表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第3章 エラドリム鋼国
74/85

第23話 真相

 ――― オウリ ―――


 光の膜を抜けると先程と似た部屋に出た。

 俺は肩越しに転移門を見上げる。扁額にローマ数字が刻まれている。80階だ。


「セティ達はテンカを追ってくれ。死なれると寝覚めが悪いからな」


 転移した直後、一目散に走り去るテンカと、それを追うヨミの姿が見えた。

 本来、転移門の周囲はセイフティーエリアで魔物は近づけない。しかし、変異体が転移門を使用できたと言うことは、セイフティーエリアが機能していない。

 二人で行動させるのは危険だ。


「兄さんはどうするの?」

「ロイと話がある」


 ロイを待つ間に装備の換装を済ませる。いつもの格好に着換え、不貞腐れる八咫姫をインベントリから引きずり出しところで、ロイが転移してきた。俺の格好を見て、ロイはほう、と口元を撫でた。


「まるで侍だな、オウリ。テンカはどうした?」

「向こうへ行ったぜ。危なっかしかったからセティ達に追ってもらってる」


 ロイは「宿願が叶うのだ。無理もない」と感慨深げだ。

 話をしている間に転移門の光が消えた。後続はないらしい。

 

「他のメンバーは来ないのか?」

「残ってもらった。変異体が来たら討つように言ってある」

「全員こっちに連れて来て、ここで迎え撃つ方が楽だろ?」

「それも考えた。だが、パストロイの加護を受けているのは俺達プレイヤーだけだ。戦力を考えればプレイヤーは討伐に充てるべきだろう。プレイヤーが全滅した場合、彼らはここに取り残されることになる。それに、転移門を一度に潜れるのは少数だ。待ち伏せしていた方が楽だろう。いつ変異体が現れるか分からず、胃の痛い思いをするだろうが」

「へぇ、リーダーの俺に無断で。ロイは急に働き者になったな」

「オウリならこうすると思ったが。違ったか?」

「今までサボってたことを皮肉ったんだよ。で、テンカの向かった先に何があるんだ?」

「ああ、向こうには――」


 視線が逸れた瞬間、ロイの喉元に刀突きつける。


「……何の真似だ?」

「それはこっちのセリフだ、空間の神(・・・・)パストロイ(・・・・・)さんよ」


 ロイが目を瞠る。

 

「……久我から俺のことを聞いていたのか」

「親父は何も。状況証拠だ」

「……カマをかけられたか」


 ロイは諦めたように溜息を吐くと、コートの内側に手を入れた。刀の切っ先がロイの首に当たる。だが、ロイは意に介さず、懐を弄っている。取り出したのは煙草だった。


「長い話になりそうだ。一服ぐらいさせてくれ」


 俺は舌打ちし、刀を収める。刀を突きつけたのはロイの動揺を誘うためだ。失敗したとなれば、手が疲れるだけである。殺す気なら問答無用で首を落としていた。


「なぜ、俺がパストロイだと分かった? ボロは出していないつもりだが」

「隠す気があるんなら、偽名を何とかするんだな。パストロイだからロイ。安直過ぎる」

「ふっ、確かに。だが、それだけではないだろう」

「転移門を起動できるのはパストロイだけだからだ」

「俺が起動させたところを見たのか?」

「状況を考えるとロイが起動させたとしか考えられない」


 髭の冒険者は最深部まで行き、変異体の群れを見たと言う。だが、60階の変異体を相手に、ロイは危なげない戦いだった。逃げ出す必要がない。また、願いの泉まで行けると知っている節があることを加味すると、ここで言う最深部は100階のことだと思われた。

 髭の冒険者は転移門が起動していることを知っていた。

 では、誰が転移門を起動させたのか。

 髭の冒険者しかいない。

 そして、髭の冒険者はロイである。

 ロイは楽しそうに目を眇めながら反論する。


「髭の冒険者の前にパストロイが訪れ、転移門を起動させていたのかも知れん」

「だとすると、ラウニレーヤに転移門が起動していたことを告げていないのが不自然だ」


 転移門は機能を失って久しいのである。人によっては変異体よりも一大事だ。なぜ、伝えなかったのか。自分が起動させたと言えば、正体が割れてしまうからだ。


「ふむ。髭の冒険者は俺じゃないかも知れないぞ」

「しらばっくれるな、面倒くせぇ」


 髭の冒険者はロイ。

 この前提を崩されると、俺も説明ができないのだ。


「くくく、オウリは感情が顔に出るな。久我は俺が何をしても、顔色一つ変えなかった」

「ああ、それもね。怪しいと思った理由の一つ。鍛冶場で俺の顔を見て驚いてただろ。あの時は気にも留めなかったが……知り合いに会ったみたいだった。ただ、俺を知ってるっていうより、俺と似た人を知ってる。そんな感じで。そんなに親父と似てるのか?」


 七大神は天界に引き籠っている。顔を見知っているのは限られる。

 ロイは上から下まで俺を眺め、「愛想がなければ完璧だな」と言った。


「そこは似たくねぇよ」


 軽口を返すとロイはおや、という顔になった。


「反抗期は終わったのか。久我がオウリと仲良くするにはどうしたらいいかと悩んでいたぞ」

「……あのクソ親父がそんな可愛げのあるタマかよ」

「まぁ、あれに可愛げはなかったな。俺がそう受け取ったというだけだ。その様子だ久我と和解できたのか。少し前に七大神が顕現していたが、久我だったか」

「石頭をぶち割ってやったよ」

「それでレベルキャップが解放されたのか。存外、あれも親らしいことをするものだ。いや、《サードアームズプロジェクト》に参加した理由を考えれば……顔に似合わず甘い男だからな、久我は。お前はもう気付いているだろう。《ゼノスフィード・オンライン》を作ったのは魔法使いだ。得意とする魔法を持ち寄って、仮想現実に異世界を作り上げた。その目的は――」

「魔法使いを増やしたかった。だろ?」


 俺が口を挟むと、ロイが眉を上げた。


「そう、日陰者に飽いたのさ。魔法使いは簡単には増えない。だから、血によらず魔法使いを増やせればいいと考えた。久我から聞いていたのか」

「俺を魔法使いにしたかった、って言われただけだな。長話できる場面でもなかったし。ただ、ヒントはあった。俺なりに考えてた。大体、結論は出てたが、裏付けが足りなかった。そこにテンカの《魅了の魔眼》を見た。あれが大きい。テンカは地球で発現した異能だと言っていた。後天的にアノニマスサーキットを宿せるか。《ゼノスフィード・オンライン》はその実験場だったんだろ。テンカはその成功例だったってワケだ」


 俺のアノニマスサーキットは目に宿った。地球での基準に照らし合わせると、俺は魔法使いではない。魔法使いになれる可能性もなかった。アノニマスサーキットは大原則として一人一か所だからだ。しかし、テンカは魔法使いの一族でもないのに、目にアノニマスサーキットを宿し、《魅了の魔眼》という異能を得た。後天的にアノニマスサーキットを宿すことができると言うことだ。これを利用して親父は俺を魔法使いにしようと考えていたのだろう。

 ロイは言う。


「《サードアームズプロジェクト》とは、身も蓋もないことを言ってしまえば、魂に虚構と現実を混同させようという実験だ。肉体は魂に引きずられ、その肉体を変質させる。仮想現実で魔法が使えるのなら、地球でも使えるはずだってな。一つ訂正するとすれば、俺達が欲していたのは異能を持つ者で、必ずしも魔法使いである必要はなかった。俺達は異能で溢れた世界が作りたかった。魔法はその異能の中の一つで良かった。だが、それを国に感づかれてな。《ゼノスフィード・オンライン》はサービス停止に追い込まれ……後はお前も知っての通り輪廻の神スニヤによってデスゲームと相成ったわけだ」


 スニヤ。お人よしの友人の姿を思い出す。憂慮するのは他人のことばかりで、自分のことに関しては無頓着だった。胸は痛むものの、以前ほどではない。思い出になりつつあるのだ。寂しく思うが……スニヤは喜ぶだろう。前を向いている証なのだから。

 《XFO》は人体に悪影響を与えるという名目でサービス停止が決まった。

 国は一般人が異能を得て管理できなくなることを恐れたのだろう。魔法使いが迫害を逃れられてこれたのは、魔法が権力者にとって便利だったこともあるが、魔法使いが身の程を弁えて魔法の行使を控えてきたからだ。だが、一般人は違う。得た力を振りかざそうとするだろう。異能は立証が難しい。犯罪が横行する。


「サービスの停止はゼノス人の死を意味する。サービスを再開できたとしても、データはリセットされていただろう。ゼノス人を守るため、デスゲームを始めた。そういったスニヤを俺は疑ってない。だが、お前達の思惑もあったんじゃないのか?」

「そうだな。《サードアームズプロジェクト》は二段構えだった。異能者だけの世界を作れれば最上だったが、俺達もそこまで高望みはしていなかった。異能者が現れれば確保していたが、それでも取りこぼしは出る。いずれ、国に露見すると考えていた。だが、思った以上にバレるのが早くてな。次善の策である《世界創生》の調整に手間取っていた。《世界創生》の魔法は理論こそ確立されていたが、実用段階まで持っていくのが難しかった。大気の組成が少し狂うだけで生物は生きられないんだからな」

「異世界を作り出すことができても、住めないんじゃ意味がないってことか」

「言うなれば世界はOSで生物はアプリだ。地球のパソコンもそうだっただろう。OSのバージョンが違うだけで、正常に動作しないアプリが出る」

「最初から《世界創生》だけ狙えばよかったんじゃねぇのか」


 どうやら《XFO》は《世界創生》のたたき台でもあったようだ。異能者が増えたから国に計画がバレてしまったのだ。《世界創生》だけに絞れば横槍は入らなかったのではないか。


「故郷はそう簡単に捨てられん」

「そういうものかね」

「それをお前が言うか。故郷を捨てたくなかった筆頭が久我だぞ」

「親父が?」

「お前を地球の一族に認めさせたかったようだからな」

「……そうか」

「計画に賛同した理由はそれぞれだ。時間の神はお前を魔法使いにする。供儀の神は報われない魂に第二の人生を。闘争の神は思う存分、戦える世界を欲していた。魔法使いは畢竟、個人主義者だ。建て前の元に集ったとはいえ、皆我欲を満たすのに必死でな。調整には苦労した。剣と魔法のファンタジーになったのも、ノェンデッドが熱弁を振るったからだ。知らなかっただろう?」


 ロイは短くなった煙草を投げ捨てると新しい煙草に火を点ける。


「ふぅ。ノェンデッドの提案は利点があった。だから、意見が通ったわけだが……代わりに供儀の神の離反を招いた。供儀の神はNPCに平穏な人生を与えたかった。魔物が跋扈する世界では、生を全うするのも難しい。供儀の神は代役として輪廻の神を立てると、以後《ゼノスフィード・オンライン》に係わろうとしなかった」

「舞台裏は興味深いが……何がいいたい?」

「俺にも計画に参加した理由があるということだ。建て前とは別にな。なぜ、地球に魔法があったのか、考えたことはあるか。パストロイというのは俺の一族の名でな。パストロイは異世界の神、オメガルゥルより魔法を授かったと考えていた。だから、俺の一族はオメガルゥルに見えることを悲願とし、空間魔法を磨いてきた。オメガルゥルのいる世界への道を開こうと考えたんだな。魔法はできていた。《境界門》と言う。だが、それには絶対的に《魔力》が足りていなかった。そこで考えた。大勢の《魔力》を使えばいい、とな。プレイヤーから少しずつ、《魔力》を徴収して溜めていた。《境界門》を発動できる矢先、サービスの停止が決まった。結局、《魔力》は《世界創生》に回さざるを得なかった。だが、悪い手ではなかった。《世界創生》により、七大神は真実、神として存在が固定される可能性が高かったからだ。七大神となり、境界門を開けばいい。そう考えた。しかし、七大神となった連中は、新たな神を招き入れることで、自分達が脅かされることを恐れた。俺が地上を流離っているのもそういう理由だよ。危険分子として追い出されたのさ。だが、俺は悲願を諦めきれなかった」

「……まさか」


 ロイが薄く笑う。


「俺は迷宮に目を付けた。幸い、俺が失ったのは膨大な《魔力》で、それを扱う術を失くしたわけではなかった。時間をかけ、迷宮の一部を封鎖。人を立ち入れなくした。そして、《境界門》の魔法陣を刻んだ。《魔力》が溜まれば異世界への門が開くようにな。ここまで言えば分かるだろう。最下層で何があったのか。変異体というのは異世界の魔物だ」

世界観にまつわる伏線はこれで回収できたかと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ