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#3 追跡者から新たな事故

仕事が終わった誠は従業員通用口から外に出た。


「マジで痛ぇ…」

足の痛みは我慢できないほどになっており、足を引きずりながら歩いていた。

「ちょっと!大丈夫なの?」

「あれ?安藤?帰ったんじゃ?」

通用口を出たところで梨々香と会った。


「た、たまたま通りかかっただけ、心配で待ってたわけじゃないんだから!」

「そ、そうか。痛てて…」

「昨日打ったって聞いたよ?」

「そう、そこが痛い」

「湿布は?」

「貼ってる…」

「…ど、どうすれば」

梨々香は困っている。


「大丈夫だよ、ありがとう」

「でもちゃんと歩けてないじゃん!」

思わず誠の腕を掴んだ。



「まこっちゃん!!」

美郷が走ってきた。

「何だよ…」

「病院行きましょう!今すぐ!!」

「なっ!ちょっと!あなた誰よ!!」

梨々香が険しい表情で美郷に詰め寄るが、美郷は意に介さず話を進める。


「今日病院に行かないとまずいことになりますから!」

「…あなたね!付きまとってるサイコパスって!」

「あなたは?」

「あ、あたしは…、バイト仲間よ!」

「ただのバイト仲間なら黙っててください!今は一刻を争うんです!」

「はぁ!?何それ!あったま来た!!浦島さん、一緒に病院行こ?」

「…うぅっ」

誠は痛みで何も答えられず、その場に倒れこんだ。


「ちょっと!!浦島さん!?」

「ほら!だから黙っててください!」

「あんたが黙れよ!ババア!」

「何ですって!?」


「二人とも黙りなさい。今、救急車呼んだから。本来は他の人が呼ぶんだけど、その人は今後関わらない人だから問題無いでしょ」

香澄が二人を黙らせるかのように落ち着いた様子で、かつ威圧するように歩いてきた。


「香澄ちゃん……」

「ちょっと!誰なの!?次から次へと」


「……くっ、どうすれば」

美郷はその場から逃げようとするも誠を置いては行けなかった。


「…逃げないでいいわよ、今はプライベートだから」

香澄と呼ばれた女性は昼間に誠が会ったはずの女性だった。しかし容姿が違っていた。


「安藤梨々香さん、救急車に一緒に乗って救急隊と医者に説明をお願いします」

「えっ?…うん、わかった」

「私が行く!」

「あなたは私と来なさい!」

「…プライベートでしょ?」

「えぇ、そうよ。話がしたいだけ」

「…わかったわ」



救急車が到着し誠が運び込まれ、梨々香が付き添っていった。


「さて、場所を変えましょう」

「…どこに?」

「その辺でいいわよ。目立たないところなら」


二人は人目のつかない所へ移動した。


「美郷さん、もうやめてください」

香澄は先程とは変わり説得するように話をした。


「何で?私はあの人を助けたい」

「あの人はどう足掻いても助からないんです!良い未来なんか訪れない……」

「それはわからないじゃない」

「美郷さんも見たでしょ。スーパーの事故は起こらなかったのに怪我はしていた!」

「それだって変えようはある!」

「無いんです!!」

「何か知ってるの?」


「知りません。しかし運命は変えられない…。強引に変えてしまえば他の人の未来を変えてしまう。それは許されません!」

「だからってあんな状態のままでいいって言うの?私は嫌だ!」


「それを決めるのはあなたではなく、娘である私です!!」

美郷は目を見開き頭を少しだけ前方に出した。

「…えっ?娘?だってあの人は未来でも独身じゃない」

「離婚してるんです。私の親権は母が持ち二人で暮らしていました」

「そう…だったの…」


香澄は言うつもりは無かったことを美郷に伝えた、それが正しかったのかどうかすぐに迷ったが

「あなたが未来を変えようとすると私と母であるあの梨々香って女性も、他の人達の未来までもが変わってしまう。それはあなたの方がよく御存じだったはずです。元研究所所員の鈴村美郷さん。いえ、美郷先輩」

「梨々香さんがお母さん?……私が研究所に入れたのもそこまで生きることが出来たのもあの人のおかげなのよ。だからこれだけは譲れないわ」

「引かないつもりですか?」

「えぇ、全く」

「…わかりました。では今ここであなたを消滅させなければいけません」

香澄は銃を取り出した。


「ちょ!ちょっと!話だけって言ったじゃない!」

「大丈夫です。これは私の個人的な感情による暴走行為です。あなたを消して私も消えます」

「…それは困るわ!私は目的を果たす!あの人があなたたちと笑顔で暮らしてる未来まで頑張るって。今、決めた!!」

「勝手に決められては困ります。覚悟!!」

「くっ…!」

美郷は咄嗟に懐中時計のダイヤルを回した。すると美郷はその場から姿を消した。


その場に一人になった香澄は悲しそうに呟いた。

「何で…。何で何も相談してくれなかったのですか…。一人で突っ走って…。私だって、私だって!!」

そして涙を流した。



数分経ち、涙が止まった頃

「…お母さん、ちゃんと説明出来たかな。あんな若いときにお父さんと出会ってたんだ」

香澄は銃をしまい、その場から立ち去った。


香澄の言うとおり美郷の行動によりすでに未来は変わってしまっていた。

誠は梨々香と結婚して香澄が産まれた。今はそうなっているが実は元々は香澄の母親は梨々香では無かった。

本来であれば今日、誠と梨々香は会ってはいなかった、誠は仕事を休み家で寝ていたからだ。

未来が少しずつ変わっていることで誠は病院に運ばれることになった。


誠の付き添いで病院に行った梨々香、二人はなんだかんだ言いながら梨々香の高校卒業後に付き合うことになり結婚した。

だが本来はその前に誠がクビにされており、もう会うことは無かったはずだった。

更に言うと美郷の存在が梨々香の行動を加速させていた。


何故母親が違うのに香澄が香澄としてまだ存在しているか、容姿は違えど名付け親はどっちの香澄も誠であったからだ。

昔やっていたゲームの合気道の格闘家の名前が気に入っていた。



病院


誠は痛み止めの薬を投与されており、少し痛みがおさまっていた。

「病院?…倒れてからの記憶がはっきりしてないな」

痛みが大きすぎてあの時は意識も朦朧としていた。


だが梨々香がそばにいたのだけは覚えている。梨々香は救急車の中でずっと手を握り心配そうに見つめていた。

「次会ったときにお礼しなきゃな」

夜も遅いからと病院から諭され、親の迎えで梨々香は帰っていた。

誠の目が覚めるまで一緒にいると親と口論していたと知るのは梨々香が高校を卒業してからであった。


「とりあえずまだ寝ておくか…」

「はい、おやすみなさい」


「…もう驚く気力も怒る気力も無いや」

また突然美郷がそばにいた。


「未来をまた見てきたって言うつもりか?」

「おっ、わかってきましたね。見てきましたよ」

「…で?今度はどんな悪いことが起きるって言うつもりだ?言っておくけど電車遅延なんか無かったぞ?」


「…それなんですけど、まこっちゃんって運が悪すぎるというか周りを不幸にするっていうか。とにかく私の理解の範疇を越えています」

「…どういう事だ?」

「だって足を怪我する未来は私は見てなかったんですから、あの昼間のスーパーの帰り道では」

「そういえばその時に電車遅延の事を見てきたって事だったんだよな」

「はい、そしたら仕事中に足を怪我してるって。刻一刻と悪い未来へ自ら歩いてる感じです。香澄ちゃんと言うとおり運命は変えられないんですかね」

「香澄ちゃん?」


「あれ?覚えてませんか?救急車を呼んだまこっちゃんのむす…っとした顔を笑ってた子」

「…そんな失礼な奴いたか?」

美郷は危うく娘と口が滑りそうになった。

そこは言ってはいけないという倫理観はまだ失ってはいなかった。


「…で?次はどんな悪いことが怒るんだよ」

「会社から労災認定されません」

「あの会社ならそうだろうよ」

「驚かないんですね」


「世の中にはブラック企業ってのがあってだな?うちはそれなんだよ。過去に何人も従業員が死んでるんだぜ?労働環境が劣悪で。労災認定されないぐらいわかってるよ」

「…そうでしたか。あっ、もしかして止まってたパトカーってそれに関係するのかな」

「パトカー?」

「はい、来月なんですが店の前に何台もパトカーが止まってて何か調べてました。なんか店の中で事故があったとかなんとか」

「穏やかじゃないな。……少し嫌な予感がした。なぁ、信じているわけではないけど調べてもらえないか?」


「何が起きるかですか?」

「そう、俺の知ってる人が事故にあったら嫌だからな」

「…今、あの女子高生の事を思い浮かべてます?」

「…ああ」

「きも…、あぁやめておきましょう」

「そこまで言ったら何を言おうとしたかはわかるけどな」


美郷は考えた。香澄が言うには誠と梨々香は結婚することになる。だからその事故に梨々香があっているはずがない。

確かに通常ならそうだ、でも実際はどうだ。

自分が言ったように刻一刻と変化をしながら悪い未来へ向かう誠の事だ、周りの人達も巻き込んでいく可能性も非常に高い。

最悪の事態を考えると香澄は存在しないことになってしまう。

少なからず可愛がっていた後輩だ。存在が消えて自分の記憶からも消えてしまうのは淋しい。


「わかりました、じゃあ調べてきます」

「ああ、よろしく」

「行ってきます!」

美郷は胸ポケットに手を入れると、その場から姿を消した。

「…はっ!?ハハハハハ」

誠は笑うしか無かった。


「今の見せられちゃ信じないわけにはいかないよな…」

だからいつも突然いたのか。誠は全て合点がいった。


数秒後

美郷が戻ってきた。

「早いな、ってそりゃそうか。この時間に戻ってくるんだもんな」

「また変わっていました…。落ち着いて聞いてくださいね」

「梨々香が事故にあうか…」

「…何でわかるんですか?」

「その態度見ればわかる、しかも落ち着けだなんて。どんな事故なんだ?変わっていたって?」

「納品に来るトラックありますよね?」

「あぁ」

「梨々香さんはそのトラックの荷台に上がり、商品が乗った台車を下ろそうとします。ですがそれは別の人がやる予定でした」


「変わったっていうのはそれか…。それで?」

「リフトのギリギリで止まってからリフトを降ろすらしいのですが、梨々香さんは台車の重さに押されて踏み外してしまい落下するみたいです」

「それで怪我をするのか?」

「いえ、打ち所が悪く亡くなってしまいます。また起きた従業員の死をきっかけにテレビやマスコミからネットまで一斉に会社を批判し、その影響で会社は倒産します、しかし社長はその損害賠償請求を梨々香さんのご両親に対して行います」


「…あの会社なら全て想像できるな。でもそれもマスコミとかから批判されるんじゃないか?」

「それが会社のルールとしてトラックの荷台に従業員が上がることは許されていないというマニュアルが存在しました」


「は!?そんなもの無いぞ?」


「はい、事故後に急遽作ったものでしっかりと研修もしていると書類を捏造していました。しかしそれによって世論は梨々香さんが悪いという方向に傾き、梨々香さんのご両親に大きなバッシングが…。それによってご両親は自殺します」

「……最低だな。ここまで腹立つ事は今までの人生で無かったな」


「…信じるんですか?」

「そこで消えてから、また現れたろ。信じるしかないだろう」

「あっ、そうか。本来なら見せちゃいけないところでした」

「でもその未来は変えられる。…そうなんだろ?」

「はい!なので都合良く未来を変えませんか?」

「やっぱ決め台詞なんだな、それ」

「……」

「黙る理由はわからないけどな。でもそうか、来月か」


「ですがまた変わる可能性も高いです。まこっちゃんどんどん悪い未来へ進む運命みたいだから。だからちょくちょく来月の光景を見ておこうと思います。もしかしたらまた変わって梨々香さん以外の人がって事もありますし、そもそも事故が起こらない可能性もありますから」

「あぁ、頼んだ。スーパーに車が突っ込まなかったり、電車が遅延しなかったりと同じような可能性もあるのか」

「…?いやに素直ですね。いつもみたいに、信じないぞ!この美人が!!とか言わないんですか?」

「それは言ったことないしね。信じるしかないって言っただろ?」


「はい!ありがとうございます。それに梨々香さんを助けないと……あれ?」

「ん?どうした?」

「いや、何かすっぽりと記憶が抜けているような…梨々香さんを助けないと何でしたっけ?」

「俺に聞かれてもわからないよ」

「あれぇ?」


美郷の記憶から香澄の存在が消えていた。

梨々香が亡くなることにより香澄の存在は世間から消えてしまっていたからだ。

もちろん本来結婚するはずだった女性と出会う未来ももう無いため、元々の香澄も存在が消えていた。


かくして誠と美郷は梨々香を助けるために動くことに決めた。

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