旭は今後のことについて考える
ルミアと別れた後、俺はまっすぐ温泉宿に向かった。
時刻は夜8時過ぎ。
居酒屋で時間を潰してくるとは言ったが、流石に待ちわびているだろう。
そう思って、部屋に戻ったのだが……。
「……パパ?なんでパパの体からルミアお姉さんの匂いがするの……?」
「……お兄ちゃん?どういうことかしっかり説明してもらいましょうか……?」
部屋で待ち構えていたのは、目のハイライトを消して【狂愛】のオーラをダダ漏れにするレーナとリーアだった。
ハイエンジェルたちは、俺が戻ったと同時に急いで帰還して行った。
彼女たちのスカートが濡れていたのは……見なかったことにしよう。
「あぁ、居酒屋に行ったらギルドマスターとルミアに会ってな。3人で飲んでいたんだ」
その言葉を聞いて、レーナは呆れたような声をがした。
「パパが1人で大人しく飲むわけないだろうなぁとは思っていたけど……まさかルミアさんと飲んでくるなんて……」
レーナの言葉にリーアも同感だとばかりに話す。
ギルドマスターもいたと言ったのだが、そちらは存在すら知らないと言わんばかりにスルーされている。
「全くよね……。この匂いからして隣に座っていたんじゃんない?かなり近くに座らないとこんなにルミアさんの匂いがするわけないし」
「匂いって……そんなに臭うかな?」
俺は体の匂いを嗅いでみる。ルミアが使用していたと思われる香水の匂いが少しするくらいだ。
そこまで強い匂いじゃないと思うんだけどなぁ……。
「香水の匂いもそうだけど、発情した雌の匂いがパパからプンプンするんだよ……。パパ、本当にルミアさんとは何もなかったの……?」
「ん?あぁ、飲み会が終わった後はすぐに宿に向かったしな。……あ、飲んでいるときに左腕に抱きつかれていたな」
「「それだーーーーーーッ!!」」
レーナとリーアはそれが原因だッ!と言わんばかりに大声を上げる。
……よかった。この宿が防音完備で。
防音がなかったら苦情が来ているところだ。
レーナとリーアはブツブツと相談しあっている。
「……どうしよう、リーア。思った以上にルミアさん積極的だったよ……」
「嫁会議を行ってすぐにこれだよ……。明日は縛っておく……?ルミアさんと会ったら……あの人さらにアピールしてきそうだし……」
「リーアだめだよ……私たちの力じゃ、パパを抑えることなんてできないよ……。パパの能力ってやばいくらいに高いもの……。」
小声で話し合いをしているが、丸聞こえなんだよなぁ……。
縛られること自体は別にいいんだけど、明日は依頼を受けに行きたいんだよね。
部屋にこもっていたらレーナとリーアに襲われるだろうし……。
「あー、2人とも?明日は依頼を受けに行きたいんだが……」
「パパ、今のルミアさんに会うのは危険なんだよ!?明日は大人しくしていようよ!」
「そうよ、お兄ちゃん!たまにはゆっくり休むのもいいと思うの!」
2人は俺の体をガクガクと揺さぶりながら訴えてくる。
回る……頭が回る……酔いは覚めてきたとはいえども、頭を揺らすのはやめてくれ……。
「……ウッ……。というより……次の街に行きたいんだよ。違う街で報告を行う依頼を探したいんだ」
「……!そういうことなら喜んで付き合うよ!この街を出て行くってことはルミアさんとも離れることになるだろうし!」
「そうねレーナ!懸念事項が改善されるなら、全力で依頼を探しに行くべきだわ!」
レーナとリーアは目を輝かして、俺の意見に乗っかってくる。
……何を考えているのかわかってしまったが、余計なことは言わないでおこう。
「後、2人に報告しておきたいことがある。……というより、こっちの方が重要な案件だ」
「「報告したいこと?」」
2人は首を左右対象にコテンと倒して俺に訪ねてくる。
「あぁ、今日ギルドマスターに聞いたんだが、このダスクの冒険者ギルドにはAランクの冒険者がいる。その冒険者の名前は笹原丹奈。……多分だが、俺のいた世界で半年前まで付き合っていた元カノだ」
「パパの元カノ!?パパの魅力を理解できなかったあの!?」
いや、魅力とかはないと思うけど……。振ったのは俺の方からだったし。
「レーナ、パパの元カノって?」
「……この写真に写っている女がパパの元カノです。パパの魅力を理解できなかった愚か者だよ」
「お兄ちゃんの魅力を理解できなかった……!?なにそいつ、バカなの?見る目なくない?」
レーナはスマホから元カノの写真をリーアに見せて説明する。
というか、いつの間に俺のスマホ取ったんだ?
「あー……、俺に魅力があるかどうかは、置いておくとして……。そいつがこの街に戻ってくる前に違う街に行きたいと思っているんだ。俺としては会いたくないからな」
そう、丹奈は今高難易度のクエストを攻略中で、現在はダスクにいない。
……が、クエストが終わって戻ってきたら、俺と鉢合わせするだろう。
面倒ごとが起こるのは確定である。
しかも、ロリハーレムを形成していることを知ったら、なおさら面倒なことになるだろう。
最悪戦争が起こるかもしれない。
「……パパ、その女の息の根を止めなくてもいいの……?」
「お兄ちゃん、そんな女生きている価値ないと思うんだけど……?今のお兄ちゃんなら楽勝じゃない?」
うちの娘と妹が元カノに対して殺意満々に意見を提案してくる。
「いや、あいつは現在冒険者からも街の人からも慕われているらしい。もし殺したら、俺たちはこの街にいられなくなるだろう」
「「えぇ……」」
非常に残念そうに顔を歪ませるレーナとリーア。
……そんなに始末したかったのか……殺意高いな。
「でもそうなると、どこの街に行くかだよね……。パパが移動した街で鉢合わせする可能性もあるわけだし」
「そうね、レーナ。お兄ちゃん、ギルドマスターからそういう話は聞いていないの?」
「んー?あまりにウザすぎて、つい【サイレンス】と【悲観を誘う冷たい雨】かけて、デススネークに強制送還させたからなぁ……。なんの依頼を受けていて、どこの街を通るのか聞いていないんだよね」
あの時のギルドマスターは話ができる状態じゃなかったしな。
ルミアにでも聞いておけばよかったか……。しくじったな。
「お兄ちゃん……精神魔法と恐怖魔法の掛け合わせって、それ大丈夫なの?」
「あぁ、魔法かける前に[冷静になるまで]という制限を頭の中で指定したから、落ち着けば元に戻るよ」
「じゃあ、大丈夫かな?ってなると、明日も冒険者ギルドに行かないとだね。……ルミアお姉さんにパパをあまり近づけさせたくないんだけど……」
レーナは少し不満顔で意見を出してくる。
リーアはレーナの言葉にウンウンと頷いているが……、俺個人としてはルミアとそういう関係にはなるつもりないんだけどなぁ。
俺はため息をつきながら、これからのことに辟易とする。
「はぁ……。せっかく防音施設完備の温泉宿に宿泊して、冒険者生活もこれからって時にこんなことになるなんてなぁ……。野宿用のテントとかも買い占めないといけないのか……」
「パパ。全魔法適性があるなら、創造魔法とか使えないの?それを使ってテントとか作っちゃえばいいんじゃないかな?」
創造魔法?そんなのがあるのか?
錬金とかならわかるけど、何もないところから物を作り上げてしまうのか?
俺が疑問に思っているとリーアから追加の説明が入る。
「ダマスクの屋敷で見た情報なんだけど……。創造魔法は魔力を使用してイメージしたものを作る魔法みたいなの。創造するものによって必要魔力も変わってくるんだけど、お兄ちゃんの魔力は10万超えているから、家とかじゃなければ問題なく使えると思うよ?」
「創造魔法ハンパないな……。技術職の人涙目じゃないか」
「でもね、パパ。創造魔法は使用者が遠くに離れると、空中分解するから使い勝手は悪いんだって」
「ふむ……使用者の近くならデメリットはなさそうだな。収納は【無限収納】使えば問題なさそうだし……。っていうか、レーナは難しい言葉をよく知っているな」
俺はレーナの頭を撫でながら答える。
9歳で空中分解の言葉が出てくるとは思わなかった。
「お兄ちゃん!私は!?私も年齢の割にいろんなことを知っていると思うのだけれど!」
「もちろん、リーアも賢いって思っているよ。2人とも俺にはもったいないくらいの女の子だよ」
リーアも自分も褒めて欲しいと言わんばかりに、アピールをしてきたので同じように頭を撫でてあげることにする。
レーナの金髪とリーアの銀髪……両方ともサラサラでとても触り心地がいい。
2人は気持ちよさそうに目を細めている。
さて、創造魔法ってことは【クリエイト】とかそんな感じの魔法名になるのかな?
ーーーー[疑問を確認。考えているように【クリエイト】の後に、創造したいものをイメージすれば目の前にその物体を創造することが可能です。現在の旭が創造できないのは、一戸建てなどの広い土地を使用する建物となります。イメージは簡易なもので結構です。難しく考える必要はありません]
……一戸建ても創造魔法でどうにかなってしまうのか。
というより、簡単なイメージでいいとか……何そのイージーモード。
異世界の魔法最強すぎないか?
ーーーー[いえ、旭がおかしいだけです。普通の人間は魔法適性があっても創造魔法を使えません。使えても精々ポットなどの電化製品程度です]
……叡智さんにツッコミをいれられてしまった。
そうか……俺がおかしかったのか……なんか納得。
「2人とも、今【叡智のサポート】に聞いたんだけど、今の俺は一戸建てなどの広い土地を使用する建物以外は創造できるらしいよ」
「パパって本当になんでもありだよねぇ……。一戸建て以外ってほぼ全てのものが創造できるってことだよ?」
「まぁ、そういうところもお兄ちゃんのかっこいいところだよね」
「「ねーー!」」
呆れられるかと思ったが、2人してキャイキャイとはしゃいでいる。
……とりあえず、これで旅に出ている間のテントの問題はなくなった。
後は食べ物とかの買い出しかな?
なるべく早く行わないとね。
「じゃあ、2人とも。明日は冒険者ギルドで丹奈の情報と、依頼を探すとしようか。行くのはお昼頃でいいか?」
「わたしは問題ないよ、パパ」
「私も異論はないよ。もう夜も遅いし、朝から行動するよりはしっかり睡眠をとってから移動したほうがいいと思うし」
俺の意見に2人は否定の意見をあげることなく、賛成してくれる。
本当に素直でいい子達だよ、全く。
「じゃあ、パパ……?明日はお昼までゆっくりするんだし……いまから……ね?」
「えぇ、そうね。朝に寝ればお昼まで十分休めると思うし……。あぁ、楽しみで濡れてきちゃう……!」
……2人の目に淫靡な光が灯る。
これはやばい、また搾り取られる。
「いや、今日は素直に寝たいんだが……お酒を飲んだ後はそういうことするのに向かないっていうし。とりあえず、風呂に入ってくるから、2人は休んでて!」
「あーーーーッ!パパ逃げた!追いかけるよリーア!」
「もちろんよ、レーナ。私たちからは逃げられないってその体に教え込まなきゃ!」
俺は脱兎のごとく、階下にある男湯に向かって走りだす。
レーナは足が遅いし、リーアも俺の敏捷値から見たらかなり低いので問題ないと思っていたが……。
「こんな狭いところで、ユニコーン!?精霊魔法か!?」
なんと2人はユニコーンに乗って追いかけてくるではないか!
レーナは精霊魔法使えるからその類なんだろうけど、宿で精霊魔法は駄目だろ!?
召喚魔法?アレは護衛用だから問題ありません!
「そうだよ!上級魔法のユニコーンだよ!大丈夫!建物に影響はないくらいの大きさにしてあるから!」
「そういう問題じゃない!……くそッ、思った以上にユニコーンが早い!」
「あはははっ。お兄ちゃん観念して私たちと一緒にお風呂に入りなさい!」
リーアがケタケタ笑いながら、レーナの後ろで叫んでいる。
俺は2人から全力で逃げるように男湯まで全力ダッシュするのであった。
旭の元カノ、笹原丹奈はダスクでは最高ランクのAランク冒険者です。
旭とは別で内面がイケメンの男を侍らせています。
明日はコミケ当日なので、通常編と特別編の二つをあげられたらいいなぁと思ってます。
今日の10時間勤務の中で、構成を練ろうと思います。




