旭はウダル冒険者ギルドに顔を出す
新たな章に入りました。
今回の章は個人的に書きたかった内容なので、長くなるかもしれませんがお付き合いくださいませ。
ーーーーカランカラン。
「よーっす。王都から戻ったんだが、ブランダル……ギルドマスターはいるかー?」
王都マスラオからウダルに戻ってきてから3日後。
俺は冒険者ギルドに一人でやってきていた。いつもならルミアなりソフィアなりが同行しているのだが、今回は完全に一人きりでの来訪である。
……と言っても、全員用事があって来れないだけなんだが。
「あ、旭さん!? ギルドマスター!! 旭さんが戻ってきましたよーーーー!!!」
レーナ達に目をつけられ始めている受付嬢のお姉さんに尋ねると、ものすごい勢いでギルドマスターを呼びに行ってしまった。
……そんなに驚愕するようなことなのだろうか?
ポツンと一人残された俺だったが、周りの冒険者が話しかけようと駆け寄られる。
「旭さん、お久しぶり。王都で何を依頼されたの?」
「今日はレーナちゃん達はいないの? 一人で冒険者ギルドに来るなんて珍しいね」
「ついに愛想尽かされちゃった? それなら私とかどう? 満足させてあげられると思うけどなぁ〜?」
「ちょっと! 抜け駆けは禁止って決まりごとでしょ!? それにレーナちゃん達にバレたらどうするのよ!」
……なぜか話しかけてきたのは女冒険者ばかりだった。それも美人揃いばかりという側から見たらハーレムと思われるような感じである。
そんな中、男冒険者は歯ぎしりをしながらこちらを睨んでいるだけで、近づこうとすらしてこない。
いや、歯ぎしりするくらいならこっちに来ればいいじゃん。
あれか? 女冒険者のスキンシップがあまりにも過剰だから嫉妬しているのか?
それもそれでどうかと思うが……。
「えーっと、王都に行ったのは国王に呼ばれたからなんだよ。王都近郊にヘルハウンドが率いる群れが出たらしくてな? それの討伐を依頼されたんだ」
「えーーー!? ヘルハウンドってS級の魔物じゃん!!」
「さすが旭君……。とんでもない魔物の討伐を頼まれるのね……。それで? 無事討伐できたのかしら?」
「何言ってるのよ! ここにいるってことは無事に討伐したってことでしょ!?」
「旭のやつ……ついに人間じゃ相手できない魔物まで倒し始めたのか……」
「いやいや、それはいまに始まったことじゃないだろ。むしろあいつを倒せるのってレーナちゃんとかリーアちゃんくらいじゃないのか?」
「実力もあって身長も高くて……同じ人間とは思えないわ」
俺の言葉に女性陣も男性陣も盛り上がりを見せる。双方で盛り上がり方に温度差があるのはきっと気のせいだろう。男性陣の盛り上がりは俺に対する恐怖な気がしなくもないが。
というかさ、さっきからボディータッチ多すぎじゃない?
たわわに実ったメロンなどが俺の身体で形を激しく変えているんだよ。
そろそろ我慢できなくなりそうだから離れて欲しいと思いつつも、現状を変えることができない。
男とはそういう生き物なのだ……。決して浮気をしているわけではない……と声を大にして言いたい。
女性陣にもみくちゃにされながらそんなことを考えていたときのことだった。
「旭君が帰ってきたと報告を受けたのだが!? ……なんで旭君は女冒険者達に包囲されているんだ?」
ドドドドと勢いよくやってきたのは受付のお姉さんが呼びに行ったブランダルだった。
やってきた当初は表情が強張っていたのだが、俺の現状を見るとすぐに困惑した表情を浮かべるブランダル。
どうしてこうなったとでも言いたげな瞳が心を抉ってくるのは内緒だ。
「いや、俺もどうしてこうなったのかわからん。レーナ達と出会ったことでモテ期は終わったと思っていたんだけどなぁ」
「……旭君の強さは桁違いだからな。女性が気になるのも仕方ないのかもしれない……が! そんなところをレーナ君達に見られでもしてみろ! この冒険者ギルドが戦場になるだろうが!! ほらほら、これから大事な話し合いがあるんだから、旭君からさっさと離れたまえ!!」
ブランダルはそう言うと、鬼気迫る表情で女冒険者達を引き剥がしていった。
ちゃんと魔法で引き剥がしているから女性陣もセクハラだとか騒ぐことなく、キャーキャー言いながら空中に放り投げ出されている。
「……ふぅ。これでようやく話ができるな。旭君、幾つか聞きたいことがあるから今からギルドマスター室にきてくれないか?」
「もともとそのつもりできたんだからそれは構わないけどさ。……あれはあのままでいいのか?」
俺は肩で息をついているブランダルを横目に投げ出された女冒険者達に視線を移した。
投げ出されたときは抵抗していなかったが、何を思ったのか床をドンドンと叩いている。
なにやら呪怨のような呻き声を出している者もいるし、男冒険者に八つ当たりしている者もいる。
ある意味カオスな空間になっているんだが、ブランダルは涼しげな表情を浮かべていた。
「ん? どうせ旭君を誘わk……ゴホン、触れなかったことに対して悲観的になっているだけだろうさ。男性陣には悪いが、これもまた冒険者ギルドの日常。気にしていたらきりがないぞ?」
「おい! 今誘惑って言ったよな!? たしかにあの感触はやばかったが、そう言うことをギルドマスターが言うんじゃないよ!」
ブランダルめ……。俺が考えないようにしていたことをどストレートに言ってきおってからに……。
今の言葉を聞いた女性陣の何割か……いや、9割が目を輝かせているじゃないか。
……今度から冒険者ギルドに行くときは必ずレーナ達の誰かを連れて行こう。あの感触は正直捨て難いし、ハーレム状態も悪くはないが……。レーナ達を悲しませることは何事においても優先だからな。
「まぁ、気にするなということだ。早くギルドマスター室に向かうぞ」
そう言いきったブランダルはスタスタと歩いていく。
微妙に納得がいかないが、あまり気にしていても仕方がない。そう考えた俺はブランダルの後を追ってギルドマスター室に向かうのだった。
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「さて、王都での活躍はアルケミスト様から聞いている。まさかヘルハウンドがウルガルムを率いているとはな……」
ギルドマスター室に着いた途端、ブランダルはそう話を切り出してきた。
すでにお茶とお菓子の準備ができていたのは……何も言うまい。
「偵察に出したハイエンジェルによると、魔人族が攻撃を仕掛けるために繁殖させていたらしいけどな。それ以外だとデスワイバーンの群れも王都からそう遠くない場所に巣を作っていた。魔人族からの侵攻も視野に入れたほうがいいのかもしれない……というのがソフィアの見解だ」
「デスワイバーンか……。報告には聞いていたが、そんな魔物が襲ってきたら王都以外は全滅だな。そういった意味では旭君が殲滅してくれてよかったというべきか……」
ブランダルは難しい表情のままお茶を飲んだ。彼の頭ではどうやって対処するべきか思考を巡らせているのだろう。
俺はすぐに話を切り出さずにブランダルが考える時間を尊重してのんびりと部屋の内装を眺める。
「まぁ、それは旭君が提出してくれた書類でなんとかなるのだろう。それよりも……だ。なんで今日は一人で来たんだ? ユミ君のためにお菓子を用意していたんだが」
ブランダルは先ほどまで考えていたことを放り出して、全然関係のない話をし始めた。
……やっぱりこの大量のお菓子はユミ用だったのか。
女神の記憶を乗っ取ったユミはすでに大人な一面もあるから、お菓子だけで喜ぶとは思えないが……。ブランダルからしたら自分の子供と同じくらいに可愛がりたいのだろう。
……まぁ、過度な可愛がりは俺が許さないんだけどな。
「狙って一人できたわけじゃないぞ? レーナは郵政局、リーアとルミアは夕飯の買い出し、ソフィアユミは神界で仕事、ユミは知り合いのいる冥界まで遊びにいっているからいないだけだよ」
「ソフィア君とユミ君の予定が人間にはとても想像できないのだが……。というか、ユミ君は一人で冥界に行ったのかい? 旭君がそれを許すとは思えないんだが……」
俺の言葉を聞いたブランダルはそう言うと、信じられないようなものを見るかの目でこちらを見つめてきた。
男……それもイケメンに見つめられても嫌悪感しかないのだが、そこはグッと我慢する。
「ハーデスがいる冥界とは違う場所だし、そこにいる冥王とは友人なんだよ。男もそんなにいないし、問題はないはず。ユミには世界樹の精霊とやらが友達にいるらしいし」
「ふむ……。ハーデスが統治している冥界でなければ大丈夫か。個人的には世界樹の精霊なる人物が気になるのだが、紹介してもらうことはできないのか?」
「ロリコンの称号が欲しいならいいぞ? ……その後のことはしらん」
「なんで世界樹の精霊を紹介してもらうだけでロリコンになるんだ!? その子はロリなのか!? そうなんだな!?」
ブランダルはそう言うとバンバンと机を叩き始めた。机が叩かれたことで大量のお菓子やお茶が空中に浮かぶ。俺の魔法で空中に固定しておいたが、あのままだったら部屋が汚れているぞ……?
ちなみにユミの友達である精霊はマジで幼女だった。
レーナ達がいなかったら俺も危なかったかもしれない……そう断言せざるをえない容姿だった。
冥王の取り巻きにロリコンと思わしき女性がいたが……ユミは大丈夫だろうか?
「ーーーーふぅ。それはさておき、旭君に聞きたいのは別のことだ」
ブランダルは深呼吸を何度か繰り返した後、真面目な表情に戻って話を進めてきた。
先ほどまでの取り乱し方から一瞬でここまで戻るのはさすがと言うべきだろうか?
そんなことを考えていると、ブランダルは一枚の書類を机の上に出した。
「実は旭君が王都に行った後にゴブリンの巣が見つかったんだ。仕方がないので[マスターガーディアン]に依頼したんだが……」
一旦言葉を区切ったブランダルは呆れた表情でこちらを見つめてきた。
……次に何を言うのかなんとなく予想できてしまった。
そんな表情されてもなぁというのが正直な感想である。
「そのゴブリンの巣だが……旭君が殲滅したんだよな? 笹原丹奈からは上空から見覚えのある隕石が降ってきてオークジェネラルが率いる群れを一掃した……と報告を受けたんだが」
「うん、それは俺の魔法だな。王都冒険者ギルドからの依頼で魔物の殲滅をしていた時に、【気配探知】に引っかかったからついでに殲滅しておいたんだよ。まさか丹奈達が近くにいるとは思いもしなかったが」
俺の言葉にブランダルは深くため息をついた。
……なぜにため息? 討伐できたのなら問題はなくない?
丹奈達にも被害はなかったようだし、ため息をつく理由が思い浮かばないのだが。
「……その顔はどうしてため息をつくのかわからないという顔だな? 殲滅してくれたことには感謝しているが、笹原丹奈のパーティメンバーにトラウマができたらしくてな……」
「いやいや、それは知らんよ。アイツらは【災厄ノ流星群】を間近で見ているはずだし、なによりイケメンがどうなろうと俺の知ったことじゃない」
「……旭君ならそう言うと思ったからため息をついたんだよ……」
俺の言葉にさらに深いため息をつくギルドマスター。
その態度に反論しようとした瞬間、ギルドマスター室のドアが勢いよく開けられた。
「パパ! パパ……!! お願い助けて!!」
勢いよく部屋の中に入ってきたのはレーナだった。
手には封筒のようなものが握られており、握った手はプルプルと震えている。
その勢いのまま俺に抱きついてきたレーナはグスグスと泣き始めてしまった。
「レーナ!? ……すまん、ブランダル。緊急事態だ。報告の続きはまた今度改めて行う。……【短距離転移】!」
俺は抱きついたまま泣いているレーナを抱え込み、ブランダルに一言残してから家に転移した。
ブランダルに報告している場合ではない。家に帰ってじっくり話を聞いてあげないと……。
レーナが持ってきた封筒とは?
そして、そこに書かれていた内容は?
スランプ気味ですが、頑張って執筆したいと思います。
次回の更新は……1週間以内を目安にしたいと考えております。