第三話 永遠の花園
「……本当にこの道で大丈夫なのか?」
「ああああ!!!! 黙って着いてきなさいよ! 間違ってはないはずよ!!」
「姫……もうかれこれ二時間程、同じ道を繰り返し歩いているような気がするのですが……」
主に精神的に疲れてクタクタの高野拓真と、苛立ちで顔が般若になっている小野蔵真姫、その後ろをテキパキと歩くベラは永遠の花園に向けて足を進め、深い森の中を進んでいた。
「……なあ、そろそろ休憩しないか?」
「馬ッ鹿じゃないの!? まださっきの休憩から三十分も経ってないじゃない!!」
「姫……もうかれこれ二時間ほど……」
「同じ事を何度も何度も言わないで!」
「は、はい……」
興奮している真姫をどうしたものかと考えている僕とベラさん。アイコンタクトでなんとかプランを練っているが、成果はまるでないようだ。この旅でかなりベラさんと仲良くなったのは気のせいではない。
――まもなくすると、目の前に五つの人影が見えた。
「あっ! 人よ! 聞いてみましょ!」
「……姫。この鬱蒼とした森の中で複数人など危険でしょう。まずは様子見を――」
「――人! 行こ!!」
ベラさんの冷静な判断に従えるほど、僕と真姫は我慢強い大人ではなかった。
……というより、元の世界の常識に囚われて、この世界を舐めていた。
「――すみませーん! ちょっと道を尋ねたいんですけどー!」
「……うぅ、もう何時間も歩いてるんです。お願いですから教えてくださ――」
道を尋ねようと話しかけた矢先、一人の男は突如として双剣のような物で攻撃を仕掛けてきた。
まさか殺し損ねるとは夢にも思っていないだろう残りの四人は突っ立ったままだった。
……しかし、やられたのは攻撃を仕掛けた味方と気付いた瞬間、相手は我に返る。
相手が見たのは、、間一髪で“守備”を使った真姫と、“高速”を使って避けた僕。
そして、首に大きな刃物が刺さり、倒れている味方だった。
「――なっ!? お、お前ら!! よくもリーダーをッ!!」
「――し、死んだのか?!」
動揺を隠せない、謎の集団。
同様に、僕と真姫も驚いている。
――両手に数本のナイフを持っているベラ。
そうして、やっと理解が追い付く。
「流石よベラ! 助かったわ……!」
「…………っ」
――真姫は、僕と同じ境遇だと思っていた。
だからこそ……この、人を殺す行為への場馴れしている真姫に驚いた。
僕は、遊を救うためなら、例え旅の中で他人を殺すことになったとしてもそれをする覚悟をしている。それでも、やはり目前になると少し足が竦む。
「――だから言ったんです!」
短剣を抜いた残りの四人。
真姫はすぐさま一人の相手に攻めの姿勢を見せる。一拍遅れた僕も“高速”の力を使って、一人の相手を攻撃した。
その手際の良さを目にした残りの二人は、すぐさま逃走を始める。
「――な、なんなんだよコイツら!?」
「逃げろッ! ボスに報告するぞ!」
走り出す二人。その内一人の背中に、ベラの数本のナイフが突き刺さる
「が、あぁぁ……!!」
「くっ……、くそぉぉぉ!」
一人は、より一層速く逃げ出す。
「一人逃がしました!」
ベラは後を追う。しかし、そこに背中にナイフの刺さった男が立ちはだかる。
「お前……ら。俺ら、俺らは、天下の……山賊、無名、だぞ……!! こんな事しておいて、楽に死ねると……思うなよ……ッ!!」
その場で絶命した四人。気分が良い訳もない。
ただ……一人、取り逃してしまった。
今、それが胸に突っかかるのは、果たして正常なのだろうか。
「山賊……」
「きっと、ここらで道行く人を襲っていたのね。五人で一班とすると……かなり大きな組織なのかしら」
「追いますか?」
振り向き、ゆっくりと歩いてくるベラ。
「んーん! 目指す場所がある私達には、そんな時間を食ってらんないわ」
納得のいく答えが見つからず、考え込んでいた僕。
それでも、今後の予定を決める話で閃いたことを提案する。
「――逃げた方向に進んだら、この森の出口も見つかるんじゃない?」
「なるほど、名案だ。ただ……気になるな。山賊、無名」
「ふん! 所詮は山賊よ! 襲ってきたって私の“守備”で守ってあげるわ!」
その張りの良い声の優しい言葉を境に、また辛い歩きの時間が始まる。
山賊の逃げた方向へ歩き出すと、それまで少し薄暗かった風景に、一筋の光が指す。
それにいち早く気付いたベラは指を差し声を上げた。
「光ですよ! 姫! タクマ!」
「ほんとだ! ほんとだよベラさん! ベラさんんん!」
はしゃぐ二人を流し目に。
「さぁ……。そろそろね。永遠の花園」
真姫は強く、その一歩を踏み出した。
時は遡り、拓真が転移する二週間前。
一人の“勇者”が、この世界、プレイルのとある国に召喚されていた。
「ここが、大魔王の巣食う異世界……プレイル」
重厚な青い鎧。そして、身の丈に合わない程の大剣を持つ彼は、雷槍族の国。黄雷の国に召喚された。
「遂に来てくれたか、勇者よ」
「はっ!」
「我が娘の予言によれば、この世界に大魔王が現れるという。手掛かりを探り、捜索の末討伐せよ!!」
「……承りました!」
そうして、勇者は王より情報、資金、そして雷鳴の能力を授かり、最強の剣士へと至った。
「まずは、隣の国。永遠の花園に行ってみよ。なにか情報があるかもしらん」
「永遠の花園……。ありがとうございます。必ずしもこの私――」
大きく息を吸い込むと、勇者は胸に手を当て、宣誓した。
「――神田虎雄! 必ずや大魔王を討伐して見せます――!!」
――それから四週間。
事前に学んだ通りの道を歩んだ虎雄は、大きな花々に囲まれた国を見つけた。
「ここが……永遠の花園……」
逃げた山賊の一人を追い。森を進んだ三人。
森から抜けられると思われる、一筋の光の道から見えたその景色は――一つの大きな花園を思い浮かばせる大きな街。正真正銘の、『永遠の花園』だった。
「――この、大きな花ばかりの街が……」
「……永遠の花園。その名に恥じない国のようね。で、ここの王……っていうか、王の血筋に儀式をして貰わないといけないわけだけど……楽にはいかないかしら?」
国柄、大きな花で日光が遮られているせいか、比較的色白で屈強な兵士が二人、門の前に立ちはだかる。
とは言え、今の僕に真姫、ベラさんを加えたこのチームでは例え戦闘になったとしても負けはしないだろう。
「申し訳ありませんが、入国審査をさせて頂きます」
「それと、要件を伺ってもよろしいでしょうか?」
先程の山賊との戦闘の気分が尾を引き、少し気が入ってしまっていた。
……そりゃそうか。誰が来たのかなんて分かるはずもないもんな。丁寧な対応が当たり前か。
のんびりと考えている僕を置いて、真姫が単純明快な答えを出す。
「私達は、王の血筋……いや、王族に異能開花の儀式を受けに来た異世界種、ヒューです」
「儀式? ……聞いたこともないな。ともかく、今はまだ入国を許可する訳には行きませんので……」
「先輩、自分が上に連絡を取ってきます」
兵士二人の内、後輩らしき男が歩いて門に入っていく。
「戸籍も身分もない僕らは怪しい人物ってことになるよな……。入れなかったら、無理矢理って手もあるのか?」
「無いわね。そんなことしたら肝心の儀式をして貰えないでしょ? ……ま、しょうがないわ。かなりの時間が掛かるでしょうし、プチ野宿でもして待ちましょ」
適当に狩りや採集、異能の再確認や、真姫やベラさんと基本の体術訓練などで疲れない程度に暇を潰す。
――うん、今のところ万全の状態だな。
かなりの時間が経った頃、後輩の兵士が戻ってきたようだ。
「王から入国許可、その承諾の意を承りました。これにより入国を許可します。……これは独り言ですが、少しでも不審な事をした場合、近衛が警戒しておりますので、ご注意をした方がよろしいかと」
「――それでは、王によると、“儀式”は準備が必要なようなので、それまで私共の国をご堪能して頂ければ幸いです。……再三になりますが、近衛が見張っております。ご注意を」
「ありがとうございました!」
三人は門を抜け、永遠の花園に入国した。
――同時刻、勇者、神田虎雄も目的は異なれど、同じく永遠の花園に入国を果たしていた。
元々、黄雷の国の王より手紙を預かっていた虎雄は特に難なく入国を果たし、街を散策していた。
「……それにしても、全てが花屋に見えてしまう町並みだ」
「いらっしゃいませー! 綺麗なお花はいかがですかー?」
細い声で必死に客寄せをする少女の声がする。
…………。
「……見た事のない花だな。情報収集も出来るかもしれない。……少し、寄ってみるか」
「あ、い……いらっしゃいませ! どんなお花をお探しですか?」
「生憎、花には詳しくなくてな。この国に来たのも初めてなんだ。何かおすすめの花はないか?」
「騎士様の格好をされていますので……この、運命の花などはいかがですか? お似合いですよ?」
そう言って、女の店員は水色の花を提案した。
「まだ蕾の様だが……」
「運命の人と出会うと、開花すると言われている花です」
「――ふむ。運命……か。もしかすれば、役に立つかもしれないな。その花、一つ買わせて貰おう」
「あ、ありがとうございます! あ……申し訳ありません。ご自分でお取り頂けませんか? 私は、花を触ると、枯らせてしまう体質で……。……あ、お、お値段は19リンになります!!」
「ああ、そうか。……綺麗な花だ。30リン払おう」
「わっ!? あ、ありがとうございます! またお越しください!」
花屋を出た虎雄は、再度情報を集める為に歩き出した。
「真姫っ! この花屋さんすごいよ!!」
「もう、子供じゃないんだから……」
「僕、結構花とか好きなんだよね!」
すれ違った何気ない三人組の内、何故か一人に違和感を覚えた。
「――彼から……何か、特別な圧を感じるような」
その少年を目で追った虎雄。そして、こちらを見た少年と目が合う。
多少は気まずく感じ、すぐに目線を逸らし、元通り反対方向に歩き出す。
その右手に握っていた水色の花は、既に気付かぬ内に開花していた。
「――なんだったんだろう、あの人」
「拓真? どうしたの?」
一人の男と目が合った僕は、彼の余りにも大きな気配に気を取られていた。
「どうかしたのかい?」
「……いや、なんでもないです! ちょっとボーっとしてた。でさ、この花屋さんに行かない? さっきすれ違った人も綺麗な花を買っていたみたいだし」
小さな花屋の前で、三人は小さな少女に話しかけられる。
「――い、いらっしゃいませ! 良ければお花を買っていきませんか!!」
小さな少女は、細い声を必死に張って大きな声でそう言った。
この花の国で営む花屋とは、さぞ商売競争が激しいだろうということを物語っている。
「じゃあ……そうね。何か可愛い花を選んで貰えるかしら? 私に似合いそうな」
「ああ! 僕も欲しい! 僕も選んで貰えるかな!」
「花、ですか。……私は遠慮しておきます」
客にも様々あるのだろう。人当たりの良い一行に少女は朗らかに声を上げる。
「……そうですね。仲の良い方達ですし……、少しお高いですが、あなたには女性に人気の純愛の花などいかがでしょうか?」
「純愛の花?」
「はい! 持ち主の大切な人が危険な目に合った時、助けてくれる花なんです! その思いが強ければ強いほど、より強力な花へ開花するんです!」
少女は解説をしながら、ピンクの花を指さした
「流石は永遠の花園、ね。よし、じゃあそれを頂戴。いくら?」
「30リンになります!」
「ベラ。30リンらしいわよ」
「えっ!? また私が出すんですか!?」
当たり前よ! と真姫はベラをベシベシと叩きながら言う。
ベラはくたびれた表情で渋々財布を取り出す。……恐らく、初めての事ではないんだろうな……。
ちなみに、姫という呼び名も敬語も真姫から強要されたものらしい。
「――あの! 僕にはどんな花が似合いますかね……!?」
それが……と、少女は呟く。
「……ごめんなさい。貴方に対しての、花の声が聞こえないんです……」
「――花の、声?」
花の声、という単語に何故かベラが過剰反応する。
「は、花の声が聞こえるんですか!? 花の声が聞こえるというのは、遥か昔に存在した、大魔王に激戦の果て勝利した十騎士が一人、“園町響灯”から代々受け継がれる能力のはずでは!?」
ベラは体を前に乗り出し、見境も無く大きな声で話し出す。
「あ……えっと、はい。私は、園町家現当主、園町愛灯の娘、園町麗羅と申します」
「――どういう事よ? 説明しなさいよ」
「いや、ベラさんが説明してた通――」
「――あんたは黙ってて!」
花屋の少女、麗羅はここにどうぞと店の奥に椅子を用意してくれた。
四人はそこに腰掛け、ベラが静かに、そして明瞭な声で話を始める。
「――これはまだ、“人龍事変”の時代。まだ国が国として統一されたばかりの頃の伝説です――」




