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フゼスターン戦記  作者: 蘇我稲見
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序章

 北方歴317年4月、大陸の約半分、数々の山脈に囲まれた北の大地を支配するフゼスターン王国は隣国スリム帝国の侵攻を受けた友邦国エスラルへの救援としてレイラク将軍グリーフ率いる軍勢6万を派遣した。スリム軍の総数は不明であったが、大陸の覇者と唄われるフゼスターン王国の軍は既に勝利したかの様な出陣式を終え、遠征の途に就いた。

 5月、両軍はフレデリクの野に陣を構えた。フゼスターン王国軍とエスラル公国の連合軍は騎兵6万、歩兵13万、総勢19万の大軍勢だった。連合軍はフレデリクの野が見渡せるジュラグラハムという山の頂上に本陣を張り、そのふもとに軍を配置した。対するスリム軍は向かい合う形で陣を張った。数はせいぜい多くても4万というところだった。

「ジュッパ!」

明け方近く、エスラル公国伝統の突撃を意味する言葉が発せられると騎兵3万が一斉に突撃を開始した。

「全軍突撃!」

エスラル公国の軍に後れを取るまいとレイラク将軍も自ら陣頭に立ち、軍を突撃させた。馬蹄は天にも轟き、その音だけでも並の軍隊ならば戦意を削がれるであろう。

 レイラク将軍の前にいる3万の騎馬隊が止まった。その直後馬蹄をも上回る爆発音がフレデリクの野に響いた。

「放て!」

更なる怒号が響くと、レイラクの隣にいた万兵長が倒れた。腹部からは血が噴き出している。同時に多数の騎兵が次々と落馬した。その直後、レイラクの前方から馬蹄が響いた。エスラル公国軍の騎兵隊が逃げて来るのだ。

「全軍反転! 一時撤退する!」

レイラクは部下にそう命じた。さすがは大陸の覇者と呼ばれるだけあるフゼスターン王国軍であり、行動は一律して一片の乱れも起こさず本陣に戻った。

 だが、そこは既に本陣としての機能は失われていた。スリム軍3千人ほどの伏兵が山中に潜み、本陣を強襲していたのだ。

 フゼスターン王国軍の馬蹄が聴こえると、まだ残っていた敵兵は一目散に逃げだした。本陣にはエスラル公国領主エストラール卿の首がない死体が発見された。

 ふもとのフレデリクの野から喚声があがった。スリム軍が攻勢に出たのだ。スリム軍の騎兵隊がエスラル公国軍の歩兵を踏み倒し、付き進んでくる。エスラル公国の騎兵隊が救援に向かおうとするが、柵に囲まれた敵陣から放たれる謎の轟音による攻撃で多大な犠牲が出ていた。総崩れと言っても過言ではない。

「将軍、こちらを。」

千兵長が差し出してきたものは直径一センチほどの鉄…否、鉛の球体だった。

「轟音の際、倒れた騎兵の腹部に突き刺さっておりました。」

レイラクは目を見張った。こんな先も尖っておらず、小さなものがわが軍の万兵長を打ち取ったのか?そんなはずがない。だが。

 レイラクは途方もないことを考え始めたが、その前にやるべき事があったので命令した。

「我が軍は祖国フゼスターンへ凱旋する! この戦いは敗北だ! 逃げるぞ!」

幸い、レイラク率いるのは騎兵が4万の軍隊で、歩兵を騎兵と共に乗せることで移動速度を格段に上げることができた。山脈が数多く存在するフゼスターンの騎兵は小回りに優れている上、平野もある為速度もある上質な騎兵が数多く存在する。1人の騎兵が他国に赴けば一軍の将になれるかもしれないと言われている。

 レイラクは1か月はかかるであろう山越えを僅か1週間で終わらせ、祖国フゼスターンへ無事帰還した。

 到着早々、レイラクは国王に呼び出された為、武器を携えたまま王宮に入った。大広間に入るとそこには9人の将軍グリーフと4人の大将軍マルグリーフ、1人の元帥エールザード、そして玉座に腰掛ける国王エルバレラ

「国王陛下、将軍レイラク、ただいま遠征より帰還致しました。損害は軽微なれど、フレデリクでの戦いにて大敗したこと、お詫び申し上げます。」

レイラクは国王の前に跪き、帰還の挨拶を済ませた。大広間がざわめいたが、レイラクは構わず報告を続けた。

「友邦エスラル公国領主エストラール卿は戦死、わが軍は戦い半ば、戦場を離脱した次第にございます。」

恐らく将軍格からの降格だろう。良くて万兵長、最悪百兵長までの降格を覚悟した。

「よい。席に戻れ。」

思いがけない言葉に唖然としたが、慌てて1つ空いている席にレイラクは腰掛けた。

「ここにおぬしを呼んだのは叱責するためではない。我が王国に届けられた書簡について、諸方の見識を問いたかったのだ。」

そう言って国王は手元の机に置いてある封筒を取り出した。そこには大きくスリム帝国と記されている。

「スリムの猿どもめ、調子に乗っておるわ。小国の分際で我が王国に降伏せよと言ってきおった。」

国王以外、その場にいた全員が目を見開いた。

 フゼスターン王国は歴史上類を見ない繁栄を築き上げた。スリム等東方の国々とはまだ貿易を行っていないが、恐らくこの地で一番栄えている国である。そんな大国に小国のスリムがこの様な挑発的な書簡を送ってきたのか。皆がそれを考えた。

「スリムは東華の国の支援を受けているそうだ。東華が西方同盟の国々からこのようなものを大量に購入していたらしいぞ。」

国王はそう言って長細い筒を取り出した。

「これは火を噴く筒、鉄砲というらしい。火薬の爆発する力で鉛の玉を目にも見えぬ速さで撃ちつけるそうな。」

そう言って国王は筒の先をドアに向けた。

 ダーン!

 大広間に轟音が響き、扉に穴が開いた。

「東華はこれを700万、購入したらしい。東華が我が国に送られるはずの鉄砲を全て買収していたそうでな。情報など一かけらも入ってこなかったわ。」

国王はその隣に置かれていた紙に羽ペンでサラサラと書き記すと、それを皆に見せた。

「元帥リッテンハイム卿に命ずる。この危機に際し、卿が総指揮官として対処せよ。戦力は我が王国軍全てとする。」

初老のリッテンハイムが国王の前に進み出て跪く。恭しく勅命が記された書簡を受け取ると、我々の方を向いた。

「これより配置を命ずる。将軍テレザード卿、おぬしは4万の兵を率い西方諸国への警戒を厳とせよ。大将軍フリザード卿、おぬしは将軍フェリクス卿、ジークフリート卿を旗下とし、18万の兵を率いて南東街道を封鎖せよ。大将軍ファフニル卿、全水軍を卿の旗下とし、将軍レイン卿とミラ卿と共に海上の警戒に当たれ。将軍レイラク卿、卿には5万の騎兵を与える。遊撃部隊として山脈を警戒し、敵を発見したら伝令を送るとともに急襲せよ。大将軍ジュラ卿、グレイマン卿、卿らは残りの将軍を旗下に入れ、40万の軍勢で隣国トルティアンを攻め滅ぼしたのち、東華の国へ侵攻せよ。」

リッテンハイムはすらすらと、まるで今日の筋書きが読めていたかのように作戦を説明していく。

 国王は直属の10万の歩兵と3万の騎兵を王都周辺に配置、警備に当たらせた。


 史上類を見ない「大戦」がここに始まる。


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