4・宝石の浜
翌日の昼過ぎ、目的の場所に到着してサトルが一番最初に思ったのは、結構普通の石と砂利の浜だなといった感想だった。
観光雑誌もよく愛読していたサトルとしては、宝石のみつかる浜と聞いて、ペリドットのビーチやカラフルな湖でおなじみのマクドナルド湖を想像していたのだが、流石にそこまで分かりやすい見た目ではなかったらしい。
大き目な石は浜の内陸側に、細かな砂利は浜の海側に広々と広がっている。
入り江で波が強くないからか、浜の幅はかなり広い。目視だけで熊本城の二の丸広場くらいはありそうに見えた。
多少転がる石に色味があるように見えるのと、硝石の成分が多いのか白っぽく見える石が多い。そういった石は濡れると色が濃く変わり、鮮やかに見えるのだが、今日はあいにく天井の光も弱く、ちょっと乾燥気味らしい。
「華の浜、とも呼ばれるんだが、今日はそれほどでもないか」
石が濡れて、光も強いと、発色が鮮やかで綺麗なんだとマレインは言う。
その言葉でサトルは思い出す。そう言えば雑誌にも、マクドナルド湖は天気のいい日に見る物だと書いてあったか。
観光地というのは得てしてそういう物なのだと割り切り、サトルは入り江に踏み込んだ。
とたん、それまでサトルの頭上に乗っかり大人しくしていたニコちゃんが、急にフォンフォンと激しく鳴き始めた。
「うわ、ニコちゃんどうした?」
ニコちゃんはすいと浜へ飛んでいき、そこかしこに降り立って、一瞬強い光を発してはまた次の場所へと飛んでいく。
そのニコちゃんの点滅は、サトルでなくても視認できるほど。
クレソンがごくりと唾を飲む。
「もしかして、そんなにたくさんあるのか?」
バレリアンもまさかと驚き目を見開く。
「あの数がすべて……」
二人とも尾が激しく揺れているので、あまり乗り気でない風を装っていながら、本当は興味津々だったのだろう。
「ニコちゃんもどってきてくれ、今君が示した場所をすべて覚えるのは難しい。何か目印を決めよう」
サトルはニコちゃんの示す場所が二十を超えたところで、数えるのを諦めニコちゃんを呼び戻した。
いつもはすんなり戻ってこないニコちゃんだが、今回はすぐに戻ってきて、サトルの左手にすり寄る。
サトルは目印を決めるとしても、この浜に有って目印になり、かつ片付けが面倒でない物は、と周囲を確認する。
入江の入り口付近の腰丈ほどの草や低木の茂みに、ハイビスカスを小ぶりにしたような花が咲いていることに気が付き、ヒース指をさし聞いてみる。
「ヒース、その辺に咲いてるあの赤い花、あれは毒とかはないか?」
「うん、大丈夫。実とか食用にできる花だよ」
ハイビスカスも実は食用になったので、やはり似たような植物なのだろう。
「食べるのか……じゃなくて、じゃああの花を、ニコちゃんの気になる場所に落としてもらおう」
花を集め、もう一度ニコちゃんに何かありそうな場所をピックアップして貰っていく。
この周辺に確実に宝石の類があるという事だろう。
しかしながら、やはり素人目には見分けのつかない石。
サトルは如何したものかと考える。
「これだけあると分かってるのだから、是非とも見つけたいよね」
ひょうひょうとした声を装うワームウッドだが、その尾は左右に激しく振れている。
誰もが期待をしているのが分かる。
サトルは自分がこれまで読んできた本や見てきたテレビの内容を思い出すために目を閉じ、必死に記憶を探る。
その中に幾つか、今まさに必要としている情報があった。
サトルはモーさんの背に貼り付いていた、ヒカリゴケの妖精テカちゃんを呼び寄せる。
「テカちゃん、君にもお願いがある」
お願いと言われ、テカちゃんは嬉しそうにキュムンと鳴いた。
「これから拾う石を一個一個照らしてほしい」
言ってサトルはニコちゃんが示した場所から石を拾い上げ、それをテカちゃんに向けて掲げる。
その行為に何の意味があるのあるのかと、クレソンがいぶかしむ。
「何でだよ?」
「宝石は光の透過率が高いらしい。だから光を当ててその光が通ったら、宝石の可能性がある。いくつか拾ってみて、透過率の高い物をニコちゃんに再度鑑定してもらおうかと思ったんだ」
すべての宝石がそうではないが、見分け方の一つとしてあると読んだ覚えがあった。
目安があるならいいねと、マレインが「他には?」と問う。
「あとは、結晶が単一で硬い石は角が削れにくく一方方向に割れ安いから、川辺の石でも少し鋭角だとか、密度が高いから持ってみると重さがあるとかな? 他には……ガラス質っぽい石は重点的に見た方がいいとかくらいか? 俺も詳しいわけではないんで」
「詳しいと思う」
サトルの謙遜に、ヒースがそんなことないと、サトルの手元を覗き込みながら言う。
その石は明らかにサトルが口にした通り、少し鋭角で、テカちゃんの光が良く通り、白っぽい石の中に薄青い班が見えた。
「詳しい、のかな?」