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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第2章 ドレスザード神国
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第7話 神国の狙い

 ――― シュシュ ―――


 陽光で壁の模様が浮かび上がっていた。手先が器用なエルフらしい緻密な細工。大きな窓からの採光が無ければ、細かすぎて気が付けなかった。調度も部屋に埋没しているが、目を凝らせば値打物だと分かる。質素に見えて、その実、華美な部屋だった。

 しかし、どうなのだろうな。

 来客を持て成すはずの部屋だ。なのに審美眼を試されている。

 エルフの傲慢が透けて見えるわ。この部屋の価値を解さぬ者は、丁寧に接する必要はないという事だな。ふん。エルフの全てが美への造詣が深いわけではあるまいに。

 エルフは閉鎖的で外交下手だと聞いていたが本当のようだ。

 妾がエルフに転生したのは今生が初めてだ。感性はエルフのものになっているが、価値観はまだまだヒューマンである。だからこそ、上から目線の持て成しが鼻についた。


「蒼穹の魔女殿に来て頂けるとは僥倖です。騎士団の士気も上がることでしょう。しかし、我が国の話を一体どこで? 情報が漏れぬよう苦心していたのですが。やはり、森から?」


 キースが頬を紅潮させ言った。

 亜人の英雄と対面出来て、舞い上がっているらしい。


「え? 兄さんと観光に来ただけだよ」

「……魔女殿の……兄君ですか? 不勉強で申し訳ない。兄君はいずこに? 騎士を迎えに行かせましょう」

「牢屋かな」

「ハッ。では、牢屋に迎えを…………牢屋、ですか?」

「違うの? 連れて行ったの貴方達でしょ」

「……兄君とは……あのハイヒューマンのことですか」

「そうだよ」

「……前言を翻す形になってしまい恐縮ですが、あの者は我が国に災厄を齎すと予言された男。陛下の裁定が済むまでは牢屋から出すわけにはいきません」


 キースは騎士の顔になって言った。


「いいよ。兄さん楽しそうだったし」

「……た、楽しそう」

 

 キースが顔を引き攣らせる。

 今更ながらこれが普通の反応よな、と思った。

 オウリが投降すると聞いた時、妾はふぅん、と思っただけだった。窮地であってもオウリなら切り抜けるだろうし、何を言ったところで聞き入れるとは思えない。アリシアですら粛々と連行されていったのだから、着々とオウリに毒されているらしい。

 よしんばオウリがヘマを打ったところで助け出すのは容易だ。

 セティ一人でも可能だし、ヤーズヴァルだっている。《闇の帳》が使える妾はエルフの天敵。神国を更地にしても尚、お釣りが来る戦力が揃っている。


「……しかし、兄、ですか……」


 キースが渋面で呟く。計算が狂った、と言いたげだ。


「なあ、話の摺り合わせをせぬか。オウリの事は放っておけ。気を揉んだところで、アレはどうにもならん。情報収集に行っただけであろう」


 妾が言うとセティが小首を傾げた。


「牢破りしたいだけじゃないかな」

「……ううむ、その可能性も否定できん。オウリだけに。いずれにせよ、気が済めば自分で出てくるだろうよ」


 蒼穹の魔女の会話を遮ったらいけないと思ったのか。キースは何か言いたげにしていたが、口を開くことはなかった。

 

「ああ、お主の言いたいことは分かる。そう簡単に出れないと言うのだろう。だが、災厄と呼んだのはお主のほうだぞ。のう、災厄とは閉じ込められるものなのか」

「……相違ない」


 キースは入口の騎士を呼ぶと、耳打ちしていた。大方、牢屋の警備を強化しろ、という話だろう。余程、牢屋に自信があるのか、騎士は不満げな表情である。

 騎士が廊下に出るのを見送り、妾は口を開く。


「で、妾達はお主達が何をしようとしているのか知らん」

「……ええ、どうやらそのようですね」

「そこの蒼穹の魔女が言ったように、目的を持ってこの国へ来たわけではない。タイミングが良かったせいで、何か勘違いさせてしまったようだがな。オウリは何か目的があるようだが……お主達がやろうとしている事とは無関係だろうよ」

「……失礼だが貴女は?」

「シュシュ。蒼穹の魔女の友人だ」


 妾がそう言うとセティが食い付いた。


「……え、友達? 私たち、友達?」

「……違うのか」

「ううん! 違わない! えへへ、友達だ! 嬉しいな。私、友達いなかったから」

「アリシアがいるだろう」

「アリシアは弟子だよ」

「そうか……」


 傍から見ていると二人は友人に見えるが。

 きゃっきゃと黄色い声をあげ、セティが妾に抱き付いて来る。

 コホン、とキースが咳払いをした。

 

「……では、援軍に来て頂いたのではないのですね」

「援軍なあ。何と戦う?」

「驕った王国と」

「……これは、また。大きく出たな」


 丁重にもてなされるのだから、何か裏があるとは思っていたが。

 援軍だと思われていたからか。

 セティを発見した時の状況を考えれば、その可能性は薄いと分かるはずなのだが。

 王国を敵に回せば、神罰騎士団も出張って来る。三軍ある神罰騎士団だが、一軍で神国を滅ぼせるだろう。だが、亜人には王国最強の騎士団を敵に回し、生き残っている人物が一人いる。その蒼穹の魔女が現れ……差し込んだ光明に目が眩んだか。

 ちなみにセティが蒼穹の魔女だと証言したのは一人の騎士だ。その騎士は大昔にセティに助けられた事があるらしい。当のセティはすっかり忘れていたが。キースが騎士の証言を信じたのは、セティとの実力の差を感じ取ったからだろう。


「セティを戦争に参加させる気か」

「いいえ、戦争ではありません」


 キースはほほ笑み、訂正する。


「聖戦です」

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