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幼女エルフと始める異世界生活  作者: 朝倉翔
第9章
181/199

特別編−異世界で過ごす二度目のクリスマス−後編

クリスマス編ラストとなります。

「…………なんでここにいるの?」


 少し離れた場所から発せられたその声は、戸惑いの色を包み隠すことなく俺の耳に聞こえてきた。

 まさかこんなケーキ屋で遭遇するとは……と考えたが、今日はクリスマス。

 ダスクの街で会わない確率の方が低いというもの。

 声が聞こえてきた方向に視線を移すと、声を発した主……笹原丹奈はこちらを驚愕した表情で見つめていた。丹奈の周りにはいつものようにイケメンがズラッと並んでいるが……そっちはどうでもいいだろう。


「なんでって……。服飾屋に用があったからお忍びで来たんだよ。ついでにケーキを買って帰ろうと思ってな」


「ーーーーッ!! そうじゃなくって!! 以前あんなことをしたのになんで平然とダスクに来れるのかって聞いてんの!!」


 丹奈は俺がダスクにいること自体が不快に感じたようだ。

 そりゃ騎士のプライドをズタボロにした上、男冒険者達を全員漢女にしたんだからそう思うのも仕方ないかもしれないが……。

 そんなに怒鳴り散らしていると頭がハゲるっていう噂を知らないのだろうか。カルシウムが足りていないと思う。


「誰の頭がハゲるって!? だいたい……だ・れ・の!! せいでこうなっていると思っているのよ!!」


 おっと、心の声が漏れてしまっていたようだ。

 俺と丹奈がこんなやり取りをしているのに、いつも突っかかってくるイケメン達が妙におとなしい。

 というか、俺以外の人物が出てこないか警戒するかのようにキョロキョロと辺りを見渡している。

 そんな時、店内に入っていたはずのレーナ達の声が聞こえてきた。


「パパ、いつまで外にいるの? ケーキを買ってもらおうと思ったのにいつまで経ってもこないし」


「にぃに。ユミね、食べてみたいケーキちゃんと選んだよ!」


「ルミアさんとソフィアさんもなぜかこないし……。って、なんで貴方達がいるのかしら……?」


「「「「ヒィッ!!!」」」」


 リーアの言葉を聞いて悲鳴をあげるイケメン軍団。どうやらやつらが警戒していたのはリーアだったようだ。

 ダスク侵攻の際に見た光景がトラウマになっているのかもしれないが、話が進まないからとりあえずスルーしよう。

 レーナ達もかなり待ちぼうけているようだしな。


「とりあえず、今は敵対するつもりはないからそっちも事を荒立てないでくれないか。ケーキ買ったらすぐに帰るんだし」


「……なら、ケーキを買うまで監視させてもらうわ。というか、私たちもここのケーキ屋に用事があったんだし。レンジ以外は他の物を買ってきて。敵意がないなら私とレンジだけでも問題ないはずだから」


「「「「…………わかった。無理はするなよ」」」」


 電子レンジ以外を別の場所に向かわせたかと思うと、丹奈はケーキ屋の中にさっさと入っていった。

 残された電子レンジはというと、こちらを見やることもなく両肩を竦めて丹奈の後を追っていく。

 ……いや、監視するのに先に店へ入ってどうするんだ?

 なにか目論んでいるのだろうか……


「……旭さん。思うところはあるかもしれませんが、今は店の中に入りましょう。いつまでも外にいたらお店の迷惑にもなりますから」


「そうだな……。さ、ケーキを買いに行こうか。レーナ、リーア、ユミ。どのケーキを選んだか教えてもらえるか?」


「「「うん!」」」


 丹奈と電子レンジが店内に入った後に、俺達も店の中に入っていく。

 レーナ達幼女組は俺の手を引っ張って自分の選んだケーキを教えようと急かしてくる。

 突発的な遭遇でもあったが、今はケーキを買うことを優先するとしよう。


 ▼


「パパ、私が選んだケーキはこれとこれね!!」


「お兄ちゃん、私が選んだのはこの二つ。味とかも考慮してこれなら食べやすいと思うの」


「にぃに、ユミはこれとこれが食べたいの!!」


 店に入るなり、レーナとリーア、ユミの三人がそれぞれ自分が選んだケーキを俺に見せてくる。

 ユミはブルーベリーのような果実を使ったチーズケーキとチョコをふんだんに使ったショートケーキ。

 ユミに関しては本当に今食べたいものを選んだ……という感じだろう。

 小さい子ってなぜかチョコケーキ好きだよなぁ……。俺の偏見かもしれないけどさ。


 ……ただ、問題はリーアとレーナだ。

 種類だけで言えば、リーアはトロピカルケーキとティラミスケーキ。レーナは地球では別名【女神の腕】と呼ばれているブラ・ド・ヴェニュスと生クリームとフルーツ、スポンジ生地を層状に重ねたトライフルと呼ばれるケーキだった。


 いや、レーナはなんで地球の……それも外国のケーキを選んでいるんだ? 多分見た目だけで選んでいるんだろうけど。

 種類だけなら……まぁ、好きなものを選んでいいといったからそれはいいんだが。


「……レーナ、リーア。このサイズはなんなんだ?」


「「えーー?」」


 俺が気になったのはそのサイズだった。リーアが選んだトロピカルケーキとティラミスケーキとレーナが選んだブラ・ド・ヴェニュスは8号サイズ(24cm、ちなみに10〜12人前)だった。いや、まぁ……これくらいならなんとか食べられるとは思うんだよ。

 だが、トライフルだけは別格だった。


「レーナ。このトライフルっていうケーキ……。商品説明に総重量5.5kgとか書いてあるんだが……。まさかこれを食べるのか……?」


 そう、トライフルは……とてつもなく大きかった。

 総重量5.5kgだぞ!? どこの大食い選手権だよ!! 牛丼のキングサイズなら食べきったことはあるが……さすがに甘いものでこれはきついって!

 しかし、レーナはキョトンとした表情を浮かべていた。

 ……まさか。


「…………? そんなに不思議なことかな? パパ、女の子にとって甘いものは別腹なんだよ? パパ以外女性だし、これくらいは余裕じゃないかな」


「そうねぇ……。レーナの言うとおりこれくらいならまだ余裕かなぁ? まぁ、食べきれなかったら次の日とかに食べればいいんじゃない?」


「にぃに……。これ結構美味しそうだね!!」


 レーナの言葉にリーアとユミも首を縦に振っている。

 こんな量を食べきれるのはレーナだけだと思っていたが、リーアとユミも食べられるようだ。

 俺は見ただけで胃もたれしそうになっているのに……。


「えーっと……レーナ達はこう言っているんだが……」


「[ーーーーッ!(ブンブンブンブン)]」


 俺はソフィアとルミアに視線を移したが、二人は話を振らないでくれと言わんばかりに全力で首を横に振った。

 どうやら若い子限定のようだ。……若いってすごいなぁ……。

 まぁ、最悪の場合……リーアが言っていたように翌日に食べればいいか。


「……ルミアとソフィアはケーキを買うか……?」


「い、いえ。さすがにワンホールサイズが三つにあのサイズのケーキでも限界ですから……。これ以上はさすがにいいかなぁと……」


[……私もルミアと同じ意見ですね。さすがにあの量は厳しいものがあります。……クリスマスで出す予定だったオードブルは日を改めた方が良さそうです……]


 話を振られたルミアとソフィアはげんなりとした表情を浮かべてそう呟いた。

 ……うん、俺も同じ気持ちだよ。まさか密かに楽しみにしていたオードブルを諦めないといけなくなるなんて誰が予想しただろうか。

 それにしても完全にフラグを回収してしまった形になってしまった。レーナ達がキラキラした目で見ているから無下にはできないんだけど。


「とりあえずお会計だけでも済ませてきちゃうか。さっさと帰らないと丹奈がまた何か難癖つけてきそうだし」


「私がなんだって!?」


 俺は店内でギャーギャー騒いでいる丹奈を無視してレジに向かう。

 値段は大きさ相応のものだったが、今の俺にはなんてことはない。買ったケーキはすぐさま【無限収納】に収めていく。

 店員がその光景をみて口をあんぐりと開けていたが……。


「……さてっと。ケーキも買ったし、ウダルに帰るとしようか。……あのケーキを食べるために身体も動かしたいしな」


「旭さん、それでしたら私がお相手しますよ。そうですね……。【遅延空間】の中で模擬戦でもしましょうか」


 ルミアの瞳が不気味な光を帯びる。あの瞳は……獲物を狩る目だ。

 ということは、模擬戦と言う名の真剣勝負になるだろう。

 ……【翡翠の鎧】を使わないと痛い目にあってしまうかもしれない。だがまぁ……いい運動になるだろう。


「な、なぁ……丹奈? 旭とルミアさんの間で火花が散っているんだが……? というか、背後になんか見えるんだが……?」


「わ、私に聞かないでよ!」


 電子レンジと丹奈は俺とルミアのにらみ合いに腰を抜かしたようだが、そんなことは至極どうでもいい。

 家に帰った後の予定も決まったし、さっさと転移しようとしたその時。

 ぽふっと俺の腰に抱きついてきたユミは、上目遣いで俺のことを見上げてきた。にらみ合いをやめろと言いたいわけではなく、ただひたすら俺のことをジッと見つめている。


「ユミ……? そんなに見つめてどうしたんだ?」


「にぃに……。ユミ、今思い出したんだけどね……?」


 ユミはそう言うとスマホを取り出してとある画面を俺に見せてきた。

 そのスマホには今年の冬◯ミの写真が映し出されていた。そうか……クリスマスが過ぎたらそろそろそういう季節だったな。

 でも、なんで今更この画面を見せてきたんだ? そう思っていたのだが、ユミはそんなことは気にしていないようだ。


「ユミ、夏は行ったけど……冬も行ってみたいの! この冬◯ミセット……? も気になってて!!」


「もちろん行く予定だったが……って!?」


 俺がユミの頭を撫でながらそう言った瞬間、強い力で肩を掴まれた。

 レーナ達は離れたところにいるから違う。……となると、今俺の肩を掴んでいるのは……。


「……あーちゃん? 今の話は……どういうことなのかなぁ……?」


 ギギギ……ッと首を後ろに回すと、そこには瞳のハイライトを消した丹奈が身体を震わせて立っていた。

 電子レンジはどうしたんだと思ったが、離れたところで腰を抜かしている。

 ……肝心な時に役に立たないイケメンである。


「なんで当然のように◯ミケに行っているの!? 私なんて行ったことがないのに!! 行ったことがないのに!!」


「いや、地球に転移できる魔法があるんだから行くのは当然じゃないか? サークルチェックも欠かしていないし、次で3回目だし……」


 丹奈はあり得ないと言わんばかりに肩を掴んでいる力を強めてくる。……いやまぁ、痛くはないんですけど。なぜか掴んでいる丹奈の方が痛そうな表情を浮かべているし。

 だが、諦めるつもりはないらしく、大声でこんなことを叫び始めた。


「今年の冬◯ミは私も行くからね!! あーちゃんに拒否権はない!! なんとしてでも連れて行ってもらうから!!」


「えー……。元カノであるお前を連れて行くメリットが俺にはないんだが……。それに連れて行ったとしても面倒見ないといけないんだろ……? そんな面倒くさい事したくないんだが……」


「だったらレンジも一緒に連れていけばいいでしょ!? 連れて行かなかったらあることないことを王都で言いふらしてやる! 私と付き合っていた時にしていたこととか!」


「……OK、わかった。今度の冬◯ミは電子レンジと丹奈も連れて行こう」


「……俺は電子レンジじゃなくてレンジなんだが……」


 連れて行くつもりはなかったが、丹奈の目は本気だ。セプテムにあることないこと言いふらされるのは非常に困る。

 そんなことをされるくらいなら連れて行った方がマシだ。電子レンジが何か言っているが、今はそれどころではない。


「……はぁ。面倒なことになったなぁ……。じゃあ、28日にはウダルにある俺の家まで来てくれ。じゃあの。【長距離転移】!」


 俺は丹奈を電子レンジにぶん投げ、レーナ達を回収してから逃げるように転移魔法を使用した。

 何日までにくればいいかは伝えておいたし、間に合わなかったら置いて行くとしよう。

 なぜか家に帰った瞬間、ソフィアとユミを除く三人から模擬戦を申し込まれたのだが……。それはいずれ機会があったら記述しようと思う。


 ちなみにレーナが選んだトライフルは幼年組三人だけで食べつくしてしまった。

 …………若いってすごいなぁ。

イベントが続くため、次回も特別編となります。

ご了承下さい。


ちなみにトライフルはコストコに売っているようです。

気になる方は是非。


次回の更新ですが……。

書けたら29日、書けなかったら30日の更新となります。

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