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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第2章 ドレスザード神国
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第24話 エピローグ

 セティの正拳突きを左腕(・・)で払いのける。

 腰の入っていない一撃に、俺は内心で溜息をつく。

 可憐な容姿をしているクセに戦い方は脳筋なんだよな。アーツに頼る戦い方は大分改善して来たが、まだまだ虚実が足りていない。こうあからさまなフェイントだと、プレイヤー相手では通用しないだろう。セティの使うアイテムは良くも悪くも火力があり過ぎる。仲間を巻き込まずに戦えるようにならないといけない。身体に染み込んだ癖を抜くのは大変だが、幸いなことにセティは俺の言うことは素直に聞く。日々精進だ。

 セティが俺の腕を掴む。


「えっ」


 《呼応投げ》が不発に終わり、セティが驚きの声を上げる。先んじて跳んでしまえば、《呼応投げ》は発動しないのだ。俺には《エアライド》も《空歩》もあるが、《呼応投げ》はスキルの使用までは強制しない。結局、身体は宙に浮くことになるのだが、自ら跳ぶのと跳ばされるのとはでは、次の行動に移るための所要時間が変わって来る。


「常に相手のスキルを思い描け」


 《空歩》でセティの頭上を越える。

 《エアライド》を使わなかったのは、俺が拳闘士として戦っているからだ。

 クラス外スキルまで想定して戦うことに意味がないとは言わない。ユマの例がある。だが、あれは例外だろう。大多数は自分のクラスのスキルだけで戦うのだ。だから、俺は手合わせをする際、クラスを絞って相手をしていた。

 

「そして、スキルだけを警戒するな。拳闘士はスキルがなくても厄介だ」

 

 拳闘士のプレイヤーは、大抵、格闘技を修めている。

 セティはまだ俺の腕を掴んでいた。俺は逆に掴み返し、腕を捻り上げる。


「いたっ」


 腕を折られると思ったのだろう。身を捩りながらセティが跳ぶ。把持し続けるのは流石に無理だった。だが、無茶な踏み切りをしたせいで、セティは無防備な背中を晒していた。

 続けるか。止めるか。

 一瞬、悩む。

 ……止めるか。

 ここからの逆転はセティには無理だろうし。

 俺の調子を確かめるための手合わせだしな。

 左目(・・)の《魔眼》でセティを減速。その隙にセティを抱き止める。手合わせの終了を告げると、セティは目を瞬かせていた。いつ捕まえられたのか、分からなかったのだろう。だが、置かれた状況に気付くと、蕩けるような笑みを浮かべ、俺の首に両手を回して来た。


「えへへ。お姫様抱っこだ」

「……腕は平気か?」

「う~ん、動かすとすこし痛いかな」

「……痛いのかよ。《治癒功》使っとけ」

 

 着地。セティから手を放す。が、セティは微動だにしない。腕の力だけで体勢を維持している。《治癒功》は使っておらず、腕は痛んでいるだろう。しかし、セティはにこにことほほ笑んでいる。その胸元にはハートのネックレス。関係を見直すと誓った際、プレゼントしたネックレスである。ハァ。仕方がない。セティの腰に、膝に手を回す。

 

「……策士に育ったもんだよ、全く」

「ごめんね。ありがとう」


 ワガママ言ってごめんね。

 でも、嬉しいから、ありがとう、か。

 本当に厄介な育ちかたをしたものである。

 セティのことは一旦忘れ、左手をグーパーさせる。


「……七割ってトコか」


 親父との戦いで失った左腕と左目は、シュシュの神聖魔法《リカバリー》で再生されていた。しかし、再生させても即座に完調とはいかないようで、左腕と左目に微妙な違和感が残っていた。その違和感を確かめるために、セティと手合わせしていたのだ。

 左腕は大分思い通り動くようになって来た。

 だが、左目は……


「使い物にならないか」


 目としての機能は回復している。

 しかし、《刻の魔眼》としては使えない。発動はする。だが、効果としては弱く、何より反動が物凄い。取り澄ましているが、今も頭が割れんばかりに痛い。二度発動させたら、間違いなく気絶する。再生した直後に使った際は、その場で気絶したことを思えば、間違いなく症状は緩和して来てはいる。以前のように使えるになるには、一体どれだけかかることやら。《刻の魔眼》に耐久度があるのなら、壊れる寸前になっているのだろう。

 《刻の魔眼》のマジックアイテム化計画はボツだな。

 目を摘出しては《リカバリー》で再生させれば、大量に《刻の魔眼》の用意できるのではないか。

 そう考えたのだが、浅墓だったらしい。

 ま、好き好んで目を抉りたくないし。

 この結果に文句はないが。

 《ウィンドウ》を開く。

 

+――――――――――――――――――――――――――――+

【クエスト】Chapter***《神の鉄槌》

【聖暦】***年

【詳細】人は安寧に胡坐をかく生き物だ。ゆえに人の進化を促すべく、七大神は試練(クエスト)を発行する。しかし、新世界になり幾星霜、人の進化は停滞していた。

 生ぬるい試練では最早、進化は望むべくがない。

 白羽の矢が立ったのが、*の神****である。

 ****は過酷な試練を課すべく、****に顕現すると****を****

【ボス】*の神****

【報酬】****

+――――――――――――――――――――――――――――+


 親父を倒した後、《ウィンドウ》が勝手に開いた。ログを見ればクエストをクリアしたとある。ジャーナルで最新のクエストを確認すると、チャプター29《因果応報の聖戦》から変わっていない。しかし、クリア済みのクエストのタブに、この見知らぬクエストが入っていたのである。大半が伏字になっていて、クエストの体裁が整っていない。人の進化が頭打ちになったら、実装される予定だったのだろう。

 依り代にも勝てぬようなら死ぬべし、という親父の言葉に嘘はなかった。しかし、あれが本心だったワケではないのだ。親父は自身の敗北こそを望んでいたのである。

 クエストのログにはこうある。


 ――レベルキャップが解放されました。


 「強くなれ」という親父の声を聞いた気がした。

 今回の件でよく分かった。七大神は理不尽な存在だ。カンストの壁を超え、異常なステータスになっている。しかし、技術が劣っていたとは思わない。レベルさえ追い付けば、十分に勝ち目はある。レベルキャップを開放するため、親父はクエストに挑ませたのだ。それならばそうと最初に言って欲しかった。と、拗ねた気持ちになってしまうのは、親父との距離が縮まった証だろうか……

 

「のう、セティ。場所を変わらんか?」

「えー、そこがシュシュの特等席でしょ」

「むぅ。肩車だぞ。子供扱いされているみたいではないか」

「シュシュは子供だよ」

「身体はな。心は違う」

「それならもっといやだよ」

「そこを何とか!」


 ……人がしんみりしてるんだから、浸らせてくれよ。

 セティとシュシュがくだらない……そう、くだらない言い争いをしている。

 シュシュはいつの間にか俺の肩に乗っていた。いや、気付いていたんだけどな。「んしょ、んしょ」って、上って来てたし。一足飛びに上れるクセに、時間をかけるあたりあざとい。ただ、心配掛けた手前、強く出れず……見て見ぬふりをしていたらこうなった。


「オウリからは甘い樹液でも出てるのかねー」

「そう言われると虫にたかられている木に見えてくるな」


 と、失礼な感想を漏らすのは、ノームとアリシアである。

 親父の介入で試練は滅茶苦茶になったが、ノームと契約を結ぶことには成功した。「依り代が敗れたんだし、試練は達成でいいんじゃないかな。あんなの見せられたら僕だって認めるしかないし」とはノームの談である。とはいえ、ノームにとって大事なのは神国に代わりはなく、全面的な協力は見込めそうにない。契約者として命じれば力を振るってくれるだろうが、ちょっとした用事を頼んでも拒否されそうな感触だ。自由気ままに世界を回るシルフと比べ、ノームは土着の神としての色合いが強いような気がする。

 仕事上の付き合い、といった感じか。

 何だか色々寄り道したが、神国へ来た目的は達成出来た。

 今後、亜人の立場に立って行動することを考えると、守護のイドを持つノームと契約しておきたかったのだ。と、言うのもシルフの言う自由とは精神的な側面が強いからだ。圧倒的な力の差でもない限り、シルフは力を振るってくれない。彼女は自由を愛す。だからこそ、自由には命を賭ける価値があると信じているのかも知れない。

 これを知っていたら俺は風の試練に挑まなかった。

 使い勝手が悪すぎる。

 その点、ノームのイドである守護は生命も含む。

 ……俺は守ってくれそうにないけどな。

 と、俺が考え込んでいたら、セティとシュシュの口論は、物騒な結論に達していた。

 

「分かったよ。そこまで言うなら勝負で決めよう」

「待て、セティ。それは汚い。接近戦になれば、妾に勝ち目はない」

「う~ん、いい勝負になると思うけど? シュシュは諦めるのが早すぎると思う。この間だってそうでしょ。兄さんは勝つって言ったのに、シュシュは信じようとしなかった」

「はぁ!? それとこれとは別問題だ。オウリの怪我を見なかったのか? 夫の無謀を諌めるのは妻の役目だろう」

「夫を信じるのも妻の役目だよ」

「……ほぅ。いいだろう。勝負を受けても。だが、賭けるのは席次だ」

「……席次?」

「どちらが正妻か、ということよ」

「……ふぅん。負ける気はないよ?」

「……ふっ、それは妾もだ」


 上から下から聞こえてくる、くくく、ははは、という笑い声を聞いていると、俺はしかめっ面になるのを抑えられなかった。

 おかしい。

 もう二人の間では俺の妻になるのは確定しているらしい。というか、二人とも妻になることで互いに合意している節すらある。俺の意思は無視かよ。


「…………頭が痛い」


 俺の呟きは青空に吸い込まれていった。

第2章 ドレスザード神国編 -了-


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