦法を取るというセイボリー。威力こそ大斧より落ちるものの、攻撃の正確さは格段に上がり、一撃でオオトカゲを撃破した。

 サトルはクレソンとバレリアンの後ろで、直接見ずに済んだことに安堵する。


 モンスターが飛び出してきてから倒す時間は、まさに秒殺。マレインが後方で手を叩き実に結構と笑う。


「やる気に満ちてるね、セイボリー」


 やる気はクレソンもあったのだが、セイボリーという壁がいるのでは意味がなかった。


「俺の活躍……」


 バレリアンも構え掛けていた棍をおろし、軽くため息。


「昨日のこともありますしね、ここはセイボリーさんに花を持たせるのが筋では?」


 しかし気を抜くのはまだ早かったようで、正面から向かってくる以外にも、斜面に生える南国特有の色濃く葉の大きな草むらが激しく鳴った。


「うるせ、けどまだ来るぜ」


「では、我々も」


 獲物を構えるクレソンとバレリアン。


 セイボリーを危険と察してか、複数の波が左右に回り込み迫りくる。

 正面を警戒したままセイボリーが告げる。


「数が多いな。ワームウッド、ヒース、君たちはサトルと一緒に下り、海を背に下がっていてくれ! ニゲラは三人を守るんだ!」


「はい!」


 返事をするが早いか、ワームウッドはサトルとヒースの腕を掴み、斜面から飛び降りるように下った。

 マレインとルイボス、それとニゲラは、斜面の草むらからモンスターが飛び出し来るのを警戒し、入り江の入り口で構える。


 モーさんや他の妖精たちも、サトルと一緒に入り江の波打ち際に待機だ。

 ワームウッドはサトルを最も波の傍に立たせ、自分は斜面に広がる草むらへと向き直る。


 サトルはセイボリーの指示の意味をワームウッドに問う。


「何で海を?」


「水にまで飛び込んでくるモンスターは滅多にいないから」


「なるほど」


 聞いて納得するサトル。背水の陣と四面楚歌では、比べれば、背のみは安全と言えるのかもしれない。

 サトルたちが波打ち際を背に身構えた時には、すでに飛び出したモンスターを追って、セイボリー達が自らの武器を振るっているところだった。


 体高が低く足を狙い突進してくるモンスターを、冗談から叩き潰すように切り伏せていく。

 大ぶりな攻撃で左右が甘くなるところを、すぐさま鉈を左右に振る事で牽制する。

 怯んだモンスターは回り込みクレソンとバレリアンが頭部を重点的に狙い潰していく。


 眉間か襟首を狙うのは、トカゲ型のモンスターの攻撃手段の最たる噛み付きを封じつつ、できる限り一撃で仕留めるためだろう。

 鬼気迫るセイボリーの活躍に、ヒースが感嘆する。


「マレインさんの言った通り、セイボリーさん本当に張り切ってるね」


「ああ、そうだな」


 ヒースに同意しながらも、その光景をサトルはどこかで見た覚えがある気がして首を傾げる。今は懐かしいレトロゲームの一つ、ワニが次々飛び出してくるもぐら叩きの親戚のようなゲームがあったが、それだと思い至った。もしこれが本当にワニワニでパニックなゲームなら、百匹は出てくるかもしれない。


「余裕そうだな」


 もしこのままいけばワニどもに「まいったスゴイ!」と言わせることが出来るかもしれない。というのはサトルの夢想だ。


 サトルが地味に懐かしさに浸っていることに気付かないヒースは、もちろん余裕だよと、自分のことのように答える。


「だってセイボリーさんだから!」


 ふんふんと鼻息荒く、尾を持ち上げ興奮しきりのヒース。

 サトルはそんなヒースに視線をやりつつ、先程から飛び散る血しぶきを見ないようにしている。


 ニゲラは竜なのでうす暗くてもサトルの顔色が分かったのだろう。背を振り返り、サトルへと声をかける。


「父さん大丈夫ですか?」


「……まだ我慢できる」


 そのやり取りでサトルが顔を青くしていることに気が付き、ワームウッドは愉快そうに声をかける。

 昨晩のブチククイのことといい、ワームウッドはサトルがグロテスクなものを苦手としていることを、からかいのいいネタだと思っているらしい。


「君本当血が駄目だね?」


「そう簡単には慣れな……あ!」


 拗ねたように前方のワームウッドに視線向けたところで、サトルは気が付く。


「どうしたの?」


 いぶかしむヒースには答えず、サトルはセイボリーに向かって叫んだ。


「その一番派手な奴の中に、たぶん妖精がいます!」


 セイボリーの右斜め前から迫ってきていた、一際体が大きく黄色い班のある個体。その中に妖精がいるとサトルは言う。

 何故ならいつの間にかその一匹の傍に、キンちゃんとギンちゃんが特攻していたから。

 モンスターの出現とともにやたらサイレンのように泣くと思えば、どうやらモンスターの中に仲間がいると察して、サトルに訴えていたらしい。


 ならばここは俺がとクレソンが前に出ようとする。


「よっしゃ! 手柄俺が!」


 しかしその言葉と同時に、セイボリーは大きく右足を踏みこみ、手にしていた武器を振り下ろしていた。


「はあ!」


 一瞬にして砕け散るモンスターの頭蓋。

 身を乗り出したまま固まるクレソンに、横から飛び掛かってくるモンスターをいなしつつ、バレリアンが呆れたようにつぶやく。


「いや、当たり前ですよね、位置的にも」


 そりゃあそうだよな、と思いつつ、サトルは後ろ頭を掻いた。


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