特別編-旭と元カノカップルとC97-前日譚
1日での完成は無理でした……
それは澄んだ空気が辺りに充満している朝方のことだった……。
ーーーーピンポーン。ピンポンピンポンピンポン……。
「だーーーっ! うっるさい! こんな朝っぱらから誰だよ!!」
俺は連打されるチャイムにぶちギレながら玄関に向かう。
時刻は朝の三時。俺とソフィア、ルミアの三人以外は全員まだ寝ているような時間帯だ。
……何で俺とソフィア、ルミアが起きているのかって……?
ま、まぁ、その事はどうでもいいじゃないか。
とにもかくにも、こんなにチャイムを連打されたらレーナ達が起きてしまう。
今日はギリギリまで寝かせておきたいから、即刻チャイムの連打をやめてもらわねば。
ついでに痛い目をみてもらうが……それは自業自得だと割りきってもらうとしよう。
「誰だ!! こんな朝早く……か……ら……?」
「…………来ちゃった♡」
ーーーーバタン。
ドアを開けた先にいた人物を見て俺は静かにドアを閉める。
うん、今のは見間違いだろう。
あいつが可愛らしい表情を浮かべて、若干照れながらあんなことを言うはずがないものな。……今考えると世にも恐ろしいものを見てしまったのかもしれない。
「さすがに朝まで続けたのは体力的にキツかったか……。そろそろ寝るようにソフィアとルミアにも言い聞かせないとな」
ーーーーバンッ!
「どうして開けたドアを閉めるの!! それが来客にしていい態度だと思ってるの!?」
「そうだぞ、旭。チャイムを連打したのはニナが悪いが……。すぐにドアを閉めるのは人間としてどうなんだ?」
俺が閉めたドアが勢いよく開けられる。開けたドアの先には憤怒の表情を浮かべた丹奈がプルプルと震えて立っているのが見えた。電子レンジは呆れた表情を浮かべて、俺と丹奈の二人を見比べているが……。
どうやら俺の見間違いではなかったようだ。……鍵をちゃんと閉めておけばよかったか……。
「いや、こんな朝早くから迷惑行為をしているお前たちの方が悪いだろ。というか、近所に家がないからって好き勝手やっていいわけじゃねぇぞ? レーナ達が起きたらどう責任とってくれるんだ? あ゛ぁ゛!?」
「えぇー……。そこで逆ギレしてくる……?」
俺の怒りに丹奈が呆れているようだが、知ったことではない。
今の俺にとってレーナ達が起きてしまわないことの方が大事なのだ。
なんのために【遮断空間】を展開してまでソフィアとルミアの二人と一緒にいたんだ……と言いたいが、それをこの二人に言っても仕方ないのはわかっている。
だから……俺はこの手を使うことにしよう。
「えぇい! うるさいッ! 【遅延空間】の効果を付与、対象を設定……【遷延空間】!!」
俺はそう叫んで丹奈と電子レンジ、俺を対象にした魔法を発動した。
場の勢いで創造した魔法だったが、どうやら発動者が先に転移されるようだ。転移したのは同時だったはずなのに、今この空間にいるのは俺一人だけである。
……二人が転移してきてわーわー言ってこないように準備を進めておくとしよう。
ーーーー体感時間30分後。
「……っとと! あーちゃん! いきなり転移させるなんてどうなって……んのぉぉ!?」
「これはまた……すごい場所だな。禁忌魔法はなんでもありなのか?」
俺がのんびり柚酒を嗜んでいると、丹奈と電子レンジの二人が空間に転移されてきた。
大分時間がかかったが時差でもあるのだろうか? 今度、ソフィアと検証してみるとしよう。
ちなみに、転移されてきた二人は俺が創造した空間に驚いている。
……もっとも、丹奈は空間よりも目の前にある家具に驚いているようだが。
「……ねぇ、あーちゃん。ひとつだけ聞いてもいい?」
「何を聞きたいのか何となく予想できてるが……どうぞ?」
「なんでこんな空間にモダンインテリアが展開されているわけ!?」
丹奈は大きく深呼吸をしたかと思うと、俺が座っているソファを指差してそう宣言した。
モダン製の家具は高級だからそういう反応になるのは予想の範囲内だ。
むしろ、その反応が見たくて創造したまである。話が進まなくなるから本人には言わないが。
「なんでって……。【クリエイト】で創造したんだよ。【遷延空間】は勢いで創造した魔法だったんだが、なぜか転移してくるのに時差があるらしくて。 暇だったから話し合いの場を創っていたという訳だ」
「…………そうだった。あーちゃんの魔法は規格外なんだった……」
「諦めろ、ニナ……。こいつのやることなすことに突っ込んでいたら話がいっこうに進まない。話し合う場を設けてくれたんだから、こちらの用事を話すべきだろう」
「納得がいかない……。でも、仕方ないか……。レンジ、とりあえず座ろう。あーちゃんが全く準備してないのが気になるけど……」
丹奈と電子レンジはそう言うと俺の反対側のソファに腰をかけた。
微妙に反論したくなったが、それこそ時間の無駄だ。俺は柚子スカッシュを二人に私ながら、こんな朝早くに来た要件を聞き出すことにした。
「……で? 二人はなんでこんな朝早くから来ているわけ?」
「……はぁ? あーちゃん、今日が何の日かわかっているの?」
俺の問いかけに対して質問で返してくる丹奈。やれやれといった表情を浮かべているのが非常に腹がたつ。……だが、ここは大人として冷静に対応しようじゃないか。
決して隣で電子レンジが小さく謝罪しているのに共感したからとかではない。
「何の日って……今日は冬◯ミの二日目だな」
「わかってるじゃん! なんでそんなにゆっくりしているわけ!? 付き合っている時は始発で出かけていたのに!」
「ニナ……落ち着けって」
丹奈はキーキーと喚き散らしながら、お茶をガブ飲みしている。そんな丹奈を電子レンジが必死になだめているが、むしろよくなだめられるな。俺が付き合っていた時には今以上に唯我独尊だったから尊敬するわ。
……次からはちゃんと名前で呼んであげることにしよう。今まで電子レンジと呼んで悪かったな……。
「落ち着いている理由は俺と丹奈がいた世界では俺が指名手配されてるからだ。写真と名前は出回っていないが、あの世界に転移することはできない。というか、今日は企業ブースにしか行かないからそんなに急ぐ必要もないだろうに」
「……指名手配ってなにをやらかしたの……? っていうか、そんな状況じゃ冬◯ミにいけないじゃない!! せっかく気合い入れて髪の毛をセッティングしてきたのに!」
……そういえば、今日の髪型はいつもと違うな。
前にこいつの叔母と一緒にイベントに行った時と同じ感じだ。あの時の服がないからただのロングツインテールだが。まぁ、それを直接指摘してやる必要性は感じないけど。
ちなみに丹奈がガックシと肩を落とす一方で、レンジは真剣な表情でなにやら考えている。
……答えに辿り着いたか……?
「……なぁ、旭。お前は今『俺と丹奈がいた世界では』と言った。これは俺の憶測なんだが……転移できるのは一つだけじゃないんだな?」
「……え?」
レンジの言葉に俯いていた顔をあげる丹奈。どうやらレンジが言っている意味が理解できていないらしく、ポケーっとした間抜けな表情を浮かべている。
それにしても引っ掛けに引っかからずに冷静に分析してきたか。
やはり諜報員は油断ならない相手だな。そういう能力に特化しているのかもしれない。
「お前の言う通り、俺はパラレルワールド……こちらでいう平行管理世界にも転移ができる。一度行った場所なら座標軸を設定することもなく、一切の時差なしで転移することが可能だ」
「やはり、か……。禁忌魔法でそこまでのことができるとは聞いたことがないが、今の話を聞いてもしやと思ったんだ。それに……きぎょうブース……だったか? 聞いている限りだとそこまで深刻な事態に発生しないと思われる。だからこそギリギリまで連れている仲間を寝かしておきたかった。その子たちを起こさない為に俺とニナをこんな空間に飛ばしたんじゃないのか?」
ふむ……。
どうやらこのレンジって男は本当に優秀な人間なようだ。今は亡き女神が用意したとは思えないほど、頭の回転が早い。
レンジの言葉を聞いた丹奈がハッとした顔になり、すぐにバツが悪そうな表情に変わった。
ここまで聞いてようやく理解したのか……? 日本にいた時よりも鈍くなってない?
「まさかここまで優秀だとはなぁ。たしかに企業ブースはよっぽどの企業でない限り、会場限定の商品を手に入れることができる。俺が狙っている企業は毎回豊富な商品を取り揃えているし、始発で行く必要は今のところないんだよ。同人ブースは暇ができたら行けばいいしな」
「いやいや、先ほどまでの話をしっかり聞けばこれくらいすぐにわかるだろう? それを踏まえて……玄関でのことは申し訳なかった。そういうことも予測できただろうに、ニナを止めることができなかったのは【マスターガーディアン】の一人として、この場で謝罪したい」
「あー、それについては大丈夫だ。むしろあの丹奈をあそこまで抑えられる力量には感服したよ。……レンジ、お前を侮っていたようだ。今度対戦する時があれば本気でお相手願いたいものだな」
「ははは……。全力で断る」
俺とレンジはそう言って固く握手を交わす。
初めて会った時はあんなに弱そうに見えたのに、今ではかなりの強者のオーラを放っているようにも思える(個人的な独断)。
本気で戦いたいというのは、嘘偽りのない言葉だったんだが……。いい笑顔で断られてしまった。
「ね、ねぇ……? 私もここにいるんですけど? 結局何時頃に会場に向かうの?」
「お前な……今いい雰囲気だっただろうに。空気読めないのはいつになっても変わらないな」
「ニナ、お前は結論を焦りすぎだ。この場所には時間の流れを遅くする魔法が付与されているんだし、そんなに急ぐこともないだろう」
「レンジは一体どっちの味方なの!?」
俺とレンジの握手を邪魔するかのように割り込んできた丹奈だったが、諭されたことが気に食わなかったらしく、勢いよくソファに座りなおした。
こいつの空気の読めなさは今に始まった事ではないが……そろそろ話してもいいか?
家にやってきた時と比べると多少は落ち着いているようだし。
「落ち着け、丹奈。会場には10時過ぎに着くように動くつもりだ。あぁ、そうそう。日本円に替える手続きもあるから軍資金があるなら一旦預けてくれよ? ソフィアに両替してきてもらうから」
「さすがにお昼過ぎとかじゃなくて安心したわ……。でも、ソフィアさんが両替するの?」
安堵のため息をつく丹奈だったが、両替でソフィアの名前が出てきたことが疑問だったようだ。
レンジの髪の毛を弄りながらそんなことを質問してきた。
……いや、いくらそいつの髪が長いからって三つ編みにするのはどうなんだ?
「ソフィアは神々との交流もあるからな。俺が転移する場所を管理している神に交渉しに行くんだよ。ソフィアは神ではないが、そこらの神よりも位が高いらしいし」
「……本当に旭の仲間は規格外な奴が多いな……。両替については了解した。ニナのお金は俺が預かっている。ここで渡せばいいのか?」
レンジが呆れたような声をだしたが、色々と追求するのは諦めたらしく、素直にお金を差し出してくる。
丹奈は未だに訝しんでいたが、ここはレンジの判断に従うことにしたようだ。
「あぁ、この場で大丈夫だ。……ソフィア。追加の仕事で悪いんだが、丹奈たちの軍資金も日本円に両替しておいてくれないか?」
ーーーー[……戻ってこないと思ったらそんなことになっていたのですか。とりあえず、転移魔法で転送しておきますので早く戻ってきてくださいね? 火照ったままで辛いんですから]
ソフィアの声が頭に響いたかと思うと、レンジが机の上に置いたお金が袋何処かに転送されていった。
これで両替については問題ないだろう。
……それにしても【遅延空間】の効果を付与したからそんなに時間は経っていないはずなんだが。
少しの時間でも待ち遠しいほどに恋い焦がれているのかもしれない。
「お金については出かける時に返す。付与効果【遅延空間】を解除。じゃあ、時間までこの空間でのんびり過ごしていてくれ。あ、でも必要以上に汚すなよ? そういうことがしたいならそっちの専用部屋に行ってくれ。じゃあの」
「ちょ、あーちゃん!? なにいっt」
俺は何かいいかけている丹奈と、すべて納得したような顔を浮かべているレンジを横目に空間の外に出た。
必要事項は伝えたし、付与効果も解除したから時間までのんびり過ごすことができるだろう。
……さて、と。
俺もルミアとソフィアのところに戻るとしましょうかね。
特別編二個目は恒例のコ○ケ編です。
今回はなぜか元カノまでついてきました。
ちなみに作者は29日と30日に参戦予定です。
31日は年越し夜勤なんですけどね……。
次回の更新は……
書けたら30日、無理そうなら1/1or1/2となります