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Mrs.ジャンヌの闇クラブ  作者: 日常
4/7

地下に潜む闇

そして、立ち上がり頭を下げたハイジにセイジは周りに聞こえないよう、小声で彼に言った。

「とにかく話は後だ。まだ店は開いてる、次は向こうの席の客に付け。同じミスはするなよ。」

「はい、すいません。」

「わかったらさっさと行け。」

「あの、セシルさんは、」

「あいつの事はいいっての。」

「はい。」

言われてハイジは次の席に移動した。

軽率に動いた自分を情けなく思いながら、唇を噛み締めて歩く。

危うくやっと見つけた止まり木を無くす所だったのだ。彼にとっては余りにも肝を冷やす行動だった。

「今晩は、新人のハイジです。」

「おぉ。」

だが、それでもハイジは笑いながら次の仕事を始めた。

(やってしまったことは仕方がないんだ。)

ならば、尚更、汚名を返上しなければならない。これは彼が長い長い奴隷生活の中で学んだことのひとつだ。失敗すれば殴られ、蹴られ、何かを間違えばころされる。もし、その中で尚も生かされたならば、もう二度とそんな目に会わされぬよう、飼い主に自分をゴミだと思わせぬよう、生きなければならなかった。

そして、その日、彼は10人もの客を捌いたのだ。これは長年クラブジャンヌで働くミセス達でも、中々に捌ける数ではない。だが、ハイジはそれを新米で在りながらやってのけた。それは十分に彼の汚名を塗り消す物だ。

店の閉店後、ハイジは店内の掃除を申し付けられた。これは新人の仕事であると、セイジの小言を聞きながら店中にモップをかけていく。

「大体あんな奴の世迷い言にキレてどうすんだよ!!そんなんじゃ、いつかマジでヤバいミスやらかすぞ!?お前の世話役は内のNo.1なんだし、もっと色々聞けよ!!だからお前は忍耐力が薄いんだ!!!」

「はい。」

説教が始まってからもう三十分になるだろうか。ハイジと共に店の掃除をしていたフォークがうんざりしたように、モップの江でセイジの頭を小突いた。

「痛」

「いい加減長い。」

「んだよ。お前には関係ねぇだろ?」

「うるさい。こいつは今日ミスしたけど、十分な売り上げにはなってる。あとはジャンヌが決めること。」

「チッ、能面ババア。」

「お節介ジジイ。」

「あ!?今なんつった、てめぇ!!」

「それはそうと新人。」

「は、はい。」

「あんたアバンダイドに金貰ってたよね?」

「はい。」

「それ、ジャンヌに渡しな。」

「は?」

「あんただって、奴隷商に貰ったもんなんて胸くそ悪いだろ。だから貰った袋に名前書いた紙入れて、ジャンヌに渡しな。そしたら、あとでジャンヌが同じ額だけ袋に積めて、別の金貨に変えてくれる。それが内の決まり。」

「・・・・分かりました。じゃあ、あとでジャンヌさんに渡しておきます。」

そう言うと、フォークは無言で頷いて、バケツを抱えて二階へ上がっていった。それに続いて、セイジも奥の廊下に消えていく。

残されたハイジはモップを洗った。そして、カウンターに置かれていた紙に自分の名前を書いて袋に入れ、口を縛った。

(疲れた。)

女の相手を一晩中するのと同じくらいに、体が怠い。1つ溜め息をついた彼はジャンヌを探しに奥の廊下に入っていった。

頭に被っていたウィッグを取る。歩きづらいヒールの靴を脱いで裸足になると、軋む廊下の部屋を片っ端からノックしていった。

(確か、二階には行ってなかったはず。・・・・こんなことしてたらまたセイジさんに説教されそうだ。)

そして、彼は全ての部屋をノックした。だが、どこからも返事は聞こえてこない。それどころか、さっきここに来ていたはずのセイジですら、何処にも見当たらないのだ。

(何でだ?)

彼は不思議に思い、今度は全ての部屋のドアを開けていく。

「失礼します。」

その言葉を繰り返しながら、ハイジはドアを開け続けたが、結局、最後は初めて髪を切った物置小屋にたどり着いた。

(絶対おかしいだろ。)

そう思い、彼はそのまま部屋の中へと入っていった。

辺りを見回し、ガラクタを隅から隅まで調べ回っていたときだ。

「?」

大量に動かした椅子や絵画の下から風が吹き出している。

ハイジは床に膝をついて耳を当てると、拳で二回、床を叩いた。

「地下がある・・・・。」

恐る恐る板の間に爪を入れて、やけに重たい木の床をそっと持ち上げた。

「んん、」

すると、砂埃を上げて開いたそこには、煉瓦作りの階段が広がっている。まるで隠されるかのように存在した場所。ハイジは息をのみ、そして、階段を下っていった。

中は真っ暗で何も見えない。じめじめとして埃の多いい場所だ。壁を伝いながら進むハイジは、長い道を抜けた先に、微かに光が漏れる場所を見つけた。恐らくここに誰かいる。そう思い、ハイジは名を呼ぼうとした。

「ジャンヌさ、」

だが、それは部屋から響いた声に欠き消された。

「ギヤァァァァァァァ!!!」

聞こえてきた悲鳴にハイジは思わず身構えた。頬を冷や汗が伝い、口の中に溜まった唾液を飲み込んで、木製のドアをそっと除き込んだ。

まるで斧で切り付けれたような、ボロボロの隙間から漏れだす光に目を細める。

(・・・・っ、)

そして、光に目が慣れ始めたとき、彼の目に最初に写ったのはセシルだった。

(セシルさん?一体こんなところで何を、)

角度を変えて中を見渡す。すると、そこにいたのはセシルだけではなかった。ランプに照らされた部屋の中には、ジャンヌ、セイジ、スウ、キョウにペティーが立っている。そして、何よりもハイジが目を剥いたのは、狭い部屋の壁際、椅子に縛られ血を流しているムートランドの姿だった。

「っ!!」

中の会話がハイジの耳に入る。

ミセス達の中央にいるジャンヌがムートランドの前で腕を組んで言った。

「いい加減吐けよ。じゃねーと風呂の時間過ぎちまうだろうが。上がって新人にも話さねぇといけねぇことあるし、俺だって忙しいんだよ、ムートランド公爵。」

「貴様っ!!私にこんなことをして、許されると思うなっ!?この女諸とも地獄に送ってやるからな!!餓鬼ごときが余り調子にのるなあ!!?」

叫ぶムートランドは実に見るも無惨な汚れた姿だった。それは数時間前の紳士的振る舞いを忘れさせる程だ。そんな気狂いのようにがなり声を上げるムートランドをジャンヌの隣に立つセシルは勢いよく蹴り飛ばした。

「ぐはっ、」

「内の店長餓鬼呼ばわりするとはいい度胸だな。」

「なんやなんやセシル。今日はやけにご機嫌斜めやなあ。こいつに尻でも触られたんか?」

「うるさい。」

「図星なんや。」

キョウがセシルをからかうと、周りも話始めた。

「んなことよりセシル!!てめぇ、あいつの世話役ならもっと責任持てよ!?今日マジでやらかしそうになったんだからな!!」

「ジャンヌが勝手に決めたことだ。俺は知らない。」

「いけませんよお。ちゃあんとお世話しないとお、店長の指示に背くことになっちゃいまあすう。内のルールは守らないとお。ねえ?スウ?」

「そんなことより僕がやっていい?いいよね?ねぇ、僕のお願い聞いてくれないの?僕がお願いしてるのに?ダメっていってもこの人はぼくのだよ。大丈夫、ゆっくりゆっくり手や足にナイフを入れて、一晩中遊ぶたけ。情報もちゃんと言って貰うから。いいでしょ?店長?」

「ダメだ。お前この間俺の許可なく勝手に10人以上やっただろうが!!今日は俺がやる。」

「ふざけんな。お前だって先月から立て続けに5人やっただろう。今回は俺が」

「セシルは尻触られたくらいで感情的になりすぎやねん。今回はわいらの三人の中で決めるさかい、お前らは頭冷やして来いや。なあ?ペティー?」

「そうですねえ。今回は僕がやっておきましょおかあ。こんな日は僕の仕事が多いですしい、セイジはハイジのお世話がありますからねえ。血の匂いでばれるといけないからあ。」

「何で俺なんだよ!?もう絶対世話なんかしねえから。」

「「とか言ってするのがお前だよなあ。」」

「うるせぇ!!」

「よし、ペティー。あとはやっとけ。」

「はあい。」

「早めに済ませて風呂は入いれよ?明日も仕事がだからな。」

「はあい。店長。」

そう言って、ペティー以外の5人がムートランドから背を向けると、ペティーはスカートを持ち上げた。フリルのついた布地の下には、ペティーの足に大量に取り付けられた刃物が見える。その中の何本かを手際よく取り出した彼は、背中越しにも分かるほどの黒い笑みで表情を満ちさせた。

「さあ?始めましょお?」

「ギヤァァァァァァァァァァ!!??」

部屋の中の光景に、ハイジは口を押さえてのけ反った。

(何だこれ!一体何なんだこの店!?見たなんてばれたらどうなるか、)

そう思い、ハイジはその場から逃げるため、後ろへ一歩ずつ下がっていった。だが、運の悪いことに彼は、煉瓦間の隙間につまずいた。

「わっ!」

膝を擦りむき、肘を打つ。

「!!誰だ!!」

叫んだジャンヌは彼の音に気がつき、勢い良く部屋から飛び出してきた。床に突っ伏しているハイジはドアの中から溢れ出した光に目を細め、驚いた顔をしているジャンヌの姿に身を震わせる。逃げ場をなくした彼はジャンヌの口が開く事が何よりも怖かった。

「見たか?」

「あ、俺、何も、」

「・・・・。そんなビビんなって、別に何もしねえから。ほら?」

そう言って、ハイジの方へ歩み寄り、膝をついたジャンヌは彼に手を差し伸べた。だが、ハイジは余りの緊張にその手を取ることが出来なかった。

ジャンヌは困ったように頭を掻き、それからハイジの擦りむいた足に自分のハンカチを巻いていく。

「怖かったな。ごめん。お前にもあとで話すつもりだったんだ。嘘じゃねえよ?でもまさか来ちまうなんて、ごめんな。」






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