#14 目的
銃声が鳴り響く。撃たれたと思っていた梨々香は目を瞑っていたが、自分の体のどこにも痛みが無いことを不思議に思い、恐る恐る目を開けた。
目の前に見覚えのある服装の男性が立っていた。
「りりぽん、勘違いしているぞ。俺はずっとお前が好きだった。…だけど俺はりりぽん以外の女性を知らなかったから愛情表現のしかたがわからず、それが足りなかったのかもしれない。未熟な男ですまなかった」
男性は腹を撃たれ、その場に倒れ込みそうになるのを必死で耐えていた。
「…まこぽん?……やだ!ちょっと!まこぽん!!」
梨々香は持っていた銃を床に投げ捨て、未来の誠であろう男性に近付き、そして抱きしめた。
床に落ちた銃が暴発し、壁に穴を開ける。
「きゅ、救急車!救急車をお願い!!」
梨々香は涙を流しながら香弥子に懇願する。
「……呼んであげて」
香弥子は銃をしまった。
「はい…」
龍牙は救急車を呼んだ。
数分後に到着した救急車にこの時代の誠が運び込まれ、梨々香と香澄は同乗していった。
誠、美郷、それの香弥子と夕子、龍牙が部屋に残されていた。
「…何がなんだかよくわからないんだが」
誠から話し始める。
「ごめんなさい、実は私と龍牙くんはスパイだったんです」
夕子がそれに答えた。
「スパイ?」
「はい、私達は政府側の人間です」
「…今回の目的は美郷では無く、梨々香なのか?」
「いえ、美郷さんは美郷さんで指名手配ですから。…ですがそこに梨々香さんがやってきた」
「何がそこまで梨々香を動かしたんだ?そして何故協力しようと思った?」
「協力していたわけではないんです。あくまで監視対象…」
夕子が話す。
「…二人は周辺の警戒をお願い」
香弥子が一歩前に出る。
「わかりました」
「はい」
夕子と龍牙は外に出ていった。
「望月香弥子…さんと言いましたね」
「はい。現総理大臣の望月です、よろしく」
「あなたがおかしな法律を作った総理大臣?」
誠は右手を手のひらを向けて差し出した。
「いえ、それは私が成り変わる前の総理大臣です。それを正すために私は過去を変え総理大臣になりました。ですが全てを直すにはこちらが持ってる技術が足りなかった」
美郷が立ち上がる。
「…だから私に下につけと?」
「ごめんなさい、未来の私がそう言ったのね。多分変な芝居をしていたんだと思うわ」
香弥子は頭を下げた。
「記憶の定着って言ってたわね。あれは何?」
美郷は眉に皺を寄せ、香弥子に問い詰める。
「本来過去を変えられてしまうと今ある事がいつの間にかそう変わっていて私達はそれを自覚できない。でもそれではこれからあなたが行えるであろう偉業を記録することが出来なくなってしまう」
香弥子は数歩歩きながら話し始めた。
「えぇ、それは私も不思議だった。何故知らない人が総理大臣としているのか」
「その事で一つの仮定を立てることが出来ます。過去に戻りそこで生活をすればその時代に生きる人として世界から識別されるのではないかと」
「…確かに何日も二十五年前にいたけど。でもそう言われるとそれしか考えられないわね」
「ってことは俺もこのまま何日も過ごすとこの時代の人間として識別されるのか?」
誠が話に入り込む。
「未来を知る人間って事になりますね」
香弥子は誠を見る。そして
「今現在、最も動きやすいのはあなたかもしれない」
そう言ったあとに香弥子は電話を取り出し、誰かに連絡をした。
その後、一人の男性が部屋に入ってきた。
その男性の姿に誠と美郷は一気に警戒する。
その男は美郷を撃ち、誠を投げ、そして美郷をこの時代に連れてきた男だった。