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友葉学園シリーズ

【友葉学園】オトコの娘はご都合主義。

作者: 田中 友仁葉

主人公は乙姫 心くん。女の子系男子です

下駄箱の手紙を片手に僕は一つ括りにした長い髪を揺らして、校舎裏へ向かう。


「……どうしたの? 何か言いたいことがあるって」


「……あー、そのさ……乙姫、す、好きだっ! 俺と付き合ってくれ!」


校舎裏とはベタな上、まごうことなき純粋な告白。しかし、それも数秒と持たずに散ってしまう……


「……えっとごめん、何か勘違いしてると思うんだけど」


「……あ、いや……ううん。どうせうまく行かないとも思ってたし……」


「いや、そうじゃなくてさ……」


そして、ゆっくりと告白された僕は告げる。


「……僕、男です」


もうこれで4回目だ。


…………

……


「で? そのあとどうなったんだよ」


「証拠に下まで見せる羽目になった」


「はははドンマイ」


僕と相手のどちらに言っているのか分からないが、友人の亀谷(かめたに) (しゅん)は3-C教室での俺の話題に苦笑いを浮かべた。


「なんでだろうな。僕、制服を見れば男子って分かるはずなんだけど……」


「……それでも賄えないものがあるんだと思うぞ」


亀谷は僕の姿を見ると、女子と見比べていた。


「……やはりぱっと見、性別的な違いはないよな」


「そんなことないだろっ!?」


僕こと乙姫(おとひめ) (こころ)は名前負けしないと言わんばかりに女子と思われる。

確かに柔道部で屈強な亀谷と比べれば身長が低いし、性格や趣味も女々しいし、比較的声も高いけど、制服とか喋り方で男だと思わないものかな?


「じゃあ何だよその胸は」


「あー。僕、食べると肉が胸に行く体質なんだ。ほら男でも太ってる人って胸あるじゃん。あれの胸オンリーバージョン」


「なんだよそれ」


……なんだ? 急に女子の目が変わってみえる気がする。

試しに胸を寄せて上げてみると、今度は男子勢から「おおっ」と歓声が上がった。


「……触るか?」


「触らねえよっ!?」


「……その気はないのか、良かった」


「……お前、筋肉=ゲイとか思ってるタイプじゃないだろうな」


ソンナコトナイヨー。


「そもそもお前さ、好きな女子とかいんのか」


「……さ、さあな」


「いるのか」


「……いるよ」


その瞬間亀谷はホッと息を漏らした。なんだお前も僕をゲイ扱いしてたのかよ。


「……誰だ?」


「い、言えるわけないだろ!」


「ちなみに俺は谷川さんだ」


「とことん卑怯だなお前」


仕方ないので、声を小にして告げる。


「……裏島さんだよ」


「おい裏島〜」


「なにー?」


「おいこら」


裏島さんは僕の顔を見ると不思議そうに笑った。


裏島さんこと裏島(うらしま) (ゆう)さんは一見天然にしか見えないが、本当はとてもしっかりしていてクラスのことを第一に考えている女の子だ。美人だし、加えて言うと身長も僕の方が1cm高い。


「ご、ごめん裏島さんなんでもないんだ」


「……そうなの? 乙姫ちゃん」


ちなみに乙姫ちゃんというのは女子の間での僕のあだ名だ。


「私、乙姫ちゃんのお願いならなんでも手助けするよ?」


「ほ、ほんとっ!?」


「うん、お友達だもんね!」


さいですか。


後日知ったことだが、谷川という生徒は居なかった。どうやら亀谷のデマカセだったらしい。腹立つ。


*****


放課後、亀谷は部活があるため僕は一人で帰ることにする。


クラスの何人かの女子に帰ろうと声をかけられたけど、少し照れ臭いので断ることにした。もちろん裏島さんに関しては言うまでもなく誘う勇気がない。


僕は帰り道に通る商店街のディスプレイに映る自分の姿を見てため息をついた。


「……どうしてこんな体なのかな」


歩いていると女子と思われ、話をすると小学生だと思われるこの体躯。

さらに言うと、かなり筋肉の付きにくい身体で肉ばかりが付く。


僕は自分の胸を揉みながら、もう一度深くため息をついた。


「姫ちゃん、ついに自分に欲情したか」


「のわわわわっ!? 鶴沢っ!?」


「驚くことないだろ。お前の家の隣なんだから、帰りくらい同じだっての」


突然後ろからヌッと出てきた鶴沢こと鶴沢(つるさわ) 美影(みかげ)は僕の幼馴染で、二人とも友葉学園に通うことになり偶然にも同じマンションの隣同士になった……そんな関係だ。こんな喋り方だが中身も外身も立派な女の子だ。


「こ、これは僕を見てたんじゃない」


「じゃあなにを見てたんだよ」


ディスプレイを見ると、その中には大きなテディベアが置いてあった。


「……」


「……」


「……可愛い、買おうかな」


「マジかっ」


僕はファンシーショップで店前のテディベア(5200円+税)を買うと鶴沢と帰路に戻った。


*****


「持ってもらって悪いな」


正直なところ空手部の鶴沢は僕よりもガタイがしっかりしており、亀谷と身長が変わらないと思われる。

僕が両手で抱えてたテディベアも彼女の場合は脇に抱えるだけで済んでいる。


「いや、構わないけど……姫ちゃん本当に女みたいな趣味してんな」


「それは自覚してるよ」


僕は苦笑を漏らすと、鶴沢はため息をついた。


「姫ちゃんさ、それでいいのかよ」


「もちろん良くないとは思ってるよ……でもさ、性格なんだから仕方ないよ!」


「おおっそこで開き直るのか。流石だな」


そう言うと鶴沢はテディベアを抱えたまま僕の両脇を掴んで持ち上げた。


「うわっ!?」


「ほら、高い高いだ」


「……流石にプライドが折れるよ」


「だろうな」


鶴沢はハハハと笑うと僕の体を地面に降ろした。


「ん? どうした姫ちゃん、顔赤いぞ?」


「お、女の子にこんなことされて恥ずかしくないわけないだろ……。そもそもこんなにベッタリ異性と触れるなんて……」


「……あー。そういや姫ちゃんは男だったか。悪い悪い、たまに忘れるんだよ」


「ひでぇ……」


それでも幼馴染なんだよなぁ……


*****


夜、まさかのお湯が出ないトラブル。とりあえずオーナーに電話をかけるが業者は翌日まで来られないらしい。


「……風呂どうしよう」


確かに一日くらいは我慢できるが……なんかヤダ。

水で我慢をするとしても今の時期に水風呂は自殺行為だ。


「……仕方ない、銭湯に行くか」


「と言ったところでどうなるか見えてるぞ」


「なっ!? お前なんで僕の部屋に上がってんだよ!?」


「お前とはひどいな、鶴沢だ。美影ちゃんと言ってもいいぞ? 姫ちゃん」


僕は水道から水を出すとピャッと指で弾いた。


「キャッ!! 冷たいな、何すんだよ」


「他人の部屋に勝手に上がって文句言わせてくれないくせに文句言うな。ほらほら」


ピャッピャッ


「や、やめろぉ〜……」


そろそろ可哀想になってきたのでやめる。


「っていうか、僕が銭湯行くと何か問題があるのか?」


「あるだろ。まず番台さんはお前を初見女だと思うぞ」


「うぐっ……」


確かに。


「んで、女湯に行くとする」


行かねえよ!


「するとどうだ。お前の股からウィスカーパッドが!?」


「ならないように男湯行くよ!」


「どうやって行くんだ? その胸だろ」


たゆんと揺れる僕の胸をプニプニ押さえながら鶴沢は告げる。


「……しまいにゃ、爺さんに掘られるぞ?」


「ほ、掘られるぅ!?」


「ってか気になってたんだが、お前掘られたことないのか?」


「ね、ねえよ!」


僕は悲鳴に近い反論をして、ゼェゼェと息を吐く。


「ってか鶴沢の部屋は大丈夫なのか?」


「ああ、暖かいぞ? よ、良かったら風呂使うか……?」


「……それを先に言ってくれよ」


僕は鶴沢に断りを入れると風呂を借りることにした。


*****


鶴沢の風呂は……特に変なことは無かった。というかマンションの隣の部屋なんだから作りは一緒に決まってる。


「……あちち」


なかなかの熱さだ。鶴沢は熱めが好みらしい。


「……ふぅ……」


『姫ちゃん、大丈夫か?』


ガラス戸の向こうから籠った声が聞こえてくる。


「大丈夫だよ」


「そうか」


「ぬぉわああああああああっ!!? なんではいってるんだよぉぉぉぉおおおっ!?」


ガラッと音がしたと思えば、扉の方には裸体の鶴沢が立っていた。湯気さん仕事してください。


「うるさいなぁ、お前も女にチ○ポ生やしたようなもんだろ。ふた○りじゃないか」


女の子の口から『ふ○なり』という言葉が出るとは思わなんだ……。


「ってかお前本当胸デカイな。それで男って言うんだから恨まれるだろ」


そんなことを言うが鶴沢もかなり胸はデカイ方だ。本人曰く「私のは8割胸筋みたいなもんだから楽しくない」とのことだ、それを言うなら僕の胸だって楽しくない。


「ほら、一緒に入ろうぜ」


「なっ、ちょっと、狭いって」


「いいから。おーお前の逸物が尻に当たってるぞ当たってるぞ?」


「当たってねえよ! それ、膝だよ!」


わちゃわちゃしながらも体躯の違いのせいで普通に湯船に二人とも入った。


「……おいこっち見ろよー」


「で、出来るわけないだろ……」


「なんだよつまんねぇな……そうだ」


すると突然鶴沢は僕の両肩を持つと自分の方へ引き寄せた。力で対抗出来るわけもなく僕は鶴沢にもたれる形になる。もちろん背中には吸い付く二つのゴム毬が……


「や、やめろぉぉ!!」


「ほら抵抗しろ抵抗しろ」


というよりも抵抗してるのだが、全く歯が立たない。


「……くんくん」


「か、嗅ぐなぁぁ……!」


鶴沢は頭の匂いを嗅ぎながら肩から胸に手の位置を変える。

そして、その手をムニィと肉に沈み込ませた。


「やっ……あっん……だめ……んんっ……」


「おー、胸は男の方が感じやすいというが本当なのかもしれないな」


「ふっ、ふざけんなっ!!」


僕は身体を捻らせると後悔しながらも思いっきり鶴沢に殴りかかった。

しかし、ペチッと言う軽い音と一緒に簡単に左手で受け止められてしまった。


「ほらほら余計なことするから動けなくなっただろー?」


そうニヤニヤしながら言うと鶴沢は僕の耳をぴちゃぴちゃとしゃぶりつき始めた。


「ひゃん……そ、そんな……ああんっ……う、うそ……そんなとこ……らめぇ……」


「……ちゅぽ……うぃー、お疲れさん」


「あっ……あっ……」


「……なんだどうした?」


鶴沢は戦意喪失した僕をみて、半分心配した声で聞いてきた。


「……ばか」


その後、僕は体内の血液が下半身から離れていくまで少しの時間を要した。


*****


風呂から上がると僕は致命的なミスに気がついた。


「そういや姫ちゃん、着替えは?」


「……」


「まさか忘れたのか? 良かったら……」


「い、いいっ!! 隣だし大丈夫……」


そう言いながら扉を開けるとヒュオオオと冷たい夜風が舞い込んできた。


すぐさま閉める。


「……一応普通のジャージもあるぞ?」


「い、いい。僕だって男だ! このくらいの寒さ堪えてみせる!」


僕はそう気張るとタオル一枚で外に飛び出した。


…………

……


……数分後


「どうして戻ったんだ?」


「鍵が効かなくて……」


僕は声をあうあうと震わせながら答えた。


「……とりあえずコーヒー入れてやるからこっち来い」


「アイス?」


「そこまで鬼畜じゃねえよ」


*****


鶴沢がオーナーに電話したところ、鍵があればすぐに直せるとのことだった。


「すぐってどのくらい?」


「喜べ。明日、朝一番にしてくれるということだ」


「……おせぇ」


僕はコーヒーにミルクとガムシロップを入れまくった代物を口から離すとテーブルに項垂れた。


「……よ、良かったらでいいんだが……うちに泊まらないか?」


不意に鶴沢が提案してきた……が


「やだよ。また風呂みたいにめちゃくちゃする気だろ」


「し、しねーよ!!? バカ言うなっての」


「そもそも風呂入ってくんなよ……鶴沢は別に男がどうとか気にしないタイプなのかもしれないけど、もし他の男だったら危険だし止めておけよ」


「なっ……ひ、姫ちゃんにしか……あんなことしねぇょ……」


急に顔を俯かせて真っ赤になる鶴沢。まあ済んだことだしもういいか。


「仕方ないか……じゃあ泊まらせてもらうことにするよ。……でも何もしてくるなよ」


「ほ、本当か!」


突然僕の両脇を抱えて高い高いをしてくる鶴沢。だからそれはやめろ。


……まあこういった『他の人を家に泊める』といった経験があまりないのかもしれないし、テンションが上がるのも無理ないか。

実際僕もこんなの小学生以来だしな。


*****


僕は鶴沢から借りたサイズの合わないジャージを着ると、背伸びをした。


「じゃあ僕はリビングで寝るから」


「……は?」


「いや、『は?』じゃないでしょ。別に寝るだけなんだから鶴沢の部屋に行く必要はないだろ。ソファ借りてそれで寝るよ」


ムカつくことにこのソファ、僕が寝転がっても収まる大きさだし。


「……そ、そうか……はは、分かったよ……」


そう言うと、鶴沢は自分の部屋に戻って行った。

……まあいいや、明日は早起きして部屋開けてもらってからサッサと授業の用意しよう。


…………

……


数分後、扉が開き鶴沢が入ってきた。


「……ん? どうした、鶴沢」


「俺もここで寝る」


「なんでっ!?」


「暖房が勿体無いだろ。それにお前が部屋にくる必要がないって言うなら、俺が寝る場所決めるのも自由だ、ここは俺の家だ」


急に饒舌になる鶴沢。ほんのり頬が赤くなっているようだが、まだ風呂の熱が抜けてないのだろうか……まああんだけ動けば暑くなるか。


「というわけで、俺はここで寝るけど気にすんな。暖房ってめっちゃ光熱費食うんだからな」


「……それは僕も一人暮らしだから分かるよ」


「暖房の所為だからな、別に私がお前と一緒の部屋で……出来ることなら一緒の布団で寝たいなんて思ってないんだからな!」


「……なんだよそれ」


僕が訳が分からず訪ねると、不貞寝するように鶴沢はフンと布団に潜り込んだ。


「……よくわかんねえ奴だな」


俺はそうボヤくと、鶴沢から借りた毛布をかけて眠りについた。


*****


深夜、不意に目が覚める。しまった。こんな時間に起きたら早起きなんて出来ないじゃないか。


「……こいつ異性と一緒っていうのによく眠れるよな……」


見た目の割に寝息はスピーと静かな鶴沢を見下しながら呟く。


そういえば鶴沢は昔から僕にベタベタしてたな。その頃はまだ全然身長も変わらなくて、力の度合いで言うなら僕の方が上だった。

中学校に上がって、鶴沢のことを苗字で呼び始めてから変わった気がする。

なんか空手やるとか言い出して、そしたらすぐにあいつの方が身長高くなって……


まあ今と昔では鶴沢はまるで別人だ。


そんなことを思ってると、突然鶴沢はムニャムニャと寝言を言い出した。面白そうなので耳を澄ます。


「ムニャ……こころちゃん……」


僕の名だ。

寝言だが、こうして下の名前で呼ばれるのは小学校以来かもしれない。


「……こころちゃん……すき」


「……うぇっ!?」


あ、危ない、つい声が出てしまった……。ま、まあ嫌いじゃないってことだろ。

うん、友だちとして好きってことだ。


「……でも……」


……でも?


「……でも、こころちゃん……好きな子いる……から……」


なっ!? バレてたのかよ!

というか……鶴沢、まさか俺のことが?


*****


「……」


翌日、予定通り早く起きることに成功した。

オーナーさんに鍵を開けてもらい学校の用意をすると、僕は朝ごはんも食わずに学校へ登校した。


そして、早すぎて誰も居ない教室に一人、僕は席に着くと一人考えることにした。


(……鶴沢は僕のことが好きらしいが僕が裏島さんのことが好きなことを知っているから、そのことを口に出せなくなっている訳で)


なら僕自身はどうだろうか。

鶴沢とは別に普通の良い幼馴染として思っている。


「……よくこの格好を弄られるけどな」


自分で苦笑しながら胸を触る。


今日は髪は櫛でとかしてゴム一つだけで結んだ程度のため、そんなに凝ったことはしていない。


というよりも、寝言を聞いてからまともに鶴沢の顔を見られなくなってしまったのが大きい理由だけど……。


「……うううぅ僕は一体どうすればいいんだよぉ」


「……お、乙姫? 大丈夫か?」


突然の声に反射的に顔を上げる。そこには亀谷の険しい顔があった。どうやら、もうだいぶ時間が経っていたらしい。


「……亀谷」


「なんだ」


「僕さ。……恋の分岐点に立ってるんだと知ったよ」


「……何を言ってるんだ」


正直僕もわかんない。


「なあ頼む。……もし……もし僕が誤った選択をしていたら……」


「していたら?」


「僕と付き合って、僕を女の子にしてくれ」


「……やだ」


ですよね。


…………

……


「……ってことなんだよ」


「なるほどな。 ……で? お前は裏島と鶴沢とどっちが好きなんだ」


「そりゃあ裏島さんだけど……鶴沢も女子としては悪くないし」


「個人的には鶴沢と付き合った方がいいと思うぞ。 体躯的に釣り合いが取れるが、裏島とお前は友達以上に行けない気がするし。容姿的な理由でな」


「……容姿なぁ」


僕は窓に映る自分を見る。

女の子みたいな顔に長い髪の毛、華奢な体に膨らんだ胸元。ただ制服だけが男である。


「これだと付き合うというか可愛がられそうだな、お前」


「……それはそれで本望かもしれない」


そもそもなんでこんな体なんだよ。

僕だって本当は亀谷みたいにたくましく生まれたかったよ。


「……僕は亀谷が憎い」


「……悪かった、許せ」


「うわああん! どうすればいいんだよぉ」


「ど、どうしたの乙姫ちゃん!?」


僕の悲鳴に心配してくれたようで裏島さんがこっちに来た。

なんてタイミングだ……


「……ううううう裏島さん」


「乙姫ちゃん大丈夫?」


「……ふにゃあ」


僕は頭が沸騰して椅子から崩れ落ちた。


*****


「姫ちゃん大丈夫か?」


「……鶴沢……? ここは?」


「保健室だ」


ふむ、どうやらここまで運んでくれたらしい。


「ったく、勝手に家出て行くんじゃねえよ。ってか朝飯くらい食えよ」


「……はぅああぅっ! つ、鶴沢……!」


「ん? どうした?」


ふと蘇るあの言葉。


『……こころちゃん……すき』


ううううううう……


「いいいいああああああ……」


「こ、今度はなんだ!? 熱か?」


すると、鶴沢は僕の頭を持つと自分の額と重ねてきた。


「……っっっっっっ!!!」


「あ、熱いぞお前! 風邪だろ!」


「か、風邪ちゃうわ! ってか、なんで鶴沢がいるんだよ! クラス違うだろ!」


「俺が頼んだ」


シャッと音を立てて開くカーテンに立っていたのは亀谷と裏島さんだった。


「……はぁ、仕方ないな。乙姫、お前の気持ち二人にバレることになるが代弁してもいいか? その方がお前も楽だろ」


「……この際仕方ないか」


「ああ、悪いな。……裏島、鶴沢、聞いてくれ。あいつがどうしてああなってんのかという理由を」


…………

……


……………………


「……ひ、姫ちゃん聞いたのか……」


「乙姫ちゃんが……私を?」


僕は何も言わない。それで肯定として伝わるだろう。


「……こいつ、乙姫はこんな成りでも男なんだ……ただの男には重すぎる問題かも知れねぇ。……でもよ、乙姫……ここからはお前が決めろ」


「僕は……」


……

…………


予鈴だ。


「……続きは後にしない?私のメンタルも持ちそうになくって……」


「そ、そうだな」


「……鶴沢」


「……最後に言っておくと、俺は姫ちゃんの自由な選択が最高の選択だと思ってんだからな」


……重いよ。


「な、なら私も言わせて」


僕は裏島さんの方を見る。


「私は……乙姫ちゃんの告白なら受けられるよ?」


ますます難しくなったじゃないかよ……


*****


1週間が経った。僕はあれから人と一切のコミニュケーションを断った。


……そして今日、結果を決めた。


「……これでいいはずだ」


「乙姫ちゃん……」


「姫ちゃん……」


僕は屋上に2人を呼び出す。ちょうど僕のクラスの男子も屋上で告白をして人が変わった様になった。


僕もこうなれればいいなと思い、気持ちを告げる。


「……僕は……付き合うのをやめるよ」


「えっ……」


「そ、それってどっちと……」


「……両方……恋愛の仲になるのは今は辞める」


そう『今は』だ。

ここからが大切である。


「……でもこれからも普通の関係でいて欲しい。そして僕が2人を気にしてるということを踏まえて、それで普段通りの付き合いをしてほしい」


「……そ、そんなの」


「ああ、無理があるぞ。姫ちゃん」


「……でもこれが僕の考えた答えなんだよ!」


僕は女みたいに涙目になりながら叫ぶ様に話す。


「……心ちゃん、俺……ううん、あたしはさ。 心ちゃんと裏島が付き合ってもいいと思ってるんだぞ? そこにあたしが入って……まるで無理矢理入ったみたいじゃねえか……。そんなの嫌だ」


「……そんなの関係ない。僕は、ハッピーエンドが好きなんだ。それも理に適ってなくても、ご都合主義で大歓迎だ。鶴沢一人だけバッドエンドなんて胸糞悪い」


僕は苦虫を噛み潰した顔で吐き捨てた。


「……うん、乙姫ちゃんの言う通りだよ! 私もこのまま付き合ってもモヤモヤしちゃうもん。どうせならハーレムルートでもいいくらいだよ」


「……う、裏島?」


「裏島さん……ハ、ハーレムはちょっと」


「いーじゃんハーレム」


ぶーぶーと口を尖らす裏島さんに鶴沢はふと笑みをこぼした。


「は、はは……そうだな、ハーレムも悪くねえ。嫉妬と優越感が混じり合う恋愛条件……スリルあるじゃねえか」


「ですよね!」


「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕は時間をかけてゆっくりと……」


「嬲るんだね!」


「何言ってんの裏島さん!?」


もう訳分かんなくなっちゃった。


……まあいっか。

ハッピーエンドが一番だしね。


無理矢理ハッピーエンド。

まさしくタイトル回収。


というわけでキャラクター説明。

・亀谷 隼

・裏島 優

・鶴沢 美影


名前の由来は浦島太郎のつもり、それなら主人公を裏島にするべきなんだろうけど乙姫の方が可愛いし。


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