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66 パトロヌス教の概要

「それでは、気を取り直して本題に移ります」


 この日、クヌーテボリ大聖堂にはアストリッドと俺達、そして少数の修道女たち以外の姿は無かった。

 何でも、国賓たる俺達に静かな空間で説教を聞かせるための配慮だそうだ。

 

「畏れ多くも、聖女神様の清らかなる教えとパトロヌス教の悠久の歴史について、この私めがお教えします」


 こうして、アストリッドの講義が始まった。


「パトロヌス教とは、最高神たる聖女神メルティーナ・カエキリア様をはじめ、世界中の神々を信奉する世界宗教です。聖女神様は大変心の寛容なお方。基本、争い事や無益な殺生、破壊を好まない慈悲深い女神なのです」


「すると、俺達の国の神も信仰の対象になるというのか? 俺達の国には、俗に八百万の神と言われるほどいっぱいいるけど」 


「当然、慈悲深き聖女神様は受け入れて下さるでしょう。私めどもパトロヌス教の聖職者の役目は、それら土着の信仰だけでは足りない部分を補佐することに尽きます」


「となると、その地域に元からある宗教施設の破壊などは行わないのか?」


「それは無益な破壊ですので。ただし悪徳な聖職者もいますので、そんな人達にはお気を付けを」


 俺を転生させたミネルヴァとフレイアは、メルティーナ・カエキリアという女神をどう思っているんだろうな? 

 アストリッドの話では、あの2人もパトロヌス教の神々に入る。だが、パトロヌス教の聖職者たちが言っていることが本当か、俺にはどうも判断に迷う所がある。

 今度夢を見ることがあったら、訊いてみようか。


「ところで宗継くん」


「何でありましょうか?」


「あんたはさっき、この大聖堂を『寺』というよりは『神社』に近いと言っていたよな? もしかして先の戦で捕虜となった時に、直々にアストリッドに説教してもらったのか?」


 俺はさっきの宗継の発言で、1つ気になることがあった。

 生まれて初めて見るはずの“聖堂”を前にして、宗継はこれを“神社”と表現した。

 見た目ではわからないはずなのに、何故宗継はそう表現したのか少し疑問に思っていたんだ。


 それに宗継は、王国との戦の時に脇本館で知内(チリオチ)の首長・チコモタインともども捕虜になっている。

 いい機会だ、捕虜がどのように取り扱われていたのかもついでに教えてもらおう。

 

「戦場で対峙した相手と言うことを抜きにすれば、教えそのものは共感出来るところが多かったであります。もっともチコモタイン殿は頑固ゆえ、なかなか受け入れようとはしなかったでありますが」


「なるほど、納得だ。ちなみに、捕虜としての扱いはどうだった?」


「……お館様には申し訳ないでありますが、蝦夷地での日常よりも誠に幸せなものでありました。――ご飯も旨かったでありますし……」


「……」


 生け捕りにしたのは、無駄な殺生をせず懐柔するためだったか。そして恐らく、他の武将に対しても同様に扱っているはずだ。俺としては王国の捕虜の扱い方は正しい気がする。

 ただ、チコモタインが頑として受け入れなかった気持ちも分かるな。簡単に懐柔されては、長い間築いてきた自らの矜持が失われかねないと感じたんだろう。


 だがこれからは俺達も王国と同じ立場だ。だからこそ、戦に勝っても敗軍の将を思いやれる心が大切だな。 



 ◆◆◆◆◆



「――しかして聖女神様は、幾千もの世界を救うに至りました。そして民衆は聖女神様とその子孫――メルティーニ家当主を皇帝とすることで、末永く繁栄することになったのです……」


 アストリッドの講義は、かれこれ3時間続いた。

 最初はやる気になっていた俺達も、後半に差し掛かる頃には季貞をはじめ寝る人がちらほら出没した。 俺は体中の気力を振り絞って、何とか寝ずに聞いていたがね。……真ん中の1時間ぐらい意識が飛んでいたのは内緒だよ?


 3時間びっちり真剣に臨んでいたのは、慶広とリシヌンテだけだった。


「質問がある。メルティーニ家とは今でも存在する一族なのか? それとも伝説上の一族なのか?」


「……実は、メルティーニ家自体は数年前までは存在が確認されていた一族です。しかし……」


「しかし?」


 メルティーニ家……説話の内容から、まるで天皇家のような一族だな。

 最高神の子孫として国を永く治めている当たりが、特に。


「現在は……消息不明です」


「メルティーニ家の国が滅びたのか?」


「どうでしょう……メルティーニ家自体、『ミズガルズ』とは違う異世界の皇帝一家ですから。けれども聖女神様の神聖なる子孫。滅亡など、私めには到底考えられません」


「メルティーニ家の存在を確認する方法は、やはり神託(オラクル)か?」


「そうですね。私めどもにはそれしか手段はありません」


 「栄えあるもの、必ず滅びる」か。だけど、神代から続く帝国を滅ぼすとは、そいつはなかなかのやり手だな。

 もっとも、滅ぼした当人の政権はあっさり崩壊しているだろうけど。

 幾千もの世界で崇拝されている一族だ。滅亡させた奴らが支持される理由が無い。


 いや、もしくは……


「もしくは――メルティーニ家の本拠地たる世界が滅亡したとか」


「無礼者!」


「ぐえっ……!」


 アストリッドは、再び俺の脳天に勢いよく杖を叩き込む。


「聖女神様一族の世界は永久に不滅です! 恥を知りなさい!」


「うっ……」


 冗談だって冗談。全く、教条的な人間にジョークは禁物だな。

 と言うかなんだ、その「巨○軍は永久に不滅です」的なノリは。


 でも、冗談と言っても可能性として無くはない。これも含めて、あの2人の女神に聞くしかない。

 ったく、今日は疑問点が多すぎてまいるぜ……。


 俺は脳に浮かび上がった疑問を、ラウラから渡された紙に一字一句書き記していった。

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