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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第3章 エラドリム鋼国
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第11話 宝箱

「お、宝箱があるな」

「あるの? 宝箱」

 

 俺の呟きをテンカが耳聡く拾う。あ、はい、とヨミが地図を取り出す。


「ありますね。この先に」

 

 そう言ってヨミは本道から逸れる道を指差した。


「いいね。行こう」

「本当に宝箱があるかは分かりませんが?」

「ボクらしかいないのに誰が取ったっていうのさ」


 基本的に宝箱はランダムで配置されるが、中には固定で出現する場所もある。前者をランダム宝箱、後者を固定宝箱と呼ぶ。鋼国はソシエの奈落を何百年と管理してきた。固定宝箱の場所は余すことなく地図に記されている。宝箱は一度開けられても、時間で再出現(リポップ)するのだ。普段であれば争奪戦となるところだが、テンカの言う通り迷宮は封鎖されている。宝箱が手つかずで残っている可能性は高かった。

 というか、実際にあるしな。固定宝箱だったのか。

 俺は地図を見て言ったのではなく、《風王領土》で探知したのである。

 地図は数えるのも億劫になる枚数があり、パラパラ捲ってインベントリに仕舞ってある。ソシエの奈落は本道を進んでいければ、階段に辿り着けるようになっている。左右の壁に光苔が植えられているのが本道で、片方しか植えられていないのが枝道である。

 枝道に逸れなければ地図は不要なのだ。


「ボクらは宝箱を取ってくる」


 テンカの発言にナジェンダが顔をしかめる。


「……自分達だけで行く気か?」

「むしろ、ゾロゾロ行く必要がある? 来ても分け前はあげないよ」


 宝箱の所有権は開けた者にある。宝箱には罠が仕掛けられていることがあり、開けるのには魔物退治と同等のリスクを伴うからだ。だから、「分け前はあげない」発言もルールに則ったものなのだが……テンカが言うとケチ臭いだけに聞こえる。人柄か。


「……ギルドからは一緒に行動するように言われている」

「セリアンスロープがそんなこと言うんだ。意外。これ幸いと先に進むと思ってた」


 ナジェンダには失礼かも知れないが、これは俺もテンカに同意である。

 セリアンスロープは “俺より強いやつに会いに行く”を地で行く戦闘狂なのだ。ゲーム時代、ゼノス人の冒険者の大半が冒険を止めた。プレイヤーの強さを目の当たりにし、心が折れてしまったのである。だが、セリアンスロープだけは冒険を止めなかったと言えば、その脳筋ぶりが分かるだろう。

 

「……アタシはアンタ達を認めている」


 ちら、とナジェンダが俺を見る。俺だけは例外と言いたいらしい。騙しているようで気が引けて、顔を逸らすとテンカと目が合った。テンカは興味深そうに俺を見ていた。


「ナメられてるみたいだけど言いたいことないの?」

「別に」

「それ、本心?」

「本心だよ」

「またまた意外だ。へぇ、本心なのか」


 テンカが面白がると、ナジェンダが猫耳をピクピクさせる。


「それは臆病者だぞ、テンカ」

「馬鹿。オウリが手を出すまでもないってだけ。変異体が現れたら勝手に戦うでしょ」

「いいかい、テンカ。アタシだってね、弱いとは思ってない。弱いならギルドが同行させない。それなりにレベルは高いんだろう。レベルは。軟弱な姿勢が気に食わないんだよ」

「それなりっていうか、バグってるんだけどね」

「その男を叩きのめせばテンカの目は覚めるか」

「時間の無駄だよ。どうせカスりもしないさ」


 会話を打ち切り、テンカは枝道に逸れる。着いて来るなら勝手にすれば、と背中が語っていた。ヨミが慌てた様子でテンカの前に出る。暗がりにヨミが溶け、気配が希薄になる。《闇潜み》のスキルである。狩人の《穏形》と同じく、気配を殺すスキルだ。明るさで効果が上下する。勿論、暗い方が効果は高い。やれやれ、リーダーは仕方がないな、と言うように、《ドラゴンホーン》が続く。

 

「行くよ」


 ナジェンダの号令で《獣王の花冠》もテンカを追う。

 俺達も行こうと歩き出すが、シュシュだけがついてこない。


「どうした、シュシュ?」

「……何か妙ではなかったか、テンカの会話」

「俺のレベルに突っ込んでこないのは不気味だと思ったが」


 親父に勝利し、レベルキャップが解放された。だが、これは俺だけか……俺達だけだろう。レベルキャップが解放されたと言う話は聞いていない。五百年間、レベルは200でカンストだった。レベルキャップが解放されていたら、それが噂にならないはずがないのだ。

 バグっているといっていたことから、テンカは俺を《鑑定》しているはず。

 だが、テンカは何も言わなかった。

 なぜだったのかと首をひねっていると、アリシアが当たり前のように言った。


「オウリが怖かったのだろう。貴族の秘密は危険に満ちている。貴族が秘匿するクラス外スキルの習得方法。それを知ろうとして殺された、という話を聞いたことがある。オウリは貴族ではないが、知らなければ分からない。聞けるか?」

「そりゃ、聞けないな」


 俺は納得したが、シュシュは考え込んだままだ。


「シュシュは何が引っ掛かってるんだ?」

「むー、もやもやしててのう。考えがまとまらんのだ」

「取っ掛かりもないんじゃ、どうしようもねぇな。セティは?」

「兄さんさえよければ、私が猫耳さん躾けるよ」

「……セティはたまに過激になるよな。止めてくれ。俺の罪悪感がストップ高になる」


 ナジェンダが俺に反感を抱いているのは、セティ達が下らない画策をしたからだ。それなのに態度がなっていない、とシメられるのでは可哀想過ぎる。

 また、セティが微笑みながら言うのが怖いのだ。

 俺がここでうん、と言えば……借りてきた猫のできあがりだ。

 想像を振り払い、テンカ達を負う。

 《風王領土》で把握していたが、だだっ広い部屋の中央にぽつねんと宝箱があった。

 テンカは真剣な表情でピンを宝箱の鍵穴に差し込んでいる。難航しているようだが、誰も代わるとは言い出さない。《罠解除》のスキルを習得するのは狩人で、狩人はテンカしないないためだ。低階層の罠だ。レベルに物を言わせ、強引に開ける手もある。だが、それは最後の手段だろう。

 罠の一種で転移がある。

 最悪、一人で最深部に転移させられる。

 慎重に慎重を重ねるくらいでちょうどいいのだ。

 開錠を見守る人垣から離れ、煙草を吹かすロイに話しかける。


「難しい罠なのか?」

「久しぶりで勘が戻っていないのだろう」

「よくそれであんな自信満々だったな」

「問題ないと知っていても崖を跳ぶには勇気がいるさ」


 開錠を待つ間、ロイが煙草を片手に語る。

 王国の貴族にとって始祖は特別な存在だ。だが、始祖を戴く貴族は少ないと言う。始祖が家に寄り付かない理由は色々だ。生き神扱いされることに辟易したとか。始祖が現れると当主との間に不和を招くからとか。一番の理由は始祖の転生する先は、血族ではない家が多いためらしい。始祖はプレイヤーだ。強い力を持っている。生家は手放したがらない。また、始祖の側としても五百年が経ち、知らない顔ぶれが並ぶ自家より、生家に愛着を感じている。

 その点、テンカ・ファナは待ちに待ったファナ家の始祖であった。

 だが、テンカはある理由から始祖だと信じられず、腫れ物に触れるように飼い殺しにされていた。冒険者となったのも家から出るためだった。Sランクの冒険者を輩出すれば、ファナ家の威光を高められると考えたらしい。

 そこからはテンカ少年の大冒険だった。奴隷のヨミを連れ、数々の依頼をこなし、ランクを上げていく。その過程で仲間もできた。狂戦士、神官、魔法使い、そしてロイである。

 ……暇だったので黙って聞いていたが、この話はどこに着地するというのか。

 そう思っているとロイが苦笑しながら言った。


「つまり、テンカは今生では《罠解除》を使う機会はなかったと言うことだ」

「いや、つまり、って言われてもな。どう繋がってるのかイマイチだ。レベルを上げるなら、迷宮品は欲しいだろう?」

「転生するとスキルの熟練度が減る。デスペナのようなものだな。テンカの《罠解除》はレベル7だ。この階層の宝箱なら九分九厘失敗はない。だが、見方を変えれば失敗する確率が一厘もある。大した確率だろう?」


 宝箱の罠は非常に致死性が高い。数をこなせば死ぬ確率も上がる。敬遠するのも当たり前か。一か八かで宝箱を開けても、望みのアイテムが手に入ることはまずない。レベルが上がり、罠に引っかかっても死ぬことはない。そう考えられるようになったから、《罠解除》に挑む踏ん切りがついたのか。


「で、テンカが始祖と認められなかった理由ってなんなんだ?」


 テンカに興味があるわけではないが、そこだけぼかされたので気になる。


「それは言えんな」

「あれだけ意味深に言っておいてそれはないだろ」

「未来への布石といったところか。テンカはああいう性格だからな。誤解されやすい」

「……誤解なのか?」

「少なくとも前世のテンカはおおらかな人柄だった」

「転生して人が変わったんだろ」

「その通りだろう」

「……誤解じゃないじゃねぇか」

「時が来れば分かる。テンカはひるむまい」


 ひるむって何にだよ。

 謎解きを要求したのに謎を盛られるとはね。

 その時だ。悲鳴のような声が響いた。


「馬鹿! 寄るな!」


 テンカが心配だったのだろう。ヨミが身を乗り出してテンカの作業を見詰めていたのだ。テンカはヨミを追い払おうとする。それがテンカの手元を狂わせた。


 ――カチ。

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