#15 もしかして私の事
「お前っ…!」
誠は憤っていた。今、目の前に自分に悔しい思いをさせた男がいるのだから。
「…その節はすみませんでした」
男は深々と頭を下げ、その姿を見た誠は戸惑った。
「ど、どういう事だ?」
「あの時はああするしかないと思ってしまいまして…」
男はまだ頭を下げている。
「人を撃つことにそんな理由をつけるのか?」
誠がそう言うと男は必死に否定するジェスチャーを示し
「いえ!俺は撃ってないです。あの部屋に行ったら鈴村美郷さんが血を流していたので、先を越されたと焦ってしまいました」
「……ちょっと待て、じゃあ誰が美郷を撃った?」
「安藤梨々香さんの手の者かと」
男の言葉を聞き、誠は険しい顔をしながらも
「…ちっ、そう考えると辻褄が合うな。過去で殺せなかったからここで殺そうとしたのか」
色々とわかってきたと同時に一切気付けなかった事に腹立たしさを感じた。
それは気付けなくて当然と言うべき事なのだが、何となく利用されたような気がして腑に落ちなかった。
「恐らく…、そして俺があなたを攻撃したのはもしかしたら安藤の手の内に落ちているかもと思いましたので、つい…」
「……」
誠は黙った。
「私の機械を壊したのは?」
次に美郷が聞きたいことを問いかける。
「もしもの時の為です。先程も言いましたがあの時は浦島さんがすでに敵の手の内に落ちているかもと思っておりましたので。まずは破壊しようと」
「……」
美郷も黙った。
「まぁ、あの時は非常時だったしな…」
誠は理解を示した。
「言ってることに矛盾は感じないわね…」
美郷も同じく頷いた。
「ただそう考えるとやっぱり俺が悪いんだろうな…」
誠は腕を組み、下を向いた。
「まこっちゃんが?」
「…いや、正確に言うと未来の俺が。梨々香が不審に思うような行動や態度を取っていたんだろうな」
「そこ、はっきりさせときたいんだけど…」
美郷は少し恥ずかしそうにしている。
「ん?何を?」
「まこっちゃんの中にはずっと私がいるって…」
「今の俺にはそれは無いよ」
「…で、でも、こうやって助けに来てくれたじゃない?それってつまり」
美郷はモジモジしている。
「望月さん、何故この男をここに?」
誠は話を変えた。
「…えっ?」
こいつ照れてる!美郷は確信した。
そしてニヤニヤし始めた。
「…今、私が話に入ってもいいのかしら」
「はい、お願いします」
「ま、まぁいいわ。それじゃあ話すわね。動きやすいのはあなたというのはあなたが過去の人間だからよ」
誠は真剣な顔で香弥子を見る。
「過去の人間だから?」
「私達は過去を変えられたらいつの間にかこの時代もそれは変わっていて、しかもそれに気付けない。でもあなたは違う。元々過去の人間で今は未来にいる。だからあなたが過去に戻って未来を変える行動を取ってからこの時代に来たら何が変わったかわかるのよ」
「そういうことか…。望月さんの言いたいことはわかりました。望月さんの目的の為に俺に動いて欲しいと…」
「話が早くて助かります。そしてそれにはこの男を護衛として連れていっていただきたいと思いまして」
香弥子は男を指し、頭を下げた。
「…まぁ、彼が強いのはわかりますが。なんとなくちょっと」
「はい、お気持ちはわかります。ですが今のあなたに何かあったらもう打つ手がありません。この国の未来の為に何とかお願い出来ないでしょうか?」
「俺が全力で浦島さんを守ります」
香弥子と男は二人とも頭を下げた。
「…わかった。でも一つ条件いいか?」
誠は香弥子に求める。
「はい、何でしょう?」
「美郷も連れていきたい」
「…え?私を娶りたい?」
美郷はまだ頭がポーッとしていた。
「おい、いい加減にしろ…」
誠は自身が出来る最大限の怖い目で美郷を見た。
「…ごめんなさい」
美郷は我に返った。
香弥子は気を取り直して話を続けた。
「何故、彼女を?」
その言葉に美郷は反応した。
「か、彼女!?私達まだそんな関係じゃ…」
美郷は全力で両手を手を振った。
「何故、美郷さんを?」
香弥子は言い直した。
「香澄も言っていたが美郷は地球誕生までも見に行けると思っている。人類の為になるような事を成し遂げられる人間だ。それならタイムトラベルを共にした方が良くないか?と思ってね」
「…ただ、危険もありますよ」
「危険?」
「美郷さんが世界からどういう識別を受けるかわからないんです」
誠は何となく理解できた。
「どこにも存在しない人間になる可能性がある?」
「はい、可能性ですが」
「なら、それは俺も同じだ。なら良い方に賭けようと思う」
誠は自分に親指を指して笑った。
「何故そこまで?」
香弥子にはそれが理解できなかった。
「今の俺は何にも無いからな。金も無けりゃ家庭も無い、夢も無ければ希望も無い。なら…それなら、一部の人にでも認識されるような社会貢献をしたいと思うわけだ。世界から見れば俺は捨て駒。でも捨て駒にも捨て駒なりに、そうありたいっていう願いや祈りはあるもんだ」
誠はヘラヘラ笑いながら話をした。
「…良いんですか?」
「くどいな。良いと言っている」
「わかりました」
香弥子は男に近付き
「彼は菅野尊、元自衛隊員よ」
誠に尊を紹介した。
「なるほど、強いわけだ…。よろしく」
「はい、よろしくお願いします!」
尊は頭を下げ、後に誠は手を差し出し握手した。
「…さて、まずは何をするかというところだが」
誠は香弥子に問いかけた。