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第1話 ゲーム時代

コミティアで配布したもののが印刷トラブルでスタイルが崩れていたためなろうに掲載します。ゲーム時代の一コマです。本編は明日からの予定。

 通りを行くのは人間にはない特徴を持った集団だ。猫耳、犬耳。セリアンスロープだ。

 犬歯を剥き出しにして、彼らは笑い合っている。

 冒険者ギルドの方から来た。クエストを受けたのだろう。

 昨今、危険な魔物狩りはプレイヤーに任せ、冒険者を引退するNPCが増えている。しかし、“俺より強いやつに会いに行く”を地で行く脳筋種族には関係ないらしい。

 

 《ゼノスフィード・オンライン》。


 サードアームズ社が開発、運営するVRMMO-RPGだ。

 ここは仮想現実上に構築された《ゼノスフィード》世界である。

 俺はオウリ。地球では中三の学生。しかし、《ゼノスフィード》では、幾度も世界の危機を救った英雄の一人。自分で英雄と言うのもこそばゆいが、チャプター1と2のクリアメンバーに名を連ねていた。最近は冒険を止め、子育てに邁進している。


「何か欲しいものはあるか、セティ?」


 肩車している幼女に言う。


「う~ん。素材は兄さんが採ってきてくれるし、ないかな」


 彼女はリオンセティ。愛称でセティ。褒めると尖った耳が赤くなる、エルフの幼女である。兄さんと呼ばれているが、当然血の繋がりはない。行き倒れているところを拾った。

 兄の欲目だろうか。

 エルフは美形が多いが、セティは格別に美人だ。

 何を着せても似合う。今は黒いドレスである。

 ぺったんこなアレも相まって、ロリコンホイホイと化している。

 兄の俺が気を付けなければ。

 と、固く決意しているところで、

「やっ、オウリ。久しぶり。ひひ、セティちゃん、今日も可愛いね。そのドレスも似合ってるよ。色違いもあるんだけど、着る? 頼んで作ってもらったんだ」


 露店から声を掛けられた。俺と同年代の少年である。一応、露店の店主だ。


「出たな、ロリコン。燃やすぞ」

「ヒドッ。燃やすとか。酷いお兄ちゃんだね、セティちゃん」

「…………」

「……セティ、ちゃん?」

「…………」

「…………はぁはぁ。その目、いいよ」


 ん~、本当に燃やそうかな。

 ちら、とそんな考えが過る。

 しかし、町中での殺傷はご法度だ。セティを餌にすれば人気のない場所まで誘い込めるだろうが……邪まな視線に耐えきれず、途中で燃やしてしまいそうだ。NPCと違い、プレイヤーは死んでも復活できる。突っ込み代わりにデスペナ食らわす位、プレイヤーの間では日常茶飯事。だが、プレイヤーの種族たるハイヒューマンと、NPCたるヒューマンとは外見上の差異がない。傍から見ると冗談が冗談で済まないのだ。


「用がないなら行くぞ」


 立ち去ろうとすると、店主が慌てて言った。


「回復薬! 回復薬買わない!? 最近、買ってなかったでしょ」

「最初からそう言え、このロリコンめ」

「えー。だって。セティちゃんが可愛いからいけないんだよ」

「同意するのは癪だが、確かにウチの妹は可愛いな」

「でしょ!」

「あ、回復薬は要りません」

「ふぁっ、流されたッ! 話膨らませようよ!」

「いや、お前の話膨らませても。どうせ、あっち方面だろう。俺はロリコンではないので」

「セティちゃん着飾らせておいて、よく言うよ。素質は十分だと見るね。あ、そうだ。回復薬要らないのって、セティちゃん扱き使ってるんじゃないだろうね」

「狩りに行ってないから回復薬減ってないだけ」

「はー、オウリらしからぬ発言だねぇ」

「セティのレベル上げに忙しいんだよ」

「それは大事だね。あれ? 狩りに行ってないんじゃ」

「セティを連れて行くような狩場だぜ。回復薬の世話になることはねぇよ」


 セティはNPCにしては強い方だろう。しかし、プレイヤーと比べたらまだまだだ。

 プレイヤーの種族のハイヒューマンは、様々な点でNPCより優遇されている。基礎能力が高く、成長速度も雲泥の差だ。検証した暇人によれば、成長速度は十倍も違うらしい。

 俺は元々第一線で戦っていたこともあり、セティとの強さは大人と子供程の開きがある。


「う~ん、大口顧客が来たと思ったんだけどなあ。在庫が減らなくて」


 店主は項垂れ、露店に目を落とす。一つも売れていないのか。歯抜けもなく、回復薬が並んでいる。


「値段下げろよ」

「やー、それはあまりしたくないんだよ。プレイヤーの作るアイテムは、どれもこれも高品質でしょ? その上、値段まで下げちゃったらさ、NPCの職人は職を失うことになる。今でさえ安すぎるって言われてるんだし、できる限り市場を荒らしたくないんだよ」


 ロリコンがまともなことを、と思ったが反論が面倒で口にはしない。セティがいるから妙なテンションになっているが、俺一人で訪れた時は割合まともな店主である。


「お前の心意気は立派だと思うけどな。でも、商品が売れなかったら、素材も仕入れられないだろ」

「だから、困ってるんだよ。アイテム作らないと熟練度溜らないから」

「職人は自分で素材収集行くわけにもいかないしなァ」

「戦えないことはないんだけどね。赤字狩りになったら意味ないし」


 《ゼノスフィード・オンライン》――《XFO》には、メインクラスとサブクラスがある。

 メインクラスが戦闘職、サブクラスが生産職だ。

 MMOは費やした時間が強さに直結する。戦闘と生産を両立するのは非効率だ。

 故にゲームを開始した直後に、プレイヤーは選択を迫られる。

 戦士となるか、職人となるか。

 俺は前者を選び、店主は後者を選んだ。

 職人も戦えないことはない。店主のサブクラスの錬金術師。アイテムの効果、範囲を拡大するスキルがある。アイテムを駆使すれば魔物も倒せる。スキルのレベル上げだけを考えるのなら、自分で素材を取りに行くのもありだろう。だが、それでは金が溜らない。減っていく一方だ。いずれ、困窮するハメになる。


「セティちゃん、静かだね」


 店主が俺の上を見ながら言う。というか、俺と話している時も、セティを見ていたが。


「ロリコンには近づくなって口を酸っぱくして言ってるからな」


 そう言い聞かせているのは本当だが、セティが静かなのは別の理由である。

 セティは店主をライバル視しているのだ。彼女のサブクラスも錬金術師なのである。俺が狩りに行く際に使う回復薬は、大抵この店主から仕入れたものになる。それがセティには気に食わないらしい。「私が作るんだもん」と張り切っているのだ。

 今度一緒に狩りに行くことを約束し、店主と別れる。


「……兄さん、家に帰ろ?」

「熟練度上げする気か」

「……うん」

「焦らなくていいさ」


 セティの奮闘は微笑ましい。

 しかし、店主はああ見えて腕のいい錬金術師なのだ。第一線で戦うプレイヤーにも回復薬を卸している。現状の店主にセティが追いつくだけでも、数十年の年月が必要とされるだろう。


「冒険者登録するんだろ?」


 今回、町を訪れたのはセティを冒険者として登録するためだ。ギルドカードは財布の代わりになる。普段は森の中の家に住んでいるが、こうして町に出てくることもある。

 だから、セティのギルドカードを作っておこうと思ったのだ。

 セティも冒険者ギルドに興味があるようで、店主と会うまでは楽しそうにしていた。

 店主と会ったのは失敗だったな。

 しかし、俺達を先に見つけたのは店主の方だ。店主を無視したとしても、結局、セティは落ち込んでいただろう。どうしようもない。

 贔屓目を抜きにして、セティは努力している。だが、努力では覆せないのが、種族と言う壁なのである。この壁にぶち当たり、多くのNPCが冒険者を廃業した。ぽっと出の初心者のプレイヤーでさえ、あっという間に自分よりも強くなるのだ。やってられないだろう。死ねばそれまでのNPCからしたら、デスペナなどリスクのうちに入らない。ノーリスクで魔物を狩れる人達がいるのなら、自分達が頑張る必要はないと思うだろう。

 会話も弾まないまま、冒険者ギルドに到着する。


「……へー、これが冒険者ギルドなんだ」


 肩にかかる感触から、セティがきょろきょろしているのが分かった。大分、機嫌が治ったようだ。俺は微笑みながら言う。


「何が気になる?」

「あれはなに?」

「クエストボード。依頼が張ってある。紙をカウンターに持って行って受注する」

「一人しかうけられないの?」

「依頼用紙一枚につき、一パーティーって感じかな。複数のパーティーを募集してる場合は紙が複数ある。よく見ると重なってる依頼用紙がいくつかあるだろ」

「兄さんもそうやって依頼うけてるんだ」

「俺はクエストボードの依頼はあんまり受けないな。面倒だから。よくある依頼は商隊の護衛だな。拘束時間長いからプレイヤーは大抵スルーする。交渉すれば夜は《ログアウト》できたり、融通も効くって話なんだが。まー、交渉する時間で報酬分稼げるのがプレイヤーだから。受けるのはよっぽどの物好きだな。畑を荒らす魔物を倒してくれとか、手紙を届けてくれって依頼も見たことある」

「兄さん、冒険者ランク高かったよね? どうやってあげたの?」


 俺のランクは……9だったか。最近、サボッていたので、ランクが上がっていない。

 冒険者のランクは数字だ。なので、ラノベで良くある「Sランク、だと!?」はできない。残念ながら。メインクエストが達成されるたび、レベルキャップが解放される。それに合わせ、魔物も強くなる。レベルキャップの開放で、Sランク相当だった魔物も、A、Bと相対的に変化していく。だから、数字でなければ管理しきれないのだ。


「倒した魔物をギルドカードが記憶してて、その記録から報酬が出る仕組みなんだよ」


 最初は冒険者ギルドでクエストを受け、指定された魔物を狩る方式だったらしい。しかし、不評だったため、現在の方式になった。狩場と冒険者ギルドを行き来するより、魔物のレアドロップ狙いで延々と狩った方が、大金を得られることが多かったためである。

 サードアームズ社はゲーム運営のノウハウがないのか。

 こういう場当たり的なシステム変更がよくある。


「んじゃ、セティの登録しようか」


 カウンターに歩いていくと、背後から野太い声が響いた。


「おい、そのガキを冒険者にしようってんじゃねぇだろうなァ」


 声の主は強面のセリアンスロープの男だった。セティを睨んでいる。不安になってないか、とセティを見上げれば、男の熊耳に興味津々だった。肝が据わっている。

 熊耳男は斧を持っている。狂戦士のクラスだろう。

「冒険者登録する気だったとしたらなんだ?」

「止めろ。ガキに務まるほど冒険者は甘くねぇ」


 あれ。テンプレ的な絡みかと思ったら、善意から止めてくれていたらしい。顔に似合わず優しいんだな、と目を瞬いていると、熊耳男はチッと舌打ちした。


「ガキは大人しく親の手伝いでもしてりゃァいいんだ」

「生憎、セティに親はいないんでね。俺が親代わりだ」

「お前が? あ? ハイヒューマンか?」

「そうだ。それが?」

「そのガキは? エルフだろ」

「エルフだな。何がいいたい」


 なんで分からねぇんだよ、と熊耳男がガシガシと頭をかく。


「ガキがハイヒューマンなら俺も止めなかったっていいてぇんだよ」


 なるほど。

 幼児が《XFO》をやるのは珍しいが、なくはない。ゲーマーの保護者と一緒に、プレイしている例を俺も知っている。流石に幼児では八面六臂の活躍、とはいかない。しかし、プレイヤーは死んでも復活できるのだ。危険はない。だが、エルフはそうはいかない。

 だから、熊耳男は種族を確認したのだ。


「ふ~ん。私がエルフだからとめるんだ?」


 セティが低い声音で言う。無意識に背筋が伸びる。俺に説教をする時と、同じ声音だったからだ。セティは店主と出会い、隔たる壁を実感していた。そんな折、種族の話を蒸し返され、冷静ではいられないのだろう。


「エルフってこたァ魔法使いだろ。魔法使いは一人じゃ何もできねぇ。パーティー組んでようやく一人前なんだよ。だが、お前みてぇなガキと組みたがる奴はいねぇ」


 熊耳男の言うことは基本的に正論だ。

 魔法使いは接近されると弱い。前衛が敵の攻撃を引き受けて、真価を発揮するクラスなのだ。パーティーを組まなければ、効率的な狩りはできない。幼女と組みたがる酔狂な冒険者がいないというのも事実だろう。だが、熊耳男は根本的な部分を間違えている。


「私は魔法使いじゃないよ」


 そう、セティは魔法使いではない。

 魔法が使えるクラスに就くのが当然のエルフにあって、一切魔法を使うことのできない異端児なのだ。行き倒れていたのも出来損ないは要らないと、両親に捨てられたからだ。

 熊耳男は的確にセティの地雷を踏み抜いた。

 セティは跳ぶと、熊耳男の前に立つ。


「獣人さんは強い人が正しいんだよね?」


 セティの意図が読めないのだろう。熊耳男が曖昧に頷く。


「だったら、私があなたに勝てば、私が正しいってことだよ」


 セティは完全にやる気になっている。熊耳男は困ったように俺を見る。が、こうなったセティは俺も止められない。だから、せめて、熊耳男に忠告する。


「セティの心配してくれるのはありがたい。でも、あんたは自分の心配をするべきだ」

「なに?」

「セティは強いぜ。あんたより、遥かに」


 はァ? と熊耳男がセティを見やる。セティは静かに熊耳男を見上げていた。


「じゅんびはいい? いくよ?」


 セティの姿が掻き消えた。《瞬動》。高速で移動するスキルだ。セティは熊耳男の後ろに回り込むと、前蹴りを熊耳男の膝裏に叩き込む。熊耳男の身長はセティの倍ほどある。普通であれば精々、態勢が崩れる程度だろう。だが、常識に反し、熊耳男が浮き上がる。意味が分からない。熊耳男の表情が、そう言っていた。後ろに倒れ込む熊耳男。セティを見上げる格好。彼はそこで何を見たのか。顔が引き攣る。セティは両手を熊耳男の腹に添え、一言。


「《双纏衝》」


 練られた《チャクラ》を放つ、アーツである。

 ドン! と轟音が響き、熊耳男が地面に叩き付けられる。カハ、と吐血しながら、熊耳男がバウンドする。

 しん、と冒険者ギルドが静まり返る。


「人を見た目で判断しちゃいけないってコトだな。いい教訓になったと思って諦めてくれ」


 俺はそう言って目を回している熊耳男の横に回復薬を置く。

 えへへ、とセティが駆け寄って来る。ストレスの発散ができて、上機嫌のようである。

 いや、それだけではないか。

 セティは上を見上げ過ぎて自信を失っていた。

 だが、冒険者として活動する熊耳男を倒し、自分の強さを再確認することができた。

 着実に成長している実感が得られたのだろう。

 俺は膝を落とし、セティを肩車する。カウンターへ向かう。見上げる。挨拶だ、という合図は通じたようだ。

 セティはにっこり、と笑う。


「リオンセティ。十一歳です。冒険者になりにきました」


 受付嬢は完全にビビッていた。

お久しぶりです。光喜です。

連載を再開します。

基本的にストックが切れるまで平日更新でいきます。更新に例外がある場合は後書きで通知します。ストックがあるとはいえ、推敲は必要なので、いきなりお休みしないように頑張りたいと思います。なんか、身体がダルいんですよね……冬場は体調が崩れやすい。


また、12/25にゼノスフィード・オンライン2が発売されます。

売れるといいなあ。

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