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第六話 代償

「――何故ここにっ!!」



 街中の人達は驚いて咄嗟に二人を見る。

 それは一秒にも満たない短い時間だけだった。


 真咲が先に動き出す。



「子供達が……!」



 その後を蓮悟が追う。二人は一直線に小学校へ向かうが、それは相手も気付いていた。



「――来たか」


「別に戦いに来た訳ではないんじゃね?」


「まぁ、暇つぶしに消してもいいぜ」



 六魔神と呼ばれる者達は、他愛もないようにそんな会話をしていた。


 到着した蓮悟は、その内の一人に攻撃を仕掛ける。



「――水波(すいは)



 水の能力で波を作り、凄まじい衝撃を与える。



「ぐ――」



 いかに六魔神といえども、まともに受けた相手は遠く吹き飛ぶ。



「式等級式刀百二式……」



 真咲は一握りの者しか使えない程の業物、百二式刀を抜く。



「百級二式奥義、桜嵐(おうらん)!」



 別の相手に真咲が斬り込む。


 自身の生命を糧に力を増す式刀の技の中でも、奥義は莫大な生命を削る諸刃の剣。

 真咲は、迷いもせずに打ち込んだ。



「――!? なんで……」


「遅い、弱い、軽い……!」



 六魔神が一人、トグレスは片手でその攻撃を防ぐ。



「そんな……」


「甘くね? 雷槍の式等級戦士!」



 トグレスは逆の手で軽く真咲に触れた。それだけで大地が揺らぐ程の衝撃が訪れる。



「がっ――!?」



 真咲は回避が間に合わず、上へ打ち飛ばされる。



「真咲ッ!!」


違法世界渡者(ヒュー)に要は無かったけど、まぁいいや! 久しぶりに相手してやるしかなくね?」


「トグレスッ!!」


「“様”を付けてくれなくね? いつ成り上がったつもり? 下民共が」


「黙れ!!」



 空気中の水分が集まり、徐々に水滴へと形を変えて蓮悟の周りに集まった。



「久しく見なかったぜ……“水蓮”かッ!!」



 水の鎧を纏った蓮悟は、無言のままトグレスに距離を詰める。



「こいつは俺一人で相手してあげるしかなくね?」


「トグレス、いい加減暇だから俺もやりたいぜ!!」



 六魔神、武覇のエグレスは腕を組みながらトグレスを睨んだ。



「エグレス……式等級戦士、舐めない方が良いんじゃね?」


「ちっ……ああ、そうだった」



 そう言うと、エグレスに続き創覇のマグレスまで上を向く。



「電達っ!!」



 上から降ってくる真咲の放った雷を避けようと、後ろに二人は下がる。



「水線!!」


「くっ――」



 蓮悟が放った水線は、真咲の雷の道標となる。

 雷は六魔神全員へ向かって分岐した。



「夫婦の涙ぐましい合わせ技……皆拍手しなよ」



 生覇のセグレスは、二人の合わせ技に歓喜の声をあげる。



「でも、忘れちゃいけない。マグレスは水を、二グレスは雷を極めてることをな」



 同じ方法で全て返された二人は雷に撃たれる。



「――!!?」



 その場で動かなくなった二人を、六魔神は眺める。



「戦うつもりは本当になかったんだぜ?」


「君達が攻撃を仕掛けて来たからな……」


「殺しておこう。何かあってからじゃ遅いしな」


「遅かれ早かれ死んでたんじゃね!!」


「フッ、好きにしなよ」


「殺す!!」



 エグレスは炎を溜める



「一瞬でやってやるぜ!」


「――!??」


「なんか……エグい力が……近付いてね?」







 僕は授業中にふと目が覚めた。

 近くに、パパとママが居る感じがして。



「きゃあぁぁぁ!!」



 悲鳴と共に学校全体が揺れる。その大きな揺れは地震なんて比じゃなかったと思う。

 学校中が悲鳴で溢れた時、放送で避難命令が出された。正体不明の振動……



「皆!! 机の下に隠れて!!!」



 先生の声が響く、高い声は透き通った様に周りを落ち着かせる。


 嫌な、予感がした……。何だか、意味も無く怒りが込み上げてくる。



「揺れが納まった!! 今の内に皆グランドに避難して!!」




 皆、列を成して避難を始める。




 ――咄嗟に体が動き出した。


 助けなきゃって、思ってしまった。


 小さな体は、先生に引き止められる。


 身体が熱くなる……今なら、なんでも出来ると思った。


 先生の制止を振り抜きながら走った。


 誰も止められない程の速さで、開いている窓から体を宙に放り投げた。


 俺はそこで決意した。大切な物と引き換えに…………


 大事な人を守ろうと。


 物理法則を無視した身体。手を大きく広げ、言葉を放った。



「――――消え去れ」



 大きな力が、学校全体を包み込んだ。







 大きな力を感知した六魔神は、意識が飛かける。



「な、んだ……? この力……」



 咄嗟に業火を放つエグレス。校舎まで燃え始め、もう既に二人は灰になったであろう。



「こ、れ……。……王、じゃ、ない……よな」



 これ程の力は、王に追随するモノであるという事実に驚きを隠せない六人。


 ――刹那、気付かぬ内に、六人は永い眠りに付いた。


 自身の記憶、力を封印する代償を負い、神に値する六人を封印した少年の名は――



 ”タカノタクマ”







 帰ってこない両親に、不安を隠せない莉咲。拓真は、混乱して俯いたままなにも話さない。


 ――僕は、捨てられたと喚く妹を落ち着かせるのに物凄い体力を使った。


 昼間の地震は、何だったのか未だに分からないらしい。


 僕は、窓から身を投げ無傷で地面に転がっていたらしく、念のため病院へ運ばれた。けど、両親に連絡が着かないと先生から告げられた。

 何時になったら帰ってくるのか……二人の靴は無く、出掛けている事ということだけは分かった。


 何故窓から身を投げたのか自分でも分からない。というか、その記憶自体無い。地震が起きた事は微かに覚えている。



 泣きそうな顔をした妹を見て、また落ち着かせなきゃと思った。



 家のチャイムが鳴り、僕は、莉咲を少しだけ撫でて玄関へ向かった。わざわざ開ける気力はなかった。



「はい……」


「高野君? 大丈夫?」


「遊君?」



 遊君の声が聞こえた。



「お母さん達帰って来てないの?」



 次に、遊君のお母さんの声が聞こえてきた。

 思わず、涙が零れた。もう、誰にも会えないと思い詰めていたから。



「開けるよ!? 大丈夫? ……どうして泣いてるの?」



 遊君とお母さんは、近付き頭を撫でてくれた。

 莉咲もこっちまで歩いてきて、思わず二人で泣き出した。


 遊君が手を伸ばし、何かを渡して来た。



「これ、燃えた屋上にあったんだって。……高野君の、お母さんが持ってた奴だよね……?」



 ママが大切にしていた刀と、パパが身に付けていたネックレスを受け取った。


 その時、もう二人は帰って来ない。直感的にそう思った。

 ……きっと、莉咲も感じたのだろう。もっと強く泣き出した。



「嫌だぁぁ! ママぁ……パパぁ!」



 冷静になった僕は、涙を拭き莉咲を抱き締めた。

 僕達は、クリスマスに大切な物を失ってしまった。







 五年後。




「莉咲! 起きないと!!」


「ぅ……うん……。もう朝……?」


「そうだよ。学校の準備しなきゃ。僕はもう出るよ」


「うん……ご飯ある……?」


「あるから、ちゃんと食って来るんだぞ?」


「はーい……」



 中学生になった僕達は、いつも通りの朝を迎える。



「パパ、ママ! 行ってきます。朝ご飯置いとくから。……今日も、頑張って来るね!」



 遺影の前に朝食を二膳供える。

 今は亡き両親。骨も見つかってないから、葬式も挙げられてないんだけど……



「おい、莉咲……行くぞ」



 勝手に玄関を開けて入ってきた皇牙君は、朝ご飯を食べている莉咲の前まで来た。



「んんっ!ちょっどまっで!」


「口に食べ物を入れたまま喋るなよ……皇牙君、おはよう」


「拓真……ダチ待ってんぞ」


「あ、ああ……。ありがとう」


「また……絡まれたら言えよな。殺すから」


「大丈夫だよ! 僕、一応君より年上だしさ!!」


「……お前、莉咲の兄貴だからなんもしねぇだけで、あんま調子乗ってっと殺すぞ……」


「あ、ご、ごめん……」


「こらっ! 殺すとか言うな!」


「わ、わりぃ…」



 莉咲が怒る。皇牙君も莉咲にだけは弱いのだ。



「じゃあ、僕は行ってくる!」



 急いで玄関を開ける。二人が怖くてその場に居られなかった……。

 自分が情けない。でも、皇牙君は年下だと言えど、巷じゃ有名な不良。先日、少年院から出てきたばかりだ。個人的には、あまり莉咲と関わって欲しくはないけど……



「ごめん! お待たせ!!」


「遅いぞ高野!」



 玄関の前で待っていた遊は、腕を組みながら大きな声を出した。



「おい……それより、またあの不良が入ってったぞ……」


「り、莉咲と仲が良いから……ね……」



 遊と共に学校へ通う。いつも通りの通学、いつも通りの日常。


 それにしても……莉咲の為にも、少しでも早く自立しなきゃ。今は、親戚のお陰で生きていけてるけど……それも高校まで、だからな。



「難しい事考えてると、またフン踏むぞ?」


「だな……っ!」


「そういえば、最近面白い漫画見つけたんだよ」


「まじ!? 僕にも読ませろよ!」


「題名は、カエルに転生して異世界を無双しました!」


「めちゃくちゃ面白そうじゃん!!!」



 きっと……ずっと……、こんな日常が続くんだろう。



「学校終わったら、家まで来いよ!」


「おばさんにも挨拶しないとだね!」


「母さん最近老けてんだよな……って、あ……別の話しようぜ」


「……気にすんなよ! 僕は大丈夫だからさ!」


「だよな、いっつもごめんな。なんも考えず言ってしまって」



 遊は、あの事を一番気にしてくれている。こんな優しい親友を、僕は大切にしたい。

 莉咲は当然だけど、遊も僕にとっては家族同然だった。




 放課後。



「高野! 行くぞ!」


「だな! 漫画読ませろよ!」


「題名はっ!」



 せーのっと小さく声を合わせ言った。



「カエルに転生して異世界を無双しました!」



 大きな声がクラス内で響く。



「ご、ごめん……声でかかったよね……」


「気にすんなよ! 行くぞ!」



 走って廊下を抜ける。そして上靴から履き替え、走って門を飛び出した。


 そのまま、一直線に遊の家へと向かう。



「はぁ……はぁ……急げ、高野……!!」


「待っ……て。はぁ……はぁっ……」


「それにしても……はぁ……お前体力落ちたよな……」


「確かにね……はぁー……」



 息を整えた遊が、玄関を開ける。



「ただいま!」


「お邪魔します!」



 返事は無い。遊の両親は仕事らしい。



「部屋行くぞ!」


「だなぁ!」



 遊の部屋で、漫画を渡された。



「これまだ一巻しか出てないんだよ!」


「なるほどな。初っ端から面白そう!」

(ある男は過去へ行く……その男は、カエルの姿……)


「ほうほう……」

(魔王を封印せんと……十人の騎士を集めた……)



 読み終えた僕は、遊に言った。



「僕……これ、最終話まで読みたい!」


「だよなぁ! 一緒に買うぞ!」


「おうっ!!」







 ついでな、要らぬ過去まで思い出した。

 思い出そうとすれば、頭が痛くなるあのクリスマスの日。

 記憶が欠けてるのだろうか……思い出せないままでいるけど、それでも懐かしくて、涙が零れた。



「大丈夫か……?」


「べ、ベラさん……」



 そうだった……忘れていた。



「ごめんなさい……ご迷惑おかけして……」


「凄まじい圧だったから、困惑してるよ」


「そ、そんなにですか?」


「……まぁ、すぐに止んだけどね!」


「ごめんなさいっ!!」


「いいさ。それより……涙……なにかあったのかい?」


「いいえ……昔を、少し思い出しただけです!」



 ベラは、あまり探らないようにと気を利かせてくれたのだろう。それ以上は聞かないでいてくれた。



「何はともあれ、そろそろ出発の時間です!!」


「そうだな。二人もそろそろ迎えに来るか……支度しよう」



 二人は宿を出る支度をする。少しして、扉の奥から二人の声がする。



「ベラ! 拓真! 起きてるの!!? 遅いわよ!!」


「ひ、姫! 起きてますとも! すぐに行きます!!」


「すぐ出るよ!」


「大丈夫ですか?」


「麗羅ちゃんも少し待ってね!」


「なんだか……体が軽くなった気がする。ありがとう。パパ、ママ」


「ん? 何か言ったか?」


「いいえ! なんでもないです! 行きましょう!!」



 そーかい、と、ベラは拓真の背中を支えながら歩く。

 扉を開けた先に二人を見つけ、四人は足並みを揃えて歩き出す。



「私は今日もお店に居ますので! 謁見が終わり次第、寄って頂けたら嬉しいです! もっと皆さんとお話がしたいので!」


「うん! ありがとう麗羅ちゃん! 行ってくるよ!」


「任せなさいなっ!」


「影ながら見守っておりますね」


「勿論よ!!」


「頑張ろう真姫!!」


「あんたが一番頑張るのよ拓真!」



 話している内に、城の前へ到着した。



「それでは! 頑張ってください!」



 一同は麗羅の目を見て頷いた。



「うん!」



 パパ、ママ。

 莉咲、皇牙君。


 僕は今、新しい仲間と楽しい日々を送ってるよ。

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