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執事と吸血鬼  作者: 連符
4/4

夕食とお嬢様の秘密

数時間後、出来上がったパスタとミートソースを味見し、ククルは唸っていた。


「う〜ん、味はいいんだが...」


味は良い。それに越したことはないのだが、問題はそこではなく。レイモンはスパゲッティを見たことがないと言っていた。そう、つまりは味は良くても見たこともない料理を食べてくれるかどうかが問題なのだ。


(しかも、今日来たばかりだしな)


ククルは今日、召喚されたばっかりの新入りだ、当たり前だがマリーとは絆の一つもない。そんな見たこともない奴に見たこともない料理を渡されたらどうだ?答えは食べないに決まっている。最悪、毒を盛られていると思われて終わりだ。


(でもなぁ...今更作り直すのも時間が足りないしなぁ〜)


そう、今から作り直すのでは時間がかかりすぎる。後数分しかないのだ、いくらなんでも魔法を使っても時間が足りなさすぎる。結果的には時間に負け、祈るような気持ちでマリーの元へと運ぶことにした。


片手で料理を支え廊下を進む。マリーの部屋につくと一度深呼吸をしてから、ノックをする。


コンッコンッ


「お嬢様...リリアスです。夕食をお持ちしました」

「...置いて行って」

「廊下に...ですか?」


ククルは笑顔を初めて崩し聞き返す。扉で顔が見えなかったのが救いだろう。


「...そう」

「それはできません」


淡白なマリーの返答に即答でククルは返す。


「初対面の相手の顔も見ずに帰らせるなど失礼極まりないです」


ここに来て初めてククルは怒っていた。ククルが怒ったのは別に自分の料理を粗末な扱いをされたからではない。マリー...主人の行いが気に食わなかったからだ。ククルは昔から執事として祖父に育てられた、その中には(執事とは主人の行いを正すとともに支えるものである)と、教えられてきたからでもある。


「...」

「お嬢様...出来ればでよろしいのですが...入室を許可していただけませんでしょうか?」

「...」


マリーは言葉をつまらせていた。ククルはそれをわかっていた上でお願いをしたのだ。何しろマリーは数年間引きこもっていたと聞いた。ならば強引にでも中へと入らない限り会えないと思ったのだ。


マリーが黙り込んでから数分が経った。ククルが無理だったかと思い始めた時...扉が開いた。


「...入って」


扉をあけたのは、翡翠色の髪を腰まで伸ばし赤い目でこちらを見上げてくる少女だった。いや、この少女こそククルの主人のマリー・バンキッシュだ。


「...失礼します」


少しの間呆然としていたが、どうにか持ち直しいつもの笑顔で挨拶をする。部屋の中は広く天蓋付きのベットにクローゼット、テーブルに椅子、そして高そうな絨毯が敷いてあった。


(高そうなものばかりだな...でも、女の子らしくないというか...)


バタン...ガチャ


マリーは扉を閉めたあとに鍵を閉めて椅子へと移動する。ククルはテーブルに料理を置きながら苦笑いをして言う。


「お嬢様、流石に見知らぬ人と二人っきりの状態で鍵を閉めるのはいかがなものかと...」

「大丈夫」

「ですが...」

「...普通ならこんなことはしない」

「...さようですか」


マリーは根拠が全くない説明をし、ククルは心配げにマリーを見るが。マリーもククルの方を向き目が合う、ククルはある程度の読心術を祖父に仕込まれていた。だが、心を読むまでもなくマリーの瞳には絶対的な自信があった。ククルはなぜそんな目をしているのに引きこもっているのか気になったが、聞き出すのはまだ早いと結論づけ料理へと視線を落とす。


「では、お嬢様。今日の夕食のスパゲッティでごさいます。今回は私が作らせていただきました」

「スパゲッティ?」

「はい、私の居た国の料理でごさいます」

「リリアスの?」

「お口に合えば良いのですが」


ククルはクロッシュを外しスパゲッティを出す。


「お飲み物は何になさいますか?」

「...紅茶で」

「畏まりました」


サービスワゴンにおいてあるティーポットで沸かしてあった紅茶を手際よくカップに注ぐ。


「お砂糖は?」

「…三つ」

「はい」


三つは甘いような気がしたのだが、歳を考えれば普通なのかな?…普通だよな。


「お嬢様、パスタはご存知でしょうか」

「...ううん」

「この料理はフォークを使いスプーンの上で巻取り、ソースを絡めてお食べください」

「...」


マリーは頷くとフォークとスプーンに手を伸ばした。動きはぎこちなくて、うまく巻き取れていなかった。


(いや、持ち方からおかしいな...)


「お嬢様、フォークはこう持つとよろしいかと」

「?...こう?」

「はい、そうです。そしてスプーンの上で巻取り...」

「...」


ククルは集中しすぎて気づいていなかったが、今、ククルはマリーの手を掴んで補助をしている。流石に許可なく主人に触れるのはアウトだ。だが、マリーも最初は注意しようと思っていたがククルの真摯な顔を見て口を噤んだ。だが、内面はどうしようもなくマリーは頬が赤らんできた。


「...こうして食べます。よろしいですか?」

「わかっ...た」

「?...お嬢様?」


ククルはマリーの顔が赤くなっているのを見て怪訝に思い思考を巡らせる。...そして、一つの答えに行き着く。


「...!申し訳ありませんでした!」

「...いい」

「いえ!そういうわけには」

「...気にしてない」


そう言いながら食事をすすめるマリー、さっきよりもスムーズにフォークを動かし食べ進める。マリーは内心ではククルに褒めて欲しかったのだが、ククルは内心ドキマギしていた。


(どうしましょう...お嬢様はああ言っているけど絶対に怒っていますよね。さっきからチラチラとこっちを見てるし...どうしよう、もうクビになるのかな...あぁ、もしかした死刑にでもなるのかな。いや、いっそのことそのほうがいいのかもしれないな...あ、でも死んだらじいちゃんに会うのかもしれないんだよな。...死んだあとにまた殺されるな。うぅ...八方塞がりだ...どうしよう)


傍から見れば笑みを浮かべたまま立っているだけなのだが、ククルの内心では頭を抱えうずくまっている状態だった。結局、どうしようもなく処刑を待つ囚人のようにブルブルと震えてマリーが食べ終わるのを待つのであった。


「...リリアス」


スパゲッティを食べ終わりフォークとスプーンを置きククルの方を向き視線を向けて話す。


「はい」

「...凄く美味しかった。ありがとう」

「いえ、こちらこそ」

「...それと、本当に気にしてないからそんなに身構えなくても大丈夫」

「...はい」


(そんなに顔に出ていたか?)


「...顔には出てない」

「...へ?」


(どういうことだ?...心でも読まれたとかかな?...まさかな)


「...そういうこと」

「...本当..ですか」

「...本当」


ククルは困惑している。この時、ククルは笑顔を崩してはいないが明らかに動揺していた。


「う~ん」

「...信じられない?」

「いえ、お嬢様はお強いなぁ...と」

「...強い?私が?」

「はい、先天的にしろ後天的にしろ生きづらくなるような能力をお持ちで平静を保っておられるのですから」

「...私は..強くなんてない」


マリーは膝で手を固く握りしめて何かに耐えているようだった。


「...申し訳ございませんでした。お嬢様。少し踏み込みすぎたようで...こちらをお飲みください」


ククルはちょうど空になったティーカップに別の紅茶を注ぎ砂糖を入れて差し出す。マリーは出された紅茶の匂いを嗅ぎ疑問に思う。


「...これは?」

「私が作った紅茶です。心が落ち着くかと」

「...ありがとう」


マリーはそういい紅茶に口を付け飲み始め、半分くらい飲んだあたりでカップから口を離しククルに聞く。


「...ねぇリリアス。あなたは人の心が覗けたら...聞きたくない言葉を聞いたらどうする?」

「そうですね...程度にもよりますが相手に近づきますね」

「...なぜ?」

「嫌われるのは自分が悪い可能性のほうが多いですからね」

「それが...殺意とかの邪な感情だったら」

「...」


ククルは考える。もし自分に殺意が向けられていたら...


(殺意を向けられるのは慣れているからいいが...この場合は違うな。...だとすれば)


「私に向けられる場合は気にしませんね」

「...どういうこと?」

「私以外...例えばカイト様やクルス様、それにお嬢様」

「...私?」

「はい、その場合はその相手に容赦はしませんね」

「...」


マリーは黙り込んでしまった。


(やっぱり言葉を間違えたかな)


「...そう、ごめんなさい。変なことを聞いて」

「いいえ、私でよければいつでもお相手いたしますよ」

「...ありがとう」


マリーは微笑みながらククルにお礼を言う、ククルは笑顔で返していたが内心はかなり揺れていた。


(お嬢様は笑った方が可愛らしいですね)


と、心の中で思ったが口には出さなかった。


「...眠くなってきた」


マリーが小さく欠伸をしながら言う。


「それでは、私は厨房の方へ戻らせていただきます」

「...分かった」

「明日の朝も来ますので、おやすみなさいお嬢様」

「おやすみリリアス」


会話を終えるとサービスワゴンを押しククルは部屋から出て行く。部屋に残ったマリーはカーテンから覗く真っ赤な月を見て呟く。


「やっぱり強いな...ククルは」


マリーは引きこもった自分を振り返りククルを思い浮かべる。


「可愛い...かぁ」


誰もいない部屋で顔を赤らめながら呟く少女の内心を知る人はここにはいないのであった。

投稿遅れて申し訳ありません。最近忙しくて執筆ができませんでした。これからも不定期になると思いますが、たまに見ていただけると嬉しいです。

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