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第五話 過去

過去それは変えることの出来ない時間

 謎の声も止み、たった今、一瞬だけ扉の向こうに感じた人の気配が、また一瞬にして完全に消える。


 拓真はその消えた気配の正体を探るべく、勢い良くドアを開けた。



「――っ! 待て!」



 そこには、人の姿形は一切無かった。

 しょうがなしに一先ずそれを置いておき、寝室に戻ってベッドに座り、先程言われた事を反芻する。


「王の素質……? 一体、何だったんだ……?」


 朝から一人騒がしい拓真に、目を覚ましたベラはベットから体を起こし、拓真に声を掛ける。



「ん……どうしたんだ……朝から一人で……?」


「――ベラさん! 聞こえなかったんですか!? 水色の花とかいう奴の声がして! ドアの向こうに感じた事の無い程の気配が!」


「……ふむ……私なら、寝ていても大きな声は聞こえるし、圧には敏感だから、それ程だとするなら飛び起きられると思うが……」



 自分にだけに聞こえた謎の声と、自分だけが感じた謎の気配。掛けられた言葉の謎も相まって、混乱を露にしてしまう。



「僕にしか……感じられなかった……?」


「……例えば、旅を初めてから久しぶりのゆっくりとした時間様々なストレスが重なって、白昼夢を見たんじゃないだろうか?」


「いや……確かに、居たんだ。誰かが……」


「タクマ……」


「勘違い、だったのかな……」



 ――水色の花……?

 どこか、聞き覚えのある声……存在……集中しろ……思い出せ……!!



 集中する事で、爆発的に跳ね上がっていく拓真の圧は、ベラが恐怖を抱く程だった。



「――!? タクマ! なんなんだその圧はッ!!」



 ベラの声は、今の拓真には聞こえない。



 ――思い出せッ!!


 超高密度な圧は、炸裂するように放たれ、周囲に干渉した。しかし、尚も圧は高まり続けている。


 その場で直接その圧に当てられたベラに至っては、そのあまりの圧に気を失ってしまった。


 拓真に相対するようにベットに座っていたベラは、崩れる様にベットに倒れていくが、そんなベラに気付かずに拓真は集中を続ける。


 ベット、照明、イス、備え付けのペン、部屋、家屋そのものに至るまでが震え出す。それは最早、天災だった。



 徐々に拓真の体は宙に浮いていく。干渉して震えていた小物までもが宙を舞いだす。毛布が、まるでベラを庇うように覆う。



 拓真の額から汗が垂れ、目から微量の涙が零れる。



 この日だ……この人だ……! パパと、ママだ。


 助けないと……。助けないとッ!!



「――やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」




 記憶の中にある、8年前の出来事。僕が……小学三年生だった時。


 ()が、まだ、多少なりとも生きていた頃。


 母が好きだった水色の花、ネモフィラが頭によぎる。


 ある時期になると、庭に咲くネモフィラ。




 ――これは、拓真の両親、高野(たかの)蓮悟(れんご)と高野真咲(まさき)が、まだ生きていた頃の話。







 七年前



 私は今日の朝も、三人を起こす事から始まる。



「――蓮悟さんっ! おはようっ!」


「真咲……朝から元気いいなぁ」



 彼は、古くからの付き合いで結婚し、旦那となってくれた蓮悟さん。



「ママぁ……おはよ」


「あらっ! 莉咲(りさ)ちゃん、今日は早いわね! おはよう!」



 この子は莉咲ちゃん。

 ママもパパもお兄ちゃんも大好きだと何度も言ってくれる、自慢の愛娘。



「拓真はまだ起きてないのね……」



 朝ご飯を作りながら、二人を椅子に座らせる。



「ちょっと拓真を起こしてくる!」



 二階に上がりながら、名前を呼べば起きるかな?



「拓真ーっ!」



 拓真は息子の名前。


 この子は蓮悟さんにとてもとても似ている。


 顔でも性格でもなくて、私や蓮悟さんにしか分からない、()()()というものがとてもとても似ているの。



「拓真ーっ! 起きてー!!」



 拓真の部屋のドアを開けながら、もう一回呼んで……っ!!



「拓真ー……!? ――っ!!!!」



 衝撃的な物を見てしまい、絶叫した私の元に蓮悟さんが駆け付けてくれる。



「真咲!! どうしたッ!?」


「た、拓真が!!」


「拓真に何かあったのか!?」


「……か、体を浮かしながら、寝てる……」



 拓真は、生まれた時からとてもとても不思議な子。

 人間では到底出来ないような事を軽々としてみせる。


 今日は浮遊しながら寝ているみたいね……



「……うう、あっ、ママ。おはよう……」



 ドスッと床に落ちて、起き上がった拓真は私の元へ寄ってきた。



「朝から大きな声出さないでよー……」


「ご、ごめんね……?」



 この浮遊という現象は、ほんの少しだけ拓真から感じる、邪悪な気配の影響なんだと思っているわ。

 この子は唯一、生まれた時から圧を別の力に置き換える力を持っていたの。

 圧、というのは、さっき言ったオーラと同じものになるわね。


 拓真を連れ、蓮悟さんと三人でリビングへ戻る。


「さっきはごめんねっ! ママ!」


「全然いいのよ! こちらこそ、大きな声を出してしまってごめんなさいね……」


「お兄ちゃんは凄いね!」


『あはは!』


 毎朝……ううん、家にいる時は、四人で笑うのが日課だわ。

 拓真にも朝食を食べさせた後に、三人が揃って準備を始める。

 ……うん。やっぱり、平日は少し寂しいわね。


「……なら真咲、行ってくる!」


「……行ってらっしゃい、蓮悟さん!」


 蓮悟さんは仕事へ行き、その後を追うように、二人の小学生も玄関へ走ってくる。



「ママ、行ってきます!」


「帰ってきたらアイス食べたい!」


「アイスね、分かったわ! さ、行ってらっしゃい拓真! 莉咲!」



 ――夕方になれば、莉咲ちゃん、拓真、蓮吾さんと、そういう順に帰ってきてくれる。




「ママーっ! ただいま!」



 拓真が大きな声で挨拶しながら、靴を脱ぎ捨てて、私の元まで走ってきたわ!



「おかえりっ! 拓真! 学校は楽しかった?」


「うん! 楽しかった! あのねあのね! (ゆう)君とね! 涼平(りょうへい)君がねー! 変な事言ってたの!」



 拓真は身振り手振りで会話を盛り上げてくれる。可愛らしい……!



「なんて言ってたのー?」


「二人でねー! 俺達! 覇王になる男だ! とか言ってたの!」


「覇王!? 何かのアニメかしら……?」



 この言い回しは、ほとんど某海賊漫画じゃないか? と、ふと思ったけど……敢えて突っ込まず……



「だからね! 僕は主人公だぞ! って僕が指差して言ったら、遊君の持ってた本が、どっかに飛んでっちゃったんだ!!」


「え……? 見つかったの!?」


「んーん! 見つからなかったけど遊君が、大丈夫だよ! またすぐ見つかるからって言ってた!」



 あ、ああ……。猫田さんの家に謝りに行かなきゃ……



「ちゃんと謝ったの?」


「うん! ちゃんと謝ったよ!」



 笑顔で話す拓真を見て、喧嘩にはなってないみたいだと判断して安心する。それは良かったけど……遊君には申し訳ないなぁ……



「もう一度、ちゃんと謝っておくのよ?」


「はーい!」



 そう言いながら、拓真は部屋に戻った。


 リビングに戻ると、いつもの友達を連れ、先に帰ってきていた莉咲ちゃんが居る。可愛らしい……っ!



皇牙(おうが)君強いっ! どうしてそんなにゲーム上手なの!?」


「さー、知らねー。俺全部つえーからさ」



 莉咲の友達の、統島(とうじま)皇牙(おうが)君!

 小学生なのに、物凄く不良! なのに! 莉咲ちゃんの事がきっと好きなのかな? ずっと一緒に居てくれてるの!


 たしか最近、高校生を病院送りにしたらしく……本当に小学生? だけど、意地悪しない子には手を出さない良い子みたい……?


 拓真が年上の子に意地悪された時に、皇牙君が怒って、その子のお兄ちゃんにまで手に掛けたらしくて、一度問題にはなったものの……正直、心強いって言うのが本音で、本当にお世話になってる子!



「莉咲ちゃん! 皇牙君! お菓子いらない?」


「いるいる! ママっ早く! もう始まっちゃうよーっ!!」


「俺は要らないっす」


「今日は食べない日?」



 今日は少し機嫌が悪いんだろうか?

 皇牙君は、機嫌が良いとお菓子を喜んで食べるんだけど、機嫌が悪いと食べないのよね……何か嫌なことでもあったのかな……?


 幼い頃から、カップルの様な二人。

 将来、もしかすると結婚する事になったり……? あはは。


 そんなこんなで、その可愛らしい二人を家事をしながら眺めていると、数時間後には蓮悟さんが帰って来る。



「ただいまー」


「おっ! パパおかえりーっ!!」


「おっ! 拓真、ただいま!」


「あっ、おかえりっす。お邪魔してます」


「おかえりパパ!」


「おう皇牙君! いらっしゃい! ゆっくりしていってな! 莉咲もただいま! ……あれ? 拓真、ママは?」


「疲れて寝ちゃった!」


「そうか! よし、晩ご飯は俺が作ろう!」


「パパのオトコメシだ!」


「わーい!」



 こうやって、この日は幕を閉じた。







 ――その日から、およそ一年後。


 拓真は小学生三年生となり、一歳年下の莉咲ちゃんは、小学生二年生に。


 そして、今日はクリスマス。

 夜が楽しみね。こっそり飾り付けの準備もしているし、ケーキの準備……あと、勿論子供達が欲しがっていた物をプレゼントとしてあげられるように用意もしてある。



 ――たまたま、この日は蓮悟さんの勤めている会社でトラブルが起きたらしく、朝方に帰ってきた蓮悟さんによると、今日は休みになったらしい。


 拓真と莉咲ちゃんはいつも通り学校に行ったわ。

 平日の穏やかな日に、二人きりなんて何年ぶりかしら……?


「蓮悟さん! 二人きりの休みなんて滅多に無いから、出かけない……?」


「そうだなぁ。でも眠たい……」


「そ、そうよね……」


「……よし、あと2時間寝させてくれ! そして昼前から出かけよう!」



 朝御飯を済まし、急いで部屋に戻っていく蓮悟さん。ありがとう。


 出かける為に、いつもの家事を最速で済ませて、準備も手短に済ます。



 ……蓮悟さんが2時間過ぎても降りてこない。

 起こすのは申し訳無くて待っていたら、ちょっと遅れて蓮悟さんが降りてきた。



「ごめんな。お待たせ、すぐに準備するよ!」


「蓮悟さん……やっぱり辞めにしておかない?」


「んーや、大丈夫!」


「ごめんなさいね……」


「大丈夫だっ! 本当に、待たせてごめんな……」



 ――蓮悟さんは手を伸ばした。


 いつも通りの光景。私達にとっては、だけど。


 クローゼットが開き、服が飛んできて、他の小物もどんどん蓮悟さんを中心に回り始める。



「――完了(セット)



 その一声で、眩しい光と共に、蓮悟さんの着替えが一瞬にして終わってしまう。


 完了(セット)


 これは私達が元々居た世界。

 “プレイル”での、装飾師の称号(スキル)の力。


 蓮悟さんは私の肩を押しながら、

「よし、行こっか!」と、一言玄関に向かって行った。


 久しぶりの二人きりのデートに、心を踊らせて家を出る。


 庭に咲く()()()()()と春の木漏れ日が私達二人を照らしている。



 やっぱり、平日の昼は人がいつもより少ないわ。



「――真咲、とりあえず、服屋に行こうか昼飯にしようか迷ってるんだが……」


「お腹空いたの?」


「いや、真咲が腹減ったんじゃないかと思ってな。朝から何も食べてないだろ?」



 蓮悟さんは、いつも優しい。

 私には、特別に優しい……気がする。



「私は大丈夫! 服屋さんに行きましょう!」


「そうか? なら行こうか。久しぶりのデートだしな!」


「昔を思い出すわね? 甘酸っぱい新婚時代を。あはは!」


「そうだな……、俺が転職する時の数日間の休み、あの日以来じゃないか?」



 何年も前の話で盛り上がっちゃう!


 私も蓮悟さんも、まだ若かった頃。


 思い出しただけで、顔が熱くなる……



 二人で懐かしい会話をしながら、服屋へと一歩、また一歩と進む。




 また、絶望の未来も、こちらに一歩ずつ近づいてきていた。




 先に気付いたのは蓮悟さんだった。




「――――!? なんなんだ……ッ!? この異質な圧は……まるで……ッ!?」


「っ!? この圧……まさか!! 拓真達が! 蓮悟さんっ!!」


「嘘だろ……? なんで、なんであいつらが、こっちの世界に……しかも、ピンポイントに……ッ!!」




 我を忘れ、いつもの平日より楽しく、そして早く進むはずだった時間は、思い出したかの様に、遅く、鈍く進んでいく様になる。




 一秒も惜しい……拓真達の学校へ!!


 何しに来たっ!



『――六魔神!!』

大変お待たせしました!結構間が空いてしまいましたがこれからバシバシ上げていきます!

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