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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
プロローグ
1/85

第1話 《ゼノスフィード・オンライン》

シンプルなタイトルになりました。

感想・評価をお待ちしております。

 オウリ。

 俺の名だ。桜理と書く。姓はない。

 貴様のような出来損ないが家名を名乗ることは許さん――と言われたからである。最初から名乗る気ねぇよと思ったが、賢明な俺は口に出さなかった。が、顔に出ていたらしい。殴られた。理不尽だよな。ファンタジーな世界観にゃ和風な名字はあわねぇだろって思っただけなんだぜ。

 当時の俺は中学一年生。反抗期の真っ只中だ。

 暴力を振るった親父は格好のオモチャ。

 負のスパイラルだと分かっていても、からかわずにはいられないお年頃。今も似たようなものじゃね、という話はあるが……それはともあれ。俺は寛大な心で親父を許した。

 親父よりも魅力的なオモチャがあったからだ。


 《ゼノスフィード・オンライン》。

 剣と魔法の世界で冒険するVRMMOだ。

 異世界ゼノスフィードにはヒューマン、エルフ、ドワーフと言った様々な種族が住んでいる。それぞれの種族には一長一短があり、一つの種族が覇権を握る事は無かった。

 しかし、その均衡が崩された。

 生きとし生ける者の天敵、魔族が現れたのである。

 魔王シュラム・スクラントは世界に宣戦を布告。

 ヒューマンの国を瞬く間に滅ぼす。

 危機感を抱いた人々は種族の垣根を越え魔族に立ち向かうが、強靭な肉体と膨大な魔力を兼ね備えた魔族の前にはただ散るのみ。魔族の版図は電光石火の勢いで広がって行った。

 見かねた七大神は一計を案じる。

 異世界から強者を召喚したのだ。

 その強者こそプレイヤーであった――というストーリーである。

 

 種族はハイヒューマンしか選べない、職業であるクラスは勝手に選ばれる、世界が広すぎて序盤の移動が面倒、地球と同様に時間が流れる為、社会人がログインするといつも夜などと、ユーザビリティはお世辞にも高いとは言えない。しかし、一度でも《XFO》に触れれば世界観を守る為には仕方がない、と納得出来ると言う。不満を吹き飛ばす圧倒的なリアリティがあるのだ。


 《ゼノスフィード・オンライン》、通称《XFO》が他のVRMMOと一線を画すのはNPCだ。大抵のVRMMOではクエストを受注出来るNPCが決まっている。余命幾ばくもない病人に話しかけると、特効薬を取ってきて欲しいと頼まれる、というような。

 だが、現実に当てはめるとこれは奇妙だ。

 一人がクエストをクリアしたら、病人は治癒しているハズなのだから。

 では、リアリティがウリの《XFO》ではどうなのかと言えば、一人がクリアすればクエストはそれまで――というだけではなく、誰も受注しなければそのNPCは死ぬ。

 当然、復活する事も無し。

 NPCは本当に生きているのだ。


 救えば当然感謝される。

 魔物から村を救えば英雄だ。

 《XFO》はサービスが開始されるや否やゲーマーが殺到した。人気の過熱ぶりはサーバーに負荷をかけないよう、ログイン制限がかけられた程である。アカウントがオークションで一千万で落札された――なんて逸話まであり、《XFO》は社会現象となっていた。

 

 そんなプレミアムチケットを。

 なぜか親父が持っており。

 俺にやれ、と渡してきたのだ。 


 親父はゲームを毛嫌いしている。胡散臭いことこの上ない。だが、アカウントが本物なのは確か。

 家庭内の不和を取り除く為にも、ありがたく楽しませて貰うことにした。

 俺が居ない方が家は上手く回るんだしな。悲しくないといえば嘘になるが……マジで身の危険があるから。弟は修行にかこつけて俺を殺そうとしてくるし、母親は気分次第で俺に致死量の毒を盛りかねない危うさがある。歴史ある名家なので身内のゴタゴタぐらい軽く握りつぶせるだけの権力があるのだ。直ぐ暴力に訴える親父が一番マシとか言うね。なんだろうな。


 スポンサー(親父)の意向に従い、家名無しのオウリで登録。ゼノスフィードの大地に降り立ち、魔族と戦うハイヒューマンの一人となった。

 それからの日々は怒涛の如く過ぎていった。


 右も左も分からない世界で、ひたすら魔物を倒し続け。気が付けばトップランカーの仲間入り。魔王シュラム・スクラントの討伐隊に参加。見事討ち果たすことに成功した。あの時の宴は忘れられない。人々の笑顔。賞賛の声。MVP報酬を盗まれた。

 見覚えのある剣に気を取られ、盗賊に遅れを取った。後日、自分で鍛え露店で売った剣だと思い出し、大笑いした。当然、盗賊には痛い目にあって貰った。

 騎獣が欲しくて走りトカゲの卵を買い。十日間経っても孵化せず不良品かと思っていると、殻を破って顔を出したのは何故か黒竜。ヤーズヴァルと名付けた黒竜はすくすくと育ち……育ちすぎたので野生に返した。ヤーズヴァルに会いに行けば、じゃれ合いという名の殺し合い。


 そして《XFO》はデスゲームとなった。


 世界を渡る魔法ログアウトが封印され、異世界との繋がりが切れた事で復活も無くなった――という設定で。

 だが、デスゲームは嘘ではなかった。

 俺が安全を確認してサーバーを止めてやる、と言い残し自殺したプレイヤーが居た。

 何日経ってもログアウトは無かった。

 それが答えだ。

 多くのプレイヤーがデスゲームからの脱出を目指した。

 《XFO》が現実だったらな、と夢想するプレイヤーは多かったので意外だった。

 ただ、分からないでもない。家族が恋しい気持ちは。

 俺もまた家族の為に行動していたのだから。


 家族の定義とは何だろう。

 家がある事か。血の繋がりか。

 俺は違うと思う。

 だから、俺の家族は一人だけ。


 妹だ。

 行き倒れているところを拾った。役立たずは要らないと捨てられたらしい。

 他人とは思えなかった。

 笑うと物凄く可愛いし、頭だって俺よりも上等だ。

 卑屈なのが珠に瑕だったが、それは俺を貶める事で解決を図った。

 僅か一ヶ月で「お兄ちゃんは私が居ないと何も出来ないんだね」と言えるまでに自尊心を回復した。ダメ人間を演じた甲斐があったものである、うん。

 妹は口うるさいが俺の世話をするのが嬉しくて仕方が無い様子。

 そういう時は褒める。

 褒め殺す。

 尖った耳(・・・・)が赤くなるのが可愛い。

 

 妹はエルフ――NPCだった。

 だから、彼女を守るという事は。

 世界の敵になるという事だった。

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