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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルまたダンジョンに落ちる」
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2・ダンジョンの海で食べる異世界グルメ(亀の手とムラサキカガミのスープに南国山菜と鳥の串焼き)

 マレインが作った亀の手とムラサキカガミという貝のスープは、調味料を入れずただ貝の身から出る塩気だけで食べる物だった。

 

 亀の手を初めて食べたはずだったが、それは懐かさすら感じる味で、サトルは一口啜って瞠目した。


「美味い……」


 味は貝と蟹をふんだんに使った潮汁のようで、貝の臭み消しにと少量入れた穀物の蒸留酒と乾燥したネギの様な香草の風味が、更に既視感を増すものとしていた。

 身を食べる。爪状の部分は食べずに、うろこ状の皮膚を剥ぎ、その中の身を食べる。

 歯を立てるとプリっとした小海老のような感触に、蟹の様な旨味が溢れる。海老よりはやや身が柔らかいのか、口の中でほろほろと解けた。

 無性に米が欲しくなる味だ。


 米についてサトルは、所謂インディカ米に近い物があるのはすで市場でに発見していたが、その米を日本で主に生産されていたうるち米のように食べる製法を知らないので、手を出せずにいた。

 しかしこうも米に合う味を見つけてしまうと、今まで後回しにしていた米を、どうにかしたいと思ってしまう。

 やっぱり帰ったらタチバナのレシピをルーに見せてもらおう。サトルは固く固く心に誓った。


 サトルだけでなく、日本人の味覚の記憶があるのだろうニゲラも、目を金色に輝かせカップに入ったスープを掲げる。


「これ僕好きです!」


 こんなに美味しいスープ初めてだと、声を高くし、ニゲラはマレインに告げる。


「美味しいです! 凄いですマレインさん! 父さんの次に凄いです!」


 ニゲラにとって父と慕うサトルに例えるのが最上級の好意なのは見てわかるので、そのサトルに次いで、という言葉がどれほどの物か察するに難くなかった。


 竜からの最高の賞賛を受け、マレインは満更でもなさそうに笑う。

 普段の意地の悪い笑みとは違い、耳の内側がほのかに赤く染まっている。


「だろう? しかし竜はこんなにも味が分かる生き物なんだな、新発見だ」


 人だろうがモンスターだろうが食らう竜は、悪食な生き物だと思っていたとマレインは言うが、サトルとニゲラはそうでもないさと首を振る。


「竜は結構えり好みして食うみたいだ。ニゲラの名付け親も、モンスターより草好んでたし」


「はい、僕らだと動物やモンスターは、消化するのにエネルギーいるんですよね。緑色や青色の鮮やかな竜が一番好きなのは果物です。あ、でも味が分かるの僕だけです。僕体の造りが特殊なんですよ」


 ニゲラの言葉からするに、竜は鱗の色で好む食べ物が違うらしい。

 それもまた初めて聞く話だと、マレインだけでなく、ルイボスやセイボリーも面白そうに耳を傾ける。


「そうなのかい? けどそうか、そう言えば、人を襲う竜は黒っぽい色の物が多いね」


「そういう違いがあったのですか。タチバナが気にしていた通りだったというわけですね」


「色が鈍かったり、濃かったりすると……人や家畜を襲うという事だろうか?」


 三者三様に思うところがあるらしく、他には何かないかと三人が身を乗り出す。


 そんなに食いつかれると思っていなかったのか、ニゲラは少し怯えるように身を引きつつ答える。


「人を襲うかどうかは……うーん、食べ物の違いは、他にもあると思いますけど、黒っぽい竜なら他の子供の竜も食べることがある、くらいしか分からないです。色々食べるから変な色になるんだって、お爺ちゃんは言っていました」


 セイボリーは特に仕事に関係するからだろう、更に深く尋ねる。


「という事は、色で見分ける、とまではいかなくても……濃い色は注意が必要という事でよいのだろうか」


「そうですね、黒いのは……あ、でも明るい色でも白っぽい奴は黒よりも危険です。白は逆に人間食べないですけど、自分以外の生き物が自分の周りうろうろしていると凄く嫌がります。一瞬で凍らされます。うるさいことが嫌いな竜が多いんですよ」


 その言葉にマレインが頷く。


「ああ、白い竜を見たら迂回することが必須とは昔から言われているね」


「あと赤い奴は気性が激しかったりしますし、周辺の岩やダンジョン石と同じ色の、擬態っぽくなってる岩場に住む竜は、生物に興味が無さ過ぎて平気で踏みつぶします。小型の竜にとっては、同じ竜でも岩色の竜は動いてるだけで災害級だったりします。竜の鱗すら平気ですり潰せるんですよ。しかも声かけてもほとんど耳聞こえてないんですよね。匂いでコミュニケーション取っているっぽくはあるんですけど、緑や青の竜と比べて、個人主義が強くて……簡単に言えば、人間にとっては、どの竜も危険ですね」


 ニゲラの締めくくりの言葉に、それもそうだよなと、一様に苦く笑って、マレイン達は腰を落ち着ける。


 サトルとしてはニゲラ以外にもコーンという竜と会話をしたことが有ったので、竜同士ですらそこまで意思の疎通ができないとは思ってもみなかった。

 人間が竜を恐れるのもやむなしだなと納得する。


「竜の世界も大変そうだな」


 ニゲラはサトルに怯えられたくないのか、一回切ったはずの言葉を、でもと続ける。


「大変ですけど、僕みたいに青っぽいのは平気ですよ! お爺ちゃんみたいに緑色が綺麗な竜も、大人しい人多いです」


「そう言えば、平原に降りてくる竜は青や緑も多かったな」


 ニゲラの言葉に、サトルは平原で見た草を食む竜の群れを思い出す。風景に溶け込むような、空の青と草や木々の緑を纏った竜がかなりの数いたように思う。


「ええ、竜にしては縄張り意識が薄く、群れることもするし、基本的に草が好きです」


 そう言って木の枝で作った串に刺して焼いた鳥肉と草の芽の様な物を口に運ぶニゲラ。

 またニゲラの目が輝いた。


 その表情に、サトルも引かれて串に刺してあった草の芽を口に運んでみる。

 新鮮なキャベツの様なパリパリとした触感と、菜の花の花芽に似た甘味と、わずかに清涼感のある苦みがあった。

 一緒に串に刺してある、、強めに塩を振った皮付きの鳥肉の油とよく合う。


「この野菜? を焼いたやつも美味い……これは?」


 答えたのは調理をしたヒース。そうでしょう、美味しいでしょうと自慢げだ。


「イシワタリ、もしくはサワワタシと呼ばれる草の芽だよ。温かくて湿度が高い所だとよく見るんだけど、ヤシとかソテツとかの木の上に生える草なんだよ」


 サトルが元居た世界でも、ランやシダ植物の類でそういうものがあったなと、面白く思いながら話を聞く。


「サクサクです」


 ニゲラはイシワタリが気に入ったのか、二本目の櫛に手を伸ばす。数からして一人当たり二本は食べて良さそうなので、サトルも二本目を手に取った。


「この鳥は?」


 今度はワームウッドが答える。


「ブチククイ。どん臭いから獲りやすい。羽を毟るの面倒だけどね」


 そう言って指さした先には、むしられた鳥の羽が散っており、その合間合間に見える赤い色に、サトルは一瞬呻く。

 意地悪なワームウッドの笑みから、それがわざとだと分かり、サトルは眉間に皺を寄せたまま、手にしていた串をニゲラに差し出す。


「もっと食べるか?」


「いいんですか!」


 ありがとうございますと、ニゲラは喜んで串を受け取った。


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