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アクトヒーロー出張記  作者: 赤雪トナ
11/11

11 戦い終わって

「これからどうすればいいんだろ。訓練はジャスティーさんがいないとできないし。クリーネ様はこれからなにをするんですか?」

「祈りの間に行こうかなと思っています。一緒に行きましょう、部屋に戻っても暇でしょう?」

「俺が入ってもいい場所なのかな」

「大丈夫ですよ。あの場所は使徒しか入れてはいけない特別な場所というわけではありませんし。使徒が神に祈るのだから特別な場所が必要だろうという見栄から作られた部屋です」

「言い切りましたね」


 トップがそんなことを言っていいのか首を傾げる。


「私はクーライアス様から聞きましたよ」

「神様から見栄だって言われてるんだ」

「神様がそんなことを言っていたというのは秘密ですよ」


 人差し指を口に当てて、ウィンクしてくる姿はとても愛らしいものだ。


「うん、可愛い」


 言葉にして感想を言うとクリーネは照れたように軽く蒼太の腕を叩いて、祈りの間に案内するため先を歩く。

 クリーネに連れられ入った祈りの間は、それほど広い所ではなかった。十畳ほどの広さで、八角形の部屋だ。床には青い絨毯が敷かれていて、白い壁には神たちの旗が張られている。中央には低い台座があり、そこにクリーネが座り目を閉じる。

 祈り始めてすぐにクリーネの体が小さく跳ねる。そしてうんうんと頷いていた。

 端によってその様子を見ていた蒼太は少し暇になり、ゴーレム戦のことを思い返す。

 誰の力も借りずに一撃で倒せていたらかっこよかったんだろうなと思い、脳内でかっこよく倒すシミュレーションを始める。それは今は妄想にすぎないが、いつか実現させることができるかもしれない。

 そのうちクリーネが祈りを終えて、蒼太を見上げる。


「ごめんね、暇だったしょ? クーライアス様とつい話し込んじゃって」

「今日は話せたんだ?」

「うん、伝えたいことがあったんだって。ソウタさんにも初戦闘お疲れさまって言ってたよ」


 クリーネはついでのように言ったが今日の本題はそれだった。

 人に関わる神としては人に害をなすエモールドを倒してくれたことはありがたいことだったのだ。

 しかし蒼太の中では倒したのはゴーレムということになっているため、クリーネはわざと軽めに労りの思いを伝えたのだった。

 ちなみに歪めて伝えることはきちんと了承をとっている。


「神様にそんなことを言われるのは初めてだなー。ありがたやありがたや」


 手を合わせる蒼太をくすくすと笑って、クリーネは祈りの間を出ようと誘う。


「まだ一時間たってないけどいいの?」

「一時間というのは目安で、いつ切り上げるのかは自由なんだよ。さすがに短すぎると駄目だけどね」


 話ながら歩き、食堂に入る。

 まだ昼には早いが、準備が整うまでここで待っていようということになった。


「昼からはなにをしようかなー」

「実戦もありましたし、このまま休んではいかが?」


 給仕が近くに控えているため、使徒モードでゆっくりすることを勧める。


「魔力はすっからかんに近いけど、あまり疲れてはないんだ。このままゆっくりして昼食を食べれば休憩は十分。あ、そうだ」

「なにかやりたいことを思いつきました?」

「買い物って行けるかな? 明日には帰るし、寮の人たちにこちら特有のお菓子でもお土産にしようかなって」

「んー……大丈夫でしょう。きちんと護衛はつけないといけませんが」


 護衛がつくことにいまだ慣れないが、道案内も必要なので頷く。


「お金も準備しないといけませんね。事務の人に言って用意するように伝言お願いします」

「承知いたしました」


 クリーネの頼みに給仕は一礼し部屋を出ていく。


「あ、お金のことすっかり忘れてた」


 うっかりと蒼太は気まずげに笑う。正確には円が使えないということを忘れていた。


「神殿に借りるってことになるのかな」

「いえあなたのお給料から出すことになります」

「こっちでも給料でるの? 日本だけだと思ってた」

「でますよ。出なくても今日の実戦で臨時収入は入ってきます。予定にないことをやったのですから、報酬はきちんと支払われます」


 拘束のため動かされた兵たちにも多少の臨時報酬はでるのだ。倒した蒼太だけタダ働きということはない。

 指示を出した上層部がそこら辺を考えてなくとも、グロードスやジャスティーは出撃にかかった費用も含めてきっちり請求するつもりだ。

 夜に行われるであろう会議のため、今グロードスは費用に関した書類を作っている最中だ。気のすすまない出撃ということの意趣返しもかねて、かかった費用を割り増ししている。

 どんなお菓子があるか話しているうちに昼食ができあがり、それを食べた二人は護衛たちと一緒に徒歩十五分のところにあるデパートで買い物をする。


「お土産用のほかにおやつとしても少し買ってこう。クリーネ様のお勧めは?」

「私ですか?」


 そうですねと若干キラキラとした目でケーキやクッキーやプリンが並ぶ周囲を見渡す。

 甘いものを見て心弾ませるところは普通の女の子だな、と思いつつ蒼太はクリーネの楽しそうな様子を見て楽しむ。


「あれなんてどうでしょう?」


 クリーネが指さしたのは葡萄といった果実をゼリーで包んだ一口サイズの菓子だ。

 ゼリーに果実を入れてある菓子は日本にも存在するが、入れられている果物が地球にはないものもあり、珍しさは十分だろうと考えた。


「じゃあ、あれを……ジャスティーさんにもお土産に買った方がいいでしょうかね?」

「どっちでもいいとは思いますが、買った方が喜ばれるかもしれません」

「いつもの礼として買っとこうか。すみません、三人分くださいな」


 なぜ三人分とクリーネが首を傾げた。


「ソウタ様が二人分食べるんですか?」

「いや俺とジャスティーさんとクリーネ様で三人分。一緒に食べようと思って。だからお勧めを聞いたんですが、迷惑でしたか」

「……ありがとう」


 この礼は演技のままでは失礼にあたると感じ、クリーネは少しだけ素に戻って礼を言う、

 ゼリーが楽しみなのか、予想外のプレゼントが嬉しかったのか、神殿に帰るまで鼻歌を歌いそうなくらい上機嫌だった。

 この後、お菓子を食べ、豪華な夕食を食べ、ボードゲームで遊びといった具合に蒼太たちは穏やかな時間を過ごすことができた。


 ◆


 危険種討伐から約八時間後、城の大部屋に主だった者たちが集められた。

 そこにグロードスと帰ってきたジャスティーの姿もある。加えて二人の王子と王女の姿もある。

 クーゼも入ってきて会議が始まる。クーゼの表情は複雑なものだ。良い情報と悪い情報の両方を受けて、どう思えばいいのか困っていた。


「会議を始める。最初に知らせるべきは危険種の討伐に成功したということだろう」


 このときばかりは皆一斉に嬉しそうな声を上げた。

 いつもこのように息があえばと思いつつ、クーゼは続ける。


「喜ばしい知らせだ。皆が喜ぶように、私も喜んでいる」

「二ホンに協力を要請してよかった! これほどいい知らせは久々です」

「よその世界に協力を頼むのはいい判断でした」


 他力派が今回のことを祝い、成果を誇るように大きく声を出す。それを自力派が忌々しそうに見ている。

 鎮めるためクーゼが一度手を叩く。


「騒ぐのはいいが、喜ぶことばかりではない」

「悪い知らせということですか。どのような話なのでしょう?」

「アジャル・ブラン。パトラー・エイジアス。ディーノ・ティノース。ミラーネ・フェベス」


 次々と呼ばれていく名前は貴族たちの名だ。その名の共通点に首を傾げる者が多数。

 されど呼ばれた者たちは共通点がわかっていた。


「ほかにもいるが主だった者はこの四名。あなたたちは会議のあと私の執務室に来なさい。理由は言わずともわかるだろう?」


 呼ばれた四人はなにも言うことはなく静かに頷いた。


「いったい彼らがなにをしたというのですか?」

「危険種の封印を解いたのは彼らの指示だ」


 貴族たちは一瞬呆けて、一斉に驚きクーゼに呼ばれた四人を見る。

 四人がなにも言い訳しないことで、本当のことだと貴族たちは理解する。


「お前らは! いったい何をしたのかわかっているのか!? よりもにもよって危険種の封印を解くなどとっ」

「あれ一体を封印するまでに一万人以上の人間が死んでいるんだぞ!」

「王都からそう離れていない場所の危険種を解放するなど、王都を壊滅させたいのか!?」


 口々に危険種の危なさを言い、四人を罵る。

 中には危険種解放に関わった者を処刑しようという意見も出た。

 その意見にクーゼは首を横に振る。


「処刑は今のところ考えてはいない。皆も彼らに手を出すしてはならぬ」

「どうしてですか!?」

「どうせ災害種の討伐に失敗すれば待つのは全滅だ。そんな状況で処刑などたいして意味はないだろう。罰を下すのは災害種が滅びたあとだ。それまでの働きで罰の軽減も考えてはいる」

「軽減など甘い処置だと思われますが」

「今回のことで一応彼らにも功はあるのだ」


 どのような功績を上げたのか、クーゼの示すものがわからず疑問顔の者が多い。


「功績は二つ。一つ、フタジマソウタに危険種との戦闘経験を積ませることができた。災害種との対決にあたって、いい糧となると思われる。二つ、ブルーホープの性能について詳細を得ることができた。さらなる性能の上昇が必須だとわかったのは大きい。この二つは対応種や人間との実戦では得られない貴重な経験やデータだ」

「さらなる性能の上昇が早くにわかったというのは、たしかに貴重な情報ですな。ですがそれだけでやったことが帳消しになるわけではありませんが」

「ああ、わかっている。最低でも彼らの引退はやってもらう。家が潰れるか、続くかは今後の働き次第だ」


 この国での貴族は、よその国の貴族と少し立ち位置が違う。

 貴族としての地位を先祖から継いで、領地経営をするというものではない。国土は国家が管理するもので、貴族のものではない。城や地方で国の仕事をやっていなければ貴族として名乗れない。

 貴族になるには基本的に学院に通い、試験に合格する必要がある。

 貴族としての地位は、地球の会社でいうところの出世と似ていて、功績を立てれば上がり失敗すれば下がる。

 封印を解放した彼らの子供が試験に合格できなければ、彼らの家は一度潰れることになる。

 問題を起こした家の子供ということで、合格点が厳しくなるため子供たちは合格に相当な努力が必要になるだろう。

 さっさと処罰を下さないのは、エモールドのことで仕事が増えている今人手を減らして忙しさに拍車をかけたくないからという理由もある。


「四人についての話は以上だ。次は神殿からの苦情申し立てだ」

「苦情ですか?」


 不思議そうにした貴族に当然だとクーゼは返した。


「神殿からしたら予定にないことをやらされたのだ。こちらからのごり押しでな。さらにフタジマソウタへの説明も神殿任せ。苦情の一つもでるさ。例え今回のことで得るものがあったとしてもな」


 神殿としても今回のことで得るものがあったと言いそうになった貴族は、クーゼの最後の言葉で意見を封じられた。


「グロードス神官長、そちらの主張を言うがいい」


 深々と頭を下げて、進み出たクロードスに視線が集まる。


「二つのことを願い申し立てます。一つは今回のことで出た費用を国から支払ってほしいというものです」

「提出された書類だな。少々額が大きいが、詫びも含まれているなら妥当とも思える。それについては了承した」

「女王、費用はいくらになったのですか?」


 財政部署で働く貴族が手を上げて尋ねる。

 クーゼはクロードスが欲する金額を告げた。それに尋ねた貴族はもう少し減らせないかと小さく唸る。


「女王の言うように額が多いようですが」

「今回動かした兵に支払う臨時の給料や怪我の治療費を考えればこのくらいでしょう。危険種との戦いに駆り出されたのです、褒美も補償もないというのは騎士や兵に悪いですから」


 クロードスの言葉に騎士と兵を束ねる団長が反応する。よいかなと前置きして続ける。


「どうして勝手に兵を動かした」

「それについては国軍から派遣されてきたジャスティーの判断です。彼女の口から説明したもらった方がいいでしょう」


 団長はクーゼに意見を聞いてもいいか許可をもらい、ジャスティーに視線を向ける。

 ジャスティーは話す許可をもらったと判断し、クーゼと上司である団長に一礼し口を開く。


「兵を動かしたのは、兵に危険種の動きを止めてもらわなければ、ソウタ君の攻撃が当たらないと判断したからです。まともに戦うには鍛練時間が短すぎました。勝手に動かしたのは急ぎだったからです」

「急ぎでもトランシーバーなどの便利な道具があるだろう」

「危険種が出たと聞き慌てた状況で、冷静な対応を求められても困ります。しかもこっちに対応丸投げして、あとでとやかく言われましても」

「むう」


 対応を神殿に任せたのは一応理由があるのだ。

 まるで接点のない城の人間が説明に出てくるよりは、クロードスやジャスティーといった接点の多い人間の方が説明や説得しやすいと考えての丸投げだった。

 城の者を説明に行かせたら、自力派の人間が行って計画を破綻させるようなことを言ってしまう可能性もあった。


「わかった。今回はこれ以上言わないようにしよう。だが次からはきちんと連絡を取るように」

「次がないことを祈ります。たしかに今回のことで得るものはありましたが、次も上手くいくとはかぎりませんし、ソウタ君への説明も今回と同じことを言えば怪しまれます」


 蒼太に封印されている危険種の討伐を任せようという意見がでないように釘をさしておく。

 何人かの貴族や団長はその考えを持っていたようで、機先を制されたことに反応を見せた。


「なぜ危険種討伐をさせないように言うんだ」

「なぜと言いますか?」

「そりゃ不思議に思うだろう。倒せるだけの力があるんだ、動かすのは当然じゃないか」


 団長の言葉に追従する声が上がる。

 ミレジオリの力では倒すことはできず封印するしかない化け物をどうにかできるチャンスなのだ、放置などありえないというのが団長たちの考えだ。

 それに対しジャスティーは首を横に振る。


「団長の考えはわかります」


 だったらと続けようとした団長の言葉を、ですがとジャスティーは遮った。


「ソウタ君にはそれに付き合う義務などありません」

「いや彼はエモールドに関連した……」

「違います。ソウタ君は災害種に対する切り札であって、エモールドに対する駒ではありません。ましてあなた方に都合よく動く人形でもありません」

「人形などとは思っておらんが」

「そうですか? 今回彼の都合を考えず、動かしたではありませんか。今後危険種とぶつけると考えていましたね? 封印は残り五つ。よその大陸にもあり、移動だけで時間がかかります。彼には彼の生活があるというのに、それを無視してこちらの事情を押し付ける気満々ではないですか」

「だが大陸や世界の平和のためならば、一人の都合は無視されることもあるだろう」

「彼にとっては救う義務のない世界の都合を押し付けるのはどうかと。彼がこの世界の住民ならば、団長の言うことは頷けます。世界を救える力があるのになにもせずにいるのかと。しかし彼は地球という世界の民です。もともとこちらとは無関係の人間で、こちらから力を貸してくれと頼みに行ったのです。災害種だけでも彼の手には余るというのに、さらに厄介事を押し付ける気ですか」

 

 ジャスティーのこの意見は情が移ったが故のものと言ってもいい。同じように団長もブルーホープが動かせれば兵の死亡率が下がるという兵のことを考えての意見だ。

 言いたいことを言いきった様子を見てクーゼが口を挟む。


「そこまで。私も危険種をフタジマソウタに任せるつもりはない。危険種までならこちらの世界でまだなんとかなる。彼に、日本に、力を求めたのは我らの許容範囲を超えた災害種に対する手段を欲したからだ」

「ですが」


 危険種討伐確実な力を前にしてどうしても諦められない様子を見せる団長。


「団長たちは忘れているのか、もしくは考えないようにしているだけなのかもしれないな」

「なにをでしょうか」

「彼には拒否権があるということをだ。団長たちが討伐計画を立てて準備を進めても、彼が一言嫌だと言えばその計画は無駄になる」


 団長たちは、はっとさせられたように動きを止める。

 そしてどこか悔しげに肩を落とした。このまま無理を通せば、ジャスティーたちが拒否権を使わせるように動く未来が簡単に予想できたのだ。

 ジャスティーは拒否権について忘れておらず、クーゼの言葉に頷いている。


「今回の危険種討伐は運が良かっただけと思うがいい。本格的な計画は、災害種が討伐されたのちに考えよ。今一番に考えるべきは災害種なのだから」


 会議は落ち着きを見せて、このあとは荒れることなく進んでいく。

 会議のあとクーゼは呼び出した四人から、封印を解いた事情を問う。封印を解いたのが彼らとはジャスティーが捕えた封印班からの情報で知っていたが、なにを考えて封印を解いたかまでは知らないのだ。


「なるほどブルーホープの価値を下げるためか」


 四人の貴族を前にして、クーゼは溜息を吐く。


「いろいろな考えがあるのは理解している。その考えに反感を抱くのではなく、尊重し互いの考えをすり合わせて組み込み災害種に立ち向かえないのか」

「自分たちの世界のことは自分たちでどうにかすべき。そう思うのです。よその世界に力を借りるという考えを尊重するのは難しくあります」

「自力でどうにかするというその気概自体は、国の治め、この世界に住む者としては好ましいしありがたいのだがな。実際の問題として、魔法が効かない相手にこの世界の技術でどう対抗するつもりなのだ」


 この世界の根幹技術が効果をなさないのだから、異なる技術を持つ地球に助力を求めた。

 それを理解していないわけではないだろうと四人に視線をやる。

 この場には王子と王女もいて、どう答えるのかと視線を向ける。


「この世界の力が通じないと決まったわけでありません。現段階の技術が通じないのです。さらに発展した技術ならば。女王の元にもいくつか計画が報告されているはずです」

「杭計画、超人計画、巨人計画だな」


 ほかに相殺計画というものもあったが、これは多くの反対を受けて既に中止されている。

 この計画で使うものがエモールドを生み出したと言ってもいい。失敗すれば災害種出現が早まってもおかしくはないし、予想がつかない事態を引き起こす可能性すらある。


「この三つはたしかに私の手に届いている。だがどれも問題を含んでいるだろう。杭計画が一番進展が早いが、できあがったとして効果が見込めるかわからん。超人計画は成功したとしても純粋に力不足。巨人計画は場所すら特定できていないし、近々見つかったとして発掘と修復にどれだけ時間がかかるかわからん」

「時間など! 気合いでどうとにでもなります!」

「今欲しいのは精神論からくる発言ではなく、確たる論拠だ。それらと比べてブルーホープならなんとか、そう判断したのだ私は。それら三つを危険種にぶつけるために進めているというのなら反対はしない。会議でも言ったが危険種ならば私たちの力でどうにかなるのだ」

「自力派の計画では災害種には届かないと?」

「もしかしたらという思いはある。だが魔法技術を用いている時点で期待は小さい。話はここまでだ、今後危険種の封印を解くようなことがあれば今度は問答無用で一家処刑だ。わかったら下がれ」


 四人は頭を下げて執務室を出て行った。

 扉が閉まったのを確認しクーゼはムスタを呼ぶ。


「なに母様」

「女王としてお前の名を呼んだ。そのつもりで聞くように」

「わかりました女王様」


 気持ちを切り替えてクーゼを見る。


「あの四人の話は聞いていたな?」

「はい、しっかりと」

「あやつらはお前の日頃の発言を聞き、自力派と考えていた。実際お前はどうだ?」

「私は……表立って言えませんが自分の世界のことは自分でどうにかしたいと。しかしその功績で王になるつもりはありません」

「王を目指していないことはわかっている。問題なのは、はっきりと発言していないのにも関わらず言動の端々から、どう考えているか感じ取られていたということ。自分の発した言葉がどのような影響を与えるか今一度考えるように」

「……わかりました」


 やや俯き気味にムスタは頷いた。自身の常日頃の発言が危険種解放という暴挙の一因になっていたとしたら、たしかに反省すべきだと考えている。


「お母様は自力派と他力派のどちらなの?」


 フィセラが聞く。

 

「それは女王としての私に聞いているのか、それとも個人としての私に聞いているの?」

「んー両方かな」

「女王としてはどちらでもない。自身の力の及ばないことで他人に力を借りるのは当たり前のことだ。頑張って自分でどうにかしようとすることもまた当たり前のことだ。どちらが良いかではなく、彼らの出してきた案のどれが今の事態に効果的か考えて判断するようにしている」

「じゃあ個人としては?」

「他力派。女王となって様々に力の及ばないところを色々な人に助けてもらった私は、今回のことも助けてもらうことが最善と思っているわ。あなたはどう考えているの?」

「私は……他力派かなぁ。困っているときに助けてもらうのは悪いことじゃないと思う。お兄様はどう考えてらっしゃるの?」


 問われたガーランドは少しだけ考え込んで口を開く。


「女王としての母様の言葉に同意する。どんな案でも事態収拾できる可能性が高いものをとる。一番大事なのは気持ちではなく、この国や世界の存続だ」


 王としての教育を受けているガーランドには個人の考えよりも、国家存続を優先する考えが根付いている。

 この意見もそういった教育の影響だ。

 

「女王も兄上もブルーホープじゃなく他に良い計画があれば、その方法をとったのか? それがこの世界の人間のみでできることだったとしても」


 ムスタに問われた二人は即座に頷いた。

 

「今からでもそういった方法がみつかれば路線変更したりするのか?」


 この質問には二人はすぐには答えず、顔を見合わせる。その表情で同じ考えになっていると思い、ガーランドはクーゼに譲る。


「そういった方法が見つかったとしても実現に時間がかかるなら変更はしない。災害種出現に間に合わなけれな意味がないし、間に合うように急がせればどこかでミスが起こる。言っておくが、そういった方法を探していると公言するなよ」

「しません」


 少しはそういった考えがなかったと言えば嘘になる。だが先ほど叱られたばかりだ、こういった発言が混乱を招くとわかっていた。

 その表情から反省していると見抜いたクーゼは女王としての雰囲気を完全に解いて、家族としての時間を過ごそうと三人に笑みを向ける。

 少し距離をとっていたフィセラはクーゼに近寄って抱き着き、ムスタは体から力を抜いて、ガーランドも少しだけ表情に笑みを浮かべた。

 三人ともこういった団欒が母のストレス発散になっていると知っているため、できるだけ付き合うようにしているのだ。


 ◆


 危険種との戦いの翌日、朝食後に蒼太は使っていた部屋を自分なりに片づけて、まとめた荷物を持って部屋を出る。

 食堂には同じく荷物をまとめたジャスティーがいて、クリーネと話していた。


「来たわね。忘れ物はない?」

「ないと思う」

「じゃあ行きましょうか」


 ジャスティーとクリーネは立ち上がり、ゲートのある部屋へと歩き出す。

 彼女たちについて行きながら蒼太は、次に来るのはいつになるのだろうと口に出す。

 クリーネも気になったのか、ジャスティーに目を向ける。


「そう遠いことじゃないわ。次の次の日曜日には来てると思うわよ」

「じゃあ約束のカップラーメンは十日後くらいですね」

「うんっ!」

 

 クリーネを見て言うと、嬉しそうな笑みが返ってくる。


「カップラーメンを買ってくる約束をしてもらったのですか?」

「大好きだって話したら五つくらい買ってくださると。今から来訪が楽しみでなりません」

「女の子に送る品としては華がありませんね」


 苦笑を浮かべたジャスティーだが、クリーネにとっては送られて嬉しい品だから良い判断なのだろうとも思う。

 

「花より団子という年頃なんでしょうね」


 蒼太の言ったことわざにクリーネは首を傾げたが、ジャスティーはそうかもしれないとクスリと笑う。

 色恋を知るのに早いという年頃ではない、でも今のこの可愛らしい姿をまだ見ていたい。ジャスティーはそう思う。

 この考えをジャスティーの両親に知られたら、人の恋愛事を楽しんでいる余裕はないと飽きれられるだろう。

 そしてゲートを前にして三人は足を止めた。


「ここでお別れですね。カップラーメンだけではなく、ソウタ様との再会も楽しみにしています。ジャスティーもお仕事頑張ってください」

「嬉しい言葉です。俺も約十日後の再会を楽しみにしていますよ」

「では行ってきます。クリーネ様も病気になどならぬようお気をつけて」

「世話をしてくれる人もいますからそこら辺は大丈夫でしょう。二人とも今回の滞在は予定にないことが起きて大変だったと思います。ですが大きな災いとなる前に収めてもらえたこと感謝しています。多くの人はそういったことが起きたことを知りませんが、私たちは知っています、感謝しています。ありがとうございました」


 深々と頭を下げて危険種を倒してくれた礼を言う。

 危険種のことは蒼太はわからないが、本気の気持ちは伝わり、照れたように笑う。

 その笑みを見て、感謝の思いは伝わっていると感じたクリーネも微笑んだ。


 蒼太たちがゲートの中に消えてクリーネも仕事と勉強に戻る。

 この数日後に各国上層部から蒼太についての問い合わせや面会したいという連絡が神殿に舞い込む。

 行動はしているものの結果をだせていない者たちとは違い、危険種を討伐してみせた蒼太を一目見たいと考えたのだ。

 その話をクーゼやグロードスは断る。エモールドのことを伏せたまま蒼太を王に会わせる理由がないのだ。

 どうしてもと言う者たちには、面会は災害種を倒してからということにして、今は次の来訪時に遠くからということで納得してもらう。

 本人の知らぬところで期待と注目度が上がる。それによっておかしな考えの者が近寄らないよう、クーゼたちはより厳重な警戒網を敷くことにした。

話に一段落ついたので次は再現使いを更新します

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