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執事と吸血鬼  作者: 連符
2/4

ククルの実力

 扉の前でクルスがニヤニヤと笑いながら話を聞いていた。


「クルス様...いつからそこに?」

「クルス...気配を消して入るのはいかがなものかと思うぞ」

「いやぁ、申し訳ない。なにやら、お話し声が聞こえたもので...つい」


 全く持って言い訳になっていない。


「まったく...聞かれて困る話でもないからよかったが...なぁククル」

「そうですね、礼節に欠けるのは騎士といえども問題ですね」

「いっそのことククルが一手扱いてやってはどうだ?」

「あぁ、確かにそれなら...やはり辞めておきましょう。お歳的にもキツいでしょうし」


 そういった途端にクルスの目が怪しく光った。


「ほう...言うではないか小童」

「はぁ...」


 カイトはやれやれと言ったふうにクルスを見てククルに目配りする。たぶん、(言い過ぎだ)とでも言いたいのだろう。


「それほどのことを言う実力があるのだろうな」


 こういった場合の対処は決まっている...三十六計逃げるにしかずだ。


「いえ、申し訳ありませんでした。口が過ぎました」

「ふふふ...そんなことで煙に巻けるとでも?わしは聞いたぞお歳がなんだと?わしはまだ、47だ老骨呼ばわりされるいわれはない!」


 クルスが声高らかに熱弁している間にカイトが近くまで寄ってきて耳打ちする。


「すまんな、クルスは歳を気にしてるんだ。言い忘れてたよ」

「そういう事は先に言ってもらいたかったです」

「まぁ、一戦交えれば落ち着くだろうから頼むよ」

「しかし...」

「そうだな、言い方を変えよう」


 カイトはククルから距離を取り宣言する。


「クルスと決闘をし、実力を見せてみよ!」

「...承知しました」

「ふふふ、話はまとまったようだな。では広場に移動しようか」

「お手柔らかにお願い致します」


 ククルとクルスは中庭へと向かっていく。カイトは何やら用事があるようで後で合流することになった。


(どうしたものか...いや、前向きに考えるんだ。ここでクルス様の実力を見れるチャンスだと...はぁ、なんでこんなことになるかなぁ)


 中庭へ向かう途中、ククルはそんなことを考え自己嫌悪に陥っていた。中庭へ到着するとそこには大勢の人...吸血族が集まっていた。


「あのぉ、クルス様...なんですかこれは...」

「...知らん」


 クルスと一緒にほおけていると、後ろから声がかかった。


「はぁ...はぁ...はぁ、それは...俺が説明しよう」

「カイト様!」

「カイト...またお前か...」


 クルスが敬称無しで話をしている。


「ふぅ...クルス、せめて敬称はつけて話せよ」

「カッカッカッ!正式な場でなければ別に良いだろ!」

「...はぁ、まあいいだろう」

「いいんですか!」


 案外ゆるい感じなようだ。


「...ゴホン。でだ、こいつらはな俺がそこらじゅうを走り回って声がけした結果さ」

「それで息切れしていたのですか」

「That's right!」

「無駄なことに全力な奴だな」

「フッフッフッ!違うぞクルスよ!楽しむことに全力なのだ!」

「...もういい、さっさと始めよう」

「はい」


 中庭の中心へクルスが歩いていき、後に続こうとすると、カイトに呼び止められた。


「ククル」

「...なんでしょう?」

「クルスは強い...正直人族で勝つことはほぼ不可能なほどだ」

「...そこまでですか」

「あぁ、それにクルスにはメンツもある下手に力は抜けないだろう」

「...では棄権しろと?」

「ふふ、そうは言っていない。むしろチャンスだ。」


 カイトがククルから視線を離し、二階の窓へと向ける。


「この試合...娘も見てくれるように言ってきた」

「それはそれは...なんとも」

「別に強い奴を気に入る訳ではないが、何かを掴めるかもしれんぞ?」

「...無様な真似はできませんね」

「期待しているぞククル」

「はい...それでは行ってまいります」


 カイトに一礼して中庭で待つクルスの元へと移動する。


「なんの話をしていたんだ?」

「ちょっとした世間話ですよ」

「...そうか、ではルールを説明しよう」

「よろしくお願いします」

「ルールは簡単だ、相手に参ったと言わせるか戦闘不能になるまで戦い続けることだ。武器は持ち前のがないならあそこから借りるといい」


 クルスが小さな倉庫を指さす。


「大方の武器は揃っている筈だ」

「ご心配なく、武器は持っていますので」

「...ならいいんだが」


 怪訝そうな視線でククルを眺める。実際にククルは今、武器を所持していない。どこかに隠しているというわけでもない。


「戦闘中の待ったはないがいいか?」

「はい」

「吸血族は自己修復に優れているが、お前は人族だ腕の一本でもなくなれば致命傷だろう。なるべく早めの降参をおすすめするよ」


 と言い残して距離を取る。クルスは細長い槍を持ち上げ、正眼に構える。


「では、このコインが床につくと同時に開始とする。よろしいかな?」

「はい、お手柔らかにお願い致します」


 クルスが指でコインを弾く、コインは天高く舞い放物線を描き落下してくる。二人の中間に。


 チャリン


「いくぞ!」


 クルスがククルに向かって走る。ククルも同様にクルスの元へ走る。両者とも並ではない速度で走り、あっという間に距離が縮む。近づくと同時にクルスが小振りに槍で突きを繰り出す。ククルはよけながら腕を振るうと、刃物が袖口に出現する。


「お返しです」


 ククルの袖から一本の刃物が飛びたしクルスに向かって飛んでいく。


「小癪な!」


 槍から左手を離し刃物を受け止め、ククルへと投げ返してくる。投げ返された刃物はククルに当たらずに後ろへと飛んでいく。


「グハッ!」


 ...カイトのうめき声が聞こえたが気のせいだろう。ククルは両手に長刀と短刀を持ちクルスの突きを受け流しながら切り込む。クルスは槍を巧みに操り全て打ち落とす。


「ぬるいぬるい!」

「では、少しスピードを上げましょう」


 ククルはさらに振る速度を上げる。最初は受け流せていた斬撃も徐々に捌ききれなくなってくる。


「ハッハッハ!速度は一流よのう!だが!」


 クルスは全身に魔力をまとわせる。吸血族が得意とする身体強化魔法だ。魔力の質と量によって大きく変わるこの技は広く使われるが、適性があるものは自身の強度・速度・思考力を数倍にも高めることができる。この魔法に一番適性がある種族が吸血族なのだ。


「さぁさぁさあ!遅いぞククル!そんなものか!」

「...ふむ」


 力強く切り付けて、一度距離を取る。


「では、本気で行きましょう」

「ほぉう、まだ本気ではなかったと...よかろう!次で最後にしてくれよう!」


 クルスの魔力が一段と膨れ上がり周囲の空気が張り詰める。一方のククルは何も持たずに佇む。しかし、手は赤黒い魔力に包まれ床に流れ落ちては消えていく。


「それが本気か?」

「えぇ、まぁ...」

「そうか...それなら...」


「残念だな!」


 言い終わると同士に突っ込んでくる。今までの比ではない位に早く。音を置き去りにして...。対するククルもクルスに向かって走り出す。二人の距離が10mを切るかというところでククルが腕を振るう。


「また飛び道具か!」


 クルスは飛んでくるであろう刃物を注意しながら距離を詰める。だが、刃物は飛んでこない...しかし、クルスは殺気を感じ右へ飛ぶ。だが


 クルスの左腕と穂先が飛んだ。


「グッ!」


 慌ててククルの腕を見る。だが、ククルは何も持っていない。クルスは混乱するがククルは待ってはくれない。ククルは再度腕を振るう。クルスはよけられない事を悟りククルへと突っ込む。しかし、ククルの攻撃は当たらなかった。クルスは疑問に思いながらもククルへ肉薄し折れた槍で腹を突く。ククルは大した抵抗もなく吹き飛ばされ壁に激突して止まる。


「なんだ?」


 ククルがあまりにも簡単に吹き飛ばされたことに疑問を感じるクルス。追撃が来ることを考え迎え撃つ用意をしながら土煙を注意深く観察する。だが、クルスの思っていた通りに追撃はされずに晴れていく。そこには白旗を振りながら倒れている男がいた。


「参りました」

「...はぁ!?」

「「「「うぉぉぉぉぉぉっ!」」」」


 呆れかえるクルスとは逆に騎士長が勝利したことに沸き上がる観客...そんな中ククルは何事もなかったように立ち上がりホコリを払ってから気配を消しクルスへと近づく。服には傷一つ付いていない。


「さすがクルス様です。とてもお強かったです」

「...貴様...ふざけているのか?」


 クルスは額に青筋を何本も浮かべ顔を真っ赤にしている。


「えっ...と、なんのことでしょう?」

「今の状態を見ても同じ事が言えるのか?」


 片や左腕を失い武器を折られてしまった勝者。片や傷一つ無くニコニコと笑っている敗者。誰がどう見てもおかしい。


「はい、私は敗者、クルス様は勝者です」

「貴様!「まぁまて、クルスよ」...カイト!」


 カイトがやれやれと言ったふうにクルスの肩に手を置き殴りかかろうとしていたクルスを止める。


「とりあえず、腕をくっつけろ」

「...はぁ、すまない」


 カイトから左腕を受け取り傷口に合わせる。みるみるうちに傷が薄くなっていきあっという間につながった。


「すごいですね」

「そりゃあ、ヴァンパイアは治癒力が売りだからな」

「ふん!」


 素直に賞賛したのにクルスはまだ怒っているようだ。だが、仕方ないことだと思う...これからのことを考えれば。

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