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魔法少女の外道異界録 1

 全身が引き千切れそうな痛み―否、実際に全身は千切れかけている。そんな痛みに耐えつつ、少女は必死に魔法を制御していた。

 自分の中に存在する魔法を制御するための回路が確実にずたずたに千切れていくのが分かる。無茶な魔法のツケで、魔核も罅では済まない状態だ。身も心もボロボロという言葉は、まさしく今の彼女のためにあるのだろう。それでも、彼女は笑みを浮かべつつ、残り僅かになった怪物のエネルギーの消費を続けていた。

 痛みによって精神を乱さないために、すり減っていく制御回路の残りで持たせるために、魔核が砕け散らないようにするために、彼女の精神は今までにないほどの集中力を持って転移魔法の発動に集中し続ける。

 それがいったいどれだけ続けたか。転移魔法中は一切の時間の干渉を受けない。ただ、魔力が必要に応じて消費され続けるだけだ。ゆえに、体感時間はあっても実時間は意味をなさない。そして、彼女はその膨大すぎるエネルギーの消費に集中するあまり、体感時間すら把握しきれてなかった。ゆえに、エネルギーを使い切った場所で一息ついた時、現在の自分の座標を完全に見失っていた。

 自分と一緒にたどり着いた巨大な怪物は、すべてのエネルギーを使い果たし、無数の塵となって砕け散っていった。それを見届けて、ようやく怪物の討伐が終わったと一息つき、絶叫した。

 「ぁ、ァアアアアア!?ィィィィイイ!?」

 度を越えた集中力を用いて無理やり抑え込んでいた転移魔法の反動を、ようやく身体が意識し始めたからだ。割と気に入っていた魔法少女としての衣装も、全身血まみれだ。

 「ち、治癒治癒!」

 魔核に残っていた、なけなしの魔力で身体の傷だけは急いで治療する。今回は転移に使用したのが怪物のエネルギーだったので、魔法の発動分の魔力消費で済んだのが幸いした。いくら魔法少女が頑丈だからって、両手足は千切れかけており、下手すれば衰弱死の可能性もあったからだ。そうやって身体を治療していると、違和感を感じた。

 「魔法の出力が、だいぶ弱まってますね」

 普段なら、発動すれば一瞬で全身が傷一つなく回復するはずの自分の回復魔法。それなのに、ビデオの逆再生のような速度での回復しかできていない。打撲や打ち身などならともかく、千切れかけた体の修復であるならばほかの魔法少女からすれば、それでも十分な速度といえる。それでも、即座に全回復してきた彼女からしたら目も当てられないほどの弱体化だ。

 「魔核の破損…というよりも、崩壊しかかってますね。制御回路も、ほとんど焼き切れてますか。不幸中の幸いとして、肉体的な後遺症はないようですね」

 血まみれの服から魔法で汚れを落としつつ、自分の状態を確認する。魔法使いとしては、中の上程度の実力程度しか出せないレベルまで弱体化している自分に軽く嘲笑を浮かべつつ、他に不備はないかをチェックする。

 「基本能力―使用可能。固有能力―使用可能。固有収納―使用可能。純粋な魔法使いとしてのスペックダウンで済んだのは、まぁ、後遺症としてはマシなほうですかね」

 そう言って、固有収納を使い、何もない空間からグレーのトレンチコートを取り出して羽織る。彼女の少女服は独特であり、フリルやレースなどのデザインは最低限に、ガントレットやフットガードなどの軽鎧にレギンスとジャケットコートという姿である。自分では気に入ってはいるが、同時に魔法少女とはかけ離れているので、平時はトレンチコートを愛用している。常在戦場を心掛けている彼女からすれば、脱ぎやすく隠蔽範囲の広いトレンチコートは絶好の服装なのだ。

 「ところで、ここは何処なのでしょうか」

 一段落したので、周囲を確認してみる。露出した岩肌に、小さな小川。視線を上流に向ければ、10mほどの滝。下流に向ければ、川沿いには無数の木々。どこかの山の中のようだ。

 「間違いなく異世界でしょうから、人が住める環境であるのは大助かりですね」

 最悪、この山の中で篭ってもいい。山籠もりなんて今まで何度も経験している。そう開き直って、これからどうしようか行動指針を立てようとしたとき、どこからか悲鳴が聞こえた。

 「…まぁ、この世界の一人目ですし、助けるとしましょうか」

 普段なら見捨てているところだが、この世界の知識を得たい。そう考え、基本魔法である飛行魔法で声のした方向へと飛んでいく。しばらく飛んでいけば、巨大な怪物に襲われている少女が居た。

 怪物。異形の生き物だ。彼女がそう知覚した瞬間、即座に魔法を放つ。怪物は無数の閃光に貫かれて崩れ落ちた。

 「初めまして。わたしは『(さかき) 那由他(なゆた)』。できれば人里まで案内していただけますか?」

 努めて優しい声色を作って話しかけた彼女の顔は、やはり狂暴な笑みが張り付いていた。

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