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最期の審判  作者: 狗山黒
3/3

 プルートゥスが選んだのは、人として生きる道だった。

 獅子としての生活を知らぬ彼が、突然獅子として暮らせるはずはない。彼には人として生活するほかなかったのだ。

 そうと決まればと、彼は森番として雇われることとなった。

 森には大きな泉がある。もし彼が炎を使用したら、その泉に投げ落とせばいい、そう判断されたのだ。

 父親は反対するどころか、何も言わなかった。

 プルートゥスは確かに独り立ちしてもおかしくはない年齢だったが、それは関係なかった。ローウェルは、息子に殺されることがなくなったと安堵したのだ。

 しかし森番といっても彼に仕事はなかった。プルートゥスがいる限り、この森に領主は来ない。森の管理など、必要ないのだ。

 プルートゥスが森を出ることはなかった。いくら人として生きると決めたとはいえ、人と関わる必要性はなかった。ならば、この森で独り静かに生きたらいい。彼には得意なことだ。

 彼は半分獣であるという自覚からか、ほとんど他の獣を狩ることはなかった。ちょうど、死に際に立ち会った時のみ、獣の肉を食した。

 月に一度だけ、食糧や書物が届けられた。勿論、届けるのは純粋な人。それも、誰も行きたがらないからと、囚人が選ばれた。処罰の代わりだというのだ。彼らは、顔を合わせないように、ノックもせず扉の前に置いていくだけだった。

 プルートゥスのような間の子達は、人に近い者は人として、獣に近い者は獣として生きることを選ぶ例が多かった。

 だが、獣としてある程度経験があるのならともかく、突然獣として生きることなどできず、多くは十二回の満月を見ることなく死んでいった。

 では、人としてなら生きられるのかと言うと、そうでもない。彼らを迫害から守る法などありもせず、ただ虚しく彼らもまた、十二回目の満月を見ることはできなかった。

 その中で、プルートゥスは幸運な方だった。彼はほとんど人に関心がなかったから、他人の動向に左右されることはなかった。

 そのプルートゥスを動かしたのは、死者だった。秘密が暴かれた今、彼は確信をもって、それを死者の声と言う。自分は狂っていないのだと。

 彼の耳に多く聞こえたのは、彼と同じ境遇の者の声だった。恨み、妬み、後悔、憎悪、復讐の念。およそ人には耐えられないような声が彼には届く。

 彼は間の子。冥府の王、死者を裁く者に由来する名を持つ者。しかし、彼は所詮人でしかなかった。

 ある日、彼の前を偶然大きな猪が通りかかった。なんてことはない、いつものことだ。相手もプルートゥスから獣の血を感じるのか襲っては来ない。

 獣は、武器を持たぬ人が敵う相手ではない。しかし彼らは炎に恐怖する。幸い、この森に人は一人しかいない。

 森から獣は徐々に消えていく。国からも人が消えていく。

 泉には、血と肉が漂う。

 プルートゥスに食糧を届ける者はいない。領主、庶民は無論、もはや囚人でさえ檻の中にいることを望んだ。檻、それも国全体が檻に閉じ込められたようだった。

 彼が森に住み始めてから、十八回目の満月が昇った、翌日。

 高く冷たい灰色の空の下、鮮やかな赤が広がる。

プルートゥスは神の目前に

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