#17 きゃっほー!!
ホテル スイートルーム
「…こんなところ初めて来たぞ」
誠はきょろきょろしながら部屋中を探索していた。
浴室に入った誠は
「ジャっ!ジャグジーがついてるじゃないか!…何だ?この丸いのは」
誠はそれを手に取って匂いを嗅ぐ。
「入浴剤か?へぇー、こんなのが未来にはあるのか」
「……それ、少なくとも平成中期から普通にあるみたいっすよ」
後ろから龍牙が話しかける。
「…えっ?平成から?」
誠は振り返り驚いている。
「はい、そこら辺は変わってないっす」
「そうだったのか…。ごめんな、はしゃいじゃって」
肩を落として下を向いた。
「いえ!俺も初めて来たのではしゃぎたかったので…」
「更にはしゃいでる俺がいて冷静になったと……」
「はいっす……」
「ごめんなさい」
誠は龍牙に謝罪した。
「いえいえ!多分どっちかがどっちかだったと思うので気にしないでください!」
龍牙はおもいっきり手と頭を横に振った。
誠は少しニヤけて
「じゃあ今から二人で…」
「…行っちゃいましょうか!!」
龍牙は察して、顔の近くでピースサインを示しウィンクした。
浴室から出た二人は
「あの部屋!あの部屋入ろう!!」
「はいっす!ひゃっほー!!」
最大限にはしゃいでいた。
「うるさい!!黙って!!」
そんな二人に美郷が怒鳴る。
その後ろで尊は軽蔑の眼差しを送っている。
窓際のテーブルで美郷は簡単な設計図を書いていた。どうやら少し改良したいらしく材料もそれが出来るものを余裕が出来る量を頼んでいた。
「……ごめんなさい」
「すみませんっす……」
二人は深々と頭を下げた。
尊は軽蔑の眼差しを送っている。
「あ、あの、その眼やめてもらっていいですか?」
誠は恐る恐る尊に懇願する。
「…誠さん」
「は、はい!何でしょう?」
「俺も混ざっていいですか?」
実ははしゃいでる二人が尊には羨ましかった。
そんな事を今までしたことが無かった。親の目、周りの目を気にしてずっと生きてきた尊は無条件のはしゃげる誠と龍牙の仲間に入りたかった。
そうすれば自分の中で何かが変わるかもしれないと考えた。
「……も、もちろん!」
誠は親指を立て、笑顔で答える。
「尊っちも行きまっしょい!!」
「はい!!」
尊も加わり三人は懲りずに部屋内を探索しようとした。
「黙れって言ってるのが聞こえねぇのか!?三バカ童貞がよ!!」
美郷のイライラは頂点に達していた。
「お、俺は童貞じゃないっす…」
「お、俺も……、今、彼女いるんで」
龍牙と尊は早々に誠を裏切った。
「お、おおおお俺も違うし!あれが何やかんやであれな訳だし!!」
誠は全力で否定をしているが龍牙と尊は慈愛に満ちた眼で誠を見ていた。
「まこっちゃんはあと数年で賢者になるから無理しないでいいよ」
「おい!それ平成に言われてたギャグだぞ?」
誠は美郷を指差しながら注意する。
「…え?そうなんすか?俺らそう思ってましたけど。賢者になるかどうか選ぶみたいな」
龍牙はきょとんとしている。
「俺もそう聞いてました」
尊も同意する。
「…えっ?冗談がマジになってるの?あっ、でも確かに」
誠は一つ思い出した。
「何すか?」
「いや、俺がいた時代からも冗談が通じない人達が増えてたんだよな」
「…嘘かどうかわからずに信じる人がいたって事ですか?」
「そう、それ。だからバラエティーは炎上ばかり」
「…バラエティー?」
龍牙は不思議そうな顔をした。
「え?何?その反応…」
「え?いや、バラエティーって何すか?」
「……マジか!!そこまでそんな変わってるのか!!」
誠は両手で頭を抱えた。
「落語の事では?」
尊が龍牙に助言する。
「あぁー、落語の事を平成ではバラエティーって言ってたのね」
「違う!違うぞ!?」
誠は全力で否定した。
「えっ?じゃあバラエティーって何なんすか?」
「バラエティーってのは、うーん…」
誠は腕を組み唸った。
「例えば面白かった体験談を皆に話して笑わせたり、人を落とし穴に落としたり、運動が苦手な人に運動をさせてる映像を流して皆で笑ったり」
「…何すか?その最低なやつ。それって面白いんすか?そりゃ、テレビ局終わりますわ」
龍牙の表情は引いている。
「…ん?地上波のチャンネルって今は何?」
「地上波?それは知らないっすけど。今は月額でいくらか払って自分の好きな番組を観るって感じです。映画メインだったりアニメメインだったりニュースメインって感じで各社争ってます」
「えっ?この時間にはこれしか観れないとか無いの?」
誠は驚く。
「……まこっちゃん?握り潰されたいの?」
美郷は設計図作成にイライラしていた。
「…いえ、握り潰されたくないです。ごめんなさい」
「わかればよろしい。次騒いだら携帯型IHで熱するからね」
「携帯型IHで熱する!?今後は黙ります」
誠は龍牙と尊にシーっと黙るジェスチャーをした。
携帯型とは?と思ったが誠はそれ以上言葉を発することをやめた。
「お待たせしました」
機械の材料を持って夕子が帰って来た。