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すぐに読める掌編シリーズ

ぬいぐるみのクマちゃん

作者: 長月京子

 ぼくの3さいのおたんじょうびに、ママがクマのぬいぐるみをかってくれた。

 ぼくはクマちゃんとよんで、そのぬいぐるみをかわいがっていた。


 ぼくは4さいになって、ようちえんにいくようになった。

 ようちえんのせんせいはやさしかったし、おともだちもできてたのしかった。

 だけど、ときどきいやなこともあった。


 あるひ、ぼくはようちえんで、サトシくんにつよくたたかれて、ぽっぺたがあかくはれた。

 とってもいたかった。


 ぼくは、おふとんにはいるまえ、いつもクマちゃんに、そのひにあったことをおはなしする。

 クマちゃんはだまって、ぼくのおはなしをきいてくれる。


 つぎのひのあさ、クマちゃんをみると、あしがよごれていた。

 まるでおそとをあるきまわったみたいに、つちがついていた。

 ママにそのことをつたえると、おそとにクマちゃんをつれていってはいけないといいながら、クマちゃんをきれいにしてくれた。

 だけど、ぼくはクマちゃんとおでかけしたことはないんだけどな。


 ようちえんにいくと、サトシくんがおやすみだった。

 せんせいは、サトシくんはけがをしたんだよ、とおしえてくれた。


 あるひ、ぼくはきんじょにすんでいる、ヨウコちゃんにひどいことをいわれた。

 とってもかなしかった。


 ぼくはそのこともクマちゃんにおはなしした。

 おはなしをしていると、またかなしくなって、ぼくはないてしまった。


 つぎのひのあさ、クマちゃんをみると、またよごれていた。

 あしはつちでよごれていたし、おかおも、いろみずをこぼしたようによごれていた。

 ママが、たいせつにしてあげてねといいながら、クマちゃんをきれいにしてくれた。


 それから、ぼくはヨウコちゃんにあうことがなくなった。

 ヨウコちゃんはどこかにおでかけしているのかな。

 そうおもってママにきくと、ママはこまったようなかおしながら、とおいところにいってしまったのよ、とおしえてくれた。


 ぼくはうれしいことも、いやなことも、ねむるまえにぜんぶクマちゃんにおはなしする。

 だけど、あるひ、すこしこわくなった。

 ぼくがクマちゃんにいやなことをおはなしすると、つぎのひのあさ、クマちゃんはかならずよごれている。

 そして、ぼくにいやなことをしたおともだちが、けがをしたり、いなくなったりするんだ。


 もしかして、クマちゃんはぼくのために、よるになるとあるきまわって、

 ぼくにいやなことしたおともだちに、おしおきしているのかな。


 ママにそのことをおはなしすると、クマちゃんがぼくをまもってくれているのね、とわらった。


 おともだちにいじわるされるのはいやだけど、おともだちがけがをしたり、いなくなったりするのはいやだな。

 ぼくはあるよる、ねむるまえに、クマちゃんにおともだちはたいせつだから、ひどいことをしないでねとおはなしした。

 ぼくもできるだけ、クマちゃんにいやなことをおはなしするのをやめるようにした。

 うれしいことやたのしいことだけ、おはなしするようにした。


 だけど、クマちゃんのおしおきはとまらなかった。

 クマちゃんがよごれるたびに、おともだちがいなくなったり、けがをしたりする。

 ぼくは、だいすきなクマちゃんにそんなことをしてほしくなかった。

 だって、ようちえんのマリコせんせいもいっていた。

 たたかれて、たたきかえすのはだめだって。

 いじわるをされたからって、いじわるをしたらいけないって。


 ぼくは、ねむるまえに、しんけんにクマちゃんにおはなしした。

 クマちゃんのしていることは、いけないことだよ。

 おともだちがいなくなると、ぼくはとてもかなしいよって。

 クマちゃんは、だまってきいてくれていた。

 ぜったいに、わかってくれているはずだ。ぼくはあんしんしてねむった。


 つぎのひのあさ、ぼくはがっかりした。

 クマちゃんは、またおそとをあるいたようによごれていた。


 ようちえんにいくと、マリコせんせいがおやすみだった。

 りゆうはだれもおしえてくれなかった。

 ぼくは、クマちゃんのせいだと、かなしくなった。

 だいすきなマリコせんせいを、だいすきなクマちゃんがおしおきしてしまった。

 ぼくは、わんわんないた。

 ようちえんで、ずっとなきつづけていると、いつもよりはやくママがおむかえにきてくれた。


 そのひのよる、ぼくはクマちゃんとおはなしすることもなく、おふとんにもぐりこんだ。

 クマちゃんに、なにをおはなしすればいいのか、わからなかった。

 おふとんにもぐりこんでからも、ぼくはねむれなかった。


 ぼくがおふとんのなかでじっとめをつむっていると、なにかおとがした。

 なんだろう。

 ぼくはそっと、おとのするほうをみた。

 ママが、クマちゃんをだいて、ぼくのへやからつれていってしまった。

 もしかして、ママがクマちゃんをしかってくれるのかな。

 ほんとうはママも、クマちゃんがいけないことをしているって、わかっているんじゃないのかな。


 だけど、クマちゃんは、ママにおしおきをされちゃうのかな。


 ううん、だいじょうぶ。ママのことだから、きっとやさしくしかるだけ。

 おしおきなんてしないはずだ。

 きっとすぐに、クマちゃんはぼくのおへやにもどってくるだろう。


 ぼくはおふとんにもぐりこんでめをつむった。

 ねむろうとしたけど、ねむれない。

 クマちゃんは、もうすぐもどってくるのかな。


 ねむれないまま、ぼくはクマちゃんがもどってくるのをまった。

 だけど、いつまでまっても、クマちゃんはもどってこない。


 もしかして、ママにおしおきされているのかな。

 ぼくはクマちゃんが、ひどいおしおきをされているんじゃないかと、しんぱいになった。


 すぐにおふとんをぬけだして、ママとクマちゃんをさがした。

 おうちのなかをさがしたけれど、ママとクマちゃんはいなかった。


 おそとにでていったのかな。

 ぼくがおそとをさがしてみようかとおもったとき、ドアのひらくおとがした。

 きっとママとクマちゃんがもどってきたんだ。


 ぼくがまだおきていたら、ママにしかられちゃうかもしれない。

 ぼくはママにみつからないように、そっとママとクマちゃんをみにいった。

 クマちゃんはよごれていた。

 そして。

 なんだろう。なにか、においがする。

 なにかがこげたようなにおい。


 なにがあったんだろう。


 クマちゃん。また、だれかをおしおきしてきたの?

 それとも。

 ママに、ひどいおしおきをされていたの?


 むこうをむいているママの、やさしいこえがきこえてくる。


「クマちゃんごめんね。いつも汚しちゃって。

あの子はあなたが悪いお友達や先生をおしおきしているって信じているの。

だけどあの子も、どうしてクマちゃんのしていることがいけないことだなんて思うのかしら。

何も悪いことなんてしていないのにね。

あの子をいじめるお友達や、陰口を叩くママ達なんて、おしおきされて当たり前なのに。

真理子先生だっておしおきされて当然よ。これ以上あの子に変な教育をするのをやめてほしかったの。

あの子があんなに哀しむことなんて、何もないのにね。

だけど、もう大丈夫。

明日から、あの幼稚園には行けなくなっちゃったから。

クマちゃんのおしおきも、これでおしまい。

あの子がクマちゃんを見て、哀しむこともなくなるわ。

ねえ、クマちゃん。良かったね」


 おそとで、たくさんのしょうぼうしゃがはしっているおとが、きこえてきた。

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