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第一話 僕が主人公

「高野、帰ろうぜ」



 眼鏡をかけていて、猫のような顔をしている親友の猫田(みょうだ)(ゆう)は僕を呼んだ。



「あっ、悪い遊。そろそろ帰ろうか。……ああ! そうだった。ついでにボンバー書店まで寄ってもいい?」


「まさか……カエ転、買うのか?」



 ごく普通の漫画好きの高校生の会話。

 普通で、いつも通りの空気が流れている。



「そう!! カエルに転生して異世界を無双しました! の発売日なんだよ!!」



 叫んだ僕に、教室に残る数人の目線が集まる。



「あ、ごめん。声でかかったよね……ははは」


「はぁ、いつも通りだろ。それより、俺にもカエ転読ませろよな?」


「言っとくけど、僕が買うから僕が先だからな!」


「そっちは帰って読めるだろ? 俺が先だ!」



 机の上にあるカバンを持った僕は、せかせかと教室を出る遊を追い教室を出た。




「――やべぇ、おもしれぇ」



 あまりの面白さから、猫田の心の声が漏れる。



「確かにな!! フロッグスラッシュ使うところアツ過ぎだろ!」



 年相応にはしゃぐ二人。




 ――――??



 一瞬の出来事だった。猫田の持っていた本――カエ転の単行本――が、赤い光を放ち始めた。



 なにも、分からなかった。


 余りに眩しく、僕が反射的に目を閉じていたからだ。



 僕は、瞼と腕越しに感じる光がなくなったことを知ると、慎重に目を開いた。




 今まで居たのは、寂れた近所の公園。


 今の僕の目に映る光景は、燃え上がる炎と、その炎に包まれた遊。そして、空を龍を舞うだった。



「――遊? なんなんだよ、これ。あ、ああ……まさか、ははは。遂に僕ら異世界デビューしたのか!?? 遊!!」



 僕は返事が来ることを信じて、猫田にそう叫ぶ。


 だが、猫田には何の反応もない。



「これだけは言っとくけどっ!! 僕が主人公だからっ――ぁっ!?」


 そう叫んでいると、人生で初めて味わう程の暴風で、僕は吹き飛ばされる。



「うっ……がっ!?」



 空にいた数匹の龍が、猫田の居た場所に群れた。


 なにかに、食らいつくような行為をした龍は、大きく、耳を劈くような叫びを轟かせ始める。



「――――――キァァアアアア!!!!」


「……っ!! 耳が死ぬっ……!!」



 そのまま、なぜか僕の視界は徐々に狭まってきた。


 僕を置いて飛んで行く龍。

 そして、姿を消した遊……。僕は、その場に倒れ込んだ。







 ――――……?


 いい匂いだ。何の料理だろう?

 同時に、左側から何かの花の匂いがする。


 凄く安心して、落ち着いた気分だった。


 ……いや、なんでなんだ? 急に異世界の様な所に飛ばされて、友人が……目の前から居なくなった僕が、なぜ安心し落ち着けているのか。底冷えするような恐怖を感じる。


 ……ここはどこなのだろうか。家らしき場所、ということしかわからない。


 考え事をしながら、起き上がろうとしたその時、女性の声が耳元で響いた。



「――――そんなに考えなくていいわ。ここは私の家。私の名前は――」



 あまりに、綺麗な声で……一体次は何が起こるのか恐ろしくて、そちらを向くことが出来なかった。



「――ラメル・ディアーズ。ラディって呼んで?」


「……良ければ、今の状況を教えていただきたいです」



 僕は、ボソッと呟き、思い切ってそちらの方へ振り向く。

 ……確かに、そうなのだろうとは分かっていた。綺麗な声と釣り合ったその綺麗な顔に、僕は順当に見入ってしまった。


 流石は異世界。綺麗な金色の髪に、瞳。そして、控えめな主張をしている狐耳と、大きくてふっさふさの尻尾。

 ……察するに、獣人というものなのだろうか。


 状況が状況じゃなければ、素直に見惚れて、すぐにでも玉砕覚悟で――



「ふふふっ。せっかちさんね。まずは、ご飯でも食べながら話さない?」


「――あ、あなたを見て、危険ではない事はわかりました……ええと」


「まぁまぁ、こっちにおいで? ご飯を作っていたの。食べましょ?」



 ゆっくりとテーブルに向かって歩き出したラディさんの背を、僕は寝起きでフラフラとしながら着いていった。



「どう? ご飯は美味しい?」


「……え? はい、美味しいですけど……」


「そう! それはよかったわ!」



 嬉しそうに手を合わせ、こちらを向いて微笑むラディに僕は質問した。



「……あの、ここは、どこなんですか? なぜ、僕はここに?」



 単純な質問だった。返ってくる返事も単純で簡単だったらよかったと思う。



「ここはプレイル。あなた達ヒューの住む場所とは、違う世界になるわ。……って、急に言われても分からないわよね? あなたは恐らく転移か、何らかの現象でこちらの世界まで来てしまったのよ」


「――つまり、異世界転移……? いやだって、さっきまで遊と二人で……」



 ……遊。猫田。何かを、忘れて――



「――そ、そうだ!! 遊は? 遊はどこなんだ!?」



 衝動的に僕は椅子が倒れるくらいの勢いで立ち上がり、思わず叫んだ。



「……悲しいけれど、倒れていたのはあなただけよ。あそこは火龍の巣。龍は恐ろしいほどに怒り狂っていたわ。もしかすると、そのユウって子は――」



 ラディは息を飲んで、恐る恐る口を開く。



「――もう、死んでしまっているのかもしれない」


「――!? 嘘……だろ。なんで……なんで? なんで……遊がそんな目に合わなきゃ……」



 ここに来る以前は、ただ、ただ……二人で、あの親友とはしゃいで、好きな漫画を読んでいただけ。



 僕は、何も理解したくなかった。


 あの猫田が、死んだかもしれない。そしてこの異世界に一人。その現実が僕の心を歪ませる。



「……あなたが落ち着くまで待つわ。ただ、今のプレイルには、ヒューの住む世界に戻る方法は無いの。……それだけは先に伝えておくわね」



 ラディはそう言って僕を椅子に座らせた。



「――今のプレイルには……って事は、戻る事は可能なんですか……?」


「……えぇ、可能と言えば可能。でも、ほぼ不可能に近いから」



 何故なら、と前置きを呟きながら、ラディは言った。



「この世界に、今は無き()()。そしてその破片を握っている、“六魔神”と呼ばれる者達。……あなたが元居た世界に戻るには、その覇権の力を使って、道部の鏡を開く必要があるの」



 ラディは、ゆっくりと椅子に座りながらそう言う。



「――覇権っていうのは……なんなんですか……?」



 もし、その可能性があるなら、僕は……



「この世界に点在するあらゆる能力の内、紛う事なき最強の力のことよ。……伝承では、その力を恐れた神々が、その力を六つに砕き分けたと言われているわ」


「……ということは」


「えぇ、つまり……その六つを一つに合わせて、その能力を手に入れることができれば、それが例えどんな欲望だろうと、どんな不都合だろうと、そして、どんな不幸事だろうと……自分の思い通りにできる、かもしれない」



 静寂の中、その説明を聞いていた僕は、我慢も出来ずに問いかけた。



「――その力さえあれば!! 人を生き返らせることは出来るんですか!? それさえあれば――遊も!!」



「…………えぇ、できると思うわ。でも、言ったでしょう? ほぼ、いや、不可能なの。六魔神を殺しでもして奪わない限り手に入らない覇権の一部を、まさかその全てを集めるなんて――」



 その言葉を聞いた僕は、また椅子を倒して立ち上がった。



「――今からでも殺しに行きます!! 例え、殺してでも……遊を助けて……元の世界に帰りたい――」



「――ごめんなさい。それは無理なのよ。絶対に、無理。持っているのは一部とはいえ、覇権を持っている六人は殺せない。並外れた種族としての力に、能力の類い。……まず並みの存在に勝ち目は無いの」



 座ったまま、絶対に無理ということを信じているような説明を淡々と続けるラディに。


 僕は、勢いに任せて、意志を言葉に乗せて、言い放った。




「――僕なら、出来ます。僕は最強の()()()なので――!!」


「――な、なにを言っているの? 今、言ったじゃない。無理なものは無理だって――」



 この言葉を理解できるのは、たった一人しかいなかった。


 遊だ。


 遊はいつも言っていた。


 俺達は主人公だって。



 当然、そんな意味を理解出来ていないラディは、不思議そうな顔をした。



「世界で一番大切な親友を助ける!! 僕の今することは……死ぬ覚悟で強くなり続けて……何年、いや、何十年何百年を掛けてでも! 絶対に遊を救い出して、元の世界に戻る!!」



 僕の顔を眺めたラディは、煌びやかな瞳を一際輝かせて、立ち上がった。



「……あなたを、助けた運命の巡り合わせが……今、分かった気がするわ。あなたがそう言うのなら、今の私にできることは、全力で手伝わせてもらうわね」



「――改めて、よろしくラディさん」


「――あら、ラディでいいわ。ええ、改めてよろしくね? ……あ、えっと、あなたの名前は……」



「――――高野(たかの)拓真(たくま)! この世界プレイルの、主人公です!!」




 ――数百年、何も変わらなかったプレイルが、たった一人の人間によって動き出す。







「何? この大きな圧は……? 強いわね。そこらの存在より別格に。まるで……いや、まさか」


「……姫、これは……もしや、ヒューが住まう世界からの転移者が、希に受ける奇跡の恩寵――」



「……大生命の、器?」







 ――僕がラディの家で起きたその日から、二日が経った今日。

 なんとか僕は、全身筋肉痛の体を頑張って起き上がらせて、朝食であろうパンの匂いのする部屋へ歩いた。



「……おはよう、ラディ」



 眠そうな目をした僕を見たラディは、いつものように穏やかに答えた。


「あら、おはよう。タクマ。ちょうど出来た所なのよ。さっ、座って?」


 二人は向かい合うように椅子に座り手を合わせた。



『いただきます』


「タクマに教えて貰ったこの言葉、とっても気に入ったわぁ……」



 パンを手に持ちラディは言った。



「それはよごっど!」



 パンを頬張った僕は、咳き込んで聞き取りにくい言葉でそう言った。



「ふふふ……そんなに急がなくても、誰も取ったりしないのよ?」



 笑いながら、ラディもパンを口に入れる。



「……今日も、昨日と同じ事をするんでしょうか師匠……」



 パンを飲み込んだ僕は昨日の事を振り返りながら聞いた。



「いいえ、違うわ」



 僕は内心ガッツポーズをした。

 あまりにも長く辛い運動は、息が冷たくなる感覚を通り越して、目眩がして失神しそうだった。息巻いておいてだけど、正直辛い。



「――今日は昨日の二倍きついわ」


「…………」



 ……落ち込む僕は、客観的に見ても当たり前だと思う。


 なにせ、一昨日からの地獄のような特訓の嵐……。あんなに強気だった自分よりも、女であるラディの方が圧倒的に強かった。僕から見れば、まず人間の動きじゃない……どころか、物理法則を無視してる。


 そして、その具合を見たラディは、昨日から一週間。その間でまず基礎体力を叩きつける特訓を申し付けてきたのだ。



「……ラディってなんでそんなに凄いの? 生物かどうか疑うくらいなんだけど……」


「それは……ええと、世界が違うのだから仕方ないと思うわ。それに私はこう見えても、好戦的な種族だから……」

 


 見た事のない鮮やかな色のジャムをパンに塗りながら、そうラディは言った。

 当然のように疑問が浮き上がる。……というか、なぜ今まで聞き出さなかったのだろうか。



「……えっと、種族? それは沢山居るの?」


「ええと……どう説明すればいいのかしら。わかりやすい様に説明するわね」



 種族の起源については慣れない説明なのか、多少たどたどしくも教えてくれた。




 ――まず、最初は大きく分けて三つの種族が存在していた事。


 一つは知恵を持ち、矮小な人類の種族。


 もう一つは知恵を持たず、人類とは比較にならない程の力、そして()()を持つ龍類の種族。

 更にその中でも、また小さく分類があるらしい。


 そして、圧倒的な力を持ち、知能も人類より一際高く、崇められていた種族、神王族。


 その神王族の庇護下で暮らしていた人類の、その内たった一人の男がある事を考えた。


 龍類の種族を捕らえ、従えさせることが出来れば、神王族を凌ぎ、このプレイルを占領出来るのでは無いのかと。

 そう画策した男は、その村の男衆を集め、成体の隙を見て水龍の巣に攻め入り、幼体の水龍を攫って帰ったのだった。


 だが、抵抗した幼体の水龍はその男衆の内、一人を攻撃した。


 それに激怒したその男は、水龍を殺してしまう。

 少なくない犠牲の末、やっと得た成果を無駄にしてしまった事を知った男衆は、この上なくその男を叱り、痛めつけた。すると、その男は何故か、自然と感覚的に水を生み出す事が出来るようになっており、その水で男衆に逆襲し、更にはその集落諸共水没させた。


 その男は、殺した水龍から奪ったその水の能力を使い、その身一つで様々な人里を襲い、遂には一つの国を作り上げたという。


 ――それが東の王国、大湖の国(シェルニア)だという伝承があるらしい。



 また、その噂を聞いた者達は血走った様子で龍類の子供を攫っては殺し、能力を奪い続けた。


 そこでは様々な争いが生じ、そして、今に至り、人間ではあれど、様々な異なる種族が生まれたという。



 水の能力を扱う亡霊族。


 電気の能力を扱う雷槍族。


 花の能力を扱う幸砦族。


 闇の能力を扱う憑依族。


 岩石の能力を扱う亀裏族。


 そして、炎の能力を扱う紅羽族。



 それを始祖として、人間は様々な能力を研究した。

 そうして人類種は能力を生まれ持ち、その能力に対応する異形な姿を持つようになった。



 一つ、付け加える事があるとすれば、それでもやはり、神王族が一際特別で、人間では未だ敵わぬ存在であるという事。



 そうして、その六種族が生まれたきっかけとなった大きな出来事――“人龍事変”を境に、何も起こらず、実に六百年の時が過ぎたという事。



「――さっきも言ったけれど、その中でも攻撃的な炎の能力を持っていて、その力に対応した体を持っている紅羽族がこの私なのよ」


「なるほど。この世界について少しだけど分かったよ。ついでに、ラディが強い理由も分かった」


「……あら、私の事はついで?」



 ラディは少し困った表情で言った。



「――あ、じょ、冗談だって!! ……と、ところでさ、今居る人間の種族はその六種族だけなの?」


「……いいえ。何百年も前から存在している、謎の種族がいるわ」



「それは……?」



「それは、あなた達ヒューのことよ。この世界に存在しない力を持って現れる奇異な存在。私達は異世界種(ヒュー)……と呼んでいるのだけれど、なぜ不定期にヒューが現れるのか、未だに何も分かっていないのよ」

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