五日目~一つ目の竜は苦労性*遭遇編~
予告しておりました、遭遇編をお届け致します。
今回はコミカル4、シリアス 5といった割合でしょうか………
残りの1割は、皆様の主観にお任せ致します。
やや、短めの32話となります。
お気軽に、どうぞ(^-^;
*
「今日はとうとう、あの購買合戦からの戦線離脱が叶った記念すべき日なんだよ、モッ君?」
「そうは言いながらも、君は意外とあの戦いを楽しんでた節があるように見えたけど? まぁ、僕はレタス一枚あれば何一つ文句はないよ」
波乱の三時限目も過ぎ去り―――もとい、美術の授業を終え―――今は、和やかな昼休み。
もぎゅ、もぎゅと。
レタス一枚と言いつつも―――重箱は謹んで辞退し、今日は一般的なサイズに纏めて貰った―――お弁当におよそ四分の一カット分入っていたレタスを丸ごと羽根に抱えて御満悦のモッ君である。
そもそも、フクロウの生態からすればこれは異端である。
そう……調べてみたのだ実は。
すると、やはりというか何というか。フクロウの食性は動物食である。
小さなネズミ、リスなどから果ては両生類であるカエル、昆虫まで―――いやはや、グルメだ。
それが、どうしたことだろう。
モッ君はひたすらにレタスしか口に入れようとしない。
良いのか、君はそれで。
寧ろよくそれで怪として存在できるね…と。
そう、無言の内に伝えるものの。
何故かこういう時に限って、モッ君は覚化しない。
―――単純に、レタスは盲目状態であるとも言えよう。
そもそも消化できないものは、全て塊として吐き出すのだという。
うん。つまりレタスは嗜好品だ。
少なくともモッ君にとっては、そうなるのだろう。
つらつらと、モッ君の食性について考えを巡らせるだけで昼休みの冒頭は費やされた。
結果―――化け猫君が呼びに来た際にも、片輪車さんが丹精込めて作ってくれたお弁当はようやく半分ほど食べ進めた辺り。
まして、モッ君に至っては未だに半分もモグモグ出来ていないという―――まさに未消化な状況で泣く泣くお弁当を包み直して向かう他無かった。
勿論行く先は、高等科の放送室である。
「これ以上のんびりしてたら、今日中に風切と会うのは難しくなるにゃ……まさかまだ食べ終わっていないとは思わなかったにゃ。すまんにゃ」
「いや。こちらこそ、わざわざ教室まで迎えに来てもらって有難う。やはり、風切さんは普段から忙しい怪なのだろうか?」
「うんにゃ。まぁ……あれは当人が忙しいというよりか、飛閻魔の冷血があれを使いまわしているといった方が正しいにゃ」
何やら、久方ぶりに恐ろしい御名を耳にした気がする。
否―――実際はそれほど久しいというほどではないのだが。
気持ち的な問題だ。うん。
「ここは―――やはり、改めて挨拶をしておくべきなのだろうか……」
「君、何だかおかしな方向に緊張してない? …僕の杞憂なら良いけれど…」
「やはり一言目は……いつも、モッ君にはお世話になっております?」
「―――やっぱりだ!! もう駄目だ、君―――何なの、僕は君の嫁なの?!」
「それは、否だよモッ君。君の性別からすれば正しくは―――」
「違うよ?! いや、違くないけど……! 断じて僕は君の婿じゃないから!!」
ここらで見兼ねたらしい、化け猫君。
彼のささやかな茶々を挟んだところで、放送室前へと到着する。
「痴話げんかも、程々にするにゃ。ここは学校にゃ」
「そこで正論入れられても、何の救いにもなってないからね馬鹿猫?!」
さて。モッ君をこれ以上追い詰めない為にも、今日は程々に留めておこう。
何しろこの扉の先には―――気を緩めてはいけない相手も同席している筈だから。
恐らく、モッ君を介して現状を見て来ている以上は。
―――最悪、推察されていることも予期して臨まなければ。
“あれ”にだけはけして背中を見せてはいけない。
喰われてからでは、遅いのだから。
「さあ、行くよ君たち。――――この先は、新たなる戦場だ」
「うにゃ?! 何か言い方がやけにカッコいいにゃ……」
「……ほんと、根本的なところが似てるよ君たち」
モッ君の疲れ切った声を後ろ背に、ノックして反応を待つ。
お弁当の件があり、既に放送時間は過ぎているからだろう。
ここに来るまでの間に、噂の天気予報は聞くことが叶わなかった。
とは言え。
「姫君自ら、お越し頂き―――畏れ多いことで御座います」
開いた扉の奥で、此方へ向けて土下座をされて迎え入れられるなどと誰が予期できただろう。
取り敢えず、親子だ。
初めて会った筈なのに、何やら既知感に似た何かを感じつつ。
実際に扉を開けて、薄らとした笑みを向けてくる“彼”。
寧ろそちらが、この場の空気を支配しているといっても過言では無いな……と。
改めて、向かい合った状態から言葉を交わした。
「久しい―――というのも、おかしな話ですね。此方は、貴女の動向を常に察している状況にあるものですから」
「お久しぶりです、飛閻魔さん。……敢えて付け加えるなら、あなたが把握されているのは何も私の動向に限らないと思いますが?」
モッ君の無言の圧力を受け、ギリギリで絞り出した切り返しは正直なところあまり無難なものでは無かったかもしれない。
しかし、一度出した言葉は戻せない。
腹を括るしかないと、そう言い聞かせながら反応を待つ合間―――ふと、引っかかる。
何だろう、この違和感はと。
ぐるぐると思考を巡らせた末に――――ようやく、行きついた処。
ああ、そうか。
口調だと。
思い至った時点を、まるで計ったかのように笑み零す対面の怪。
ぞわ、と背筋を冷たい手で撫で上げられたような心地がした。
「ふ、やはり貴女は龍の血筋を引くモノ―――私が、丁寧な語調を選んだ相手は過去にそう多くはいないのですよ。どうぞ、末長く宜しくお願い致します」
日和の、姫君―――と。
音にせずに紡がれた声を拾って、後悔した。
これは本格的に厄介なモノに目を付けられてしまった、と。
思い返しても過去にも総じて厄介事とは、縁が切れた試しがない。
それでも、別格と分類できるそれらの中に――――確実に入るモノ。
辛うじて、平静を装うに至ったのは。
僅かに残っていた、耐性と呼ぶべきもののお陰だろうか。
そう。けして別格は……初めてという訳でもなく。
現世で、燦然と輝く“それ”を思い返す度に――――意図せず、何度も繋ぎ留められている。
震えそうになる手指を、呼吸を戻してくるのと同時に抑え込む。
ゆるゆると上げた視線。
その先で、艶かしいほどの笑みに邂逅して思った。
ここから先が、勝負所。
残りは、心置きなく自分の可能性に掛けるだけ。
「御丁寧に、ありがとうございます。こちらこそ、若輩者ですが―――この先も、幾久しく見届けて頂ければ幸いです」
終わりまでを言い紡ぎ、急激に醒めかける思考を辛うじて繋ぎとめる。
ここで見透かされれば、何かが終わる気がした。
だからこそ、視線も外さない。
先に外しては、ならない。
無意識が紡ぐ、警告の様なそれにひたすらに従った結果。
そう。
辛うじて、繋ぎ止めたらしかった。
「ふ―――。やはり貴女は興味深い。まだ、今暫くは見逃してあげましょう。願わくば、幾久しく貴女が私の興味を失わずに済めば良いのですが―――まぁ、どちらでも私としては構わない……ただ。少なくとも、貴女にとってはそうではないのでしょう?」
足掻いて御覧。
そう告げられているも同然の、双眸の色。
―――堪え切れずに、視線を下ろした心境までも把握していたのだろう。
とはいえ、これに関しては大目に見てもらえたらしい。
「さて、時間を取らせましたね? お昼休みもそう長くはありません。後は、二人でどうぞ。――――私はいつも通り、もっけの目を通して観察させて頂きます」
そうして“彼”がいなくなった後も。
暫くは、空気がまるで解凍の兆しを見せなかった。
指先を、まともに動かす事すら躊躇わせる畏怖。
――――その圧だけを比べるなら、祖父と同等かそれとも………
ともあれ、ようやく深呼吸が出来そうだ。
やれやれと、内心だけで深く深く溜息を零しながら差し出した先。
「いつまでも床に手を付いていては、冷えてしまいますよ?」
飛閻魔―――彼とのやり取りの最中、始終床に張り付いていたらしい。
未だに土下座を崩さない、本来の約束相手に立ち上がるように促してみたものの。
「申し訳ありません―――姫様。私が、私が力及ばないばかりにこんな空気の悪い状況を余儀なくさせてしまうなど……!! 何のお詫びにもなりませんが、どうぞこの髪を、」
「いえ、結構。あなたの髪はいりません」
――――やはり、親子だ。
何やら、意図せず脱力させられたお陰で普段のペースを取り戻せつつある。
これには感謝しなければいけないな。と。
話を始める前から、半泣きの彼を見下ろしつつ。
現状は、取り敢えず苦笑に留めた少女である。
*次回予告*
放送室における一幕は、引き続き猫×梟×苦労性×少女の面々でお届けします。
合間に、飛閻魔の独白を挟みつつ…
放課後の、文殊会談に至るまで。
(ワンクッションを挟みまして、時系列は一気にクラスマッチ前日まで進めていく模様)
今暫く、心穏やかにしてお待ち頂けたら何よりです(^-^ゞ




