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魔法少女の外道異界録 5

 「まだ見つからないのか!」

 巨大な講堂のような会議室の中で、誰かが叫ぶ。

 感情そのままに吐き出された言葉。その無作法に対し別のだれかが軽く咎める。しかし、集まっている全員が内心ではみな同意していた。

 史上最凶の魔法使いである『(さかき)那由他(なゆた)』の消滅は、様々な方面で世界に影響を与えていた。

 まず、膨大な数の怪物・怪人の出現である。

 特級の怪物出現による大災害(のちに『魔法使いの悪夢』と命名)により、多数の魔法使いに犠牲が出た。命を失ったもの以外にも、後遺症を負って一線を退いたもの、恐怖により精神を病んだものなど様々だ。それにより、怪物の対処に回る絶対数が激減し、超過した怪物たちの処理に追われるようになった。

 それに加えて、今まで榊が処理していた怪物や怪人の数も圧し掛かる。

 彼女は並の魔法使いが相手できない強力な相手や、大量発生(パンデミック)をほぼ単体で対処していた。そのおかげで、後進の育成などが行えるような無理のない環境が生まれていた。その要が、今は不在であり、強力な歴戦の魔法使いや、複数の魔法使いがそれぞれ事に当たっている状態になっている。

 一応は一線を退いた魔法使いたちが後進の育成に積極的に手を貸しているが、そう直ぐに目が出るものではない。現在、魔法使いは酷い人員不足に悩まされている。

 さらには、抑止力の不在である。

 榊という少女はその圧倒的な実力から、無数に存在する怪物や怪人たちの中からも恐怖の対象とされていた。特に、組織立って行動する存在から見れば、下手に刺激すれば末端から食いつぶしにこられる可能性があり、うかつに動くことが出来なかった。

 実際に、かつて最大規模だった組織は、彼女の逆鱗に触れ戦闘員から裏方、幹部、人質や細胞サンプルに至るまで完全に消滅させられている。一切の生き残りもなく、情報も残っていない。ただ、彼女に滅ぼされたという事のみ判明している状態だ。

 ゆえに、地球で活動する怪物や怪人は、若くして生まれた存在や、自らの力に増長したものたちが殆どであり、ある程度の知能や思慮深さを持ったものは力を蓄えて気を窺う傾向が強かった。

 だが、その抑止力が居なくなった。これにより、今まで息をひそめていた組織が大々的に動き出し、侵略侵攻を始めだした。現在は無数の組織同士の足の引っ張り合いなどによりそこまで勢いはない。だが、これから先もそうであるとは言えない。

 さらには、象徴的人物の不在。

 その実力だけで大量発生などの災害を防ぎ、大侵攻を抑止していた榊は、その言動などの詳細は置いて奥にしても間違いなく魔法使いたちの力の象徴であり、憧れの一人であった。その象徴が突如消えた。それは、魔法使いたちに対しても大きな影響を及ぼし、呆然自失となるものや、後釜を狙うもの、蛮勇を振るうものなどが多数現れる結果となった。

 特に、榊を慕っていた魔法使いたちは、自らがその穴を補おうと無謀な戦いを繰り返し、既に一割ほどが命を落とすか二度と戦えない身体になっていた。それを受け、各魔法使いの裏方である精霊や科学者、組織の長などが集まり、さらに大きな団体を作る形で事態の収拾を図った。

 それは世界樹機構と命名され、魔法使いの大本として日夜出自を問わず怪物などの対応に追われている。今までは横のつながりでしかなかった魔法使い同士が、初めて一つの組織として動き出したのだ。

 とはいえ、それだけの人数が集まった巨大な組織ゆえに不安も多々ある。現在は緊急時ゆえに、魔法使いの出撃や市街の修繕などのフットワークは軽い。そうならざる負えない。しかし、このさき、十分な人材が確保できて組織が安定化してきた場合、権力争いに発展するのではないか。そういった懸念がある。

 とはいえ、それはまだ先の話であり、現状はとにかく手が足りないという状況だ。いまは、世界樹機構は各々の技術や情報交流の場として、派閥を超えて怪物災害への対処を行うため活用されている。決して安定しているとは言い切れないが、少なくともある程度は順調だろう。だからこそ、誰もが思う。

 ―力が足りない。

 数ではない。いや、実際に数も足りてないが、それ以上に組織の象徴となりうる力が足りない。後ろを支えてくれる、安心できる支柱が足りないのだ。

 魔法使いの悪夢を生き残り、成長を遂げた魔法使いも多数存在する。特に、大魔法を見事に制御してのけた、機械仕掛けの双剣士の男や、多数の魔法使いの心をまとめ上げた天使の籠を受けた少女たちの成長は著しい。中小規模の組織であれば、単身で相手どれるほどの実力を身に着けつつある。

 ―それでも、彼らが束になっても榊那由他には及ばない。

 彼らは彼らとして、『絆』や『勇気』としての象徴として世界樹機構は大々的に支持している。実際に、彼らを尊敬し、憧れを持つ魔法使いも多い。実際に弟子入りするものも出るほどだ。

 しかし、彼らが傷つき、苦戦を強いられるたびに、誰しもが無意識に思ってしまうのだ。

 ―もし、榊那由他がいてくれれば。

 どんな強敵が相手でも、どんな怪物が現れようとも、彼女は狂暴な笑みを浮かべてそれを打ち破った。

 島を砕く一撃を貫き、万魔の策略を食い破り、星の数ほどの大群すら塵芥と化す。圧倒的な暴力の象徴が、味方として後ろから支えてくれる。分かりやすい力ゆえにその心強さは、他の英傑たちとは比較にならない。その力の象徴が、今は存在しない。

 だからこそ、世界樹機構の重鎮たちは必死になる。

 特級怪物の最後、超大なエネルギーを消滅させるために彼女が次元転移を使用したことまでは解析できた。ならば、彼女はきっとどこか果て無い時空の先に存在するはずだ。私たちが知る彼女はこの程度で死ぬほど弱くはない。

 誰もがそう考え、必死に行先を探す。普通ならば空間転移すら道具の補助なく行えない。ましてや次元転移なんて暴挙は個人単位で行えるものではなく、次元の壁を開くことすら専用の機械と膨大なエネルギーを必要とするのだ。だが、規格外の彼女にはそんなことは関係ない。少なくとも、世界樹機構の全員がそう考えている。

 「絶対に見つけて連れて帰る!皆にはお前が必要なんだ」

 そう強く心に決め、世界樹機構は榊の探索を続けるのだった。

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