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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第1章 災厄の魔女
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第4話 驕る者達1

 《XFO》では移動の手段は大きく分けて三つあった。

 一つ、騎獣を使う。騎獣は卵から孵すか、テイミングで入手する。様々な種類の騎獣がいたが、如何せん世話が面倒くさかった。俺がやりたいのは冒険であって、牧場じゃねぇんだよ、と適当に扱っても問題ない走りトカゲが人気だった。

 二つ、転移門を使う。所謂ワープゲートだ。空間の神パストロイが作ったアーティファクトで、かの神の加護を受けると使用できるようになる。転移門は世界各地にあり、一番使用されていた。だが、現在はパストロイが失踪し、使用不能になっているらしい。

 三つ、自力で走る。レベルが上がってくると、これが案外馬鹿に出来ない。

 そして今回選択したのは三つ目。

 シュシュからすれば一つ目か。


「ふはははは、行け、オウリよ! 次なる獲物はあそこぞ!」


 馬を怯えさせるのは本意じゃないんだけどな。

 だが、御者がこう仰せだ。騎獣は従うしかあるまい。三台の馬車が連なって走っていた。気合いを入れて馬車を追い抜かしてやれば、馬がおののくように棹立ちになった。

 ふむ。騎獣オウリの脚力が馬のプライドをズタズタにしてしまったようだ。


「馬車をからかうのも飽きてきたな」


 かれこれ三時間は走っている。

 シュシュを肩車しながら、である。

 シュシュの足に合わせると、時間がもったいなかったのだ。


「ん、どうした、シュシュ」

「…………しくじったやも知れん。あの馬車は貴族の物だった」

「ま、平気だろ。一瞬だったし」

「……う、うむ。そうよな。護衛も出て来なかったのだ。何が起こったか分かっておらんだろう。しかし、あの家紋は…………見間違いであればいいが……」


 とはいえ、厄介事には近づかない方がいい。追いつかれないよう速度を上げる。

 

「おい、シュシュ。何かいるぜ」

「人か?」

「多分、魔物だな。殺気が素直だ」

「あるのか、違いが?」

「人の殺気はねちっこいな、大抵」

「迂回するか?」

「いや、迂回は無理だ」

「なに、お主の実力を以ってしてもか。そんな強力な魔物が街道に出るとは」

「そうじゃない。そうじゃないんだ、シュシュ。もう敵のど真ん中だってだけ」


 俺が足を止めると岩陰から狼が現れた。十匹はいる。囲まれている。


「はぁぁぁぁ? 何を考えておる、オウリ!」

「レベル上げ」


 ルギィウルフ。平原に住むレベル40の魔物だ。群れを統率するリーダーを倒さない限り戦い続ける。だが、裏を返せばリーダーさえ倒せば群れは瓦解するという事である。

 リーダーの額には白い模様がある。

 いた。

 リーダーだ。

 この距離なら《瞬動》で近づき、一撃入れれば終わるハズである。

 しかし、そんな勿体ない事はしない。

 折角、経験値……獲物がやって来てくれたのだ。

 

「ワオオオォォーーーーーー!」


 リーダーの号令で一斉にルギィウルフが襲いかかって来る。《震脚》で迎撃。ルギィウルフが一斉に飛ぶ。地面を伝わる振動で、態勢を崩すのが《震脚》だ。当然、空中にはスキルの効果は発揮されない。しかし、飛ばす事が目的なので問題ない。

 

「《烈風脚》」

 

 軽く飛んでアーツを発動。前方のルギィウルフを蹴散らす。蹴りの反動で身体が反転する。背後からも一匹襲い掛かって来ていた。反対の足で《雷鳴落とし》を放つ。

 落雷の如き踵落としがルギィウルフを四散させる。

 

「ふぉっ。生臭っ。ぺっ、ぺっ。肉が口に」

「好き嫌いしてると大きくなれないぜ」


 再びルギィウルフが迫り来る。

 俺はこれ見よがしに地面を踏み鳴らす。ルギィウルフが身体を低くする。四肢を踏ん張り《震脚》に耐える気か。学習能力はあるようだが所詮は獣の浅知恵だ。

 スキルにはクールタイムがある。

 便利なスキルや、強力なスキル程、クールタイムは長い。

 人からして見れば常識だが、魔物には理解出来ないのだろう。

 まだ、《震脚》のクールタイムは終わっていない。

 今度は《雷脚》だ。

 後は痺れているルギィウルフを倒していくだけの簡単なお仕事である。シュシュに直接倒させた方が習得経験値は高いのだが、一歩間違えると返り討ちにあうので今回は諦める。


「ふぬぅ。ゆ、揺れるぅ」

「おいおい、弱音を吐くなよ。魔王の名が泣いてるぞ」

「……ま、魔王であろうが。救世の英雄であろうが。転生すればレベル1からよ」


 知ってる。シュシュのレベルを見れば分かる。

 足技だけで戦っていたのは、シュシュを慮っての事だ。シュシュのステータスでは掴まっているのも難しかろうと、シュシュの足を押さえるのに両手を使っていたのだ。

 おろしてやれよ、という話もあるかと思う。

 しかし、最も安全な場所が俺の側なのは確か。

 面白くないし。


「ま、もう終わるさ」


 残すはリーダーだけだ。

 シュシュに悪いと思いながら《瞬動》を発動。逃げようとしていたリーダーを《雷鳴落とし》で倒す。


「さて喜べ、シュシュ。レベル8になったぞ」

「……す、素直に喜べんわ。は、吐くかと思ったぞ」

 

 吐いてたら騎獣との友好度が下がり、騎獣は逃げ出していた事だろう。

 シュシュはレベル3だったので、5レベル上がった事になる。

 早いな。


「《天賦》持ちか。レベルは?」

「10だ」

「へぇ、流石は魔王か」


 《天賦》スキルこそプレイヤーの成長速度のキモだった。経験値と熟練度の取得に倍率がかかるのだ。《天賦10》となると十倍の成長速度、つまり、プレイヤーと一緒である。


「素材を剥がぬのか」

「自動でアイテムに変わったりは?」

「なるほど、オウリの常識は古いのだったな。答えはしない、だ。スニヤの死後、そうなったと聞く」


 異世界化の影響か。

 また、面倒な部分にリアリティを出しやがって。いや、元に戻ったと言えなくもないのか。《XFO》も最初は自分で素材を剥ぐ方式だった。しかし、クレームの嵐の前に運営が屈したらしい。俺が《XFO》を始めた時、すでに敵を倒すとアイテムがポップした。

 

「面倒だ。行くぞ」

「良いのか。ルギィウルフだろう。それなりの値が付くぞ」

「こんなザコの素材なんざいらねぇよ」

「ザコではないのだがのう」


 金ならある。盗賊団から頂いてきた。

 どうせ町に長居する気はない。大金を持っていても仕方がない。


「町に着いたら分かっておるな?」

「貴族と事を構えるな、だろ。何度も聞いたぜ。揉め事は避けるさ」


 町に向っているのは災厄の魔女の討伐隊に参加する為だ。

 災厄の魔女の討伐隊は二通り出る。騎士団と冒険者から。俺が案内人として利用するのは冒険者のほう。体質が変わっていなければ冒険者ギルドが求めるのは実力だ。どこかから流れて来た怪しげな人間でも、実力があれば潜り込む事が出来るはずだ。

 だが、貴族と対立すればそれも難しくなる。

 

「しかし、増長したもんだぜ、ハイヒューマンも」


 貴族はかつて建国に尽力した者達だ。つまり、かつてのプレイヤーである。

 当初は善良な治世を敷いていた。だが、五百年の歳月が彼らを腐らせた。

 今では権力を笠に着てやりたい放題らしい。

 逆らえば破滅させられるとあっては平民は耐えるしかない。

 ハイヒューマンの寿命は百年程度だという。悪いのはプレイヤーではなく、その子孫だと言えなくもないが……転生者も結構な数いるようなので擁護出来ない。

 同胞の堕落は嘆かわしいが無理もないとも思う。この世界には魔物と言う脅威が存在するのだから。武力こそが国を安定させる要であり、ハイヒューマンは成長速度だけでなく、ステータスまでが優遇されている。

 亜人の国は魔物に手を焼き、なかなか国土が安定しないらしい。

 構造上、ハイヒューマンの存在は欠かせないのだ。

 選民思想が蔓延るのも当然の流れか。

 

「サラスナが見えたぞ」

「思ったよりデカいな」


 サラスナは国境の町。王国からすると辺境。

 そう聞いていたのだが……思いのほか立派だった。

 あんな大きな外壁は《XFO》では国の中枢だけだった。

 

「…………そうか。五百年経ってたんだったか」


 ようやく本当の意味で理解出来た気がした。

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