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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルまたダンジョンに落ちる」
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3・宝の地図

 食事も終わって、一息ついたころ、サトルは大まかに行動の決定権を持つセイボリーに尋ねた。


「セイボリーさん、明日もここを探索しますか?」


「いや、そうだな……ニコちゃんはどう思う? 聞いてもらえるだろうか?」


 セイボリーの言葉を受け、サトルから何かを言われる前にニコちゃんは激しく反応し、フォンフォンと高く鳴いた。


 サトルの頭上を旋回する強い光に、マレインが愉快そうに言う。


「凄い反応だ。どうもここでもう一回探したいらしい」


「こんなにも反応するという事は、このホールにはまだ、何かあるのだろうか?」


 身を乗り出すセイボリーに、クレソンが揶揄するように言う。


「そわそわしてんなあ、セイボリーの旦那」


 それに乗り、マレインもセイボリーへと訊ねる。


「もう幾つか見つけて、豪華なアクセサリーでも作らせるかい?」


「むう……いや、駄目だ」


 マレインに問われセイボリーはあからさまに顔をしかめ、それはいけないと首を横に振る。


「彼ばかりが苦労をするのではいけない」


 真珠を探し、採取するのは、サトル一人の負担が大きすぎる。

 食事を終えてだいぶ血色は戻ってきていたが、その分サトルは何度もあくびを噛み殺し、眠そうにしていた。

 疲労しているということが目に見えてわかるその様子に、セイボリーは無茶をさせるわけにはいかないと厳しくマレインに告げる。


「冗談だよ、そう怖い顔をしないでくれ。そうだね、少し考えようか」


 マレインはワームウッドに言って地図を用意させると、それを指さしながら考える。


「真珠はしいがサトルに負担が大きすぎる」


 その言葉に、ニコちゃんはサトルの頬にすり寄り、まるで謝罪するようにフォンフォンと鳴いた。


「いいよ、俺は平気だ。他の所に行ってみるのもいいかもしれない。君が気に入る物が他でも見つかるかもしれないし」


 サトルの慰めに、ニコちゃんは高くフォーンと鳴く。分かったと頷いているのだろう。


「そうだね、矢張り明日は別のホールに行こう」


 ニコちゃんのやる気は十分で、このホールでなくてもいいのならと、ワームウッドが手を挙げる。


「はいはーい、なら僕はここがいいかな」


 言ってワームウッドが指を指したのは「青と緑の地平五号」と地図上に書かれているホール。

 今いるのが「青と緑の地平三号」で、そこからは少々長めの通路が上方に向かって伸びているようだった。


 地図には不思議な書き込みがあり、文字ではないのかサトルには読めなかった。

 絵文字や地図記号の様な物は、どうやら自動翻訳の範疇外らしい。


「さすがはワームウッド、よく考えついたな」


 マレインはその示された場所と記号を見て、すぐにそれは良いと相槌を打ち、ルイボスやセイボリーも何か心当たりがあるのか、それぞれに納得した様子。


「ああ、なるほど、ニコちゃんがいるのなら確かにここはいいかもしれないですね」


「確かに、此処ならばニコちゃんの力もいかんなく発揮できるだろう」


 サトルには全く理解できなかったが、ダンジョンの探索をこなしてきた彼らだけが理解できるものがあるのだろう。


「ここっすか?」


「地表に近いホール……ですね」


 クレソンとバレリアンはよく分かっていない様子で、一体何があるのかとマレインに問う。

 マレインは勉強不足だなと苦笑いし、説明する。


「ここからすぐ西の方にあるホールは、此処とよく似た気候と生態系だが、こちらが岩礁や遠浅の海域が広がっているのに対して、この五号は入り組んだ入り江があり、そういった場所に上部の階層や、ヤロウ山脈の山中から流出した石が流れ着き、それなりに広い砂礫や石が集まった浜があるんだ。そこでは時折宝石なども見つかる」


 マレインの説明に、ヒースがハッとしワームウッドに尋ねる。


「師匠、もしかして宝石って、ただ見ただけじゃ見分け付かないから?」


 宝石の原石は、知識が無ければ見分けのつかない物だ。しかし日本国内でもヒスイ海岸と呼ばれる場所がある様に、知識さえあれば存外特別な場所でなくとも見つけることが可能な鉱物資源でもあった。

 サトルもそれなら確かにニコちゃんの得意分野だと納得する。何せサトルがニコちゃんの能力に気が付いたのは、ニコちゃんが生体鉱物であるドラゴナイトアゲートを見つけたからだった。


「そういうことか……確かに、それならニコちゃんがいればいい物が見つかるのかも」


 しかしクレソンはそこまで欲しい物ではないだろうと肩をすくめる。ガランガル付近では宝石よりも真珠の方が高価で、すでに高価な収穫物がある中で、それよりも格の落ちる物を見つけても嬉しくはないのだろう。


「宝石っすか、でももう真珠あるし」


 しかしそんなクレソンのボヤキに、マレインは余裕の笑顔で答える。


「真珠だけでは寂しいだろう。それに、自分で見つけた宝石という付加価値は、ロマンチストな女性を口説くのに使える」


「あー、確かにそういうの好きな子いるっすもんね」


 納得はするものの、クレソン自身はそう宝石には興味がないらしい。意中の相手が本当にルーだとするのなら、確かに宝石の一つを贈るよりも、珍しいモンスターの生態系に関する情報でも持ち帰った方が、かなり喜びそうではある。

 色気のない女性を好きになるというのも大変そうだと、サトルは他人ごとのように思う。


 そしてマレインはセイボリーにも。


「セイボリーもそう思うだろ?」


「ああ、そうだな……」


 セイボリーの意中の相手はロマンチストなのかもしれない。返すセイボリーの耳の内側は、赤く染まっていた。


 そんなやり取りを見てか、ニコちゃんは任せて欲しいと言わんばかりに、フォンフォン鳴きながらサトルやマレインの頭上を旋回する。いつにもましてやる気十分なニコちゃんの様子に、サトルからも頼むと頭を下げた。


「ニコちゃんも喜んでるんで、ぜひ」


「ああ、分かった。明日は青と緑の地平五号へ行くとしよう」


 セイボリーが決定し、マレインが宣言する。


「よし、じゃあ明日はジュエルハントだ。目を皿のようにして探さなくてはいけないし、今日は早々に休むとしようか」


 その言葉に異論を唱える者はいなかった。


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