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最期の審判  作者: 狗山黒
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獅子

プルートゥスが選んだのは、獅子として生きる道だった。

 彼は人である父が自分を恐れていることを知っていたのである。

 彼には親しい友も、愛すべき家族もいなかった。彼は、人であることに未練などなかったのだ。

 彼は即座に国を追われ、母ヴェネチアの故郷へ連れて行かれた。

 彼をそこへ連れて行ったのは、父ローウェルであった。せめて、と妻の故郷へ連れて行ったのである。親らしいことをしようとした結果であった。しかし、ローウェルは獅子の暮らしを理解してなどいなかった。

 ぽっと出の、間違いなく人の姿をしたものが、獅子として受け入れられるはずがない。

 武器を持たぬ人は、弱い。彼は狙われて過ごすこととなった。

 初めは、まるで獅子としての生活などできなかった。自分を狙う周囲と、空腹と戦い続けるので精一杯だった。

 彼は獅子として暮らしたことは勿論、それを教える母もいない。彼が獅子として暮らすなど、不可能に近かった。

 それでも、本能がそうさせるのか、彼は周囲を見て、徐々に狩りを覚え、獅子らしく生活するようになった。

 そうすると、それまで何の変化も見せなかった外見も変わっていった。剥き出しの肌は体毛に覆われ、人の耳の代わりに獣の耳が生え、尾が生えた。顔つきは獅子のものへと変貌し、立派なたてがみが生える。しかし人であった頃と変わらず、毛色は漆黒で瞳は赤いままだった。

 生活はできるものの、その姿はやはり普通の獅子とは違い、いまだ受け入れられることもなく、彼はノマドとして放浪した。

 そうしていく内に、彼は異形ではあるが、完全な獅子となった。

 この頃には、もう人の心などはなく、炎を操ることも死者の声を聞くこともなかった。

 そうしてようやく、オスのいない獅子の群れに受け入れられた。彼が狩りに出かけることはなくなり、メスが狩ってきたものを食べ、群れのメスを他のオスから守り、全てのメスと子を成した。

 規律を破る者や物好きな者はやはりいるもので、いまだに異種間で番いを結びたがる者もいた。そういう者達は、たびたび森や砂漠を訪れたが、今となっては野生に生きる獣にとって人は敵でしかなく、彼らは大概殺された。

 プルートゥスと群れの最年長のメスとの子が群れを追い出された頃だった。プルートゥスのもとへも、そういう者が訪れた。彼らにとって、それは敵であり食糧でしかない。群れのメスは彼女の喉元に噛みつき、たちまち彼女を殺した。血にまみれ地に横たわる食糧に、プルートゥスはかぶりついた。人の肉は少量で美味しくない、プルートゥスが考えたのはそれだけだった。

 しばらく後、プルートゥスは肉を食べられなくなった。彼が喰らった人の声が聞こえるようになったのだ。

 そうすると、彼が今まで喰らった獣の声も聞こえるようになった。以前は人の声しかしなかったはずだが、それは彼が人の声しか解さなかったためである。今の彼は獅子だった。

 数日食べないくらいで死にはしないが、それも時間の問題だった。けれど食べようとしても、その声が耳元をちらつくのだ。

 しばらくすると、彼は人の心を取り戻してしまった。人の心を取り戻すと、彼の姿は徐々に人に近づいていった。

 しかし、プルートゥスは故郷へは戻れない。

 人は、敵である。

 プルートゥスが選んだのは、人として生きる道だった。

プルートゥスは神の目前に

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