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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第3章 エラドリム鋼国
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第6話 《ドラゴンホーン》

 ――― ヘルゲ ―――


 自分で言うのもなんだが、私は腕のいい魔法使いだ。

 神罰騎士団から声がかかったと言えば、その優秀さが分かってもらえるだろう。強くなることに貪欲な神罰騎士団だが、平民に門戸を開くことは滅多にないのだ。その時まで知らなかったのだが隣の家の老人、私の師匠は、かつて神罰騎士団に所属していたらしい。彼が優秀な魔法使いが燻っていると知人に伝えたところ、スカウトがやってきた。

 心が動かされなかったと言えば嘘になる。

 しかし、スカウトに来た騎士は横柄で、露骨に平民を見下していた。

 卑賎の身で神罰騎士団に入れて頂くわけにはまいりません。

 そういうと騎士は満足げに帰っていった。手間を取らせるな、と言わんばかりだった。


「すまんな。ワシのせいで。神罰騎士団も一枚岩ではない。スカウトを寄越したと言うことは、団長はヘルゲに価値を見出していたはずだ。しかし、下っ端はな。ワシが所属していた頃もそうだった。平民出身だと言うことでいびられたものだ」

「いえ、師匠には感謝をしています。レベルを上げてくれたのは師匠です」

「騎士クラスのワシが魔法使いの師匠と言うのも妙な話だがな」


 確かに魔法を教わったことは一度もない。だが、前衛と後衛の立ち振る舞いを教えてくれた。これを師匠と呼ばずして、なんと呼ぶと言うのか。幸い、魔法使いは先達が居なくても育つ。レベルアップで魔法を習得できるためである。魔法使いは適切な魔法を使えるかの方が大事になる。師匠との狩りで私は判断能力を養ったのである。

 これが剣士や拳闘士と言った前衛になると、同じクラスの師匠がいないと厳しい。幾らレベルアップでスキルを習得しても、戦い方がなっていないと宝の持ち腐れ。剣士には剣士の、拳闘士には拳闘士の動き方がある。


「ヘルゲはこれからどうする気だ?」

「冒険者になろうかと思います。神罰騎士団に誘われて箔も付きましたし、どこかのパーティーに入れてもらいます」

「……付いたのは箔か、味噌か」


 なぜ、師匠が憂鬱な顔をしていたのか。町に行くと、理由が分かった。

 誰も私とパーティーを組んでくれようとしなかったのである。神罰騎士団のスカウトを蹴った生意気な魔法使いとして周知されていたのだ。私をスカウトに来た騎士がそう言い触らしていたらしい。断れ、断れ、と全身で発しながら、断れば生意気だと言う。なに、それ。目の前が真っ暗になった。気が付けば宿のベッドだった。その日、一晩中泣いた。Sランクになるまでは帰らない。両親にそう言って村を飛び出したのに、ノコノコ帰ることもできず、各地の冒険者ギルドを転々とした。

 そして、テンカと出会った。


「ソロで活動してる魔法使いってお前? なんで生きてるの?」

「……生きてちゃ悪い?」


 横柄な態度からテンカが貴族だろう、というのは当たりがついた。しかし、私はヤサグレており、無礼討ちにするならしろ、という気分だったのだ。後から思い返せばソロの魔法使いがなぜ、生きていられるのか、と聞かれていたのだと分かる。


「ヘルゲか。生意気だね。言われない?」

「生意気なのは貴方でしょ」

「ボクは身分に相応しい態度を取ってるだけ」

「……貴方、女みたいな言い訳するのね。村でも貴方みたいな子、いたわ」

「……ボクが女みたい?」


 あ~、短い人生だった。

 と、走馬燈が流れていると、テンカは朗らかに笑っていた。


「お前、気に入った。ボクのパーティーに入れ」

「「は?」」


 声が重なった。テンカの背後で影のように控える暗殺者――ヨミと。

 私の発言の何が琴線に引っかかったと言うのか。

 

「テンカ様、ご一考ください。この女は神罰騎士団に目を付けられています。この女をパーティーに入れると、ご実家から圧力がかかるでしょう」

「なに、ヨミ。お前、あれを圧力だと思ってたの? 馬鹿じゃない。ああいうのは負け犬の遠吠えっていうの。どうせ、口だけで何もできやしない。それよりSランクになる方が大事。疎まれてるならヘルゲは実家の回し者になる可能性も低い。買いだよ」

「ちょ、ちょっと! 話を勝手に進めないでよ!」


 慌てて口を挟むがテンカはもう決めており、決断を翻すことはできそうになかった。

 しかし、冷静に考えてみると悪い話ではなかった。


「テンカはSランクになるつもり?」

「ああ、そうだね。そこは確認しないとね。お前、付いてこれる? 死ぬかもしれない」

「貴方こそ。貴族なんでしょう? 本気?」

「Sランクになるのが実家と縁を切る条件なんだよ。手土産だよ。Sランクを輩出したって。あんなでもボクの……だし、顔を立てて……可哀想……」


 テンカの言葉の後半は半ば独白で、聞き取ることができなかった。

 だが、本気でSランクを目指しているらしいと言うのは感じ取れた。


「……テンカ様、考え直してください」

「……ヨミ。奴隷の分際で主人に逆らうワケ?」

「私の忠誠をお疑いになるのであれば、この場で心臓を抉りだして見せましょう」

「……チッ。融通の利かない。お前さぁ、頑固過ぎ」

「テンカ様の安全がかかっておりますので」


 ヨミが奴隷だと言うことにも驚いたが、それよりもテンカの態度に私は驚いた。この場限りのことなのかも知れない。だが、確かにテンカとヨミの力関係は逆転していた。

 口は悪いけど……滅茶苦茶悪いけど、思ったよりも悪い人ではないのかも。

 テンカのパーティーに入ることを、前向きに検討しだす自分がいた。

 

「ヘルゲをスカウトしに来たのはどの神罰騎士団?」

「第三って言ってた。神罰騎士団って幾つもあるんだね。知らなかったよ」

「田舎だとその程度の認識だろうね。だけど、実際は神罰騎士団は、それぞれ独立してる。第三ね。団長はオーファンか。オーファンに一筆したためる。それで問題ないでしょ」

「……貴方、神罰騎士団の団長と知り合いなの?」

「ボクはプレイヤーだからね」

「プレイヤー!? 初めてみた!」

「そう? 結構いるよ。五百年も転生を繰り返してると、しがらみも結構沢山あってね。そういうのが面倒くさいから名乗らないのが多いだけ。面倒だよ、ホント。まあ、ヘルゲは第三に入らなくてよかったよ。オーファンはハイヒューマンの選民思想に辟易してる。でも、ヒューマンの味方ってわけじゃないから。何かあったら簡単に切られてたよ」

「……なんで私、スカウトされたの」

「第一と第三の団長で駆け引きがあったのかもね。その年でレベル80。間違いなく《天賦》持ちだ。第一に取られるくらいなら、自分のところで飼殺す。そうオーファンは考えたのかも」

「……貴族って怖いわ」

「過去の栄光に縋りつく馬鹿ばっかり。死ねばいいのに」

「テンカも……テンカ様もお貴族様なんでしょ。いいの? そういうこと言って」

「様はつけなくていい。お前はボクを敬ってない。馬鹿にされてる気分」

「そっちの……ヨミさんが凄い目で私を見てきてるけど」


 テンカは溜息を吐くと、ヨミに向き直る。


「呼び捨てを受け入れろ」

「できません」

「命令だ」

「……できません」


 何度かの押し問答の末、ヨミが倒れた。


「……ヨミさんはどうしたの?」

「馬鹿。ヨミも呼び捨てにしろ。奴隷にさん付けするな。魔法使いなのに馬鹿なの? 考えたら分かるだろ。隷属の首輪の効果だよ。命令に逆らうから。馬鹿なやつだよ、本当に」

「……貴方、今、馬鹿って何回言った?」

「ハッ。世の中馬鹿ばっかりなんだから仕方がない」


 ここまで忠誠を尽くしているヨミを悪し様に言うのは気分が悪かった。

 そういうと「なら、聞け」とテンカが言う。そこで語られたのは忠誠心が行き過ぎた奴隷の姿。買い物をしようとすれば「テンカ様が下々の者と口を利く必要はございません」と、交渉させてもらえない。冒険者ギルドに登録に来れば「Fランクからだと!?」と激怒するヨミ。それが決まりなのだから、ランクは上げればいいと、なぜか主人が窘める始末。あんなことがあった。こんなことがあった。と、三十分近く話を聞かされた。


「まともに見えるのに面倒くさい人なんだね」


 私の中で面倒くさいランキングの一位と二位が入れ替わった。

 というか、短い間に一位と二位に輝く人と出会ったことが驚きだ。

 テンカもかなり面倒くさい性格をしている。しかし、村で培ったお喋りな友人の話を流す技術。これを使うと結構、話しやすかった。口は悪いが倫理観が非常に真っ当なのだ。


「ヨミは親に洗脳されているんだよ。今は躾をし直しているところ」


 ヨミは影武者として買われてきたのだと言う。道理で二人の顔立ちが似ているはずだ。ヨミは影武者として教育を受けており、テンカよりもファナ家を優先させる。

 誰が主人なのか教えてあげないとね、とテンカが笑う。

 

「ほどほどにしてあげなよ」

「ボクは仲間を増やす気でいる。その度に同じやり取りをするの? 面倒でしょ。こういうのは最初に済ませないと」

「え? 最初って。私以外に誰もいないの? 仲間は」

「ボクとヨミの二人だけだよ。目ぼしいのがいなかったからね」

「テンカは前衛?」

「ボクがなんで殴り合わなきゃならないワケ?」

「ヨミは暗殺者でしょ? いないじゃん、前衛が」

「ふぅん、分かってるね。魔法使いのくせに」

「私の師匠が騎士のクラスで――」

「聞いてないし」

「……テンカって女の腐ったような性格って言われない?」


 ヘンな人だな、と思っていた私は、気付いていなかった。

 なし崩し的でテンカのパーティーに入っていたことに。

 こうして《ドラゴンホーン》は結成された。

 ここから、向こう見ず過ぎてハブられている狂戦士を拾い、内緒で格安で回復魔法をかけて、神殿に追われている神官を拾い……と、テンカははみ出し者を拾い続けた。ロイはある日、ふらりと現れた。テンカの実家からのお目付け役だと馬鹿正直にロイは言った。テンカは馬の骨が来るより、顔見知りの方がいいか、と消極的にロイを受け入れた。顔見知り。つまり、ロイもプレイヤーだ。ロイの実力は頭一つ抜けていた。しかし、基本的にロイは戦闘に参加しなかった。パーティーが崩壊する時だけ、手を貸してくれるのだ。


「パワーレベリングで培えるのはレベルで、実力じゃないからな」


 ロイのその言葉を実感できた頃、私達はSランクパーティとなった。

 Sランクになるや否や、テンカは宣言した。


「ソシエの奈落に行く」

《ドラゴンホーン》

新進気鋭のSランクパーティー。

テンカ・ファナ:男。リーダー。狩人。

ヨミ:男。暗殺者。

ロイ:男。剣士。

テオドール:男。狂戦士。

ニスタフ:女。神官。

ヘルゲ:女。魔法使い。

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