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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルまたダンジョンに落ちる」
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5・翡翠色の出会い

 サトルが知っている宝石の知識は豆知識程度。実物を見たことがあるのも、小学生の頃に行ったミネラルマルシェ程度。

 それでも、パッと見て、翡翠なのではと思われる石が複数見つかった。緑や白と言ったよく見る色以外にも、青系統の翡翠が複数。


 サトルがそれを翡翠だと思ったのは直感に近いものと、そうであったらいいのになという希望的観測。翡翠の産出される場所には温泉があると聞いたことがあったので、何となくそうだと良いなと思った程度だ。

 もし本当に温泉があるのなら、その内探してみたい物だと、サトルはのんきに考える。


「正式な鑑定は戻ってからですが、君の妖精が見つけたものだ、期待はしていいかもしれませんね」


 一つ一つの石を大まかな大きさや色で分け、袋に詰める作業をしながらルイボスが言う。

 想像以上の収穫に、普段はほとんど興奮を表さないルイボスの耳が、ぴくぴくと揺れているほどだ。


「ええ、本当に。ニコちゃんありがとうな」


 張り切り過ぎたのか、疲れた様子でサトルの髪に埋もれているニコちゃんに、サトルは左手を差し出し礼を言う。

 満足げな声でフォーンと鳴いて、ニコちゃんはサトルの手に頬ずりをした。


 その横で自分たちも手伝ったぞと、キンちゃんたちやテカちゃんもフォンフォンキュムキュム。


「キンちゃんもギンちゃんも、手伝ってくれてありがとう。テカちゃん、君のおかげで良い物が見つかったよ」


 お礼を言われて上機嫌になったか、キンちゃんがとりわけ緑磯の鮮やかな石を掴んで、サトルの手に渡してくる。

 サイズも上々で、これは相当価値があると感じさせる重さだ。


 サトルの手に渡された石を見て、ヒースが期待のこもった声で問う。


「それ、なんて石なんだろうね」


 確かではないんだけどと前置きし、サトルは答える。


「多分なんだけど……翡翠……ジェダイトって言って、俺の国でもよく取れていた石だよ」


 翡翠と呼ばれる石は、軟玉ネフライトと硬玉ジェダイトの二種類があり、サトルが手にしている物は、日本で産出され、日本の宝石にも認定されているジェダイトの方の翡翠ではないかと思えた。


 名前は聞いたことがあると、マレインも感心する。


「もし本当に翡翠なのだとしたら、真珠と同じくらい高価な宝石だよ。ダンジョン内でしか採れないんだ」


「そうなんですか……そうか、そうなのかも」


 ダンジョン内に火山や温水の出る場所があるかは不明だが、ガスや火が噴き出ている場所が存在していたので、翡翠が生成される火山地帯の条件を満たしている場所があってもおかしくないように思えた。


 まとめた収穫物はモーさんの背中の鞍に括り付ける。モーさんはここからは自分の仕事だなと言わんばかりに、力強くモー! っと鳴いた。

 張り切るモーさんをヒースが嬉しそうに撫でる。


「モーさんいてくれて本当に良かったね。石は流石に重いよ」


 モーさんはますます張り切り、後ろ脚を蹴立てる真似をして見せる。

 すっかりやる気のモーさんを見ながら、セイボリーがサトルに問う。


「以前は無かったようだが、この鞍は誰が?」


 以前は付けていなかった鞍を付けるようになったのは、モーさんのサイズがすっかり山岳馬程度の体高になったことと、身体サイズの調整のために、小さい分身を作ることが出来ると分かったからだ。

 鞍をいちいち買い替えずに済むのならと、今の身体サイズに合わせて誂えてもらった。鞍を誂える店を紹介してくれたのはオリーブだ。


「最近オリーブに用立ててもらいました。今回が初使用。使用感も悪くないです」


 モーさんも鞍がある方が、物が運びやすいと上機嫌なので、今後も使っていくつもりだとサトルは言う。


 ところが、突然モーさんが身をよじる様に暴れだした。

 暴れると言っても、背中が痒くて仕方がない、程度の仕草だったので、サトルは何があったのかとモーさんの背に手を置き直接問う。


「っと……モーさんどうした?」


 モーモーと鳴きながら何かを訴えるモーさん。

 モーさんの背に置いたサトルの手の上に、何か冷たい物がそっと乗った。


「え、うわ……あー……ああ、うん」


 冷たい感触に驚き、サトルが視線を落とすと、そこには見知らぬ妖精が一匹。サトルの手の甲にのそりと乗り上がって、プクプク泡がはじけるような声で鳴いていた。


 どうやらモーさんはこの妖精の冷たさに驚いていたらしい。


「何かあったのだろうか?」


 あわてるサトルの様子にセイボリーが身構えるが、サトルは大丈夫だと首を振る。


「何かはあったけど、大変なことではなくて、その、モーさんの上だから見えるかな?」


 サトルの言葉に、セイボリーだけでなく、荷支度をしていたヒースも一緒に覗き込む。


 サトルの手に寄り添うように、(@=@)の顔文字の様な顔をした妖精がそこにいた。

 卵ほどの大きさでわずかに緑がかった青色の半透明な妖精は、プクプクと鳴きながらなおもサトルの手にすり寄る。


「妖精? 君に懐いているようだ」


「泡みたいだ、すげえ」


 プクプクと鳴く妖精の艶やかな表面は、まるで研磨した翡翠の様。

 サトルに懐く様子から、テカちゃんやモーさんのように、サトルに付いて行きたいと主張をしているのだろうことが分かった。


 サトルはすこし考えて宣言する。


「君の名前はプクちゃんで!」


 プクちゃんと命名された妖精は、プクプクと泡一つ一つが弾ける音から、シュワワワとビールの泡がはじけるような鳴き声に変わり、嬉しそうに明滅する。


 その音の変化にヒースは不思議そうに首を傾げる。


「喜んでる?」


「多分」


「何で名前付けると喜ぶんだろうね?」


 他の妖精もそうだったというヒース。サトルはその答えを持っていなかったが、ワームウッドが代わりに答える。


「一人一人って認められるのが嬉しいんじゃない?」


 ワームウッドの答えはヒースの心に刺さったらしく、ヒースは嬉しそうに、その答えに納得する。


「そっか、あ、あと好きな人に名前貰うってのも、特別な感じがするからかも!」


「なるほど」


 もし本当にそういう理由で喜んでもらっているのだとしたら、それはなかなかに嬉しいことだと、サトルは口元に笑みを浮かべる。


「よろしくな、プクちゃん」


 サトルに名前を呼ばれ、プクちゃんはシュワワと嬉しそうに返事を返した。


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