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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第1章 災厄の魔女
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第13話 魂の牢獄

――― ユマ ―――


 魂の牢獄に囚われ何年経ったのか。

 百を超えてからは数えるのも止めた。

 自ら命を絶った事は一度や二度ではない。しかし、必ず前世の記憶を持って転生する。

 スニヤの後釜に座り輪廻の神となったアイラが言うには、まだ終われないという強い意志が次の生に記憶を引き継がせるらしい。だが、望まないにも関わらず記憶を受け継ぐ者もいる。世界に多大な影響を与えた者だ。これは善行でも悪行でも構わない。

 僕をこの魂の牢獄に縛るのは。

 救世の英雄の二つ名だという事だ。

 

「こんなことになるなら世界なんて救わなかった、ってカオだな」

「……驚いた。その通りだ」

「今生では初めまして、だな。ユマ」

「挨拶はしただろう、オーファン」

「あの時は騎士団長として。今はプレイヤーとしてだ。時間取れなくて悪かったな」

「別に無理して来なくてもよかったのに」


 第三神罰騎士団、オーファン団長。強面だが心優しい好漢だ。

 団長に無礼だと従騎士が騒いでいたが、オーファンの「彼はいいんだ。プレイヤーだ」という一言で静かになった。

 転生を繰り返すこの世界では友人が子供になる事だってある。転生者の関係は単純に階級では割り切れない。しかし、そこは原則として規律が優先される。

 唯一、例外とされるのがプレイヤーだ。

 世界の礎を作ったプレイヤーに敬意を表して、という事もあるだろう。

 だが、現実問題としてプレイヤーは図抜けて強い。

 不興を買えば何をされるか分かったものではない。

 

「いつからかプレイヤーって言葉自体が始祖を意味するようになったよなあ」

「今いるハイヒューマンはプレイヤーの子孫だからね」

「なあ、ユマ。たまには家に帰ってやれ。始祖が寄り付かないって悩んでたぞ」

「どこかで人形の血が混じった。もう僕の帰る場所じゃない」

「噂だろ」

「僕だってそう思いたかったさ。でも、人形が生まれた」

「女作らないのはそれが理由なのか。お前が結婚したって話一回しか聞いてないぜ」

「ふと、ね。よぎるんだよ。人形の血が混じってるかも知れない。そう思ったらもう駄目さ。魅力的な女性も人形にしか見えなくなる」

「王族は? あそこは純血を保ってるはずだが」

「価値観が違い過ぎる」


 王家の起こりをつぶさに見て来たのだ。敬えと言われてもうまくいかない。

 オーファンは額をポリポリかくと言い辛そうに切り出した。

 

「災厄の魔女討伐を俺達に任せてくれないか?」

「それが本題かい?」

「旧交を温めたかったのは本当だぜ。ただ、俺にも立場があるってだけだ。神敵が討伐出来れば騎士団にハクが付く。第一の連中にデカい顔させておきたくねぇ」

「ははは。今生でも君達は仲が悪いんだね。前世で和解したと思ったけど」

「あン時は互いにジジイだったからだ。思考は肉体に引っ張られるからな。俺があのネクラと和解出来るのは五十年は先だ。それまではまた権力闘争に明け暮れるさ」

「飽きないね。君たちも。手柄が欲しいならブレイザールは? 逃がしてよかったの?」

「戦えば勝てるだろう。だが、被害がデカ過ぎる。手柄は欲しいけどな」

「僕なら一人で倒せる」

「結局、お前の手柄になるだけじゃねぇか」

「手柄は譲るよ」


 僕が五色竜に見向きもしないのは、またぞろ救世の英雄と騒がれるのが嫌だからだ。

 手柄を騎士団が持っていってくれるのなら倒すのもやぶさかではない。

 ヤーズヴァルだけは別だが、なかなか出会う機会が無い。


「お前がここにいるコト自体がなあ。あのネクラも知っているわけだし」

「それならブレイザールは諦めるんだね」

「それで、どうだ。災厄の魔女は」

「…………」


 僕が黙っているとオーファンが気まずそうな顔をする。

 本来、僕は何の立場もない一般人だ。災厄の魔女の住処を発見したという報を聞き、無理やり討伐隊に押し掛けてきたのだ。オーファンの立場を考えると申し訳ない気持ちになる。

 だが、


「災厄の魔女は譲れない」

「……お前と災厄の魔女の因縁は知ってるけどな」

「因縁ね。あるよ。でも、違う。違うんだ」


 僕は二度、災厄の魔女に殺されている。

 オーファンはそれを言っているのだろう。だが、殺された事自体はどうでもいい。

 僕が災厄の魔女に拘るのは、


 ――俺は家族と一緒にいるため、この世界を守りたいのさ。


 デスゲームを長引かせた元凶だからだ。

 一度目、二度目とも、タイミングが悪かった。討伐隊が組まれた当時、僕は十歳に満たなかったのだ。今は二十歳。レベルもカンストしたし、今度こそ確実に討てる。

 災厄の魔女も相当知られた名だ。

 間違いなく転生する。

 転生したらまた殺そう。

 だが、弱い者を殺しても詰まらない。

 彼女が育つまで待つ必要があるだろう。

 その退屈を思うと今から憂鬱になる。

 

 ――転生。


 この世界の人間が言うとき、転生者という意味合いだ。

 だが、実際は誰も彼もが転生しているのだ。

 なまじ記憶を引き継ぐ転生者が現れるから混乱する。

 人は死ぬと輪廻の輪に還り、記憶と能力をリセットされる。それが本来の仕様だった。だが、スニヤの死によりそれが狂った。新しい輪廻の神アイラも頑張っているが、引き継ぎも無しに仕事を始めた状況だ。ブラックボックスがまだまだ多く、必要最低限の機能を優先するしかないらしい。

 つまり、リセットが不十分なのだ。

 だから、記憶は残るし、スキルだって残る。

 残ったスキルをギフトと呼ぶ。神が与え賜うたスキル、という事らしい。リセットが上手くいっていないだけ。単なるシステムの不具合である。それを崇めるのだから滑稽と言うしかない。しかし、アイラが与えたと言えなくもないので複雑な思いがある。

 

 ――強くてニューゲームだ!


 そうアイラは言っていた。

 ゲーマーらしい物言いだと思う。

 ギフト持ちは多い。誰でも一つか二つのギフトを持っている。

 一方、転生者は数が少ない。その上、大量のギフトを持っている。特別視されるのもむべなるかな。


 ――執念が次の生にスキルを引き継がせちゃうんだろうね。人の思いには神サマも勝てないと言うことなのサ。いや~、はっはっは、参っちゃうなあもお。

 

 アイラとの思い出を懐かしんでいると、穏やかな時間を邪魔する無粋な声があった。

 

「何かあったようだな」


 険しい顔をしてオーファンが夜陰の奥を見ていた。

 第三神罰騎士団の団長としての姿がそこにあった。


「お前はついてこなくてもいいぞ、ユマ」

「災厄の魔女が現れたのかも知れない」

「それならもっと大騒ぎしてそうなもんだが。ま、来るっていうなら止めないさ。お前の二つ名は役に立つからな。おっと、すまん。嫌いなんだったな、二つ名」

「捨てられるものなら捨てたいよ」


 雑談をしながら騒ぎの中心へ向かう。

 様々な格好をした若者が輪を作っていた。地球の騎士団を知っていると違和感が凄い。

 騎士団といっても全員が騎士クラスではない。当然、それぞれのクラスに適した装備になる。シリーズ装備で揃えるのが一番だが、高レベルの職人は軒並みログアウトしている。過去の遺産でやりくりすると、どうしてもチグハグな騎士団が出来上がる。


「何があったんだい?」


 手近な騎士に声をかけると、背筋を伸ばして敬礼された。

 僕の顔を知っているらしい。


「こ、これはユマ様!」

「おう、俺も一応いるぜ」

「も、申し訳ありません、団長!」

「いいって、いいって。俺のツラなんざ、見飽きてるよな。で? 何があった?」

「ハッ! 亜人が食事を摂るのを拒否しましたので。どうも、用途を吹き込んだバカがいたようです。災厄の魔女は亜人には英雄視されていますから」

「首輪使え」

「それにも抵抗する有様でして」

「なら、ほっとけ。魔女の住処は近い。生きてりゃあいいんだ」

「……ハッ」

 

 騎士は敬礼をするものの、どこか煮え切らない態度だ。

 さりげなく輪の中を見せないようにしているのも気になる。

 騎士を手でどかし、輪の中を覗き込む。

 

「あれは?」

「……し、躾をしているところでして」


 亜人の子供が剣士に暴行を受けていた。殴る、蹴るでは飽き足らず、罵声を浴びせ掛けていた。


「みっともないね」


 思わずそう言っていた。

 剣士が弾かれたようにこちらを向く。


「……見ない顔だな。誰だよ」

「ユマ」


 僕が名乗るなり剣士が盛大に舌打ちした。


「……救世の英雄サマか。部外者が口出すなよ」

「確かに僕は騎士団に参加させて貰ってる立場だけどね。でも、僕が言いたいのは人としての話だよ。みっともない。見ていられない」

「……偉そうに」

「年長者の話は聞くべきだよ」


 剣士のステータスを《鑑定》し……見たくない文字が見えた。


 ――ヒューマン。


「なんだ、人形か。だから、嫌なんだ。紛らわしい」


 剣を抜き、剣士の首を刎ねる。

 唖然とした空気が漂う。見渡しながら言う。


「誰か文句ある人いる?」


 オーファンが苦い顔をしていた。


「この国にお前に文句言えるやつはいはねぇよ。ま、死んだそいつは家柄こそ立派だが、中身はお前のいう人形だからな。愛人の子らしい。戦死した事にしときゃ誰も文句いわねぇさ」

「すまないね。苦労をかける」

 

 僕が人間と認めるのはプレイヤーとその子孫だけ。

 NPCを人とは認めない。

 亜人はまだマシだ。身体的な特徴がある。だが、ヒューマンは最悪だ。一見するとハイヒューマンだ。魂のない人形の分際で、人と同じように喋るのだ。気色悪い。

 亜人の少女の前に跪くと、インベントリから回復薬を取り出す。


「これを飲むといい」

「あ、あの……ありがと、ござ……」

「お礼を言っているのかな」

「は、はい。このご恩は一生、忘れ――」

「ごめんね。僕は人間だから――」


 少女の頭を撫でながら言う。


「――家畜の鳴き声は分からないんだ」

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