#8 未来へ
「ここが二十五年後…」
「そうよ、ほとんど変わらないでしょ?」
「あぁ、ビックリするぐらい変わってないな。空飛ぶ車は?」
誠は少し目がキラキラしていた。
「…無いわよ」
「自宅から職場に繋がってて自動で移動できる筒みたいなやつは?」
「無い」
「アンドロイドは?」
「あぁ、それならその辺に」
「まじで!?どこ?」
誠はキョロキョロと辺りを見回した。
「…見分けつかないと思いますよ、私も違いがわからないんだから」
「そんなに精巧なのか」
誠は香澄と共に二十五年後の未来へ来た。しかし二十五年後でも大して街は変わっておらず、漫画やアニメのような未来を期待していた誠は少しガッカリしていた。
「…いや、それが目的じゃなかったな。美郷はどこに連れていかれたんだ?」
「それをまずは調べますので研究所に一緒に来て下さい。あっ、その前に…」
香澄は電話を取り出し誰かに状況を報告した。
「所長が会いたいそうなのでそこまでも一緒に行きましょう」
「わ、わかった。その所長ってのは美郷の味方なんだよな?」
「…うーん、味方とは言いづらいかも。忘れてるかもしれないですけど、私も美郷さんを捕まえようとしてたんですからね。捕まった先が違うなら少しだけ味方ですね」
「そ、そうか。そうだよな」
誠は美郷から聞いた香澄の目的を思い出した。
「ただ、撃ったり攻撃したりは所長は絶対に命令しない。所長の知らないところでも動いている奴等がいるってことね」
「心当たりは?」
「政府、公安、警察、それと宗教団体」
「…宗教団体?」
「少なからず時間移動は神への冒涜だ、って反対してる勢力があるんですよ」
「…まぁ、いるだろうな」
「まこっちゃんもそっち派?」
「…なぜその呼び方で呼ぶ?」
「その方が慣れてますよね」
「お父さんでいいんじゃないか?」
「それは気持ち悪いので嫌です」
「気持ち悪いの!?」
「正直言うと私が物心つく前には離婚していたのでほとんど記憶に無いのよね。だから今のあなたにどう接すればいいかがわからない」
先程からの香澄の妙に敬語が入り交じった言葉使いもその表れだった。
父親だがほとんど知らない人。その掴めない距離感に香澄は戸惑っていた。
「今の年齢で考えたら大して変わらないんだから気軽な感じでいいさ」
「じゃあ行くぞ、もたもたするな!」
「距離の詰め方下手くそか!!」
香澄は困った顔をして
「…よくわかんないんだけど?」
「そんな感じでいいよ」
「ん?どんな感じ」
「今の感じ…」
「あっ、こういう感じ?」
「…うん、そんな感じ」
「わかった」
なんか軽いかもとは思ったが誠は話を進めたいので良しとした。
「で、目星は付いてるのか?」
「何に?」
「相手に」
「それを調べるところから始めるの、さっきも言わなかった?」
「…言われたかも」
「しっかりしてよね!」
「ごめん」
「別にいいけど」
「……似てるな」
「うん?」
「いや、言わないでおこう」
誠は香澄との会話である女性の事を思い出した。
「…気付いても忘れてね、二人が変な感じになって私が産まれなくなっても困るから」
「わかった……」
ほんの少しでも一つの事を変えると未来がガラッと変わってしまうこともあるかもしれない、誠はその辺を少しずつだが理解し始めていた。
二人が少し歩いた所で後ろからクラクションを鳴らされる。
振り返るとそこには一台の車が止まっており、運転席から男性が手を振っていた。
「迎えが来たみたい、行きましょ」
「…あ、あぁ」
香澄が先行し車に向かう二人。
「でも変ね、迎えが来るなんて所長言ってなかったのに」
「…それを先に言えよ!」
誠は香澄の言葉のあとに運転席の男を見て、その目がおかしいことに気が付いた。
「逃げるぞ!」
「え?ちょっと…」
「早く!!研究所はどっちだ?」
「ここを真っ直ぐ行ったところ」
「…ちっ、真っ直ぐはまずいな。じゃあこっちから行くぞ」
誠は香澄の腕を掴み走った。
真っ直ぐ逃げても相手は車、追い付いてくれと言っているようなものだと考え、曲がり角を利用しながら逃げることにした。
「ちょ!ちょっと何なの?」
「あいつの目、あれは店で理不尽クレームをつけてくる奴等と同じ目だ。まともな精神状態じゃない」
「…なに?その判断基準」
「じゃあ聞くがあの男は知り合いか?」
「いえ?知らない人だったわ」
「知らない人に付いていこうとするんじゃない!」
「…な、何よ!急に父親面して」
「父親じゃなくても友達でも恋人でも言うよ!なんでそういうところ抜けてるんだよ」
「し、失礼ね!車は研究所の車だったし!」
誠はスピードを緩めて角を曲がったところで立ち止まった。
「…何て言った?」
「車は研究所の車だった」
「…所長は俺に会いたいって言ったんだよな?」
「えぇ、そうよ」
「何でだ?」
「…そ、それはわからないわよ」
「じゃあ狙われてるのは俺か…」
「な、なんでそう思うの?」
「考えられるとしたら時間移動の事を知ってしまった俺を消すためだろう」
「だから何で!?」
「過去に戻ったときにそれを完成されたら自分達の利権が無くなるからよ。未来に来たのは失敗だったわね」
後ろから女性の声が聞こえ、誠はすぐに振り返った。
「……安藤、か?」
外見は年相応に変わってはいるが、目の前にいるのは確かに安藤 梨々香だった。
「お久し振り、…って言うのも変な感じね。そう、私の事をまだ名字で呼んでいた頃のあなたね」
「相変わらず可愛いな。聞きたいことは山ほどあるけどまずは一つ」
「ええ、何かしら?…えっ、今、可愛いって言った?」
梨々香は少し戸惑っている。
「安藤は味方か?敵か?」
「…さぁ、それはあなた次第よ。でも私にはあなたを殺せない理由がある」
「香澄か……?予想でしかないが俺と安藤の子供なんだろ?」
「もう気付いているのね、なら話が早い。付いてきなさい」
「待て、変な男が来てるんだ」
「それなら大丈夫よ。角から見てみなさい」
「…?」
誠が逃げてきた方を見ると男は車から引きずり出され拘束されていた。
「お前、一体…」
「全部教えてあげるからいらっしゃい」
梨々香は振り返り、歩きだした。
「…お母さん」
香澄はそのあとを追いかけ、誠もあとに続いた。