魔法少女の外道異界録 4
宿の部屋で、のんびりと羽を伸ばす。用意されていたのは一人用の簡素なベッド。そこに小さなテーブルと証明だけが存在しており、こじんまりとしていた。必要なものは固有空間に入れているので、榊からすればむだのない部屋は大変過ごしやすく感じられた。
「さてはて、これからどうしますかね。やっぱりこの世界で生きていくのがベターですかね」
お腹も膨れたし、久々にアルコールを摂取して気分もなかなかに良い。異世界に飛ばされたが、元の世界には一切の未練もない。身に着けた魔法がほとんど役に立たないというわけでもない。一人でやっていく分には問題はなさそうだ。そう結論付けて榊は考える。
今の自分は万全とは言い難い。今日はチンピラが相手だったから魔法の実験がてら始末したが、この世界での強さの基準が分からない。それなのに、本来の力を出せないのは好ましくはない。
「そうなると、やはり壊れた魔核を治すことと、制御回路の再生を優先させないといけませんね。けど、霊薬すら効果がなかった以上、新しい材料とレシピを探さないといけないようですし…。どちらを優先させるかも難しいですね」
そうぼやきながら、空になったガラス瓶を手で弄ぶ。あらゆる状態異常や身体的な欠損、不治の病すら治療するといわれる霊薬が入っていたガラス瓶だ。榊はその中身を躊躇いなく一気飲みし、自分の弱体化に対してその効果が発揮されないことを確認していた。
原因は簡単だ。霊薬の効能に対して、榊の状態が悪すぎるのだ。
本来ならば制御回路が僅かでも焼ければ魔法使いは二度と魔法が使えなくなってもおかしくないし、魔核は罅が入っただけでショック死してもおかしくないのだ。もちろん、それを耐え抜いた例外も存在はしたが、そのいずれもが後に一線を退き後方支援へと回っている。そのどちらもを受けた状態で、上限が一気に下がった程度にしか考えていない榊が異常なだけである。
無論、そうやって生き延びたケースに対して霊薬が使用された回数はそれなりにある。それでも、結局は後方支援か引退かと迫られた当たり、結果は芳しくなかったと考えられる。本当の意味での不治の病がこの二つである。
「幸いにも固有魔法は使えるから、あとは材料ですね。霊薬は力不足だけどベースには使えるし、あとはその補強ね。特化すれば何とか自然治癒を促すきっかけ程度にはなるかな」
本来は制御回路も魔核もほとんど自然治癒するものではない。ほんのわずかな損傷や、かかった負担を癒すぐらいならば可能では出るが、破損まで行くと治癒限界を超えているからだ。人体に置き換えるならば、単純骨折などならば自然治癒で放置しておいても治るが、複雑骨折や粉砕骨折まで行くと相応の治療が必要になるようなものだ。
しかし、榊はソレを自然回復させることができた。理由は単純に、破損ギリギリまで制御回路や魔核に負担をかけ続けたからである。そのせいで、自然回復速度やその範囲が増え、結果的に簡単な破損までならば自然回復できるように進化していたのだ。この背景には、常に限界ぎりぎりまで酷使し続けて適応せざる負えない環境に身を置き続けたということがあるわけだが。
ともかく、適応して自然回復できる範囲を増やせたのならば、あとは損傷状況をその範囲まで落ち着かせるか、自然回復の条件を整えて範囲を増やすかすればいい。そう結論付けて方法を考える。
榊の固有魔法は製造や改造に特化している。代わりに、新しい系統の魔法を作り出したりすることは不得手だ。そして、榊は自分が出来ることとできないことを理解したうえで、その中で一番効率が良い方法を選ぶことにためらいがない。ゆえに、オンリーワンが蔓延る魔法使いの中で、汎用魔法とその応用だけで最強の座を掴んだのだ。その自分が、可能性があると判断した。故に、材料さえ見つければ出来る。そう、榊は自分を信じている。
「とにもかくにも素材集めですね。手っ取り早く、いろんな素材を集めるには…」
そこまで考えて思い出す。そういえば、この世界には冒険者という職業がある。ならば、その職業であるならば、未知の材料集めも捗るのではないか。少なくとも、何の手掛かりもないということはありえないだろう。
「となると、今日はもう寝てしまいましょう。夜番は任せますよ」
そう言って固有空間から黒い甲冑を3体取り出して布団に入る。明日は早くから冒険者ギルドへ行って、話を聞こう。
「ドラゴンとかいるのでしょうか。楽しみです」
まるでゲームの登場人物になったようだ。布団の中でそう思い、含み笑いが漏れた