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■第3話 5台のケーキ


 

 

 『・・・ュータ・・・、リュータァ・・・・・』

 

 

 

アカリが苦しそうに尚も呟く。


ヒナタはそれを苦い顔で目を背けていたが、しかし、まだその呟きには続き

が聞き取れたような気がして、そっと視線を戻す。

 

 

 

 『・・・ァィツ・・・に・・・・・・・・・。』

 

 

 

 

  (アイツ??)

 

 

いまだ眉根を寄せて眠り続けるアカリの口元に耳を寄せ、ヒナタが聞き返す。

 

 

 

 『誰に?・・・ 誰にどうしたいんですか・・・?』

 

 

 

思わず毛布の上からアカリの肩を掴んで小さくユラユラと揺らしてしまう。

アカリが ”アイツ ”と人前で呼ぶのなど、思い付くのは只一人なのだから。

 

 

すると、

 

 

 

 『ァィツに・・・


  今日中に・・・ 渡して・・・・・・・

 

 

  ・・・ィナ・・・タ・・・・・・・・・・。』

 


  

 

  ( ”ヒナタ ”って言おうとした?!)

 

 

 

確かに聴こえたそれに、『アカリさん? 僕?? 僕に、何??』


ヒナタは少し興奮気味に詰め寄るも、朦朧としていたアカリはまた深い眠り

についたようで反応は無くなってしまった。

 

 

しかし、聞き間違いではないと確信するヒナタ。

アカリは自分に何かを渡そうと、兄リュータの名を夢うつつに必死に連呼し

ていたのだ。

 

 

そこへ、カバンに入れっぱなしにしていたヒナタのケータイがメールの着信

を受けてメロディーを奏で、静まり返った部屋にくぐもって響いた。


アカリを起こしてはいけないと、慌ててケータイ画面をタップして着信音を

止め、急いで内容を確認する。

 

 

 

  ■from:母


  ■遅い時間になってごめんね


   誕生日おめでとう。

 

 

 

母親から送られてきたメールを見て、目を見張りハッとする。


そして同時に、キッチンのシンクにあった洗い物を思い返していた。

 

 

 

 『ぇ・・・ もしかして・・・。』

 

 

 

ヒナタはそっとアカリの部屋を出てキッチンへと向かう。


やはりボウルやヘラなどが洗い桶に浸されているが、心なしか台所まわりが

白く粉っぽい。普通の料理ならばあまり使わなそうなシリコンのヘラや粉ふ

るいがヒナタの胸の鼓動を急速に早めさせる。

 

 

意を決し、恐る恐る冷蔵庫のハンドルに指を掛け静かに開けてみた。

 

 

 

 『コレ・・・・・。』

 

 

 

そこには計5台のホールケーキが詰め込まれていた。

それを1台ずつ慎重に丁寧にテーブルに出して並べてみる。

 

 

よく見ると、チョコプレートに書いてあるメッセージが1枚ずつ内容が違う

ようだ。まじまじとそれらを眺め、ケーキの出来が芳しくないものから順に

並べ直してみた。

 

 

すると、

 

 

 

   ”たんじょうび おめでとう ”


   ”いつも ありがとう ”


   ”いろいろ ごめん ”


   ”これからも よろしく ”

 

 

 

そして5枚目のプレートには ”ひなた だいす ”と途中まで書いて、何が

気に入らなかったのかグチャグチャに斜線で消した跡があった。

 

 

 

 『 ”き ”まで、あと一歩じゃないですか・・・。』

 

 

 

ヒナタが喜びを隠せない緩みまくった表情で俯いて、小さく呟く。それは心

許なく震えて、まるで泣いているように足元にこぼれ落ちる。

 

 

真っ赤に染まった耳に、深夜の静まり返った空気の音がやけに痛かった。

 

 

 


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