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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第2章 ドレスザード神国
33/85

第8話 脱獄

 ――― オウリ ―――


「――――聖戦ねぇ」


 俺は疲れた顔で眉間を揉む。


「信じられんか。話が大きすぎるからな」


 ドワーフの言葉に俺は首を振る。

 話を聞けば捕まっていたのは一文字傷以外全員商人だった。

 神国から装備の発注があり、納品に来たら捕まった、という話だった。

 一度に大量に装備を集めれば耳目を集める。

 そこで小口での発注を繰り返した結果、大勢の商人が捕まる事になったのだろう。

 状況証拠は揃っており、戦争を否定する材料も無い。悩ましいのはエルフが聖戦という言葉を使った事だ。大義を示すために聖戦と言っただけかも知れない。しかし、このタイミングで聖戦という言葉が出てくると、何か裏があるのではないかと勘繰りたくなる。

 裏と言ってもエルフが企んでいるとは思わない。

 神だ。

 

+――――――――――――――――――――――――――――+

【クエスト】Chapter29《因果応報の聖戦》

【聖暦】950年

【詳細】輪廻は巡り、因果も巡る。因果応報の聖戦が幕が開く。

【ボス】魔王トリス・スクラント

【報酬】免罪斧シェイファ

+――――――――――――――――――――――――――――+


 ジャーナルは変わっていない。

 だが……いつ変化するか……


「金は支払って貰ったのか?」

「後日貰える事になっている」


 答えたのは最初に話しかけて来たドワーフだ。

 いつの間にか彼が代表して答えるようになっていた。


「解放する気はあるって事か」

「戦争が始まったら解放するといっておっていた。始まってしまえば隠し立て出来んからな。ワシらの口を封じる気なら生きてはおらん」

「戦争するのは構わねぇが。エルフに勝ち目はあるのかね」

「無い。だが、立ち上がらなければならない時がある。ヒューマンはエルフの奴隷を好む。我慢の限界が来た、という事だろう。おお、なるほどなあ」

「ん?」

「問答無用で牢に入れられた。だが、不満は感じておらんかった。その理由に気付いたのだ」

「王国の横暴は神国だけじゃないってコトか」

「装備を買い叩かれておるわ。侵攻を匂わされたら何も言えん」


 上手くいけば恩の字という気分で牢屋に潜入したが、思ったよりもスムーズに情報が集まった。

 最初、セティとシュシュに情報収集を任せようと思った。

 同族相手ならエルフの口も軽くなるだろうと考えたのだ。

 だが、肝心の二人の側に同族意識が欠けている。

 そういうのは敏感に察知されるだろうと諦めざるを得なかった。

 

「さて、俺は牢から出るけど、アンタらはどうする?」


 俺が言うとドワーフが目を丸くした。


「出る? 出れるのか。強固な牢だぞ。誰か助けが?」

「この程度の牢ならどうとでも」


 牢には十重二十重に結界が張られている。互いに干渉しつつ、強度を高めている。

 魔法陣に代表される、儀式魔法による結界だ。儀式魔法はレベルでの習得が無い。だから、あまり詳しくは無いのだが、《魔力》の流れから高度な魔法である事が分かる。

 しかし、肝心の術者の質が低い。

 プロの設計図を基に、素人が家を建てた感じ。

 商人達が考えている間、脱獄の方法を考えていた。しかし、二、三見繕った当たりで飽き、折角の脱獄なんだし、ハデに行きたいよな、と妄想を膨らませていた。

 

「満場一致だ。ワシらを出してくれ」


 ドワーフが全員を代表していった。

 

「脱獄したら金は受け取れないぜ」

「命あっての物種だ」

「ま、それもそうか」


 エルフは約束を守るとは思うが、神都に戦火が及んでからでは遅い。他人に命を預けるのはごめんだ、と考えるのはよく分かる。そもそも小口の商いという話だった。小額を受け取るため無為な時間を過ごすより、行商していた方が儲かると判断したのか。

 久しぶりにシャバに出れるとあり、商人達のテンションは高い。

 俺はインベントリから黒い石を取り出す。


「……これは、魔石? いや、竜石か」


 ドワーフは石を手に取り、しげしげと眺めていた。

 魔物は体内に魔石を持つ。逆か。魔石を持つ者を魔物と呼ぶ。動物と魔物の区別は魔石の有無だ。魔石は主に魔道具の動力源に使われる。竜石も魔石だ。

 竜から取り出した魔石を竜石という。


「珍しいのか」

「……ああ、ここまで見事なのは初めて見た」

「ふぅん、これでね。ブレイザールの竜石見たら心臓止まるかもな」

「あの五色竜か。はは、それで死ぬなら本望…………冗談、だよな……」

「死んでもらったら困るし。証明する術は無いな。ただ、意外と小ぶりなんだぜ」

「…………」


 竜石を並べていると、不意に気配を感じた。いつの間にか男達が詰め寄っていた。


「――――!」

「――――!」

「――――!」


 一斉に喋るものだから聞き取れない。

 だが、商売しようと言っているのは分かった。

 ……商魂たくましいな、おい。

 面倒なのでインベントリから二束三文の代物を幾つか取り出す。商人の水準では垂涎の的だったのだろう。すぐさまオークションが始まった。というか、牢屋なんだが……金は持ってるのか。

 司会をドワーフに丸投げし、俺は準備に勤しむ。

 ナイフで指先を傷つけ、血を竜石に垂らす。

 

「一握の砂。灼熱の血。穢れの心。我が現身(うつしみ)を起こせ」


 ぽぅ、と竜石が光を帯びる。地面が隆起し、竜石を包み込む。光は明滅しており、心臓の鼓動のようだ。四方へ走る光は不自然に止まる。光の輪郭は人形を表していた。

 土で出来た人形が身体を起こした。手には土で出来た槌を握っている。

 土魔法第六階梯《クリエイトゴーレム》だ。

 媒介となった竜石の質に応じて大きさが変わる。今回は低級の竜石を使ったので等身大のサイズだ。

 

「お前さん、魔法使いだったのか。ほう、実に見事なものだ」


 ゴーレムを撫でながらドワーフが言った。


「俺もたまに忘れるよ。ああ、悪いんだが。端に寄ってくれ。もう何体か起こす」


 魔力回復薬を飲みつつ、ゴーレムを作って行く。十体作ったところで手を止める。

 

「このゴーレムでどうする気だ?」


 整列するゴーレムを眺め、ドワーフが首を傾げていた。

 ゴーレムに戦闘能力は無いと言われているからだ。だが、それはゴーレムの仕様を理解していない者の発言だ。術者である魔法使いに戦闘能力が無い、と言うべきなのである。

 ゴーレムのステータスは術者を劣化させたものになる。カンストした魔法使いが作れば十分な戦力になる。更に魔法こそ使えないが、それ以外のスキルは使用可能。

 つまり、アーツは使用出来る。


「派手にやれ――《オブジェクトブレイク》」


 ゴーレムの持つ槌が一斉に光り出す。一糸乱れぬ動きで槌を鉄格子に叩きつける。鉄格子が紙切れのように吹き飛んでいった。

 空いた口が塞がらない商人達を尻目に俺は悠々と牢屋から出る。

 

「一号から五号は階段をふさげ。それ以外は牢を破って、中の人間を連れて来い。俺が《邪心感知》で判断する。本物の犯罪者まで脱獄させるワケにはいかないからな。外に出たら商人達を王都の外まで護衛しろ。追手が来るなら殺さない程度に遊んでやれ」

 

 ゴレームに命令を下し、一息ついていると、ドワーフが俺を見ていた。


「助かった。恩に着る」

「いいって」

「どうしてここまでしてくれる?」

「キシャ村って知ってるか。国境の森の近くの村なんだが。そこの宿屋の主人によくして貰ってさ。商人に会ったらよろしくって言われたから、かな」

「……ん? んんん? 知らんが。ワシは。その村の事」

「いいんだよ。中にはいるかも知れないだろ」

「ふーむ。反応してた者が何人かいたな」

「ま、細かい事はいいだろ。人助けに理由が必要かよ。メリットとかデメリットとか。そんなもんイチイチ天秤にかけてっから、やりたい事も出来なくなっちまうんだろ」


 ドワーフが何とも言えない目で俺を見ていた。

 俺は肩を竦め、手を振った。


「あー。言うな。恩を感じてるなら言ってくれるな」


 分かってるさ。

 どうせ、見かけによらず甘いと言いたいんだろ。

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